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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
壱章
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1話 俺の悪運こそは

第3作目です!

第2作目は諸事情によりリニューアル工事中のためややこしくなってて申し訳有りません…

今回は前回の反省を踏まえ努力していて行くのでどうかよろしくお願いいたします!!



「はぁ、今日はほんとついてないねー。 よくよく考えたら今日の朝ごはんの時から目玉焼きのソースこぼすわ、トイレに行けば紙ないわで、いやーここまでついてないと逆に笑えてくるね」



俺は壊れた建物に寄りかかりながら座り目の前に転がる肉塊にそうボヤく。

もちろん肉塊が俺の愚痴に答えるはずもなく人気のなくなった街にただ虚しく俺の愚痴が溢れるだけ。 なんとも悲しい限りである。



































いま目の前に広がる光景はまさに地獄の光景という表現がふさわしいだろう。

街のあちこちは破壊され火の手が上がり、空はドス黒い煙で染め上げる。

それは今が先ほどまで気持ちよく晴れていた昼下がりだということを忘れさせるほどに。

今まで活気に溢れていた街は鼻につく錆びた鉄の匂いに支配され、人の気配を感じない。

破壊され、人の気配のなくなった街に残るのは先ほどまで人であっただろう肉塊とあちこちにできた真っ赤な水たまりのみ。

先ほど地獄のようなと表現したが、ひょっとしたら地獄の方がまだマシかもしれない。

なんども死線を潜り抜けてきた俺ですらそう思わせた。














「俺もこの世界に来て3年は経ったが、ここまで酷いのは、初めてだな。 やっぱどこぞの小説のように最強無敵の能力で無双なんてことはないか、というか下手したら本当に人間側が滅びるぞ?」



俺はよっこらせと自身の持つ剣を杖代わりにして立ち上がり、街の脱出を目指す。

そもそも俺がなんでこんな戦場に巻き込まれているのかといえば、仕事をしていて運悪く巻き込まれたのである。

事の発端は夜明けとともに現れた魔王軍の大軍勢であった。いつものように、海の向こうから攻めてきた魔王軍を帝国が誇る勇敢な騎士達や己の肉体を鍛え上げた屈強な傭兵達、そして『聖剣』を手にした無数の『勇者』達が海岸線で待ち構えていた。

ここまではいつもの光景。

だが、今回は違った。

魔王軍の魔物達がいつもの装備を、戦術を変えてきたのだ。

さらには新兵器まで投入し海岸線の防衛戦を突破してきたのだ。





その結果がこの有様であった。

上陸地点から近かった港町のカステルは戦場とかし、地獄のような光景となってしまったのだ。

そんな俺がこんな戦場にいる理由は俺が『勇者』であるからではない。というか、『勇者』なんてこの世界に来てしばらくして辞めた。そんな『勇者』なんてたいそうな使命を任されたやつが簡単に投げ出していいのかという疑問もあるだろう。 結論から言ってしまえば全く問題ない。 ノンプロブレムだ。

この世界、というかこの星にはなぜかは知らないが大量の『勇者』が地球から送り込まれている。 その数は165,832人。 ちなみにこれは累積であり、さらには3年前の俺の記録だ。 今どうなっているかは知らないが20万は言っている事だろう。そんな事情もあり、多少の人数『勇者』が仕事をしなかったところで問題はないのだ。むしろ働きアリの法則に則って言うならば俺が仕事を投げ出しているのにもちゃんとした役割があるのだ。









ちょっと話が逸れてしまった。

そんな勇者でもなんでもない俺がこんな危険地帯に来ているのかという話に戻る。 簡潔にいえばおれはビジネスでこの戦場にいる。

勇者を辞めたからといって地球に、日本に戻れるわけじゃない。 ここで食いっぱぐれないように暮らしていかなければならないのだ。

だから、俺はこの星に来た時に『勇者』として授かった身体能力を武器に何でも屋として日々を暮らしていた。 そんなある日、ある勇者のパーティからの依頼で用心棒を頼まれたのだ。 別にそういった依頼は珍しくない。 だが、その依頼したパーティが問題だった。 なんというか頼りなさそうな、人がいいだけが取り柄みたいな勇者と女の子ばかりのパーティメンバー。

やる気あるのか? と聞きたくなるような勇者一行だった。 とはいえ用心棒としてこのパーティに雇われた俺からリーダーの『趣味』に口出しするのは野暮というものだ。 それにしっかりと報酬はもらえる。それに俺はこうして宙ぶらりんな生活を送っているのにしっかりと魔王を倒そうと頑張っているのだ。 俺にとやかく言われる筋合いはないだろう。 俺は不安を覚えつつもこのパーティの護衛を引き受け、早速カステルの街に攻め込んだ魔族の足止めと住人たちの避難誘導の任務に就いた。

だが、先ほどから言っているように今日の俺はとことんついてない。

悪い予感も見事的中というか、カステルの街について早々にそのパーティは敵の流れ弾に当たりリーダーが即死、パーティメンバーの心も折れ、早々にパーティは瓦解した。 もちろん俺は雇われの身なのでここで早々に憔悴する彼女達を見捨てることもできたが、俺も鬼じゃない。 契約外のことではあるが生き残ったパーティメンバーの女の子たちをこの街の人たちと一緒に避難させ襲いくる魔物を蹴散らしていた。

彼女達はうまくいけば無事に逃げ出すことに成功しただろう。

まぁだから代わりに俺がこんな逃げ遅れてこんなことになっているのだが……。



























運のついてないときはとことんについてないものである。

こんなグチグチ文句を垂れているといつの間にか魔物に囲まれてしまっていたのだ。

見た所どれも雑魚、だが数が多い。

ざっと2、30といったところだ。



「ここは見逃してくれてもいいんじゃねーのかなー。 まぁいいか。 『風切』始動」



俺は鞘から剣を抜き、そういって魔力を込める。

すると白銀に光る細い刀身を中心に風の渦が生まれる。キィィィィィィンと、刀身を取り巻く小さなつむじ風は徐々に大きくなり風を裂く音を増していく。








『聖剣 風切』



『聖剣』とは勇者一人一人にその人にしか扱えない固有の剣である。 ちなみにこの『風切』は俺のものではなく死んだパーティのリーダーのものである。 別に弔い合戦がしたくて使っているわけじゃなく、俺の『聖剣』は諸事情により使えないため応急処置的に拝借しているのである。もちろんこれは俺の聖剣ではないため100%の力で扱うことはできない。 だが、今目の前の雑魚どもを蹴散らすには十分だった。









しばらく睨み合いになったが膠着状態に耐えきれなくなった魔物たちの方から仕掛けて来た。

俺だってこの世界に来て全く成長してないわけじゃない連携のできてない魔物たちの攻撃をかわし、その際でカウンターのように魔物たちを切り捨てていく。



「数が多いし、めんどくさい!!」



俺は魔物たちから挟撃されないように位置を取りいったん離れる。

魔物たちはあいも変わらず、ただ俺に向かい各々の武器を振りかざし襲ってくる。

その離れた一瞬のタイミングで俺は居合抜きのような形で突撃してくる魔物たちを待ち構えつつ、剣にさらなる魔力を注ぎ込む。

そしてタイミングを見計らい、技を放つ。



「『風切 虚空』!!!」




放たれた飛ぶ風の斬撃は考えもなしに突撃してくる魔物たちを文字通り一刀両断にし、まるでボーリングのピンのように綺麗に倒す。




「驚いた。 この剣、初めて使った他人にここまで力を解放してくれるなんてすげーな」



俺はそういい、白銀に輝くその剣をまじまじと見つめ、血を払い剣を鞘に納め歩を進める。

さきほどもいったが『聖剣』を扱えるのはその持ち主のみ。

なら他人が使うとどうなるのか。

それは『聖剣』次第なのだ。

剣に選ばれれば、ほぼ100%の効果を発揮するが、逆に選ばれなければ鉄くずも同然。 身持ちが堅い奴もいればアバズ……比較的誰でもフレンドリーな奴もいる。

性格が人がそれぞれ違うように剣もそれぞれ違うのだ。


























やはり魔王軍にほぼ制圧された街ゆえ、少し歩けば魔物がうじゃうじゃ出てくる。

俺はそれを時にはやり過ごしたり時には立ち向かったりと町を出るために破壊された街並みを進んでいた。



「あと、もうちょいで出れるか。 出たらとりあえず本拠地に戻って爆睡だな。 はぁ、今回の任務の報酬、前金しかもらえんかったなぁ。 まぁ、命があっただけマシってもんか」



俺はそんなことをボヤきつつ、街の外へ向けて再びあるか始め用とした時、



「キャァァァァァァ!!!」



近くで女性の悲鳴が聞こえた。

俺は迷わず声のした方は駆け出す。



まさか、生き残りがいたとは。



予想外のことに驚いたが、今の悲鳴からしてピンチであることがわかる。



この行動を後で死ぬほど後悔した。

大人しく逃げていればあんなめんどくさいことには巻き込まれないだろうに、俺は平気で足を突っ込んでいく。

路地を抜け、一気に視界が開けた。

そこはこの街でも有名な噴水が教会前にある広場。

教会は魔物の襲撃を受けたためかボロボロになっており、シンボルである大きな鐘も無残に広場に落とされていた。

そして、そのボロボロの教会を背に立つ3メートルはあろうかという巨躯、血の通ってないような青紫色の皮膚に鋭い爪と牙を持つ魔物。

おまけにその鋭い爪の生えた右手にはどこぞの『勇者』の亡骸がまるで小さい子供が人形を持つかのように乱暴に握られていた。

さらにその足元には倒れこむなぜかメイド服姿の女の子とそれを庇う折れた剣を持つハーフアップに大きなリボンが特徴の女の子の姿があった。

おそらく悲鳴をあげたのは彼女たちであろう。




グォォォォォ…………



化け物は低く唸り声をあげ、新たな獲物に目をつけたのか乱暴に握られていた勇者をボトッとその場に落とし、目標を定める。

そしてその鋭く大きな爪を女の子たちへ向け突き刺そうとする。




「サトゥルヌスか!? しかも人間食って力を増してんじゃねーか………、くっ!!」



すでに駆け出していた俺はすんでのところで鋭い爪を剣で受け止める。



「おい! あんた、大丈夫か!? ここは俺が引き受けた。 あんたはその女の子連れてここから離れろ!!」



俺は怒鳴るように剣の折れた女の子に言う。

かっこよく庇いに行ったが、予想以上にサトゥルヌスの攻撃が重く、既に腕が限界だ。



「あ、ありがとう」



女の子は弾かれたようにメイド服姿の女の子を担いで離れる。



「さて、俺が相手だ、食人鬼。 ハァァァァァッッ!!」



俺は『風切』に魔力を込め、サトゥルヌスの爪を薙ぎ払う。

『風切』の刀身には先ほどよりかも弱いながらもつむじ風を巻き始め、独特の風を裂く音を発し始める。



「やっぱかてーな。 あいつどんだけ人間食ったんだ?」



サトゥルヌスとは魔王軍でもそこそこの強さを誇る魔物だ。 わかりやすいように強さを日本風に例えるならRPGなどで出てくる中ボスレベルだといえばわかる人もいるかもしれない。 つまりは雑魚ではないがちょっと頑張れば倒せるレベルなのだ。

だが、その強さと比較してギルドが発表する『勇者が選ぶクエスト中遭遇したくない敵ランキング』にボスクラスを除けばトップ3に入っている。

確かに倒せない敵ではないが、問題はサトゥルヌス自身の生態と言うか、簡潔似合うならこの魔物は偏食家で人間ばかりを好んで食べるという好みがあるのだ。 戦闘中それをやられるとこちらの士気がただ下がりな上、奴らは人間を食べると魔物としてどんどん強くなる。

だから遭遇したら先手必勝、長期戦などもってのほかなのだ。



しかし、今回ばかりは違った。

この目の前のサトゥルヌスは既に人間を何人も食べているのだ。

それを証拠に先ほど大きな鋭い爪と青黒い皮膚の特徴からサトゥルヌスだと判断したが、ギルドで紹介されているものと目の前のものでは見た目が大きく違った。 全体的にゴツく、イカつくなっていたのだ。

いや、見た目だけじゃない、おそらく性能も上がってるだろうなぁ……。



仕方ない、俺の『聖剣』の方を使うか?



一瞬、目線を腰元に収まっている剣に目をやったその隙を突かれた。



その巨体からは想像も突かないスピードで猛チャージをかけてきて突っ込んでくる。

俺はなんとか受け身の体勢をとるのだが、



「くぅっ!! がはっ!!!!!!!」



簡単に吹き飛ばされ建物に思いっきり叩きつけられる。

俺は血を吐き、サトゥルヌスの方を見る。

サトゥルヌスはゆっくりとこちらへ近づいてくる




あぶねぇ、意識が飛びかけた。

だけど、今ので骨何本かイッたぞ……。



朦朧とする意識を奮い立たせ、なんとか立ち上がり剣を構えが、とても動きまわれるような身体じゃない。



万事休すか。

剣を構え、サトゥルヌスを睨むように見つつも諦め掛けていたその時、








ダンッダンッダンッっという銃声。 その直後、サトゥルヌスの方から血しぶきが上がる。



「絶体絶命の危機にただいま参上!!」



金髪ツインテールにアホ毛の軍服姿の小柄な女の子と、



「大丈夫ですか!? こんな進化したサトゥルヌス相手に1人なんて無茶ですよ!!」



メガネをかけた貴族のような服を着た短髪の女の子が助太刀に入ってくれたのだ。



「あ、ああ。 なんとかな。 でもなんで……」



「私が呼んだのよ。 さすがにあんな化け物相手にあなた1人で置いてはいけないでしょ。 メイド服の子は教会の中の安全なとこに寝かしてあるわ」



よろよろと立ち上がろうとする俺に回復魔法をかけながら、逃げたと思っていた剣の折れた女の子が答えてくれる。

なるほど、おかげで助かったわけだ。

俺は素直に助けに入ってくれた3人に感謝する。



「というか、それ以前に私たちはあなたのことを探してだけどね。 見つけてみればこんなベタな展開!! 腕がなるね!!」



「ユイさん。 僕たちには時間がないんですから、遊んでる暇はないんですよ?」



「わかってるよっ! 最初っから全力で行くよ!!」



ユイと呼ばれた女の子はメガネの女の子の注意を適当に流しつつ、不敵に笑いながら、サトゥルヌスに銃を向けた。





























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