12話 一連の騒動の原因は
時刻は午前2時を回ったところ、みな眠りにつくようなそんな時間、稀代の天才学者であり、『天災の魔女』と恐れられていた彼女、マリー・レイは自分の研究室にこもっていた。
モニターの明かりだけが彼女の色白い肌を照らすだけの真っ暗な部屋。 そんな部屋に閉じこもりモニターを難しい顔で睨んでいた。
「やはり、何も異常は見当たらないか……」
彼女はふぅ、とため息をつき凝り固まった肩をほぐす。 彼女は今、屋敷をぐるっと囲っている結界のチェックを一からしていたのだ。
昨日今日と連続で訪れた魔物。 本来なら結界を張っているので魔物など早々に襲って来ないものなのだが、かんな短期間に2回、いや、魔物じゃなくてナナという少女の侵入も許したのなら3回、破られているのだ。 そんなこともあり、さすがにシステムに異常があるのではと疑ったマリーだったが結果として空振り、依然としてなぜ魔物達がここに来たのかはさっぱりだった。
「はぁ、しかも今回も『遺跡』の魔物………。 やれやれ、なんでこんなに外に出て来てるのか理由はわからないが、こいつらの出所を見つけて直接叩くしかないようだな」
マリーはモニターから目を離し、アルタイルが調べて来たものの資料を手に取りため息をつく。
結果としてマリーたちを襲って来たあの魔物たちは今回も『遺跡』の魔物たちであった。
2回の遺跡の魔物の襲撃と謎の少女の来訪。 ここまで来ると何か関係があると思わざるを得ない。
「久々に森周辺の探索をするか。 普段ならやりもしないのだが、手がかりがなにもないなら、まず手短なところからだな」
そう言って彼女はまた別のモニターを操作し始める。 そして、マリーは手を止め突然笑い始める。
「これは………………ふふふ、こんなに面白いことが近くで起きていたとは、これは俄然やる気が出て来た」
そう言って彼女はモニターの電源を落とし、部屋を出ていった。
その後ろ姿はいつものようなやる気のなさはなく、むしろ生き生きしてるようにも見えた。
「なんだ、この状況は……。 うちはいつから保育施設になったんだ?」
徹夜明けのマリーは呆然とする。
「ナナちゃん、見せてあげましょう! 私たちのコンビネーションを!!」
「うん」
「ふはは、忌々しい小娘どもめ。 悪の帝王たる俺に勝てると思うなー」
パジャマ姿のダルとナナは何やらステッキのような物を持ち、真っ黒なマントに身を包んだ棒読み台詞のポルトスと対峙する。
「みんなの笑顔のため」
「悪事は絶対許さない」
「「マジキュア! ファイナルエクスプロージョン!!」」
2人の魔法少女はステッキを振るい必殺技を決める。
「うわー! な、なんだとー! この俺様がこんな奴らにー!!」
それに合わせてポルトスは倒れる。
「平和な世界は」
「私たちが守る!!」
「「2人合わせてマジカルキュアガールズ!!」」
口上を決め、キャッキャと騒ぐ2人を同じように眺めていたアトスがマリーにこの異様な光景を説明する。
「マリーおはようございます。 あはは、これはですね、僕らのいた世界にあった『ヒーローごっこ』という遊びです」
「先ほどの悪役を魔法で倒すのがか?」
「僕らの世界には魔法がないので。 みんな憧れるんですよ」
「ほう。 それじゃあアトスもこの世界に来た時は憧れの魔法が使えてあの2人のように飛び跳ねて喜んだのかね?」
「いえいえ、子どもの遊びですのでさすがに僕は」
そんなやりとりをしていると部屋にアミが駆け込んでくる。
「あ、ここにいた! 遊んでないでナナちゃん、歯磨き!」
「出ましたね! 怪人お小言お化け!! ナナちゃん、出番ですよ!!」
「うん、悪い奴らは許さない!!」
「誰がお小言お化けよっ!! 待ちなさい!!!」
そうして、追いかけっこが始まってしまう。 その様子はさながら手のかかる子どもを世話をする母親のようだ。
「それで? 昨日の件について何かわかったのか?」
頭に大きなコブを作り、煙を上げてうつ伏せに倒れるダルと大人しくアミの膝の上に座り、歯を磨かれているナナを尻目に俺はマリーに魔物の襲撃の件を聞く。
「ああ、なかなか面白いことがあった。 実はな一昨日辺りからこの近くで救難信号が発信されていることがわかったんだよ」
彼女は待ってましたと言わんばかりのいい顔になり、俺に答える。
だか、それが魔物の件とどう関係あるかはさっぱりわからない。
「救難信号? この森で誰か遭難でもしたのか?」
「さあ? それはわからん」
「でも意外ね。 いくらベガが気を失ってだからといってもマリーならそういうのにいち早く気づきそうなのに」
アミがナナに口をゆすいでくるように言って見送った後マリーに言う。
彼女の言う通り、普段から天才学者を自称するマリーならそのくらいすぐ気づきそうなものである。
「もちろん気づくさ。 そもそもこの周辺の森で起きたそういう信号に対しては自動で反応するようなシステムがちゃんとある」
「なら、なんで反応しなかったの? またシステムの故障?」
「いや、どのシステムも正常だったよ。 というより、これでここ最近の魔物の騒ぎの原因がわかった」
「? どうしてシステムが反応しないことと、魔物がここに来ることが関係あるんですか?」
全く会心を得ない。
それはアトスも同じなようでマリーに理由を聞く。
どうやらマリーは面白いことがあるとそれを結果だけではなく遠回しに言う癖があるらしい。 頭のいいやつにありがちな素人にはどうでもいいことを話し、悦に浸るあれだ。
まぁこんなこと本人の前で言ったらぶっ殺されるだろうから心の内に留めておく。
「あっはっは! マリーさんはあれだね! わからない人にどうでもいいことを話して自慢するタイプの人なんだね」
アミの制裁から復活したダルがまた、余計なことを言う。
これは死んだな。
「さて、話は戻るがここ最近うちに来ている魔物はみな『遺跡』の魔物だ。 これはこの付近の遺跡に何らかの異常があって表に出て来ていると考えられる。 だが、この森に少なくとも遺跡は存在しない。 そんなものあったら私がとっくに探してる」
もちろん、ダルの運命は火を見るより明らかであり、大きなコブにまた大きなコブを作り、煙を上げてうつ伏せで倒れている。
それには俺を含めた3人も苦笑いしかできない。
「じゃあどっか遠くの遺跡から来たのか? いや、それじゃ、昨日みたいに大軍でくるのはおかしいな………」
「なかったものが現れたんだよ。 何者かの手によってな。 まぁ発掘したという方が正しいかもしれんが」
「遺跡を発掘って、そんなことできるのか? 遺跡の発掘っていうのは確か、封印されているものを解かなきゃいけないんだよな? でもそんなの………」
「ああ、それは私でもできるかどうか微妙だ。 なんせ、この世界のどこかにある遺跡をピンポイントで見つけなきゃいけないからな。 そんなの砂漠でビーズを探すようなもんだ。 だが、出来なのはあくまで『人間』ならという話だがな」
マリーのその言葉に俺らは驚く。
見つけることが絶望的に難しい遺跡を見つけ、さらには高度な封印を解ける人間以外の生き物。 そんなもの1つしか心当たりがない。
「人間以外の………それって!」
「ご想像の通り、救難信号が発信してるのは『人間種』以外の種族……………………『森精種』だ」
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