第六話 「邂逅Ⅲ」
気が付けばこの世界に生まれて百年以上が経ってる。
その間何をしていたって、平すらこの森で引き籠りだったんだけどさ。
それでも色々あったような気もするけど、それでも特筆すべきと言ったほどの出来事はなかったような気はする。
まぁアホみたいな力を持ってアホみたいな連中とばかり戯れてきたから大分価値観がぶっ飛んできてるだろうから、人間感覚で言えばやはり色々あったのだろう。
「ロゼ様。また御髪が乱れていますよ」
そう言って当たり前のように寝起きである俺の髪を梳いているのは、戦乙女のセレナ君。
何やら遠い土地に居たらしいが、俺の存在を魂が感じ取ったらしく惹かれてやってきたらしい。
戦乙女ホイホイとかこえーよと思ったが、今では身の回りの世話を全てやってくれるので、居てくれないと大変困る。
どんどん駄目人間街道を突っ走ってるような気もするが、もともとが自堕落な生活がしたくて引き籠っていたのだから何も問題は無いと自己完結。
「毎朝梳かれるのもいい加減鬱陶しくなってきたな。いっそバッサリ切ってしまうか」
「何を言っているのですか。ロゼ様の御髪は如何なる絹よりも美しいのですよ。
それを切るなど例え神が許そうとも私が許しません」
そう言って勇ましげに俺の髪を守ろうとするセレナ君。神に反逆してまで守ろうとせんでよろしいわ。
てかあんた神の使いでしょうが。
「はい出来ました。今日も大変美しくあらせられますよ」
俺の世話が終わったのか満足げにしているセレナ君をよそに俺は世界さんに声を懸ける。
世界さん。世界さん。今日は何か面白いこと起きてる?
『先日の北方山脈から進行した魔族が皇都に到着しかけているようですね』
この地上のことなら何でも知ってる世界さんはどんな新聞よりも役に立ってくれたり。
さらに最近はだいぶ人格が人間っぽくなってきてるのも素晴らしい。
てかついに皇都も落ちるのか。何だかんだこの百年もってたのにな。
良くもったと言うべきかな。それも今日明日で終わりか。
まぁ所詮は名前しか知らぬ皇国に興味なんて無いんだけどさ。
「む。ロゼ様。この森に近づいてくる者たちが居るようです」
『おや。どうやらこの森に近づいてくる人間が居ますね』
超高性能生物探知機のセレナ君と世界さんがそう言ってきた。
てか世界さんよりも先に言うっていくら幻想種でも高性能すぎるでしょセレナ君は。
「ふむ。人間のみか?」
「はい。人間が五十名ほどですね。どうやら魔族に襲われて逃げてきたのかと」
「なるほど……」
なるほど皇都から逃げて来てその途中で魔族と遭遇したというわけか。
何とも運の悪い連中だな。
「ふむ……セレナ。悪いがひとっ走り行ってきてその人間たちを助けてきてくれないか?
ついでに助かった人間たちはこの屋敷へと招待してくれ」
「………………よろしいのですか?」
セレナ君が大変驚いた様にこちらを見てくる。
それれもそうだ。
此処百年の間、一切人間たちとの繋がりを結ぼうとしなかった俺が、急に人間を助けて来てさらには屋敷へと招待しろ等と言えば驚くに決まっているか。
「なに、ただの気紛れだよ。故郷を魔族に追われ、さらには追われた先でも魔族に襲われる人間たちの気分を聞いてみたいと思っただけさ」
俺がそう言うと、何故かセレナ君は極上のワインを口に含んだような顔でこちらを見てきた。
なんでそんなにウットリとした顔をしてんだよ。
というか俺がこんな言い回しをするようになったのはあんたのせいでしょうが。
元々は普通の人間だったころと同じ口調だったのに、セレナ君にそのような話し方は貴方には似合わないとか何とか言われ矯正された結果でしょうに。
というかセレナ君に限らず何で幻想種や古代種と呼ばれる奴らは偉そうな話し方を好むのかね。
そんな奴らとばかり話してるから俺の価値観が狂ってきてしまうんだよ。
「畏まりました。我が主の仰せのままに」
そう言うとセレナ君は白銀の鎧を身に着け颯爽と屋敷を後にしていった。
あの忠誠心は良いが、やはり何処か変態的だよなセレナ君は。
戦乙女ってもっと高潔純潔な生き物じゃないのか。
『神代のころから彼女達はあんな感じでしたよ』
ああそうですか。というかやっぱり世界さんとの会話が一番落ち着くよ。
『ですから人間の友人を作ってみてはとあれほど言ったんですよ』
もう人間さんとお付き合い出来る価値観を持ち合わせて居ないので無理ではないかと。
……しかし何かだんだんと俺の母親みたいになってきてるよな世界さん。
まぁ俺の肉体を創ったという意味では母親みたいなものではあるが。
『私には性別など存在しませんよ』
それは何度も言われてるけどさ。その雰囲気で男ってのはなくね?
『元々この人格は貴方と接続されたことにより出来上がったものですから、私からは何とも言えません』
……ということは俺の影響でその人格が出来上がったってことだよな。
魂はロリっ娘でさらには母親願望まであるとかどんだけ危ない奴なんだよ俺は。
そうして世界さんとのいつものように談笑を続けているとセレナ君が帰ってくる気配がしてきた。
流石に早いな。
まぁセレナ君にかかれば魔族の百体や二百体程度では相手にすらならないだろうけど。
元々が戦うことに特化された生物だからな彼女は。
剣技であろうと魔術であろうと戦闘に関して彼女にかなう奴は幻想種や古代種まで含めてもそう多くはないだろう。
ふむ、どうやらこの屋敷に近づいたところで立ち止まっているな。
まぁ初めてこの建物を見たのなら呆けてしまうのも仕方ないか。
初めて造ったときから既に本物を超える出来であったが、さらにこの百年の間に何度も何度も改装を重ねたのだ。
もはや、本物とは比べられないほどまでに荘厳で艶やかな建物になっている。
あのセレナ君ですら初めて見たときは呆けてしまっていたのだ。
この世界の人間が見れば、立ち止まり呆然とするのも無理ない話だろう。
さて久方ぶりの客人だ。
魔の森に住み着く今の俺は人間たちにはどう映るか。
魔王か悪魔かそれともはたまた……。
いい加減退屈していたのも事実なのだ。
是非ともお互いに有意義な時間にしようではないか。
どうやら扉を開けたか。
後僅かもすればこの広間へと到着するだろう。
では何と言って迎え入れようか。
この屋敷へと入る最初の人間なのだ。
それでは最高の言葉を持って歓待しようではないか。
「ようこそ私の庭へ。神に見捨てられた者たちよ」