17話 古獣の王
出現したヴァルキューレはリュックのように背負える形になっており、肩のところから二本の角のような砲身が伸びている。 まさに厨二病をガンガン刺激するような見た目で実にダルらしい魔法だと思った。舞姫は俺たちへの攻撃を中断してその物々しい見た目と思い重低音を唸らされる巨砲の方を向く。
「マスターより命令、出力100%で起動。 全行程をチェック」
『マスターコード認証 、ヴァルキューレ 自動操縦にて起動
主人との同調を開始。 同調率………96%、異常なし
照準衛星……展開
反動による主人の負担軽減のための固定脚、固定完了
目標解析……完了 目標固定
安全装置、解除
発射行程異常なし』
ダルが命令すると未来兵器にありがちなアナウンスとともに4つの丸い球体が双砲を囲うようにくるくると回転し始め、ダルの腰の部分を支えるように支柱が地面に刺さる。
やがて球体が高速回転し始め、砲身にエネルギーが満たされていく。
ダルの出した巨砲の危険を察知したのか舞姫は俺たちから距離を取り、先ほどの飛ぶ斬撃でダルを攻撃しようとする。
だが千載一遇のチャンス、それを許すわけにはいかない!
「『風切 立徳』!」
俺は風切を地面に突き刺し技を発動させる。
動きを封じられた舞姫の足元から六体の風の蛇が腕や身体に絡みつき、上半身の動きを封じる。
それに続き、
「絡め取れ 『荊棘の絨毯』」
「阻め 『巨豆の蔦』
「結え 『女給の嗜み 裁縫』
アトス、サラ、アミもそれぞれ相手の動きを封じる魔法を唱える。
さすがの舞姫も4人から受けた拘束魔法に身動きが取れない。
「行きますよ!! 骸骨ちゃん今すぐヴァルハラに送ってあげます!! ファイアァァァァ!!!」
ダルの合図とともに高エネルギー弾が舞姫に向かって放たれる。
放たれたエネルギー弾は舞姫の頭部に直撃、吹き飛ばした。
「ぜぇ、ぜぇ、や、やってやったぜ、こんちくしょう……」
ダルはガクッと膝をつく。 すると電磁砲は霧のように消えてしまった。 どうやらダルの魔力も体力も底を尽きたらしい。それを証拠に彼女は玉のような汗をかいている。 一方のダルの攻撃をモロに受けた舞姫は頭部を消し飛ばされ、残った胴体の部分は灰となって崩れた。 俺たちはなんとか絶望的な状況をひっくり返して舞姫に勝利したのだった。
とはいえ、ダルだけではなく俺たちも、そしてサラも、もう限界だった。 足が棒のようになり動かない。
「僕たち、あの『骸の舞姫』に勝ったんですよね」
「ああ、奇跡的だがな。 あんたもありがとうな」
ダルや他の2人と同じように俺も床に倒れこみながらも嫌悪している人間種の俺たちに協力してくれたサラに礼を言う。
「私にはあそこにいる調査隊を守るという重要な役目があるからな。 たとえ1人になろうと任務を遂行するまでだ」
すると彼女は俺たちにそう言って負傷した森精種の仲間がいる小部屋の方へ行ってしまった。
なんだかんだ言って協力してくれた彼女には感謝しきれない。 多分彼女がいなかったら『骸の舞姫』を倒すことは不可能だっただろう。
「ほんと文字通りの孤軍奮闘ね。 そういえばあのガイコツのお化け倒したんだからマリーに連絡取れるんじゃない?」
アミはそんなのサラの姿を見送り、 思い出したように言う。 この部屋の『守護者』である『骸の舞姫』を倒したことによって通信障害もなくなり外とも連絡が取れるようになり、出口の鍵も開いただろう。
「迎えに来てくれるかなー」
寝っ転がりながらダルがふとそんなことをつぶやく。
「何バカなこと言ってんだ。 そんなことしてくれるような人間にマリーが見えるか?」
「それ、首横に振り辛いですねー」
俺がそんな寝言を言うダルにツッコミを入れアトスがそれに苦笑いで同意する。 おそらくそんなことを言ったら笑われるのがオチだし、マリーからこの遺跡に入った時渡された脱出用のマジックアイテムで出てこいとも言われるだろう。
死闘が終わり心に余裕ができたのか、そのどうでもいいやりとりをしているうちにどちらともなく俺たち3人ともに笑いが込み上げて来た。
そんな戦闘が終わり和やかなムードになっているところにまた問題が発生した。
「あれ? 通信機がうんともすんとも言わない。 壊れたのかしら」
アミはそう言ってブレスレッド型の通信機を叩いたり振ったりしている。
俺もその様子を見てマリーとの連絡を試みる。 しかし、電源は入り起動はするのだが肝心の外とのやりとりができない。 試しにそのほかについてる機能もいろいろ試したがどうにも通信機能だけが使えない。
「マジか。 俺のも通じない。 2人のは?」
俺はダルとアトスに尋ねる。
しかし、2人は首を横に振る。 どうやらダルのもアトスのも同じように通じないようであった。
「というか、出口の扉開いてるの!?」
不安に駆られたダルは思い出したかのように叫ぶ。
そうだ、通信機能が通じなくても最悪この部屋を出て脱出用のマジックアイテムで脱出すれば………
「ダメです! 開かないです!!」
力を使いきり、動けなくなったダルに変わりアトスが走って扉の開閉を確認しに行くのだが、扉は重く閉ざされたままだった。
「なんで!? 『骸の舞姫』は倒したじゃない!!」
戦いの後の安息もつかの間俺たちはまた新たな危機に立たされていた。 アミはヒスったように叫ぶ。
だが、俺は一つの可能性に気づいた。
「確かに倒したが、あいつは『守護者』じゃなかった………」
「え?」
「あいつはこの部屋を守る『守護者』じゃなかったんだ。 『骸の舞姫』はもともとどこに現れるかわからない神出鬼没の魔物だ。 つまり奴はたまたまここに姿を現しただけで、あいつを倒してもこの部屋の『守護者』を倒さない限り出れないってことだろ、これは」
「ほんとの『守護者』? だってそんなの…………」
アミがそこまで言いかけて止まる。
全員が気づいた。
まるで自分の体を深々と突き刺すような視線に。
いや、これは視線なんて甘いもんじゃない、研ぎ澄まされた殺気だ。
「ほーらお出ましだ」
俺は後ろを振り返る。
灰となった『骸の舞姫』がいた場所。
隆々とした四肢を持ち、その巨体はいくつもの傷が刻まれている。
鋭い爪と牙はおそらくこの世のどの剣よりも鋭く、立派な鬣は見るもの全てを威圧する。
何よりその堂々たる出で立ちは、それが歴戦の勝者であることをまざまざと物語っていた。
五感だけではない。
第六感も含めて大音量で警鐘を鳴らす。
逃げなきゃ殺されると。
「ヤベー奴てできたね。 見ただけでわかる」
ダルはポツリとつぶやく。
その恐ろしさは『骸の舞姫』の比ではない。
まだ、向こうの方が立ち向かおうとする気が起きたが、今目の前にいる王にはそのような気は全く起きない。
それよりも睨まれたことによりどれだけ自分の身体に命令しても足も、手もピクリとも動かない。
背中からはダラダラと嫌な汗が滴り落ちる。
「あまり魔物に詳しくない僕でもあれは知ってます。 『獣王宮』ですよね………」
「ああ、おとぎ話に出てくる勇者の元に集う従者の一つ。 まさか本当に実在してたなんてな」
「そういうことだったのね。 だから森精種がわざわざ人間種の領土まで来て遺跡調査なんてしてたのね」
この世界に後から来た俺らでも知っている有名なおとぎ話。
勇者の元に集う12の従者。
そいつらは勇者が死んでもなお、彼に関する秘宝を護り、主人の帰還を待っていると言うこちらの世界の子どもなら一度は読み聞かされ夢に見る伝説。
そんな徳川埋蔵金のような途方も無い伝説は今目の前で現実だったと証明されたのだった。
だが、それが本当のことだったとしてどうすることもできない。
俺らはこれから『獣王宮』の気まぐれがない限り殺されるのだから。
そのゆっくりとした重々しい足音はこちらの寿命が尽きる時間を示すカウントダウン。
もうダメかと覚悟した時、バンッと閉ざされていた扉が開き見覚えのある人影が見えた。
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