悲しい涙
森の中は、どんよりと、分厚い雲に覆われているように、薄暗い。
しかし、そこから見上げる空は明るい。
「やっぱり、見るからに、おかしな場所だぜ。空が見えてるのに、森の中は、こんなに暗い。まるで、夜になりかけてるみてぇに」
「え、ええ」
カイルに、ジーナは怯えた声で返事をした。
「イザベラー! エドガルドー!」
カイルは、皇女と家臣たちの名を呼んだが、返事はない。
「イザベラ様ー!」
ジーナも呼んでみるが、やはり、返事はなかった。
その時、カイルが足を止め、ジーナの口に人差し指を立て、静かにと合図をした。
「……魔法剣が、騒いでる。……あっちの方角だ!」
カイルは、ジーナの手を引きながら、走った。
人の悲鳴が聞こえる。
イザベラと老人たちが身を寄せ合い、叫んでいた。その両脇には、二人の家臣が、木の枝に、逆さまにぶら下がっている。
ジーナは目を疑った。
木の枝が、まるで、木の腕のように、上下左右、あらゆる方向に動き、家臣の足をつかみ、振り回した挙げ句に、ぶら下げているのだった。
二人の老人は、死んでいた。
「お前ら、なんで俺を待たなかった!」
「おお! カイル殿!」
家臣たちが悲鳴とともに、カイルを呼んだ。
「我々は、森に入る前に、待っているつもりだった!」
「だが、気が付いたら、中に踏み込んでいたのじゃ!」
「知らない間に……。やっぱり、『天使の声』ってヤツのせいか!」
カイルは、ハッとした。
「魔法の袋は!?」
「もう全部使ってしまったのじゃ!」
カイルとジーナは、木の枝をすり抜け、合流すると、さっそく、カイルが魔法剣で動く枝を切り落とした。
枝は、地面に落ちると、消滅した。
『ほほう、不思議な剣を持つ者がいるもんだ!』
しゃがれた、人間とは思えない声が響く。
「みんな、俺の後ろに!」
悲鳴を上げた老人たちとイザベラ、ジーナは、カイルの後ろに回った。
「こいつは、俺が今まで出会った魔物とは、わけが違う。喋る魔物なんて、初めてだぜ!」
カイルは、油断のない目で、辺りを見回す。
枝を揺らす木々は、本体ではない。
どこかに、木を操る本体がいるはずだ。
「きゃあっ!」
ジーナの前にいた家臣が、突然、胸から血を噴き出して倒れた。
「ベニート様! しっかりして!」
ジーナが老人を揺するが、絶命していた。
残りの老人とイザベラが、ますます悲鳴を上げる。
「そこか!」
カイルが魔法剣を力強く振ると、白銀色の風が弧を描く。
叫び声のようなものを上げ、人の半分ほどの高さの小人のような魔物が、灰になって消えた。
魔法剣の霊気は、あらゆる方向から襲う小人たちを消滅させていく。
老人たちも、イザベラも、やっとホッとした時だった。
『お前さえ、いなければ……!』
しゃがれた声が、カイルのすぐ後ろから聞こえた。
迷うことなく、カイルは振り向き様に、剣でそれを斬った。
断末魔の叫びが響く。
カイルも、手応えを感じている。
だが、次の瞬間、カイルの背から、血が噴き出した。
「……てめぇ……化けてたのか……!」
カイルが、うめくとともに、地面に倒れた。
怯えた家臣とイザベラ、ジーナは、エドガルドを見つめた。
エドガルドだと思われていた老家臣は、しゃがれた笑い声を上げると、カイルの剣がかすった左腕を庇い、飛び退った。
そこからは、どす黒い、緑色の血が流れ出していた。
「はっ! エドガルド殿!」
一行の後ろに、エドガルドは倒れていた。
「ふ、不覚……! イザベラ様、どうか、生き延びて……!」
最後まで言い終えることなく、エドガルドは動かなくなった。
『ワシの森じゃ! ワシの森に入ったものは、皆、餌となる。木たちの滋養にな!』
エドガルドの姿をまねた魔族は、しゃがれ声でそう言った。
『一番気高い血は、その女じゃな!』
しゃがれ声の魔族の姿が消え、再び姿を現したのは、イザベラの正面だった!
イザベラの目が、恐怖に見開かれる。
「危ねぇ!」
バリン! と、金属の割れた音が鳴ったと同時に、皇女の顔に、鮮血がかかる。
「……カイル!?」
イザベラを庇うように飛び出したのは、カイルだった。
鮮血は、カイルの胸から吹き出したものだった。
「カイル! カイル!」
イザベラが叫び、カイルを抱きかかえて揺すった。
「よ、よせ……いてぇって」
「な、なぜ、こんな……!」
取り乱すイザベラに、カイルは、片目をつぶってみせた。
「……守るって、……言っただろ? 俺って、意外と、……フェミニスト……だよな」
「……バカ! 私のために……!」
イザベラの目から、大粒の涙が次々と零れ落ちた。
「これを持って……逃げ……ろ、……ヤツから……! 俺のことは、……いいから……!」
カイルが渡したのは、魔法の袋の最後の一つだった。
「……カイル……! ……ごめんなさい……!」
イザベラは、振り返り、振り返り、残り二人となってしまった家臣に抱えられ、駆け出した。
木を背に、よりかかりながら立ち上がったカイルは、魔法剣を構えた。
『お前のその剣、……さっきほどの元気は、ないぞ!』
エドガルドの姿から、キキキと笑い、しゃがれ声が言った。
「ああ、どうやら……、そのようだな……」
剣を手にした感覚で、カイルにはわかっていた。
魔法剣の霊気が尽きていることを。
『お前倒した後は、ゆっくり、あいつら食うだけじゃ!』
エドガルドだったものが、再び笑う。
出血多量のカイルは、木を背にしていても、立てずに、とうとう膝を付いた。
そこへ、ぎゅっと、彼を横から抱え込む感触に、カイルは、瞑っていた方の目を開いた。
「……ジーナ?」
少女は涙を流しながら、彼を抱えていた。
「……バカだな、ジーナ、……逃げなかったのか?」
「私も、一緒に残る……カイル、あなたと一緒にいるわ」
痛みとともに、カイルは、心地よさを感じていた。
「そんなことして、俺が喜ぶとでも……。俺は、女が死ぬのは……、イヤなんだぜ……!」
「あなたのためじゃなくて、私のためよ」
苦しそうに咳き込んだカイルを、さらに力を込めて、ジーナが抱きしめる。
「あなたが好きだからよ、カイル……!」
一瞬、ジーナを見たカイルは表情を変えず、なんとか剣を構えようと、エドガルドの姿をしたものに向ける。
血で、視界がふさがる。
ジーナが、カイルの手に手を添え、剣を支えた。
『ふん、死に損ないが。その剣を持つ腕ごと、破壊してやろう!』
エドガルドの魔族の指が、カイルに向けられる。
ジーナは、目をつぶった。
カイルは、開けられる方の目を見開き、魔族を見据えた。
魔族の指先から、黒い稲光が起こり、それが放出された。
稲光は、魔法剣を持つカイルの腕に向かい、バチバチと飛んでいく!
ーーが、何かに、弾き飛ばされた。
『なっ、……なんじゃ!?』
魔族が動揺していると、カイルの魔法剣の前には、ごく小さな、光るダイヤ形をした薄いものが浮かんでいたのだった。
『こっ、これはっ……!』
カイルの流血は止まり、みるみる傷が回復していく。
何が起きているのか、カイルもジーナもわからなかった。
「やあ、遅くなっちゃって、ごめんよ。ギリギリ間に合ったかな?」
片方の目で見上げたカイルは、ぼやぼやと現れた人影に驚いた。
「……ユウさん……?」
後ろから抱き留める格好で、ユウが、てのひらから緑色の光線を、カイルの胸の傷に当てていた。
「ロケットが役に立ったみたいだね。傷口は、そんなに深くないから、すぐにふさがるよ」
「そ、そうか、ロケットが、あいつの攻撃を受けて割れたから、異常を察知して、来てくれたのか」
「うん。『天使の声』の森で、接触してるはずだと思ってね、きみたちと魔族が」
ユウは、にこやかな笑顔を、カイルから魔族に向けた。
『貴様……何者だ!? 「白の魔法」を使うとは……!』
「昔、ちょっとかじっただけだよ、『白の魔法』をね」
カイルの『治療』を終えたユウは、カイルを抱えたそのままの態勢で、さらに、魔法剣に、てのひらを翳した。
「さあ、カイルくん、魔法剣の魔力も、回復しているはずだよ。使ってみて」
「えっ? なんで?」
「後で説明するから」
「わかった!」
「お嬢さんは、結界の中にいようね」
戸惑いを隠せないジーナを、ユウは、球形の緑色をした薄い膜のようなもので、自分とともに包み込んだ。
カイルは、魔法剣に魔力が戻っているのを感じ取ると、『プラチナ・ストーム』と名付けた霊気を放出させた。
それは、この森に入ってから使った中でも、否、彼がこれまで使って来た技の中でも、最大級の規模であっただろう。
銀色の霊気は、竜巻のように剣から噴き出すと、逃げ惑うエドガルドの太った身体を巻き込んだ。
咄嗟に、ユウは、結界の中の少女を、自分のマントで包み、視界を遮った。
巻き上げられ、絶叫を轟かせた魔族の身体は、銀色の激しい竜巻の中で粉砕したように、カイルには見えた。
即座に、霊気の竜巻は、元の輝く銀色のみへと移り変わり、『浄化』を終えると、空に向かい、小さくなって消えた。
「……はあ、やっと倒せた……!」
肩で大きく息をしたカイルは、両手で握った剣を、改めて見下ろした。
「なんか、今までで、一番すごかったな、これ……」
緑色の薄い膜は、ユウとジーナの周りから消えた。
ジーナがカイルに走り寄っていった。
「カイル! 大丈夫?」
「ああ、大丈夫、大丈夫! 俺は何ともないぜ!」
「良かった!」
涙を浮かべながら、カイルを抱きしめるジーナの頭を、カイルは、心から安心した笑顔で、そっと撫でた。
「それじゃあ、僕は、これで」
「え? ユウさん、もう帰っちゃうの?」
そろそろ酒場の開店時間だからと言って、ユウは、いつもの、にこやかな笑顔で手を振り、慌ただしく帰っていった。
ユウの消えた空を、しばらくカイルは見上げていた。
白い輝く小さな盾のような結界と、通常の緑色の防御結界は、上級魔道士であれば可能な術なのだろうと解釈するとして、カイルが一番わからないと思ったのは、魔法剣の魔力が回復していたことだった。
『ああ、それはね、例の魔族の「天使の声」によって、きみも、魔法剣の技が使えなくなってると、思い込んでいたんだよ』
ユウの姿はもう見えなかったが、声だけが、聞こえていた。
魔族の小人たちを『浄化』し続け、剣の魔力は消耗していたはずだった。
カイルには、ユウが何かしてくれたように思えていたが、今は、彼の言った通りにしておこう、と思った。
とにかく、早く安心したかった。ユウに会った時に、詳しく尋ねればいいのだ、と。
「『天使の声』……おそるべし、だな!」
目を丸くしてそう言うと、カイルは、ジーナと顔を見合わせ、笑い合った。
ヴィルフレド王国では、王妃の従姉妹にあたる亡国の皇女イザベラと、家臣の二人、侍女ジーナ、そして、カイルを迎え入れた。
イザベラと家臣を救ったことで、カイルは讃えられ、約束通り、金貨や、宝石などの詰まった宝箱をもらえ、数日、ゆっくりと宮殿で過ごすことになった。
家臣の二人も、カイルには感謝の言葉を何度も述べ、美しく着飾ったイザベラも、彼に、貴族の称号を与えたいと、ヴィルフレド王に申し出た。
だが、カイルは、その申し出だけは、却下して欲しいと頼んだ。
願わくば、自分は、ヒョン・カンに戻りたい、と。新たな冒険の旅に出たいのだと。
勇者は、そのようなものなのだろうと、誰もが納得し、イザベラも、珍しく引き下がったのだった。
その晩、イザベラとカイルは語り合っていた。
「お前を置いて、逃げた私を、許して欲しい」
カイルは上機嫌に酒を飲み、ソファでくつろぎながら、金色の器に盛られた果物を口に運び、向かいのソファに、ゆったりと腰掛けた、美しく着飾った皇女に、笑ってみせた。
「何言ってんだよ、俺が、逃げろって言ったんじゃないか。あの言葉に、噓偽りはないぜ」
ウィンクしたカイルの、湯浴みをして金色に輝く長い髪は美しく、それを眩し気に、イザベラは見つめた。
同じく、湯浴みできれいに洗われた顔、たくましく細い筋肉を覆う、貴族の着る豪華な刺繍のされたチュニックは、彼を貴族か王族であるかのように見せていた。
イザベラの頬が、赤く染まっていくのは、口に含んだ赤い果実酒のせいだけではなかった。
「お前と別れるなど、……馬鹿なことをしたと、私は悔いている。出来れば、カイル、もう一度……」
カイルは微笑んで、彼女の言葉を遮った。
「よせよ。多分、俺とお前は、合わねぇよ」
「……そうか」
諦めたように、イザベラが笑った。
「だけど、最後に、……したいっていうんなら、……してやってもいいぜ」
そう、にやっと笑うカイルを見上げていたイザベラは、ますます頬を赤らめた。
彼女の目の前まで歩いていったカイルは、顔を上げて目を閉じるイザベラに、口づけた。
首に巻き付く腕は、彼を離すまいと、締め付ける。
よろめいた彼を、ますます引き込むように、ソファに倒れ込む彼女は、激しく、カイルに口づけた。
カイルが深く口づけを返すと、イザベラのすすり泣きにも似た声だけが、部屋の外にまで漏れていた。
イザベラも家臣たちも眠り、月が一際高く登った頃、そうっと、カイルは部屋から抜け出した。
「やっぱり、行ってしまうの?」
驚いた彼が振り向くと、ジーナが、隣の部屋から、顔を出していた。
「ああ。別れが湿っぽくなるのは、苦手なんだ」
「だから、こっそり、去ろうというのね……」
苦笑いで答えるカイルに、ジーナが抱きついた。
真面目な表情になったカイルは、静かに彼女を抱きしめた。
小柄な彼女は、彼の中に、すっぽりおさまっていた。
柔らかい抱き心地を、彼はかみしめていた。
「……このまま、時が止まってしまえばいいのに……」
ジーナが小さな声で言った。
「ああ、そうだな」
カイルも、小さな声で答えた。
「……一緒に行ってもいい?」
ジーナが、小さく、だが強く、訊いた。
カイルは応えなかった。
「……やはり、イザベラ様が、お好きなのね?」
小さな肩が震える。
カイルは、きゅうっと、胸が締め付けられるような、切ない想いにかられた。
「イザベラ様には、……しても、……私には、……してくれないもの。あなたの気持ちは、よくわかったわ」
ジーナの言葉に、カイルは思わず本当のことを言ってしまいそうになるのを、懸命にこらえた。
それ以上、強く抱きしめてしまいそうになるのを、なんとか抑えた。
「ジーナのことは、ずっと……可愛いと思ってた。初めてキスした時にな」
「本当?」
期待を込めた目で、ジーナはカイルを見上げた。
彼女にとっては、初めての体験であったが、なんだか、彼と心が通じたように感じていた。
魔物を目の前にして、カイルと二人残った時も、彼を守りたいと、それがだめなら、一緒に死を覚悟した。
自分は、彼を愛していると思った。
そんなジーナの想いを、充分感じ取っていたカイルは、伝えようと思っていた言葉を、今、伝えなくてはならないと思った。
何度も、心の中で、繰り返してきた言葉だった。
カイルは、これまでにないほど、やさしい微笑を心がけた。
それから、ジーナの瞳を見つめた。
「可愛いと思った。だけど、……女としてじゃなく、……妹みたいだと。死ぬのを覚悟してまでも、俺に付いていてくれたことも……感謝してる」
ジーナの瞳が揺れ、みるみる潤んでいった。
「妹、……感謝……。そう、……そうだったの……」
ジーナは、カイルの胸で、声を立てずに泣いた。
悲しい涙だった。
心の中で、カイルも泣いていた。
「これで、良かったんだ」
そう言って、ユウの酒場では、カイルが、普段よりも強めの混合酒を、ガブッと一飲みした。
カウンターの隣に座るアッカスは俯き、目の前に置かれた、カイルと同じ酒を、飲まずに見つめたままだ。
「なんだか、切ないな。カイル、お前、本当は……」
「それ以上、言わないでくれ」
カイルが、静かに遮った。
「心の綺麗なあの子には、俺のような悪党は、似合わねぇんだよ。あの子には、そのうち、もっとずっといいヤツが現れて、そういうヤツと結ばれるべきなんだ」
「……カイル、……おい、カイルってば!」
肩を揺すられながら呼ばれた声で、ふと、カイルは顔を上げた。
テーブルの隣に座る、彼よりも若干年下である、童顔の青年を見て、カイルは、目をこすった。
「アッカス!? ……じゃなかった、なんだ、ケインか……」
ヒョン・カンを出てから現在、一緒に旅をしている青年傭兵を、カイルは、改めて見つめた。
つい今し方、ユウの酒場で飲んでいたつもりだったが、違う酒場にいるようだ。
なぜ、ここにいるのかは、すぐに思い出せた。
「そっか……、俺、今、寝てたのか……」
「ああ、ハッカイのくれた珍しい酒ってヤツを飲んでるうちに、寝ちゃってたぜ」
すぐ後ろのテーブルでは、浅黒い肌の東洋人魔道士ヴァルドリューズが、いつもの黒いフードを被り、魔道士が飲むのを許された、数少ない果実酒を口にしている。
その向かいでは、同じく東洋人の女戦士ラン・ファが、深刻な様子で話をしている。
そこへ、ちらちらと、小さな妖精ミュミュが飛んでいき、二人は、妖精を交えて、何か相談をしているようだ。
別の離れた丸テーブルでは、少女戦士マリスと、元巫女の少女クレアが、ケインの昔の傭兵仲間である夫婦と、楽しそうに話をしている。
「……今の俺なら、簡単に情に流されることはないし、ジーナに対しても、もうちょっと、傷付けない別れ方が出来たかも知れない。俺がガキだったばっかりに、二人を傷付けた……」
それだけが、心残りだ。
呷ろうと傾けた木のジョッキは、空になっていた。
つまらなそうに、ジョッキをテーブルに置くと、ハッカイがやってきて、そこへ並々と酒を注いでいった。
クレアの長く艶やかな黒髪を、肘を付いて眺めながら、カイルは、ぼうっとしたように呟いた。
「なあ、本当に、好きな子には、……なかなか、想いを伝えられないもんだな」
「あ? ……ああ、そうかもな」
よくはわかっていない様子で、相槌を打ったケインは、酒を一口飲むと、元傭兵仲間ハッカイの作った肉団子を頬張り、その美味しさに、無邪気に顔をほころばせていた。
ちらっと、カイルは、少女戦士マリスを見てから、そんなケインを、呆れたような横目で見た。
「お前、早く記憶取り戻せよ」
「は? 何言ってんだ? 俺は、記憶なくすほど、飲んでないって!」
笑い飛ばすケインをじろじろ見て、カイルは、「そーじゃねぇよ」と言いながら、残りの酒を呷ったのだった。