13話 森精種への救援
この世界には今、主に3つの大きな種族、『人間種』『森精種』、『|獣人種ヒューマビースト』が魔王軍と戦っている。 この種族同士は遥か昔から仲が決してよくなく、お互い三竦みの関係が成り立っている。
それは魔王が侵略してきた今でも変わらず、お互い協力の素振りを見せるどころか、ちょこちょこ小競り合いを繰り広げていた。 今でこそ魔王軍の侵略阻止のため3つの種族は同盟を結んではいるが、侵略を始める前はおよそ300年に渡り、戦争状態にあった。その中でも特に仲が悪いのが『人間種』と『森精種』である。そんな『人間種』とは仲の悪い『森精種』が自分たちの領土から帝国領土に勝手に侵入して、これまた勝手に遺跡の探索をしていたなどしれたら確実に外交問題になり、武力衝突に発展することは容易に想像できた。
「ここ最近の魔物の襲撃は十中八九『森精種』たちの遺跡探査による影響だろう。 改めて調べてみたら、この屋敷から南西に3キロ言ったところに特殊な魔力反応があった。 おそらく新たな遺跡が出現した時に出たものだろう」
マリーはモニターに複数のデータを表示し、俺らに説明する。
仮にも目の前の女性は『天災の魔女』と呼ばれる帝国から指名手配されるほどの実力を持つ魔女だ。
しかも、『勇者』や『遺跡』などを専門に研究していて実はその道のプロフェッショナルだという。
そんな彼女が現れた遺跡の兆候を見逃すのだろうか。
確かにここ数日は彼女のサポートをしているベガが倒れていたというのもあるが、果たしてそれだけで見逃すのだろうか、という疑問が浮かんだ。
「んー? ポルトス、なんか言いだそうな顔だな。 ………こればっかりは私の怠慢だったというか、さすがに森精種の魔法で気配を消されてたら天才の私でも流石に見つけられん。 解決したか?」
「そーかい。 てか、人の心読むな」
「でも、なんで仲が悪い人間たちの領土内の遺跡の調査なんてリスクのあることをしてるんでしょうか?」
アトスが恐る恐るマリーに聞く。
「何かは知らんが、そのリスクに似合うメリットがあるんだろう。 にしても、それを求めて遭難とは連中の無駄に高いプライドもズタズタだな」
どうやらマリーも森精種のことはあまり好いていないようでふん、と一瞥してアトスにそう答える。
「まって! その『森精種』たちの遺跡探査とナナちゃんとなんの関係があるのよ!」
「おそらくナナは炭鉱のカナリアとして連れてこられた奴隷だろうな。 調査隊が遭難する前に辛うじて逃げたんだろう。 それなら親のことや生まれた土地のことを知らないのにも納得がいく」
「奴隷って、あれは三種族が同盟を結んだ時、解放されたはずじゃないんですか?」
アトスはナナがいわゆる毒味役で連れてこられたと予想するマリーにそうたずねる。
この世界にも奴隷制度というものがあったらしいのだが、俺らがこの世界に来る前にそういうのは無くなったらしい。 であるなら、森精種が人類種の奴隷を所有しているということは本来ならないはずである。
そんな質問をするアトスに呆れたようにため息を吐きながら答える。
「裏取引というやつだろ? どこの世界にもそういった表に出さない商売をしてる連中はいる。 まぁナナのことはここで預かってるから解決してるとして、問題はこの救難信号をどうするかだな。全く、あの陰湿な奴らは他人の庭でコソコソと何をやってるのかね」
「で、どうするんだ?」
「どうするとは?」
「決まってんだろ? 森精種からの救難要請だよ」
「どうするもこうするも………」
「助けよう!!」
マリーが何か言おうとしたのにそれを遮るようにダルが声を張って言う。
「ダル?」
「理由はどうあれ、種族がどうあれ、助けを求めてる人がいるなら、助けに行くべきだよ! 私たちは『勇者』なんだから!!」
そう言う彼女の目は熱い気持ちが篭っていた。
それはいつものノリとかではなく、本気で助けに行こうと言う気持ち。
それを目の当たりにした俺たちはしばらく黙ってしまう。
「『勇者』なんだからかー。 私、別に『勇者』じゃないんだけどな…………。 でも、困っている人を放っておかないわよね」
沈黙を破ったのはアミだった。
とはいえ、そのセリフは コントでもやってるのかと言うくらい滑稽でカッコのつかないものだった。
だが、悪くない。
「全く、助けても感謝されないことは目に見えてわかってるけどな。 それでも行くか」
「マリーにどうするか聞いている時から準備していたポルタも大概ですけどね」
そういうアトスも行く気満々だ。
そんな俺たちの様子に最初は目を丸くしていたマリーも、
「君たちは大馬鹿ものだな。 だが、嫌いじゃない」
といって、そんな俺たちをみて満足そうに笑う。
こうして、俺たちは森精種の救出に向けて屋敷を出発したのであった。
準備をした俺たち4人とマリー、アルタイルの6人は救難信号が出ている遺跡へと向けて出発した。
今回通信でこちらのサポートをするベガと子どものナナはお留守番だ。
最初のうちは何事もなく進んでいたのだが、
「ったく、遺跡に近づくほど魔物多いじゃねーか」
俺は最後の一匹を蹴散らしそう愚痴る。
こないだのマリーの一発であらかた消滅させたと思っていたのだが、まだまだ残党が残っていたようだ。 それを証拠に遺跡に向かう道中、遺跡の魔物と思われる者たちと何回も出くわした。 その度うまく撒いたり、倒したりしてきたのだがなにせ数が多い。 たった3キロという道のりなのに半日くらいかかってしまった。それだけではなく魔物がいつ現れるかわからない道なき森の中の行軍は俺たちの体力と精神を削っていった。
バテバテな俺らとは対照的にその細い不健康そうな身体からは想像できないほどタフなマリーとその荷物持ちできたアルタイルは息すら切らせていない。
「全く………だらしがなさすぎるぞ。 見ろ、アルタイルなんてこんな大荷物抱えているのに疲れた表情なんて1つも見せてないではないか」
汗をダラダラ垂らす俺にマリーはアルの方を指差して言う。
「こんなのへっちゃらだぜ!」
アルはまるでマンガに出てきそうな大きな風呂敷袋を抱え歩いているのだが、その顔に辛そうな表情はまるで見えない。その荷物はマリーが森精種たちを助けるついでに遺跡の調査をしようと持ってきたのだがこれがともかく重い。 俺ら4人で代わる代わる持っていたのだが、早々に根をあげてしまったのだ。
「アルの方がおかしいのよ……」
「あはは、というか、こっちも1人元気なのがいますけどね」
化け物じみた体力を見せるアルにジト目を送るアミをなだめつつ、アトスは大声でこちらに駆け寄ってきた人物を指差す。
「見てよ、ポルタさん!! このキノコ食べたら胸が縮んだんだけど」
そう言って縮んだ胸をペタペタ触りながら大爆笑するダル。 見るとその手には怪しげな色をした食べかけのキノコが握られている。 彼女の胸はその小さな身体には似合わない大きさのものだったが、今はそれが見る影もない
「おま! その辺に生えてるキノコ食うなよ! 無用心にもほどがあるだろ!!」
俺はダルの頭を殴り、その怪しいキノコを捨てさせるようにしたのだが、ダルは面白がって逃げ回る。
「? アミの姉御、なんで胸の小さくなったダルの姉御を見てちょっと嬉しそうなんで?」
「ふんっ!!」
「うがっ!!!」
アミの拳がアルの鼻頭に見事にヒットし、アルは目を回して倒れる。
「これ、無事に遺跡までたどり着くんですかね……」
もしよろしければ作者のフォローをお願いします!
@egu05
またご意見ご感想もお気軽にどうぞ!