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師と弟子  作者: 飯島佑樹
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選挙、民主主義

「師よ、師は日本人はとても自由主義的ではあるが政治的には社会主義的であると仰っていました。

これはどういう事なのでしょうか」


師は答えます。


「日本人は基本的に努力すれば報われると考えておる。

別の言葉で言えば努力しない人間は底辺にいても仕方ない。働かざる者食うべからず、というわけじゃな。

この考えに基づいた場合、政府による弱者救済つまり社会保証は最低限で良いという考え方となるわけじゃ。底辺におるのは本人の自由意思なんじゃから、税金を投入してまで助けてやる必要性を感じない。

これはとても自由主義的な考え方じゃ。

社会主義的な考え方の場合、人はスタート地点の段階で不平等だし努力してもどうにもならない事はあると考える。

それは本人ではどうこう出来ない事柄なのじゃから政府は社会保証を充実させて全ての国民が健康的で文化的な生活を行えるようにするべき。

日本国憲法第二十五条をさらに進めた考え方とも言えるな。

政治というものはこの二つの考え方のバランスをどう取るかというのが重要なのじゃが、日本人の場合、基本的には自由主義的な立場をとるが政府には社会主義的な立場を要求しておる。

この政治的捻じれは何故発生しておるのか。

単なる我儘というのもある。無知というのもある。

じゃが、根本的な理由は自分達が主権者じゃという自覚が足りん事じゃろう。

じゃから左翼政権になれば税金は安くなり社会保証も充実する、と平気で矛盾した事を発言したりするし、俺は政治の話をしているのだから経済の話なんかするなと自力で生活した事の無いニートのような事を言い出す。

真面目に政治に関して考えた事がなく、ネットやマスコミで流れておる与太話を繰り返しておるだけといういい証左じゃな。

正直、日本は民主主義である必要性が少ないとワシは思う。

肝心の国民が自分達の持つ主権を事実上放棄しとるわけじゃからな。じゃったら貴族主義にでもしてしまえばよいじゃろう。貴族主義なら選挙などという金の無駄遣いをなくせるし、長期的な政策も行いやすい。

現状から考えて最初は反発があっても権利を保護してやれば五年もすれば日常になって誰も気にしなくなるじゃろうよ。

……よほど上手く立ち回らねば世界を敵に回す事になるじゃろうから、実現は難しいがな」


うぅむ、と弟子は唸ります。


「師よ、しかしながら日本国民の全てがそのような人間ばかりだとは思いません。

選挙が金の無駄遣いとは言い過ぎではありませんか」


師は弟子に冷たい視線を向けて言います。


「パンデミックが発生しても国民の命や財産より後輩の応援やら自分達のスケジュールを優先するクズや、職務放棄どころか妨害行為まで行なった結果手遅れとなったのに全ての責任を現場に押し付けて事態をさらに混乱させたゴミや、自分達が迅速に対応しなかった為に疫病が蔓延し大量に家畜を殺処分せざるえなくなったのに「だから早く殺せと言ったんだ」と他人事のように笑ったカスが愚行の後に行われた選挙を経てものうのうと議員を続けておる事からも選挙が正常に機能しておるとは思えん。

テロリズムを肯定した馬鹿はろくに批判もされておらんし、マスコミが取り上げなければデモも起こらん。

そういった意味ではワシは偏向報道反対デモは評価しておったのじゃがな。

あっという間に愚か者共に乗っ取られて立ち消えてしまった。あれは勿体無い事をした。

まぁ、ともかく日本で主権を行使しておる人間なぞまずおらんよ」


弟子は問います。


「師よ、大多数の日本人は主権を行使していないのかもしれません。しかし、一部では政策に関して討論が行われている事からもそこまで悲観的にならずともよいのではありませんか?」


師はそんな弟子の言葉を鼻で笑いました。


「弟子や、討論とは邦題じゃと十二人の怒れる男じゃったかな、あの映画のようなものを指すんじゃよ。

参加者が一方的に自分の意見だけを主張し、相手を罵る事しか考えていないのは討論と呼ばん。単なる罵り合いと呼ぶんじゃ。

しかも、自分の言葉ではなく、誰かの言葉を壊れたレコードのように繰り返しておるだけでさらに性質が悪い。

選挙の結果選出された議員達が作り、民主主義的に決定された法案だけれども、僕達が気に入らないから民主主義的じゃないととか言い出す阿呆もおるくらいじゃし、主権者教育もマトモに行われておるとは到底思えん。

このまま民主主義国家を継続しても衆愚政治になる未来しか浮かばんよ」


弟子は少し考えてから言います。


「師よ、しかしながら師も民主主義からの転換は現実的ではないと仰ったではありませんか。

師には何か案があるのですか?」


師は答えます。


「現実的な対策としてはまず教育の改革じゃろう。

現在の教育で主権者教育に悪影響を与えているのは権威主義的な教育しか行っておらん事じゃ。

学問としてはそうせざるを得ない部分があるのは理解しとるよ。

一足す一はニが正解じゃし、それ以外の解答を書かれても間違いとせざるを得ん。

じゃから新たに遊戯という科目を創設し、教育の一環として麻雀のような不完全情報ゲームをやらせるべきじゃと考える。これなら楽しみながら自然に人を疑う事や限定された情報から推測する事を覚えるじゃろう。それに授業としてやらせれば子供だけでなく親も取り組まざるえなくなる。親の意識改革もある程度期待出来るしのう。

これに加えて定期試験の際、五つくらい課題を用意して生徒にその中の一つを選択させ、レポートの提出をさせればいい。

他人に頼りきりで自分で情報を調べようとせんのが今の日本人の欠点じゃからこうした試験を入れてやれば大分マシになるじゃろう。

ただ、これらは教職員の負担が大きくなるから、その辺り、国の補助が必要かもしれんな。

テスト作成の補助やらしてやれば大分楽にはなるじゃろう。

次に国民のマスコミへの信用を失墜させる事。

日本人は日本のマスコミを信用し過ぎておる。現実の日本のマスコミは公正無私のジャーナリスト集団ではなく、偏向報道反対デモを嫌韓デモと報道してデモ参加者をレイシスト扱いした私利私欲のデマゴーグ集団なのじゃがな。

この問題はN◯Kで毎日夜九時から一時間、日本のマスコミの行った事実の捏造、法の無視、人権侵害などをを放送してやればいい。もちろんN◯Kのやった悪事も忘れずにな。

マスコミをまったく信用しなくても、よく教師やらが言うニュースの利点である現在世の中で起こっている事は把握できるから問題はない。

後は政治家、もしくは後援しておる団体と交渉する事を覚えさせる事じゃな。

国民は投票権という名の脅……交渉材料を持っておる。

たかが一票、とか思っておる馬鹿が多いが案外これが効くんじゃよ。

後援しとる者に聞いた話なのじゃが百人に頼んで本当に頼んだ候補者に投票してくれる相手は五人もいない、だそうじゃよ。確実な一票は本当に助かるそうじゃ。政治家が多少の融通を利かせてくれる程度には効く。十数人の確実な票を用意できるならさらに、じゃな。

これをはっきりと国民に認識させる。

今から新しく政党を作るというのは現実的ではない。

多数決で勝利できる程の数の議員を送り込む財力や支持を集める基盤は普通ないからのう。

なら、今ある政党で自分の考えに近い政党を自分の考えへさらに近い方向に誘導した方が確実性が高い。その為に一票がある。

これは社会科の授業で単に選挙は大切なんですよと教えるのではなく、国民の代理人である政治家を投票権という鞭で叩いて働かせるのが国民の仕事の一つだと教えてやれば事足りるじゃろう。

政治家の掲げるマニフェストは会社で言うなれば部下の提出してきた企画書じゃ。曖昧模糊な内容や他者の否定や悪口しか内容が無いような無様な企画書を提出してきたのなら落選という名の叱責を叩きつけてやるしかない。それが当たり前なんじゃがその当たり前を日本人はやってこなかった。

もし、今の日本が気に入らないのであればそれは無様な企画書をろくに検討もせずにほいほい通し、無能な部下に好き勝手にやらせた自分達が悪いと国民に理解させるのが重要なんじゃよ」


え、と弟子は師の言葉に驚きました。


「師よ、政治家は部下なのですか?」


師は答えます。


「主権者は国民であって政治家ではない。

後援者ももっとガンガン言ってやれば良い。

政治家はちゃんと独自性を出してくれないと営業が困るんだよ、とでもな」


弟子は成程と頷きました。

弟子は自分の中で政治家を無意味に地位を高く、それこそ貴族か何かのように高く設定していたのですがそれは間違いだったと考えたのです。

政治家を特権階級のように考えて唯々従うだけならば確かにそれは民主主義ではなく貴族主義と呼ぶべきものでしょう。師が怒るのも当然です。


「師よ、私は目が覚めたような気持ちです。

さっそく友人達に話し、選挙で誰に投票するかを考えるとします」


言うなり弟子は外へ飛び出していってしまいました。

師はそんな弟子を見送りつつ、空になった湯飲みにどこからともなく取り出した急須から茶を注ぐのでした。

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