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第七話 「邂逅Ⅳ」

「ようこそ私の庭へ。神に見捨てられた者たちよ」


はてさて久しぶりの人間さんですよ。

しかしやっぱりもう人間を見ても同族という認識が持てないなぁ。

近くて遠い存在ってところが一番しっくりくるか。

まあそれは向こうからしても同じだろうけど。

さて今の俺はどう映っている?


「こ、この度は私どもを助けて頂いたこと心からお礼申し上げます。

女神様の慈悲が無ければ私どもは今頃魔族どもに嬲り殺されていたでしょう」


………………女神って言った? ねえ言った? 言ったよね?

なぜ女神? どちらかと言えば魔女とか魔王とかだと思うんだけどな。


…………ああ、セレナ君か。あいつめ自分が戦乙女ヴァルキリーだと喋ったな。

だからその主である俺が神か。

一応納得は言ったが、さすがにその呼び名は気色が悪すぎる。


「……別に私が助けたことは気にしなくて構わんが、その女神様というのは止めてくれ」


「も、申し訳ありません! で、では何と御呼びすればよろしいでしょうか?」


別に畏怖するのは構わんが敬うのだけは止めてくれ。

そういうのが嫌で引き籠ってたってのもあるんだから。


「私の名はロゼ。ロゼ・ブッシュミルズと言う。

どうせ呼ぶならこちらの名前で呼んでくれ」


ちなみにロゼはロゼワインから、ブッシュミルズはアイリッシュウィスキーから取った名前だったり。

ワインが好きです。

でもウィスキーはもーっと好きです。

だというのにこの世界には碌な酒が無いんだよ。

基本的にあるのはワインとエールだったりするが、正直泥水にアルコールをぶっ込んだのかと思うほどに不味かった。

だから世界さんに相談したら俺の能力って生きてる生物以外なら何でも創り出せたりするんだと。

早速それを聞いて自分で原料創り出し酒造しようとしたら世界さん更に一言。

大聖堂創った時と同じ要領で銘柄指定で創り出せますだって。

もうね、狂喜乱舞。ほんと。

古今東西の酒を広間中に創り出して並べた時はこの能力を持って初めて幸せを感じたね。


「畏まりました」


「してお前の名前は何と言う?」


酒のことは取り敢えず置いて話しを進めんと。

まずは名前の交換が基本でしょ。


「私はウィンダム皇国皇女アリア・ウィンダムとお申します」


「ふむ……皇女か……」


皇女って……皇女って……。

ようは国のトップではないですか。

それなりの人間だとは思ったけどまさか皇族とはね。

けれど凄い年若い皇だな。

見た感じ十四、五ってところじゃないか?


「それで? その皇女が何故こんなところをうろついておる?」


しかし、いかに年若くとも皇女が最初に逃げ出しちゃ不味いんでないの?


「私の国に対して三日前に北方山脈から万を超える魔族が進行をしてきました。

しかし既に皇国にはその魔族に対抗できるだけの力も無く。

僅か一日で北部砦が落とされ、このままでは皇都まで落とされてしまうでしょう。ですので私は、生き残るべく皇都を後にし南部砦を目指しました。ですが、その途中で魔族に襲われてしまい、気が付けばあの場所まで追い込まれてしまったところをセレナ様に助けて頂いたというわけです」


「ふむ……」


何とな。

確かに言っていることは至極簡単だ。

都が落ちそうになったから逃げだした。


「なるほどな。確かにそれは大変であったろう。心からの同情をしよう。

しかしそれだけではお前があそこに居た理由にはなって居ないではないか。 

何故お前はその皇都を見捨ててあそこに居たのだ。未だ民達は国に居るのだろう。

そして魔族が今もなお皇都に押し寄せているのだろう? 何故お前達だけがあそこに居たのだ?」


別に自己保身に走るならばそれも悪くは無いと思う。

俺だって自堕落者なのだから。

けれど、見た感じそういう愚鈍な皇というわけではなさそうだよな。


「ああ、なるほど。民達を囮にしてお前だけ逃げて来たというわけか」


「っ!!」


ならば煽ってやれば本心を言えるだろ。

それを知ったところで何がどうなるわけではないだろうが。

わざわざ気紛れだろうと席を用意したのだ。

上辺だけの会話では勿体ないだろ。


「……っ! それでも。それでも私は皇女ですから。

幾多の人間に罵られようと生き残らなければならないのです。

大勢の人間の屍を踏み越えてでも生き残る道を選ぶんです。

そして何時の日か死んでいった国の者たちの思いを背負い魔族どもに反旗を翻えす為に今はそれがどれだけ非道であろうとも逃げ出すしか……なかったんです! 」


まさに心からの叫びといった感じだな。

確かにその言葉に嘘な無さそうだ。

なるほど、それがこの世界で皇と呼ばれる者の生き方か。


「なるほど。なるほどな。何ともご立派な生き方をしてるではないか。

だが皇とは何とも義務多い生き物なのだな。民の為に国の為にか。

死に場所すら選べず怨恨を受けてなお生き延びようとするか。まるで国の奴隷ではないか」


「国の奴隷……ですか」


「そうだ。皇族という血の呪いに縛られ国の為にその命の限り懸けて生きていかねばなんのだろう?

お前には同情するよ。だから一つ提案をしてやろう。この屋敷に住む許可をやろう。

衣食も全て私が提供しよう。魔獣からの脅威を心配する必要もなくなるだろう。

死ぬまで此処ならば安寧に暮らせるだろう。悪くない提案であろう?」


確かに皇様が皇様らしくやれるのなんて栄えている国だけだもんな。

そうでない弱小国家や滅びかけている国の皇なんて、ひたすら自己保身に走るかアリアの様に己の身を国に捧げるしかないか。

まあ考えてみればそれは前の世界でも同じことが言えるか。


「ただし、ここに住めるのはお前だけだアリア。他の者には退場して貰う。

さらに私は外の国がどうなろうと知ったことではない。滅びると言うのなら勝手に滅びてしまうと良い」


「っ!」


だから一応救済案を出してみたり。

まあ救済というよりもまんま悪魔の契約と言ったところだけど。


「皆を助けて頂くわけにはいかないのでしょうか?」


「何故私がそのような面倒事をせねばならん」


一切譲歩なんてしませんよ。

恵みを与えてやるような存在ではないからな俺は。


「さあ選べ。皇として奴隷のような人生を生きていくか。此処で一人の女性として安寧の生活をするか」


まあ答えなんて聞かずとも一つだろうけど。

決してアリアは愚劣な皇ではないだろうから。


「私はウィンダム皇国皇女アリアです。今更それ以外の人生を歩むつもりなどありません」


「……そうか。ならば好きにすると良い」


なればこそ、このような怠惰な世界に留まり続けることもない。

人間の世界へと帰ると良い。


まあ俺にとっても悪くない時間ではあったな。

改めて俺が人間とは違うという認識も持てたし。

この世界における皇族の生き方も知れたしな。

ゆえにこれ以上の時間は折角有意義であった会話を汚すというものかな。


「お待ちくださいロゼ様」


「……なんだ?」


と思って席を立とうとしたらアリアから声を懸けてきた。


「ロゼ様にお願いしたいことが御座います」


「私の提案は拒否しておいて新たに願い事をするか。まぁ良い言ってみろ」


俺がどういった性格であるかを今までの会話から理解できる程度には聡明であろうに。

これだけ煽ったのにそれでも願いを口にするか。

というよりいくら戦乙女ヴァルキリーが居たとしても、魔の森に居城している魔王だと思われるほうがまだ納得がいくんだけどな。


「私の国をどうか救って頂きたいのです」


「…………」


……そりゃ皇女的には、どうあろうとも何とかしたい願いではあるだろう。

けれど、これだけ歪んだ奴にそれを願うのか。

俺は決して人間の味方でもなければ、守護者でもないのだぞ。

もしかすれば、人間に更なる災厄をもたらす存在かもしれぬのに。

何か全身から邪気とか出てそうだし。


「厚顔にも恐れ多い願いを口にしている自覚はあります。それでも口にさせて頂きます。

どうか。どうか私の国を、私の民を救ってください」


しかし、本当に豪胆な奴だな。

後ろに居るセレナ君なんかさっきからかなりのプレッシャーをかけてるみたいだし。

それでもなお微動だにしないか。

周りの従者なんて顔を青ざめて気を失う寸前であろうに。


「それで、私がお前の国を救ったとして私に何か意味があのるか?」


「分かりません……貴方様が私の国を救ってくださったとしても、貴方様には何一つ意味が無いのかも知れません。ですが、その御恩は決して忘れません。未来永劫貴方様を国中で敬いましょう。私たちに出来ることでした、どのような形であれ貴方様に御恩をお返ししましょう。

それこそ私の身を望むのであればこの血の一滴に至るまで貴方様に捧げましょう」


……だから、敬わんで良いと言うのに。

しかし本当に良くこれだけのことが言えるよな。


「分からんな…………何故そこまで国の奴隷であろうとする? 何がそこまでお前を掻き立てる?

せめてその理由を言うと良い。その理由によっては考えてやろうではないか」


だからせめて理由ぐらいは聞こう。

自らの保身ではなく、こんな奴に身を捧げてまで国を救おうとするのかを。

それが皇の義務だとでも言うか?


「私は私が生まれた国が好きなんです」


……………………


「私はそこに住む人々が好きなんです」


……………………


「だから私はその国の皇であることが嬉しいんです」


……………………


「好きな国の好きな人達の為に生きれることが嬉しいんです」


……………………


「だから例えそれが奴隷のような人生であったとして」


……………………


「私は私の国に住む民達が笑って過ごせる日々を創れるのなら」


……………………


「それだけで幸せなんです」


……………………


「…………心が動かされるほどの理由ではないな」


……………………


「だが…………何も感じぬほどつまらない言葉でも無かったな」


…………本当に心が動かされるような大層な言葉ではない。

元々が自堕落者なのだ。

この程度で、心が動くような人間ではなかった。

だから百年も引き籠っていたのだ。

けれど、何といえば良いのだかろうか。

ああ……そう。

敢えて言うのなら俺はこの世界の人間を舐め過ぎていたか。

魔族というこの世界の欠陥により生み出された物に滅ぼされる存在としか思っていなかったのだろう。

神に見捨てられようとも、これほどまでに真っ直ぐ育つものなのだな。


「あ、あの。そ、それでは!」


「そこまで言うのならよほど自慢の国なのだろう? しばし興味が湧いたのでな、魔族どもに滅ぼさせるのは勿体無いであろう?」


まあいい加減引き籠っているのに飽きてきたのも事実だしな。

彼女がそこまで好きだと言う都を一度は見に行くのも一興というものか。


「あ、あ、ありがとうございます!」


気が付けばアリアが涙を流して頭を下げてくる。

全く気の早い人なこって。

まだ俺の力を何一つ見せて居ないと言うのに、

なんでこの人はこんなに俺のことを信じられるんだろうね。


「まだ救えたわけではないのだ、泣くのは少し早いぞ」


彼女の傍まで行き、ついでだから涙を拭ってやる。


「あ、え、えと、その」


「ククッ」


…………凛とした少女が慌てふためくのは悪くないとか思ってない。

これはこれでそそるかもしれんとか思ってない。

だから俺はロリコンなどでは決してないぞ。

ってこらセレナ君、そんな恨めしそうな顔でこっちを見るんじゃない。


「セレナ。私はアリアと共に皇都へと行ってくる。

お前も此処に居る他の者たちと共に後から来ると良い」


「畏まりました。ですがロゼ様。どうかご用心ください」


「ふん。私が魔族どもに後れを取るとでも思っているのか?」


「いいえそうではありません。

どうか勢い余って皇都まで滅ぼさないようお気を付けくださいと言っているのです」


「…………善処しよう」


クソッ。アリアをからかったせいでセレナ君の機嫌が悪くなってしまった。

だいたい嫌味を言う時は機嫌が悪い時なんだよな。

なんでこの人は戦乙女ヴァルキリーだってのにこうも俗っぽいのかね。


「と、ところでロゼ様。どうやって皇都まで向かうのでしょう。

既に馬車も壊されてしまい道中の手段が……」


俺がセレナ君との会話を繰り広げているとアリアがそう言ってきた。

舐めてもらっちゃあ困るな。

俺にはすっごい便利な従者が居るんだよ。


「ふん。舐めるなよ小娘。その程度のことも私が出来ないとでも思っているのか」


嘗てセレナ君と同じように俺の存在に釣られてやってきたという神竜という巨大な白竜。

でもこっちは、セレナ君と違って初めから友好的な訳でななかった。

儂よりも上位の存在など認めぬとか何とか言って突然襲ってきやがった。

一応何だかんだで勝ったんだけど、そうしたら今度は儂を従者にしてくれと言ってきた。

それで良いのか神竜よ。

今では指を鳴らすと何処にでもやってくる忠犬っぷりだよ。

だから俺の中では通称シロ君。白い忠犬だからシロ君。

一度だけ本人の前でそう言ったら烈火のごとく怒りだしたから二度と言わないけどさ。


「こ、これは……」


「私の従者である神竜ヴェルディウェルだ」


恰好良いだろ?


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