18話 少女の力
「ナナちゃん!?」
アミは素っ頓狂な声を上げる。
というより、驚いたのはアミだけでなく俺も、他の2人もまさかの人物に言葉を失う。
どうしてここに? とか、どうやってここまで! とか、いろいろ聞きたいことはいろいろあったが言葉に出ない。
そんなナナの目は驚き言葉を失っている俺たちではなく、まっすぐと『獣王宮』を見ている。
そして、ゆっくりと『獣王宮』の方に歩を進める。
「ナナ! 近づくな!!」
気づいた時には俺たち4人はナナと『獣王宮』の間に立ちはだかった。
先ほどまでピクリとも動かなかった身体はナナを『獣王宮』に近付けさせまいと自然に動いた。
全く、最後の最後まで誰かを守るために身体が勝手に動くなんてどこまでもお人好しなんだなぁとつくづく呆れる。
だが、これでいい。
目の前で小さい女の子が殺されるのを見るのならせめて俺より少しでも長く生きていてほしい。
そう決心した心にはもはや目の前の王に対しての恐怖心なんて微塵もなかった。
「ポルタ、ダル、アトス、 アミ、大丈夫。 私に任せて?」
しかし、ナナは俺らにそう言い、俺らの前に出る。
『獣王宮』との距離はわずか、ナナは自分の背丈の何倍もある王を見上げて語りかける。
「ごめんね。 心配させちゃったよね? でも、大丈夫。 私は大丈夫だから、この人たちを返してあげて。 あと、今までずっとありがとう。 私ね、やっと『家』を『家族』を見つけたんだ。 だから、もういいの」
ナナは腕を前に出す。
すると『獣王宮』は頭をさげ、その様子はまるで主人に服従するかのようであった。
俺らはそれを見た言葉を失う。
命の危機を脱した俺たちは森精種の調査隊の手助けをしながら地上を目指していた。 遺跡の中は打って変わって魔物が一匹たりともでず、逆に不気味だ。 ちなみにナナはあのあと、疲れたのかアミにおぶさっているうちにぐっすりと寝てしまった。 ちなみに俺の背中にはダルが、俺ら4人の荷物をアトスが持っていた。
「あの少女は何者なんだ? 『獣王宮』が、そもそも魔物が従うなんて聞いたことないぞ」
俺たちと一緒に歩くサラがアミの背中でぐっすり眠るナナのことを警戒しながら見つつ、俺らに言う。
「知らん。 俺らも普通の子だと思ってたんだ。 ナナもあれ以来寝ちまったしな」
「ほんと、なんだったんだろ。 命は確かに助かったけどまるで狐につままれた気分だわ」
「マリーが調べてわかったことは魔力がないってことですよね。 これは上に戻ったらマリーに報告した方がいいですよね」
「まぁ何はともあれ今回はナナちゃんに感謝だね! あー、お腹すいた。 今日の夕飯何かなー」
サラの質問に対してダルだけが全く答えになってない答えを返す。
俺はそんな背中のダルに呆れながら言う。
「お前、ほんと能天気だな。 ちょっとは気になんないのかよ」
「気になるけどだからと言ってどうなるわけでもないしー。 あ、まさかナナちゃんは本当に伝説の魔法少女だったりとか!?」
「暴れんな!! 動ける元気があるなら降ろすぞ!?」
「私は今回のMVPなんだよ!? もっと丁重に扱ってもらってもいいんじゃないのかな!?」
「…………」
「ポルタさん? じょ、冗談ですよー。 ねぇ? あ、ちょっとやめ、 やめて!!!!」
「君たちは本当に何を考えてるかわからん。 その少女怖いとは思わないのか?」
あんな死闘の後なのにいつものようにじゃれあい始めるポルトスとダルタニアンの様子を暖かな目で見守っていたアトスとアミラスにサラが聞く。
「うーん、別にそうは思わないわ。 いくらすごい力を持ってるからって中身は年相応の女の子なんだし」
「僕たちにとって彼女は彼女ですから」
「私はよくわからないが、『勇者』とはそういうものなのか?」
そのサラの質問に2人は困ったような表情を浮かべ苦笑いしながら答える。
「いえ、僕たちがただお人好しなだけですよ」
「特にあの2人がね」
「あー! わかりました、デザート! 夕飯の時私の分のデザートあげますから許してください!! 頭パーンってなっちゃいますーっ!!」
「やー、君たち。 無事で何よりだ」
遺跡から出て俺たちを待ち受けていたのは魔物たちの死骸の山。 そしてそれを見て絶句する俺たちに能天気に声をかけるマリーと疲れ切った様子のアルの姿だった。
彼女曰く、通信が途絶えた時に助けに行こうと思ったのだが、色々と邪魔が入り助けに行けなかったのだと言う。
にしても、この量の魔物をアルと2人で片付けたのか?
化け物すぎる…………
「マリーの性格からして助けに来ないと思ったら表は表ですごいことになっていたのね」
そんなマリーの話を聞いたアミは感心したように魔物たちの死骸の山を見てそう答える。
彼女も今日1日で魔物の死骸の山を見ても動じないくらいに成長したようだ。 これが果たして良いのか悪いのかはわからないが。
「性格からして助けに来ないとはなんだ。 私だってせっかく手に入れた観察対象をみすみす流すわけはないだろ。 ん? そういえばなんでアミラスの背中でナナが寝てるんだ?」
マリーはアミの棘のある感想に文句を言いつつ屋敷でお留守番しているはずが、なぜか今アミの背中におぶさっているナナを見て首をかしげる。
俺は遺跡の中であったことをマリーにできるだけ話す。 マリーは俺の説明に釘を刺さずただ相打ちを打って聞いており、
「なるほど。 そう言うことだったか。 ようやく話が繋がった」
と最後に俺が話し合えた後は意味深なことを呟いた。
「なんだよ。 1人で納得して気になるだろ?」
「まぁそこのところの話は屋敷に帰ってでもしよう」
俺がそれについて聞こうとするとマリーはそう言ってはぐらかす。
そして、彼女は大きな荷物を抱え俺たちに帰るよ、と言って帰路につき始める。
そんなマリーを森精種の護衛隊の中で1人生き残ったサラがここから去ろうとするマリーを止める。
「待て、そこの人間。 何を持って帰ろうとしている。 それは私たちのものだぞ」
「何って。 別に構わんだろ? ここにいる連中はみんな死んだ。 それで君たちもそこの勇者たちが助けに入らなければ死んでいた。 じゃあ、ここに残された機材を持ち帰るの私の勝手だろ」
マリーは怒りをあらわにするサラになんの悪びれもなくそう答える。
「ふざけるな!! それと死んだと言う我が同胞をどこへやった!!!」
「あれは帝国軍が持ち帰ったさ。 当たり前だろ? 勝手に人様の領土に踏み入って死んだんだから、それと君たちもタダじゃ済まないよ」
「貴様っ!!!」
サラは我慢の限界がきたのか剣を抜き、マリーに襲いかかる。
だが、
「!?」
俺たちも何が起こったのかわからなかった。
ただ、マリーに襲いかかったサラは転ばされていたのだ。 サラも何が起きたのかわからないと言う表情を浮かべている。 そんな彼女にマリーは
「図に乗るなよ、小娘。 たかが100年そこいらの貴様がこの天才学者にして稀代の天才魔女マリー・レイをどうにかできると思ったのか?」
そう言って再び歩を進める。
「ひっ、ひぇー。 疲労してるとはいえあの森精種を片手間で…………。 改めて恐ろしさ実感した」
「これはますます逆らえなくなりますね」
そんな一連の様子を見ていた俺たちは改めて『天災の魔女』マリー・レイの人外さに戦々恐々とするのであった。
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