15話 遺跡の最深部
ダルは無線を聞くや否や通信機をひったくるように取り、叫ぶ。
「こちら、帝国軍所属ユイ・シノザキ二尉です!ベースは何者かの攻撃により壊滅、他国ではありますが我々が今から救援に向かいます!!」
「ちょっと、ダル!! 勝手に何やってんのよ!!」
突然、勝手な行動に出たダルをアミが止める。
「何って決まってるじゃない!! 助けに行くんだよっ!!」
そんなアミの制止を無視してダルは遺跡の中に駆け出していってしまう。
ああ、なったら彼女を止めるのは不可能だろう。
「アミとアトスはこのことをマリーに伝えてきてくれ。 俺はダルを追う」
俺は2人にそう言い残して急いでダルの後を追う。
「わ、わかりました!」
2人は頷くと、マリーのいる森精種のベースキャンプに駆け出す。
「全く!! 何も準備なしに遺跡に入るなんて自殺行為以外何ものでもない、ほんとバカなやつだっ!!」
「おい、ちょっと待てって! 何も準備なしに突っ込んでどうすんだよ!!」
遺跡の中のしばらく行ったところでようやくダルに追いついた。
俺は息を切らしながらダルの腕を掴み1人進もうとするダルを止める。
「だって!!」
ダルは必死な顔になって俺の腕を振りほどこうとする。
俺はそんな彼女を一旦落ち着ける。
「だっても何もあるかよ。 今、アトスとアミがマリーのとこ行ってる。 それがくるまで待て! このままいっても遺跡のどこにさっきの無線のやつがいるかわからないだろ!?」
ダルは納得はいってないようだが、とりあえずこの場に止まってくれるようだ。
短い付き合いだがわかる。 ダルは俺らの中では一番正義感とかそういうものが強い。 そもそもヒーローに本気で憧れてる彼女なのだ。 正義のためなら労力を費やすことを問わず、たとえ種族が違っても助けに行くといったら行く、そういう『勇者』なのだ。
遺跡の中でダルに追いついて10分もしないうちに、アトスとアミが俺らに追いついてきた。
「はぁはぁ、追いついた」
「よく、ダルを止められましたね。 あ、2人ともこれを」
そういってアトスは俺らに例のブレスレット型の通信機を俺とダルに渡す。
それをつけるとすぐに、不機嫌なマリーの声が聞こえてきた。
『聞こえてるかバカども。 なんの準備もせず遺跡に突入なんて死にたいのか?』
「バカなのはわかってるよ………。 でも、ここで動けないなら私が私じゃ無くなる!」
ダルは大真面目にマリーに言い返す。
『はぁ、バカなのは君だけじゃない。 君たち4人だ。 無茶だから戻ってこいといっても聞きゃしない』
そんなダルに呆れたようにマリーは言う。
4人とも?
俺は後から置いてきた2人を見る。
するとアミとアトスは照れたような気まずそうな顔をして驚きの視線を向ける俺に苦しげな言い訳のように言う。
「何よ、どうせあなたも止めても行くっていうでしょ? なんせあそこで死にそうだった私の助けに入るくらいのお人好しなんだし。 それに私だって、子供たちに胸を張って自慢できる生き方したいしね」
「ふふ、それ以前にポルタさんは契約外なのにパーティの女の子たちを逃がして自分は逃げ遅れるような人ですしね。 僕だって今は『勇者』ですよ? 」
2人は苦し紛れに俺のことのカステルでのことを挙げてバカというならお前も同じだと言ってくる。
というか、アトスはともかくアミは助けられといて何人のことバカにしてんだ。
そんな俺たちに再び呆れたようにため息をついたマリーは俺たちに聞いてくる。
『ほんと、君たちはバカばっかだよ。 勇者ってこんな奴らばっかなのかね?』
「悪いが俺らは『勇者』としても異端だからなぁ。 検体が悪かったと諦めた方がいいぜ」
『バカな君たちのために森精種のベースキャンプにあった遺跡内の地図と先ほど通信があったと思われる場所までの経路をそのデバイスにデータとして入れておいた。それと屋敷にいるベガとも通信をつないでおいた。 戦闘中は彼女が指揮をしてくれるだろう。 最後に私から言うことが1つだけある。 死ぬなよ? 以上だ』
遺跡の中は数はさほどでもないが、やはり魔物が出てくる。 だが、それらははっきりいってしまえば雑魚であった。 おそらくめぼしい魔物たちは外に出てしまってこの遺跡の中には最低限の魔物たちしか残っていないのであろう。
俺らはその魔物たちを手際よく片付けながらマリーのくれた情報を元に森精種たちのいる場所へ歩を進める。 すると、遺跡に入ってしばらくしたら余裕が出てきたのかダルがボソッと思っていたことを口にする。
「人のことをバカにしたかと思えばあれこれ用意してくれて最後には激励の言葉をくれる………ひょっとしてツンデレかな?」
「俺も思ったが言葉にするなよ。 聞かれてたら俺ら今度こそタダじゃ済まないぞ……」
俺が呆れるようにダルの独り言に答えると他の2人も同じことを思っていたらしくダルの意見に頷く。
「と言うかそもそもこの世界にツンデレなんて言葉あるのかしら」
「さぁ? 流石にそこまではわからないですが、まぁそれを言うなら僕ら4人も似たもの同士ですけどね」
「そこは全力で否定したいなー」
自分までツンデレというめんどくさい奴の仲間入りは果たしたくなかったが、側から見ていたらどうやら俺らもその仲間入りらしい。
実に不名誉だ。
そんなことを思っているとダルが甘えたような声を出して悪ふざけで俺に飛びついてくる。
「そうだよ! 私は最初から全力でデレるよ!? ニャ〜ン」
「くっつくな! 歩きづらいし気持ち悪いわ!!」
俺とダルがいつものように言い争うのをいつものようにまるで子どもを見るように微笑ましく見ていたアトスがアミに聞く。
「アミはやらないんですか?」
「はぁ!? なんで私がやらなきゃならないの? それに私だってツンデレじゃないし、勘違いしないでよ………ね」
突然聞かれたアミは驚きながらもそれを全力で否定する。 だが、自分の言っていることに気づき言葉尻がか細くなり、顔を真っ赤にして下を向いてしまう。
そんな羞恥の感情でいっぱいのアミに面白そうな気配を感じて俺との争いから離脱したダルが駄目押しの一撃を加える。
「言った後に気づいて顔真っ赤にするアミさんも可愛いよっ」
「ニヤニヤするな、バカァッ!!」
「ひゃぁー! アミさんがブチ切れたー、はっはっは」
『あのー遺跡の中で遊ぶのはやめるであります。 もっと緊張感を持って欲しいでありますよ………』
「ようやく近くまで来たな。 この扉の向こうなのか?」
『はいであります! ただ、その部屋は最奥部の部屋、この遺跡を守る『守護者』がいるかもしれないのでご注意を、であります!!』
「あのー、『守護者』ってなんですか?」
アトスが会話で出て来た『守護者』について俺に聞いてくる。
「ああ、『守護者』ってのは遺跡の一番奥で宝を守ってるボスのことだ。 今回の森精種もそのボスにやられたんだろうな」
「ふーん、でも、普通やられそうなら宝なんてほっといて逃げるわよね」
「そこはどうしても手に入れないといけないものだったんじゃないのか? もしくは逃げられないようにする特殊な能力を持ってるボスだったとか」
「前者ならともかく後者だったら厄介ですね……」
「まぁ、そこは最悪マリーに頼んで転移魔法で救出してもらえばいいしな。 それにほら、マリーからもらったアイテムの中にちゃんと『緊急脱出』のマジックアイテムも入ってるし」
不安がる2人に俺は通信機器とともにマリーがくれたマジックアイテムを2人に見せる。 『緊急脱出』とは遺跡や戦場でやばくなった時に登録されている場所へ転移魔法を使って移動できるという優れものである。 欠点としては値段が大変高価なことと、緊急脱出で無理やり飛ばすため身体に多少なりとも負荷がかかるという点だ。 もっとも、命が助かるならそんなもの些細な問題であるのだろうが。
「やっぱツンデレなんだ、マリーさん」
そんなアイテムを見たダルが先ほどのようにボソッと呟く。
「だから、それはもういいって。 それじゃあ扉開けるぞ?」
俺はダルの額に手刀を軽く入れ、 扉を開ける。
するとそこに広がっていたのは森精種たちの亡骸と、三階建ての建物くらいの大きさはあろうかというほど大きな身体にドレスを纏った骸骨の魔物。 その両手には大きな剣が二本握られており、扉を開けて入って来た俺たちを見るや否や全身をギシギシという耳障りな音を立てながらその大きな剣を振りかぶる。
「『骸の舞姫』………………だと……」
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