14話 森精種調査隊
「さて、後もう少しだ。 もう少しなのだが、この匂い……酷いな」
ようやく遺跡が近づいてきたと言うところでマリーが怪訝な顔に変わる。俺もあたりを気にしてみると異様な臭いに気づいた。それに気づいたのは俺だけではなく他の3人とアルも一気に顔を引き締める。
俺はこの臭いを嗅いだことがある。 生き物が捨てられ、腐った臭いだ。戦争に出たことのある人間なら一度は嗅いだことがある強烈な腐乱臭、そんな常人ならまともな精神を保ってられないような強い臭いが遺跡に近づくにつれどんどん強くなっていく。 戦場に慣れてないアトスとアミは鼻から手が離せず、吐くのを堪えるのでやっとと言う様子だ。
「これは……ひどい……」
「うっ!!!!」
俺は思わず鼻を腕で塞ぎ、目の前の光景に唖然とした。
森がひらけて大きな建造物が見えたのだが、目にしたのはその建造物だけではなかったあたりには20人ほどの無残な死体となった森精種が転がっていたのだ。
アトスはどうやらこらえきれなかったようで藪の方へ駆け込んだ。 この光景は素人でなく戦場になんども足を運んだことがあるだろう、ダルやマリーも同じように厳しい顔をしている。
「マスター」
その正に地獄のような光景に唖然としている中、アルが荷物を降ろし死屍累々の藪の向こうを警戒しながらマリーに忠告する。
酷い腐卵臭で気づくのが遅れたが、明らかにそれとは違った獣の匂い。
「死体漁りの群れか……」
目を爛々と輝かせた15,6頭の見た目山犬のような姿の魔物が藪の向こうから現れる。
死体漁りとはその名の通り、生き物の死肉を漁る魔物で、場所問わず死体があるならどこにでもおり、戦いの終わった場所には必ずと言っていいほど現れるいたってポピュラーな魔物だ。本当の名前は別にあるのだが戦場に立つような職業の奴らからはからはそう呼ばれ、忌み嫌われている。 ただ死肉漁りと言うものの食性は貪欲で生きてる動物でも群れで襲いかかり仕留めることもあるとにかく厄介で恐ろしい魔物だ。
「どうやら、ここはやるしかないようだな」
俺らはそれぞれの武器を構える。
死体漁りはダラダラと涎を垂らしながら襲いかかってくる。こいつらの厄介なところは群れを生かしたチームワークで襲ってくるところだ。
「やれやれ、『風切』 起動!!」
「待ってました!! いっちょやったるよっ!!」
「アトスとアミラスは無理するな。 アルタイル、あの2人を手伝ってやれ」
「了解だぜ!!」
俺とダル、アルタイルの3人は向かいくる魔犬の群れを蹴散らしていく。 だが、多勢に無勢、そう簡単には倒すことができずこちらも少しは傷を負う。
「ちっ!! 数が多い上にどんだけこいつらタフなんだ!?」
「ああ! まずいです!! 弾薬そろそろきれそうです!!」
「アホ!! 無駄遣いし過ぎだ!!」
「このままじゃ数に押し切られちまうぜ! どうする、兄貴!!」
「どうするもこうするも…………!!」
状況がヤバくなりつつあるそんな中、今まで魔犬を倒せと命令しておいて何もしてなかったマリーが大声で俺たちに叫ぶ。
「おい! お前達、死ぬなよ?」
嫌な予感がした。
既視感というやつだ。
「やばっ! 2人とも伏せろ!!」
俺はとっさに2人に叫ぶ。
おそらく2人も気づいたというより思い出したのだろう。 慌てて頭を庇いその場に伏せる。
「氷結せよ。 『霜柱の円舞曲』」
マリーの放った魔法によりあたりの地面のあちこちから鋭い氷の柱が次々と出てきて死体漁りたちを串刺しにしていく。
「君たち、避けるなら伏せるんじゃなくて離れなきゃ危ないぞ?」
あたりに氷のオブジェを作り出した張本人がそのギリギリのところで伏せている俺らにのんきに声をかける。
「危ないと思うならせめてどこに逃げればいいか言ってからやれよ! 殺す気か!!」
俺は飛び起き、マリーに抗議する。
氷の柱は俺の伏せていたところをギリギリ避けるようにして突き出しており、下手したら俺もあの魔犬と同じように串刺しになっていたかもしれない。
「もう嫌だぁ」
「これくらいでめげてちゃダメだぜ、ダルの姉御。 なんだかんだ死ぬくらいのことはあっても死なないから大丈夫!!」
弱気になりベソをかくダルをアルが励ましているのだが、全く励ましになっていない。
というか、慣れとは恐ろしいな………。
死なないならなんでもいいなんてことあるわけないだろ!?
「結果的に邪魔なクソ犬どもは消えたし、よかったではないか。 ベガ、他にはもういないな」
そう言って場を無理やり締め、マリーは屋敷にナナと一緒に残っているベガに無線を飛ばす。
『はい、であります! レーダーには遺跡付近にもう魔力反応はないであります!!』
「そうか。 なら今度は魔力反応があった時はもう少し早く知らせてくれると嬉しいんだが?」
『はぅっ!! す、すみませんであります!! ナナ殿と遊んでいたらモニターを見るのを忘れてたであります!! 次やったら晩御飯抜きでもなんでもやります』
元気な声で反応したベガであったがマリーに敵の発見が遅れたことを指摘され見えなくても土下座していることがわかるような声とテンションで全力で謝る。
そんなベガにマリーはそれ以上追求することなく、俺たちの方へ目線を戻し、
「まぁ、まずはともかく遺跡に入る前にこの辺一帯のことを調べてから入るかね。 ミイラ取りがミイラとはなりたくないだろ?」
と言って森精種達の死体が転がる中、彼らが拠点としていたであろうベースキャンプ跡に向かった。
遺跡からさほど離れてはないところに森精種たちの調査隊のベースキャンプはあった。
遺跡の前の惨状からこちらもボロボロなのかと思われたが、マリー曰く比較的使えそうなものが残っているとのことだった。 それでも森精種の死体が転がっていることに変わりはなく、あくまで遺跡の前よりマシというものであった。
「やれやれ、あらかたここが使えるように片付いたか。 それじゃあ早速調べて見るか。 アル、手伝ってくれるかい?」
「了解だぜ!!」
「俺たちは何すればいいんだ?」
「そうだね、君たちには気の滅入る仕事かと思うが外に転がってるあれをどうにかしてくれるか?」
「これは?」
「遺跡の探索で見つけたものを持ち帰るために持ってきたマジックアイテムの袋なんだが、外のあれをそのまま放置させて置いておくわけにもいかないしな。 それに何より精神衛生的に悪い」
「マリーにも死者を弔うなんてことがあるんだな。 しかも森精種相手に」
「ずいぶんなことを言ってくれるなぁ。 君たちの私のイメージ悪すぎやしないかね?」
「自分の行動を改めて見るってことをしたらどうなの?」
「まぁその辺はいいとしよう。 私もそういう扱いには慣れている。 何はともあれ君たちはとりあえず、外の死体の処理を頼む。 先ほどの魔法で大体凍らせてあるから先ほどよりある程度マシだとはおもうよ」
「やっぱ辛いものがあるな。 アトスとアミは大丈夫か?」
俺はマリーに言われた通り森精種の遺体をマジックアイテムだという大きな麻袋の中に丁重にしまいながら先ほどあまりに酷い光景の前に気分を悪くした2人を心配して聞く。
「ええ、なんとか」
「みなさんが頑張ってる中ダウンしているわけにはいかないですから」
2人は先ほどよりマシにはなったがまだ少し無理してる感はある。
ここはこういう処理に慣れた俺とダルが率先してやらないと。
そう思ってダルにも声をかけようとした時、ダルに袖口を引っ張られる。
「ねーねー、私の心配はしてくれないの?」
「お前はこういうのに慣れてるだろ。 つーか、お前はさっき普通にしてたじゃねーか」
何を言ってるのかと呆れる。
彼女はこう見えても帝国軍の軍人なのだ。 その業務の中には戦後処理ももちろん含まれるだろう。 もちろん保安官でもあった俺もそう言った遺体の処理の仕事はあった。 なので、ダルも大丈夫だろうと放置していたら彼女は頰を膨らませ明らかに不機嫌になる。
「ぶーぶー。 私だって女の子なんだからさぁ……………ん? なんじゃこれ?」
文句を言いつつ作業に戻るダルは遺体から何かを見つけ、拾い上げる。
「通信機………ですかね。 でも、これまだノイズだらけですけど生きてますよ」
アトスのいう通り、音は小さいが何やら聞こえてくるのは間違いなかった。 俺たち4人はその通信に耳をすませる。
『ザザザザザ……! こちら、…………隊、ベース応答してください! 隊、隊がさらにやられ……。 残ってるのは私たちくらいで! 救援を、ベース、救援を!! お願いです、誰か出てください!!!』
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