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Trick or Sweet 〜トリック・オア・スイート〜  作者: かがみ透
第四夜 『亡国の皇女』
13/16

亡国の皇女

「おお! おぬしが、我々に同行してくれるという用心棒殿であったか!」


 白髪頭と白い顎髭の家臣が、カイルを見て、感動と涙を浮かべた。


「良かった! これで、安心して、ヴィルフレド王国に行かれる!」


 野盗たちを追い払い、魔法剣によって魔物を消滅させることの出来るカイルを、老家臣たちは、崇めるようにして、頭を下げた。


 南国ヒョン・カンにある酒場の魔道士ユウから依頼を引き受けたカイルは、依頼内容を、頭の中で思い起こしていた。

 亡国の皇女を、親戚であるヴィルフレド王国まで送り届ける、という。

 いつもの、道案内兼用心棒である。


「姫様、どうぞ、ご安心くだされ」


 生き残った唯一のヴェナンツィオ皇国皇女イザベラは、口を引き結んだまま、にこりともせずに、カイルを見上げた。


「あんたが、皇女様かい? そんで、お隣のお嬢ちゃんは、妹君(いもうとぎみ)……ってワケねぇか」


 カイルが微笑を浮かべてイザベラを見てから、似ていない、皇女よりも小柄な少女を見た。


「わ、私なんて……! 滅相もございません、私は、イザベラ様の、ただの侍女にございます」


 カイルが、目を見張った。


「え、だって、まだ若いよねぇ?」


「は、はあ。十六です……」


「俺の一つ下かよ!? もっと下かと思ったぜ! ……にしても、皇女様の侍女って雰囲気じゃないよなぁ。ああ、そっか、侍女見習いか!」


「い、いえいえ、ホントに侍女です!」


「え、そうなの? ところで、お嬢ちゃん、名前は?」


「は、はい、……ジーナと申します」


 侍女ジーナが、大きな瞳に、思ったまま映し出すのを、まるで面白がるように、カイルは見ていた。


「私を忘れているかのように、侍女とばかり話し込むとは、良い度胸だな、用心棒」


 明らかに不機嫌な声に、カイルは、侍女の隣に腕組みをして立つ皇女に、視線を移動させた。

 イザベラは、いかにも不愉快な表情だ。

 カイルの目が、少しだけ鋭くなった。


「これは、これは、失礼致しました、皇女殿下」


 カイルの大袈裟な敬礼に、イザベラは、さらに苛立った。

 間を割るようにして、白髪頭の老家臣エドガルドが口を挟む。


「さっそくで、すみませぬが、用心棒殿、今夜、どこか、我々が宿泊出来そうな宿は、ありませぬかのう? 長旅で、その上、先ほどの野盗から逃げていて、姫様もわしらも、疲れ切っております」


「なるべく、安い宿で構いませぬ」


 老人たちは、一刻も早く休みたいと、口々に訴えた。


「いいよ、探してきてやるよ。ちなみに、宿代は、いくらまで払える?」


「それは、この先の道中も金はかかるでしょうから、安ければ安いほど良いのですが」


「わかった。交渉してくるぜ」


 老人たちは、カイルに礼の言葉を言いながら、頭を下げて見送った。

 ジーナも、深々と頭を下げている。

 イザベラは、腕を組んだまま、鋭い視線をカイルに向けたままだった。


 戻ってきたカイルが案内したのは、農家の家畜小屋や物置小屋だった。


「夕食付きで、寝るとこ付きだ。ご老人たちは家畜小屋で、侍女のお嬢ちゃんは、狭くて悪いが、そっちの農具をしまってある小屋で、皇女様は、その奥の小屋だ。干し草が多いから、ベッドみたいだろ?」


 にこやかにカイルが説明する最中、家臣たちとイザベラの表情が強張(こわば)っていく。


「あ、あのう、用心棒殿、……あれが、わしらの今夜の宿とは、どういうことかね?」


「さっき、おぬしに渡した金貨は、どうした?」


「ああ、つりを返すぜ」


 カイルが使ったのは、銅貨を少々で済んだので、ほとんどの硬貨が家臣たちの手元に戻った。


「あ、あのう……、もう少し使っても良かったのですぞ」


「そうじゃよ、わしらは、年寄りじゃ。せめて、ベッドで寝たい」


「宿に金かけてたんじゃ、すぐに資金はなくなっちまうぜ。干し草だって、案外、よく眠れるもんだぜ。この先、何が起きるかわかんねぇんだから、宿代くらいは浮かせないとな」


 カイルがウインクするが、老人たちは、どうしたものかと、顔を見合わせ、おろおろするばかりだった。


「まったく、だから、私は、得体の知れない下賤な者をあてにするなと言ったのだ」


 皇女の冷ややかな声が、おろおろする声を遮った。

 カイルの目が光った。


「ほう、だったら、皇女様、あんたは、どうやって、こいつら家臣たちを守っていくんだ? 確かに、俺は下賤の者だよ。だけど、あんたが皇女殿下だっていうんなら、家臣や侍女みたいな、あんたに仕える者を、どうやって養っていくんだ? もう皇国は亡くなっちまったんだろ?」


「そ、それは……、ヴィルフレド王国に着いたら、褒美をやる」


「それは、あんたの力じゃないだろう、相手の国の力だ」


 イザベラは、ぐっと唇をかみしめた。


「だって、私は、……私の国は、もう……」


「国がなくなったのを言い訳にするのか? 皇女だからって威張ってたのは、あんただぜ?」


「お前は、……いったい、私に、どうしろと言うのだ!?」


 イザベラの目は、うっすらと悔し涙を浮かべ、カイルをにらみつけた。

 それを、カイルは、冷めた目で見下ろす。


「契約時には、用心棒代は、ただでいいと、俺は言った。国もない、資金も乏しいだろう、困ってそうだから、金はいらないとは言った。無事ヴィルフレド王国まで送り届ければ、そこで褒美をくれるよう頼んでくれるという約束だった。だから、がめつい俺でも、了承した。だけど、世の中そんなに甘くはない。金はいらないが、あんたには、払ってもらいたいものがある」


 カイルがイザベラの腕を掴んだ。


「今夜は、俺もお前と同じ部屋に泊まる。意味は、わかっているな?」


 その場は、騒然となった。


「貴様、なんということを言うのだ!」

「無礼者め!」

「やはり、外道だったか!」

「うるせえ、黙れ!」


 老人たちを一喝し、カイルが、イザベラの腕を引き寄せた。

 カイルを見上げるイザベラの身体は強張(こわば)り、明らかに怯えていた。


「偉い口をきくんなら、行動にも現してみろ。出来るのかい、皇女様よ?」


「皇女様、そんな奴と口を利くまでもありません!」


「どうか、そのような者の言い草など、真に受けずに!」


「ああ、そうかよ。だいたいな、お前ら貴族たちは、根本的に考えが甘いんだよ。庶民はなぁ、金がなかったら、こうするしかないんだぜ。ヴィルフレド王国に着くまで、賊や危険に出くわさないとも限らねぇ。俺がいくら強くても、リスクが大き過ぎる。だったら、皇女様が俺の恋人になるのが早い。恋人だったら、俺も命をかけて守る。無償ってのは、そういうもんだ。わかったか?」


「何を堂々と……!」


「お前は、女が欲しいだけだろう!」


「誰が貴様なんぞの口車に乗るものか!」


「その様子だと、ヴィルフレド王国にも、報奨金のみならず、貴族の称号だとか、皇女様の夫の地位だとか、要求することになろう」


「なんと、人の弱味に付け込むとは! 貴様、それでも人間か!」


 頭に血が上る家臣たちから浴びせられる声に、カイルは、やれやれと、肩をすくめた。


「だったら、いいんだぜ、俺は下りても。あんたら、別の用心棒を探すか? ただし、道中、前金もなく無償でっていうんなら、俺と大して要求変わらないと思うぜ。いや、もっとひどいかもな」


 ぴたりと、怒号は止んだ。

 家臣たちは、ひそひそと話し合うと、白髪の家臣エドガルドが、おずおずと進み出て、静かな声で言った。


「あんたの言う通りかも知れん。だが、少々考えさせてくれ」


「ああ、いいぜ。前金払うか、皇女様が御身を差し出すか、結論が出たら教えてくれ」


 あっさりとそう返事をしたカイルは、皇女の寝室用に借りた小屋で、先に休むことにした。




「あ、あの……」


 カイルが寝転んでいる小屋を訪れたのは、皇女ではなく、侍女の方であった。


「……あれ? 皇女様じゃ……?」


 干し草の上で、カイルが身体を起こした。

 ジーナは両手を組み合わせ、深刻な面持ちで、小屋の扉を入ったところに立っていた。


「……あの、……あの……、イザベラ様だけは、どうかご勘弁を。そうお願いに来ました」


 カイルは、あんぐりと口を開き、ジーナを見上げた。

 顔面を蒼白にした少女の、おびえた小動物のような目には、涙が浮かんでいる。

 組んだ手も震えが止まらない。


「……それが、かなわないなら、せめて、私を……」


 ガタガタと足を震わせ、ジーナは俯いた。

 カイルが立ち上がり、近付いていく。

 彼が、ぽん、と細い肩に手を置いただけでも、ジーナの身体は一層震えた。


「あのじじいたちに、そう言われたのか? 皇女様の身代わり役を果たしてこい、と?」


 穏やかに尋ねたカイルだったが、ジーナの震えは止まらず、俯いたまま目を固く閉じた。


「まーったく、こんな幼い子に、こんな酷な役を押し付けるとは、いったい、どんな了見してんだよ、あのじじいたちは!」


 カイルの呆れた声に、ジーナが思わず目を開く。


「心配すんな、お前には、何もしねぇよ」


 ほっとした彼女の顔は、すぐに引き締まった。


「い、いいえ、そんなわけにはいきません。それでは、私が、エドガルド様方に怒られてしまいます! それに、用心棒を、引き受けて下さらないと、皆が困ります!」


「ふ〜ん、そっか。じゃあ、しょうがないな」


「え? あっ……!」


 カイルはジーナを軽々抱き上げた。


「軽いなー。ああ、体重が、だよ。お前を尻軽だって言ってんじゃないぜ」


 笑ってから、カイルは、改めてジーナを見つめた。


「どんなことするのか、じじいたちは教えてくれたか?」


「……え、……あ、はい」


「ホントかよ?」


「確か、ハダカになって、あちこち触られて……初めは痛いとか、だから、それを我慢しろとか……」


 よくはわかっていない顔で、ジーナが答えた。


「かーっ、何言ってんだか、あいつら! 全然なってないな! 俺の方が恥ずかしくなっちまうぜ!」


 苦虫を噛み潰した顔でそう言うカイルを、ジーナは目を丸くして見ていた。


 カイルは、干し草の、なるべく柔らかそうなところを選び、ジーナを寝かせた。

 彼女の身体を跨ぎ、真上から見下ろした。


「目は閉じてな」


「は、はい……!」


 胸の上で祈るように手を組み合わせ、ジーナは固く目を閉じた。

 カイルの唇が、柔らかく、彼女の額に触れる。

 頬に触れ、それから、唇に触れた。


 唇が離れてから、そうっと目を開けてみると、真上に、カイルの顔があった。

 思いの外、近かったので、ジーナの顔が赤らんだ。


「怖がらなくていい。もう終わったから」


「……え?」


「ジーナ……だっけ?」


「は、はい」


「お前の覚悟に免じて、今日は、これで良しとするよ」


「で、でも、用心棒は……!」


「引き受けるよ」


「えっ?」


「初めてだろ? キスしたの」


 ジーナの顔が、ますます赤く染まる。


「……は、はい」


「ジーナの大事なファーストキスに免じて、用心棒、引き受けてやるぜ」


「本当ですか!?」


 跳ね起きた彼女の表情からは緊張が解かれ、みるみる明るくなっていく。


「ありがとうございます! カイル様!」


 笑ってから、カイルが人差し指を立てる。


「おっと、俺のことは、カイルって呼び捨てでいいぜ。それから、どうだった? ファーストキスのご感想は?」


 はっとして、ジーナは、カイルを見直した。


「ええっと……よくわかりませんでした」


「なんだよ、やっぱ、お子様だなー」


 がっかりしたカイルは、「す、すみません。緊張していたもので……」と謝るジーナを見て、くすっと笑った。


「じゃあ、もう一回、していい?」


「えっ、えっ、……あの……」


 まごまごしているジーナを面白そうに見つめてから、カイルは口づけた。


 やさしい。

 嫌じゃない。

 彼女は、そう思った。


 ジーナの瞳は閉じられ、窓から差し込む月明かりが、無言の二人を照らしていた。




「よお」


 戸口にもたれかかったカイルの声で、干し草の合間で眠っていたイザベラは、目を覚ました。

 外は、薄明るくなったところだった。


「なっ、なにを……」


「侍女のジーナが、身を(てい)して、あんたを守ったってのに、その間、あんたや家臣たちは、ぐーぐー寝てるとは、ホント、たいしたご身分だぜ!」


 カイルが、ずかずか近付いていくと、イザベラは悲鳴を上げた。


「誰か! 誰かいないか!」


 カイルは構わず膝を立ててしゃがみ、イザベラの顎に手をかけ、自分の方へと無理矢理向かせた。

 イザベラが、再び悲鳴に近い声を上げた。


「姫様! どうかなさいましたか!?」


 家臣たちとジーナが駆けつけ、その光景に立ち止まった。


「俺がこわいか? ジーナだって、そうだったんだぜ。仔ウサギみてぇに怯えてた。だけど、彼女は、皆とお前を守ろうと、俺のところへ、覚悟してやってきた。


 だが、あんたはどうだ? 身代わりになってくれた彼女のことを、どう考えてたんだ? 侍女だから当然だ、と? 貴族じゃない者は、貴族の役に立って当然だ、とでも?


 その前に、同じ女として、可哀想な目に合わせてしまっただとか、こわかっただろうなとか、考えなかったのか? せめて、神に無事を祈るとか、申し訳なく思うだとか、そういう気持ちがあれば、よくは眠れなかったはずだぜ」


 はっとしたように、イザベラの目は見開かれた。


「貴様、それ以上、姫様を侮辱することは許さんぞ!」


 年寄りたちの上げる声よりも、カイルは声を張り上げた。


「『許さん』て、どうするつもりだよ? 悪いけど、あんたたちが束になってかかってきたところで、俺一人で充分返り討ちに出来るぜ?」


 家臣たちの顔は、一気に青ざめ、悔しそうに唸った。


「も、もういいのです!」


 ジーナが小屋に入り、イザベラの横に座った。


「私は私の勤めを果たしただけです。侍女の中でも、私はいつも役立たずでしたから、昨夜は、イザベラ様のお役に立てただけで、嬉しいのです。だから、カイル、私のことはいいから、どうか、イザベラ様のことも、皆さんのことも許して」


 「なぜ、わしらが許してもらわなくてはならんのだ!」と声を上げる家臣もいたが、カイルは仁王立ちになると、彼らを見下ろした。


「ジーナのファーストキスと、セカンドキスと、サードキス、その他モロモロに免じて、お前ら全員許してやるよ!」


「きゃあっ! なんてことを言うの! そんなに色々していないでしょ!」


 かあっと赤くなったジーナが、カイルを両手で押すが、非力な彼女では、彼をよろめかせることは出来なかった。

 カイルは、面白そうにニヤニヤ笑って、そんな彼女を見る。


「冗談だって! 一晩、隣で、ただ寝てただけで、何もしてねぇよ。俺んとこへ来たのが、皇女様だったとしても、もともと何もするつもりはなかった。ただ、ちゃんと覚悟があるのかを、見てみたかっただけだ」


「なんと……!」

「我々や、皇女様を試した、というのか!?」


 騒ぐ老人たちと、皇女を、カイルは一瞥した。


「ああ、そうだ。ちゃんと覚悟が出来てて、誠実なのは、ジーナだけだって、よくわかったぜ」


 老家臣たちは、顔を真っ赤にしてまたもや騒ぎ立て、イザベラの顔も、怒りと恥ずかしさで紅潮していた。




 道中、魔物や山賊に出会うことなく、町から町へ移動する。


 カイルはジーナをからかい、ジーナが顔を赤らめて言い返したり、人混みをよけようと、彼がジーナの肩を抱き寄せたり、端から見れば、まるで付き合い始めの恋人同士のように、初々しく映ったものだった。


 家臣たちの中には、二人を認める者もいた。可哀想な目に合わせてしまった哀れみの目というよりは、ジーナが明るく笑っているのを見て、安堵したようだった。


 カイルの方も、それ以来、イザベラや家臣たちに、何か要求することもなかった。


 返って、良かったのかも知れない。

 家臣たちの誰もが、そう思っている中で、イザベラの、カイルを見つめる視線だけが、徐々に険しくなっていった。


「私への当てつけか」


 ある時、いつものように、ジーナをからかうカイルを、イザベラが鋭い目で見つめた。


「何が?」


「最初の晩に、私がお前を拒んだことだ」


「えっ、俺、拒まれてたの? おかしいなぁ、俺は、別に、お姫さんを口説いたりしてないけど?」


 イザベラが、カッとなって、カイルをにらんだ。


「とぼけるのもいい加減にしろ! 私は、……私は……!」


 最後まで言わずに、イザベラは駆け出した。

 人混みをかき分けていく彼女の姿は、すぐに見えなくなった。


「カイル、お願い! イザベラ様を追って!」


 イザベラは人混みに紛れ、路地に入っていった。

 ジーナに頼まれたカイルが、すぐに後を追う。

 わけもわからず路地を曲がっていったイザベラは、偶然にも、盗賊たちのたむろする荒れ地へ、来てしまった。


「おっ? なんだ? きれいなカオの小娘じゃねぇか」


 盗賊たちは立ち上がると、町娘の服装であっても、どこか気品のある彼女の腕を掴んだ。


「や、やめろ! 触るな、無礼者ども!」


 そう言ってみたところで、盗賊たちは余計に目を輝かせ、ニヤニヤするばかりだ。


「生娘なら高く売れるぜ!」


「いいや、生娘じゃなくても、これだけの上玉なら、充分だぜ!」


「いやっ! やめて!」


 手首を引き寄せられ、賊に引っ張り回されていたイザベラが泣き叫ぶと、何かが、賊のひとりの顔面に当たった。

 跳ね返って石の地面に落ちたものは、軽い銀色の金属で出来た器で、盗賊たちが先ほどまで飲み食いしていたものだった。


「あちちちちち!」


 火にかけていた器の底を顔で受けた賊は、イザベラの腕を離し、飛び跳ねていた。

 火を取り囲んで座っていた賊たちも、スープを混ぜていた柄杓(ひしゃく)をひったくられ、熱いスープを引っかけられたり、次々と殴られ、蹴られたりして、その場から逃げ出した。


 イザベラが、信じられない顔で、それをやってのけたカイルを見つめた。


「あんな奴ら、俺の魔法剣を使うまでもなかったな」


 いたずらっ子のように笑ってから、カイルは、改めてイザベラを見て、微笑んだ。


「大丈夫だったか? 何もされなかったか?」


 答える代わりに、涙を浮かべたイザベラは、カイルに飛びついた。


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