10話 再びの襲撃
「君たちに集合してもらったのは他でもない。 仕事の時間だ」
次の日俺らはメインルームに集められそう告げられた。 メインルームとはあのモニターやらなんやら置いてあるリビングのことで俺らは次の朝早々にそこへ集められた。
「仕事って、怪しげな薬品の実験台にされるのか?」
「今回はそれじゃない。 またゴーレムが迷い込んできた」
マリーはそう言ってモニターにそのゴーレムの現在の居場所とそれに関するデータを表示する。
「今回はって…………。 それって前にポルタとダルが倒したってやつじゃないの?」
「それと同系統。 『遺跡』所属のゴーレムだ」
アミの質問にマリーはなんの躊躇いもなくそう答える。
だが、俺は聞き逃さなかった。
「『遺跡』所属だと!? なんで遺跡に住む魔物が表に出ている!」
「知らん。 ともかくやつはこっちへ真っ直ぐ向かってきている。 前回同様、魔女の館に接近される前に倒してくるように」
俺が声を荒らげて聞いたのに対しマリーは全く変わらぬ口調で用件だけ伝えて切り捨てる。
「あのー遺跡ってなんなんですか?」
アトスは今の俺とマリーの会話に出てきたものがそんなに重要なものなのかと俺らに聞いてくる。
「うーん、私も詳しいことは忘れちゃったんだけど『遺跡』っていうのはこの世界に点在している古代の建物のことだよ。 地球風に例えるならピラミッドみたいなかんじで、古代のお宝ザックザックなの。 まぁ、遺跡の中には守護者っていう魔物がウヨウヨいるけど」
ダルはアトスに簡単に説明する。
俺も保安官時代に遺跡に入ったはいいが出てこれなくなって救難信号を出した冒険家や『勇者』の救助なんかで何回か入った経験がある。 おそらくダルも軍の仕事で入ったことがあるのだろう。 ダルのいう通り遺跡には普通の魔物とはまた別の魔物がいて、そいつらが遺跡にくる宝を奪おうとする侵入者を排除する。 そいつらは基本遺跡の中からは出てこないのが普通であるのだが、今回はなぜかその例に漏れ、 外に出てきてしまって暴れまわっているらしい。
「つまり、なんだかわからないけど遺跡の中にいる魔物が外に出てきているってわけね」
各々状況が理解できたところで『勇者』としてそもそもやる気のない俺たちは溜息しか出ないのだが、1人テンションが上がってるやつがいた。
「難しいことはどうでもいいです! またあのデカブツとやれるんですね!!」
「だから、なんでお前はワクワクしてんだよ」
俺はテンションが上がるダルの額に軽くチョップを入れる。
「戦闘中のサポートはベガがやる。 ああ、それとポルトス、君の『聖剣』の改造は済んだよ」
そう言ってマリーは俺に一振りの剣を手渡す。
だが、その剣は俺が預けた『風切』とは似ても似つかぬ外見をしていた。
俺はそれを受け取ったはいいが、これがなんなのかわからず首をかしげる。
「ん? なんだこれ?」
「何って生まれ変わった『風切』さ。 詳しく説明すれば長くなるから簡単に言ってしまえば中身を別の剣にコピーしたのさ。 確かに本物よりかは劣るが、十分使える性能はあるよ」
そもそも『聖剣』をコピーするなんてことができるなんて聞いたこともないのだが、マリーができたというのなら彼女が自身の研究の過程でそれを可能にしたのだろう。
俺は半信半疑でその新しい剣に魔力を込め、前と同じような感じで『風切』を起動させる。
すると、その新しい剣の周りをじょじょに風の渦が巻き始め、あの独特の起動音を響かせる。
「おお、ほんとだ」
驚く俺の様子をニヤッと笑い、マリーは俺たちに改めて命令する。
「それぞれ準備ができたらエントランスに集合、こちらに接近するゴーレムを倒してこい」
「「「「了解!」」」」
『ゴーレムは魔女の館から南西に1キロほどのところをこちらへ向けて進行中、解析データから自分が気絶しているときにこちらを襲ってきたゴーレムと同種であるというと判明してるであります! 戦法は前回同様で問題ないと思われるであります!』
ベガからの通信が入り、敵の情報を知らせてくれる。
どうやら今の通信を聞く限り前回と同じような攻め方でいいみたいなので、さほど苦労もさせられないみたいだ。
「だそうだ。 おそらく弱点の紋章も口の中だろうな。 ダル、前とおんなじように囮頼んだぞ」
俺はダルと話を合わせて、来たるゴーレムに備え戦略を伝える。
だが、ダルはブーブーと文句を垂れる。
「えー、私がかっこよくトドメ刺したい。 口の中に私の愛銃突っ込んでやるんだから!」
「まぁそれならそれでいいや。 じゃあ、俺は囮やるからダルがとどめさせよ」
「了解〜♪」
おそらく前回の活躍が俺の踏み台になることだけが気に食わなかったのだろう。 トドメを刺す役を譲ったところ飛び跳ねて喜んだ。
というか、譲らなかったらまたあのネタ銃で脅されかねないしな………。
「戦闘かー。 あまり得意じゃないんだけど」
そんなやりとりをしているとアミがポツリと呟く。
「大丈夫ですよ。 僕らは2人の支援でお手伝いしましょう。 それで大丈夫ですよね?」
「むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ」
俺はアトスの提案に頷く。
戦闘が得意じゃない2人を無理やり巻き込んでも可哀想だし、それに2人の支援の腕はサトゥルヌスとの戦いの時に経験済みだ。 2人は周りに気を配る職業柄の影響なのか戦闘中も視野が広く、的確な支援や指示を飛ばしてくれる。 この2人がいればおそらくゴーレムも一瞬に片付くだろう。
「お、きたきた!」
あらかたやることを確認し終えたところ、まるでタイミングを見計らっていたかのように目的であるゴーレムが姿をあらわす。
その姿は前回と変わらない。
おそらく簡単に片付けられるだろう。
「よっしゃ! いくぞ!!」
俺は風切を起動させ、まっすぐ突っ込む。
今回の俺の仕事はできるだけ相手の注意を惹きつけること。
だから、派手に立ち回って目立つような戦い方でいく。
「ハァァァァッッ!!」
こちらの動きに対し重厚な腕から繰り出される拳で突撃する俺に対し攻撃を仕掛けてきたゴーレムだったが俺はその腕を弾きあげ、空いたわき腹へ一閃入れる。
斬撃を食らったゴーレムの腹は大きく抉られるが、その再生能力でどんどんと開いた傷口を塞いでいく。
だが、俺はそんなを悠長に見守っているほど甘くはない。
回復途中で動きの鈍いゴーレムに一撃、ニ撃と攻撃を加える手を止めない。
ゴーレムは防戦一方となり、自然と攻撃が集中する腹部へと防御の意識が向いていく。
そんなゴーレムの隙を彼女が逃すわけもなく、
「行くよ!! トゥッ!!」
アトスが用意した防御魔法を応用した空中での足場を利用し、ダルが一気に間合いを詰めゴーレムの顔面に飛び込む。
そして宣言通り、ゴーレムの口の中に彼女の愛銃の一丁である『死神の誘い』を突っ込み、
「ふっ、チェックメイト」
とキザな台詞を吐き、引き金を引く。
するとゴーレムの頭は弾け飛び、紋章も無事に破壊され、胴体部分もガラガラと崩れ去る。
どうやらアミからの強化魔法を受けていたようで放たれた弾丸はゴーレムの頭を木っ端微塵にしたに飽き足らず、後方の地面にまるでミサイルが着弾したかのような跡を残していた。
ただただオーバーキルである。
だが、彼女はようやく活躍できたのが嬉しかったのか、ドヤ顔をしつつ勝利の余韻に浸っていた。
しかし、そんな勝利の余韻もつかの間、ベガから緊急の通信が入った。
『みなさん! 緊急であります!! ゴーレムの来た方向から高速で接近する魔力反応、おそらく昆虫系の魔物だと思われるであります! 数は60!! さらに離れてはいますがその後ろにも魔物の混成軍がこちらへ進軍して来ているであります!!』
新たな敵に衝撃が走る。
耳をすますと確かにゴーレムのいた方からたくさんの羽音が近づいて来るのがわかる。
ベガは昆虫系の魔物と言っていたのでおそらく蜂型の魔物だろう。 それにこの後も魔物が来ると言うのだ。
状況としては最悪だ。
「ちょっと! どうなってるのよ!!」
「知らん、とりあえず来るぞ! 構えろ!!」
テンパるアミをそう鼓舞し、各々武器を構える。
「なにあれ!!」
大きな羽音とともに来たのは予想通り蜂型の魔物、アサシンホーネットと呼ばれる大型犬くらいの大きさの蜂の魔物だ。 それが群れとなり、大きな牙をカチカチ鳴らしながらこちらへ襲いかかって来たのだ。
「数が多いね! でも、動いてる的も得意なんだよねっ!!」
向かいくる、蜂に対してダルは2丁拳銃を構え、次々と撃ち落としていく。
だが、銃には装填数というものがある。 『死神の誘い』は6発、もう1つの軍用拳銃は20発、向かいくる敵に対して圧倒的に数が足りず、途中で充填しないといけない。 当然その間に隙が生まれるのだが、
「『風切 虚空』!!」
「炎弾よ、敵を打ち抜け 『火炎流弾』!」
ダルが打った銃弾の数を把握していた俺とアトスが彼女が充填するタイミングで魔法を放ち、蜂どもを撃ち落とす。
「我を大地の呪縛から解放せよ『浮遊』!」
そして、アミは自分の聖剣の能力で作った数十本の剣を浮遊魔術で浮かせ、
「発射!!」
それらを蜂の群れに放ち、串刺しにしていく。
「みんな、ありがとう!!」
この連携の間に弾を込め終わったダルが再び、蜂を撃ち落としにかかる。
空を飛ぶ、蜂のほとんどを撃ち落とした頃、大軍の迫る地響きが聞こえて来た。
これは本格的にやばくなって来た。
「うへっ! そんな弾持って来てないよ!?」
「俺もそろそろ魔力が切れそうなんだが!」
俺もダルもそろそろ限界が近かった。
なのにこの状況からまた魔物を相手にしなきゃいけないのはさすがにきつい。
もちろん俺たちだけじゃなく戦闘に不慣れなアトスとアミの2人もこれ以上戦うのは辛いところがあるだろう。
ここはそろそろ撤退を考えて…………。
俺がそう思って3人に声をかけようとすると無線の方からマリーが俺らに指示を出す。
『君たち、衝撃に備えておけ。 あとおしゃべりしてると舌噛むかもしれないから気をつけろ?』
「へ? なにを…………」
ダルがマリーに聞き返そうとしたその瞬間、視界が真っ白に染まった。
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