16話 骸の舞姫
マリーは奇跡的に無事であった森精種の記録を片っ端から調べていた。
彼女にかかれば難解な暗号や森精種の言語などお手の物資料を眺めるマリーの顔には笑みが浮かんでいた。
「ふふふ、なかなか面白い。 森精種めこんなことを調べていたのか。 これは私の研究も捗るぞ」
『マスター!!! 緊急であります!!!』
彼女が資料の整理に没頭しているとベガが叫ぶようにマリーを呼ぶ。
「どうしたそんな慌てて」
「遺跡の中でポルタさんたち4人の反応が消失しました!! こちらから試みてもなにも応答がないであります!!!」
「なに? あいつら厄介ごとに巻き込まれて………。 ベガ、私もアルタイルを連れて遺跡の中に入る。 あいつらが最後に確認できた場所までの地図をこっちに送ってくれ」
マリーはベガにそう言って読み途中であった資料を片付け外へ出る準備を始める。
理由は分からないがあの勇者4人にトラブルが起きたことはすぐ理解できた。 遺跡の中は外とは違い、なにが起こるか分からない。 こんなところで貴重な観察対象を失うわけにもいかない。
そんなマリーの行動は恐ろしく迅速だった。
『わ、わかったであります』
いち早くマリーの行動を理解したアルタイルが先陣を切ってベースキャンプの外に出る。
しかし、ベースキャンプの周りはいつの間にか魔物の群れに囲まれてしまっていた。
「マスター、やられた!! 魔物の群れだぜ!?」
「全く、次から次へと………。 アルタイル、こいつらを蹴散らして私たちも遺跡の中に向かうぞ」
「了解だぜ、マスター!」
『骸の舞姫』とは勇者や傭兵たちからもっとも遭遇したくない魔物の『骸個体』として有名な魔物の一種だ。 個体数はさほどではないがもし出会ってしまったら戦わず、すぐ逃げろと言われるほどの強敵である。 なんせこいつらとまともに戦ったら生存率7%、十数体の個体を集めて来て突撃させれば魔王だって倒せるとまで言われるほどである。 もちろん、森精種の調査隊を殲滅することなんて朝飯前だろう。 そんな舞姫を前に森精種の屍がいくつも転がる中、ただ1人立つ森精種の女性がいた。 だが、その身体はボロボロで今にもその辺に転がる死体の仲間入りをしそうであった。
舞姫はその森精種の女性にトドメをささんと大きく剣を振りかぶり、無慈悲に振り下ろす。
「はぁぁぁぁっっっっ!!!」
「くっ!! リャァァァァァっっっっ!!!」
その瞬間咄嗟の判断でポルタとダルが駆け出し、舞姫の振り下ろす大きな剣を受ける。 その一撃の重さは今までに経験したことのないような重さで、耐えれずそのまま森精種の女性共々押しつぶされ、あたりは土煙に包まれる。
「た、助かったぜ。 ありがとな」
ポルタは頭を抱え悶絶するダルと例のボロボロになった森精種を抱え、アトスがとっさに床に開けたトンネルを伝って這い出てきた。
アトスは舞姫の剣が振り下ろされるその刹那、魔法でポルタたちがいた場所の足元と自分たちの足元をつなぐトンネルを掘っていたのだ。 そのおかげでポルタたち3人は剣に押しつぶされることなく穴に落ち、こちらまで逃げてこれたのだ。
さらに、アミは舞姫に居場所を察知されないように即座に結界を張って舞姫の追撃を阻止した。
「たいしたことじゃありませんよ。 それより大丈夫でしたか? 急いで開けたので深さとか適当になってしまって」
「ああ、俺は大丈夫だ。 ダルも頭にたんこぶできて悶えてるだけだしな。 それよりこの結界後、どれくらい持つ?」
俺は結界を張りながらダルと森精種に治癒魔法をかけているアミに聞く。
「この結界は一時的に姿をくらましてそのうちに逃げる魔法だから長くは持たないわよ? それよりどうするの? 通信も通じないし、このマジックアイテムも役立たない。 おまけに後ろの扉完全にしまっちゃったわよ!?」
「最悪、マリーの助けが来るまで粘るしかないな。 というか、そろそろ聞かせてもらえるか、そこのあんた。 十分回復しただろう」
ポルタは先ほどから無言を貫いている森精種の女性に声をかける。
しかし彼女は、
「ふん。 蛮族と慣れ合う気は無い」
と言って全く協力する気がない。
そんな態度に悶えていたダルが立ち上がり、彼女にくってかかる。
「助けておいてそれはないんじゃ無いかな!? 森精種さん?」
「ダル、落ち着けよ。 そもそも助けを呼んだのはあんたらだろ? 何意地張ってるんだ」
「呼んだのはあそこにいる連中だ」
そう言って彼女は舞姫の後ろの方を指差す。
そこは小部屋のようになっており、淡い光が漏れ出している。 よく見ると、中にはおそらく怪我をして動けなくなった森精種が数人いるところが見えた。
「あそこは、なんですか?」
「『安全地帯』だな。 遺跡になんであるのかは知らないが魔物とかが一切襲ってこない部屋さ。 確かにあそこにいれば舞姫も襲ってはこないだろうな」
「じゃあ、あそこでマリーを待つの?」
「そうしたいとこだがその間には舞姫もいるし、どうやらそんなことを話している暇もなくなったな」
ポルタはそう言ってアミの意見に首を振った。
あそこの部屋にたどり着くには舞姫の横を通り抜けなければいけない。 そもそも通り抜けるどころか近づくことさえ難しい舞姫にそのようなことは不可能だ。
それどころか舞姫は俺らに気づいたようでこちらへとゆっくり近づいてくる。
「でも、まともに戦ったって勝ち目なんて!!」
アミがヒステリックに叫ぶ。
まさに万事休すというところか。 俺たちにはわずかな可能性を信じて戦うか大人しく殺されるかの二択に1つしかなかった。
しかし、そんな中ダルは胸を張り俺らにいう。
「任せて! 私の特大、特級魔法魔法であいつをたおしてみせるんだからっ!」
「ダル、特級魔法なんて使えたんですか!?」
その事実にアトスは驚いたようにダルに聞く。
特級魔法とはこの世界における『人類種』が放てる最も強い魔法のクラスだ。
もちろん、勇者である俺たちはそれ以上の魔法も習得しようと思えばできるのだが、上級魔法以上のクラスの魔法だとその消費魔力も比べ物にならない。
なので、魔法によほどの自信があるやつくらいじゃないとコスパという面で特級魔法なんて使うやつなんてほとんどいない。
それなのにダルは使えるというのだ。
普段ならなんでそんなネタ魔法を! っと突っ込みたくなるがこの場面においてはあの舞姫を唯一倒せる方法に他ならなかった。
「もちろん! 私は誇り高き帝国軍人ですよ? 特級魔法の1つや2つ使えて当たり前じゃ無い! まぁ打つまで時間がかかるのと、1発撃ったら動けなくなっちゃいますが」
「腕利きの魔法使いでようやく使えるような魔法をたかが二尉が使えるなんて常識聞いたことがねーよ。 しかも欠点だらけだし………。 だが、決まったな。 アミ、アトス、俺らは全力でダルをサポートするぞ」
俺はダルに呆れながらも再び剣を取り立ち上がり、アミとアトスにいう。
「やってやりましょう!」
「そうね、こんなところで死にたく無いし!」
2人も何か吹っ切れたような顔になり剣を持って立ち上がる。
「お前も生きて帰りたければ協力しろ。 ここは種族云々言ってる場合じゃないだろ。 あとあんた名前は?」
「………サラだ。 いいだろう、今回だけ協力してやる」
「よし、それじゃあ死の舞踏会と洒落込みますか。 遅れたら死ぬぞ? お前ら、覚悟しろよ?」
命をかけた死の舞踏会が始まった。 主催は舞姫、相手にとって不足はない。 相手が剣を振るたびに奏でられる命を刈り取るような音が伴奏となり、命を燃やして舞姫とダンスを踊る。
「くっ!! 相手の攻撃を受けようと思うな!! なるべく受け流すように!」
演目は剣舞、華麗な剣さばきで俺らを殺しにかかる舞姫の攻撃を紙一重で受け流し、相手へとカウンターを決める。 少しでも気を抜けば命を掻き消されるそんな状況の中での戦いは体力だけでなく精神力も容赦なく削って行った。
「どうにか奴の動きを止められないのか、人間ども!!」
「あんなデカブツどうやるのよ!?」
「一瞬だけなら僕に任せてください!!
そう言って今度はアトスが舞姫の足元に向けて魔法を放つ。
「絡め取れ 『荊棘の絨毯』」
舞姫の足元に荊棘が広がりそれに足元を取られた舞姫の動きが一瞬鈍る。
鈍ったところにすぐさまポルタとサラは同時に舞姫の懐に風の斬撃と激流の魔法を叩き込む。
「『風切・虚空』!!!」
「飲み込め 『水神龍』!」
2人の攻撃は舞姫に直撃したが、舞姫は一瞬ぐらつきはしたものの倒れるまではいかない。
そして、体勢を立て直した舞姫は俺たちが先ほどの森精種たちのように簡単には倒せないのを悟ってか独特の構えを見せる。
「まずい!! くるぞ、全員構えろ!!」
舞姫の動きが明らかに変わった。 いや、曲調が変わったというべきか。 先ほどのゆったりとした優雅な動きから激しく、迫力のある動きへと変わる。 攻撃1発の重さも、回数も、速度も先ほどとは桁違いだ。 ギシギシと身体全体を軋ませて舞姫は情熱的な踊りを披露する。 俺たちは圧倒的な力の差にただ翻弄されるだけであった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」
「キャァァァっっっっっ!!!!」
「くっ!」
「安らぎをもたらせ 『安息のゆりか、きゃぁっ!!」
圧倒的な力を見せつけられ、4人は早くも追い込まれる。
「がっは、ごほっ! ま、まずいです、こちらが攻撃が効くどころかこちらが攻撃する暇も、魔法を唱える暇もないですよ」
「さすが生存率10%以下と言われるだけはあるな」
「それより、ダルの方はまだなの!?」
「後2分ほど待って! それと合図したらあいつが避けないように抑えておいて!」
「全く、無茶言いやがる」
「サラはまだ戦えるか?」
「愚問だな。 貴様ら軟弱な奴らと一緒にするな」
「そーですか」
悠然と構える舞姫に俺とサラは剣を構える。
ここは意地でもダルの言う2分間耐えなければいけない。 森精種であるサラの力を借りればそれくらいなんとかなるかもしれない。
「『風切 虚空』!」
舞姫の剣の間合いの外から俺は斬撃を放ち攻撃をする。 先ほどから見ていると舞姫はアウトレンジからの攻撃を仕掛けてこない。 相手が離れていれば素早く間合いを詰め攻撃してくる。 ならば、その移動に気をつけつつ常に距離を保ち、外から攻撃をしていれば致命傷を喰らうことはない。 相手の動きからそれはとても難しいのだが、やらなきゃ殺されるのみである。
サラもそれを理解しており、遠距離からの攻撃に切り替える。 これなら粘れる!!
しかし、そう簡単にいかなかった。
舞姫は両手に持つ剣を顔の前でクロスさせ空切るように振り下ろし、飛ぶ斬撃を放つ。
俺らはそれをなんとか避けるのだが、俺らが攻撃を緩めたその一瞬の隙で間合いを詰める。
終わった…………。
そう思ったその時、待ち望んだ声が俺らにかかる。
「みんな、お待たせ!! 神々の大戦より滅亡の鉄槌と畏怖された巨砲よ、甦れ。 英霊を導く聖雷で邪悪なる異端者を打ち砕け。 我こそは聖王の正統なる血統者にて、巨砲を操る真の主なり!!」
魔力を溜めたダルが魔法の詠唱に入る。
すると強い光を放ち、なんとも近未来的なデザインの巨砲が現れる。
「『対戦神超高出力電磁砲 ヴァルキューレ』!!!!」
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