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第十四話 「覚醒」

久方ぶりのロゼ様視点

「………………ふぅ」


溜息をつくなんぞ何年ぶりだ? いやむしろ何十年ぶりか……?

というより、この体になってから溜息なんぞついたことあったかという話にもなるくらいに……。


「……如何なさいました?」


場所は皇宮の中庭。最近俺が気にっている池の畔にて、式典の翌日に皇宮へとやってきたセレナが、俺の髪を梳きながらに問うてくる。

些か心配げなのは俺の気のせいではあるまい。

というかそれもそうだ。

彼女の前で初めて溜息なんぞをついたのだから。

しかし別にそれは何かを憂いたからという訳ではないが故に。


「……いや、何でもない。気にするな」


「……はい」


俺がそう言うと、彼女はそのまま黙って髪を梳き続ける。

というか、本当に好きだね。

俺の髪を梳くの。

まぁ、自分ではやらないから別に構わないんだけどね。


そしてそんなことを思いながらも、思考は別の方向へと向け続ける。

考えるのは昨日の式典。

別に俺が話した内容自体はどうだって良い。

気紛れに俺が起こした行動が原因とは言え、自身が神に由来する名で呼ばれるのが気に入らなかったが為の演説。

ついでにこの世界のあり様も教えてやったのは……まぁそれも気紛れのようなものか。

ゆえにそれ自体に何の問題もありはしないのだが……。

あるとすればその後か……。


まぁ、別に何が問題というわけではないのだが……。

強いて言うなら……誤算。あるいは想定の範囲外か。

何やら政治家の言い訳のようだと……そう思わんでもないのだがな。


まぁ、それが言い訳だと自覚している時点で……という話でもあるのだが。


結局のところ最後に俺がやろうとしかことも気紛れと言えば気紛れであった。

威勢が良かった割にあの程度と言ってしまえば、あの程度の言葉と光景を見た程度で余りに悲嘆に暮れる連中への餞別……のつもりであったのだがな。

いや……。それこそ俺自身に対する言い訳か。

ただ死への餞別ならばあんなものを用意するまでも無かったのだから。

ただの鉄剣を造りだせば済んだものをわざわざ造りだし物は、剣の形をした全くの別物。

高位階物質の具現化。あるいはエネルギー体の物質化とも呼べるそれ。

そんなもので人の体を突き刺せば、人の位階では耐えられるはずもなく。文字通りに魂ごとの消滅。

人の体などミクロ単位ですら残らぬ完全消滅。

わざわざそんなものを用意した意味は……。


俺は自分ですら気づかぬうちに試していたのか。

この世界に住む存在そのものを。

それはあの日、気紛れを起こした日から続く連鎖のように。

この世界の人間と触れた時から感じる……それに。

それは別に、この死にゆく世界に住む人類の覚悟だとか決意だとかそんな話ではなく。

それよりもっと別の。あるいは根源的なそれに。

それが故のあの行動か。


それこまで考え、ふと俺は髪を未だ梳き続けるセレナにちらりと目を向ける。

そこに居るのはあり得ないほどに真剣な顔をしながら櫛を動かし続ける戦乙女(ヴァルキリー

やっている事はともかくとして、存在としては彼女は完成された存在である。

それはある種の造形品。

そう……嘗て、遥か昔に神自らによって造られた造形品。

自らの意志をもって動くことのできる美術品のような存在が彼女である。

それは俺が移動に使う神龍ヴェルディウェルもまた同義。

まぁ……彼の場合は些か系譜が異なるが故に神の一字を持ってはいるが、それでも彼もまた戦乙女と同じく神によって作られた造形品。

だからこそこの世界に生まれ落ち、この世界に生き、この世界で死にゆく存在とは明確に違う存在である。


それは格の違いとも言える。

位階の違い。

文字通りに住む世界の違いとも言えるソレ。

この体になってから感じるそれは明確なまでの違い。

魂とは概念としてのそれではなく、この世界に存在しうる肉体などよりもなお明確に形として存在する。

故に肉体は例え同じ場所にあろうとも、魂としての場所は明確なまでの住み分けが行われているからこその位階の違い。アルトラル界による違い……はまた別の話か。

まぁとにかく、それこそが神の造形品たる彼らと人との明確な違い。

違いである……はずだったのだけど……な。


哺乳綱霊長目類人猿化。それが嘗ての世界における生物としての人類の分類であったのだけれど。

それはこの世界においてもまた、同じことであるという……無意識なまでの思い込み。

人類は世界を変えようとも同じ人類であるというその考え方は……さて、そこんとこどうなのさ?


検索リサーチ不可。私の認識を超越している為その質問には答えられません』


返ってきたのは無機質なまでの声。

ここ数年見せてきたのような感情を一切排除した機械的な返答は……出会った頃を彷彿とさせる。

それは稀にある現象。

世界と呼ばれる存在が知り得ぬ事象に対面した時に見せるもの。

いや……それはあるいえは知り得ることを――という疑念。


まぁ、そのような疑念疑問など遥か昔から持ち得ていたけれど、俺はそれら全てを無視をすることにしてきた。

俺はどこまでいこうとも、この世界においては傍観者でありこの世界とは隔絶した存在であるからこそこの世界が何であろうと、この世界に住む者たちが何であろうとも、この世界がどうなろうとも須らくどうでもよかった。

いや……むしろそうあろうとするが為の引き籠りであったのだけれど――。


始まりは気紛れか。あるいはもっと別の――。

しかしそれがどのようなものであろうとも、俺は確かにソレに触れた。

この世界とも呼べる存在すら内包する俺ですら理解の範疇の外にあるソレに。

触れた瞬間に今まで感じてきた疑念に火が着くように。

あるいはそのまま燃え広がりこの身にまでその火が燃え移るかのように。



「……ロゼ様」



そんな思考の底に入っていた俺を呼ぶ声が耳に届く。

首だけをそちらへ向ければ、そこに居るのは一人の少女。

昨日俺が皇宮へと連れてきた少女……フレシアが俺のすぐそばまで寄ってきた。



「……ふむ。まあまあ見れるようになったではないか」



拾ってきた時は、体全てが黒く薄汚れごみ溜めから這い出てきたような出で立ちであったのだが。

今は皇宮の人間から世話を受けたのか、くすんでいた髪は、汚れを全て洗い流した為にそれが元来の色なのであろう金髪へとなっている。

無造作に伸びていた髪を肩口の辺りで切り揃え、微かに風にその金髪を揺らめかしながら皇宮の人間から貸し与えられたのであろう白いローブを纏う姿は、昨日浮浪街から拾ってきた少女とは誰も思わないであろう程度には見れるようになっている。



「……ありがとうございます」



そして俺の言葉を聞いて頬を赤く染めながらに慎ましく礼を言う姿は、皇宮に住まう子女のようでもあるのだが――。

この少女がただの少女では無いということを、俺はこの世界の誰よりも知っている。

彼女が行った事象は、あるいは一つの奇跡のようなもの。


魂の改編とも言えるそれ。あるいは位階の格上げか。


魂による格付け。

それは創造者と非創造者。あるいは神と神によって造られた存在の差を表すもの。

神という完成された存在。神によって完成形を造られた戦乙女ヴァルキリーのそうな存在。そして存在としては形を保つのが精一杯ともいえる人。

世界に明確に存在する魂の序列こそがそれぞれを分ける境界線。

そして魂とはどこまでいこうとも普遍であるからこそ、その差は未来永劫埋まることのない絶対的な差として存在する――はずであるのだけれど――。


彼女が行ったことはその根本原理を崩さりさったもの。

決して変わらないはずであろうそれを、けれど彼女は明確に飛び越えた。

俺という存在の概念の一部をその体に内包することにより成し得た一つの奇跡にも等しいそれ。

文字通りに人が神に近づく所業。

この時点でフレシアという存在は人を超えているようで、しかし彼女はどこまでも人である。

人でありながらに人を超えると言う矛盾にも等しい奇跡の発露。



だけれども……世界には奇跡などは存在しえない。

そのような曖昧なものを許すほど世界の定義は甘くない。

根源的な概念として位置付けられたそれを変えるそれを、概念世界でも無いこの世界で行うのはやはり不可能だ。


ならばそれは、彼女に起きた事象は魂の改編は似て異なるもの。

魂の改編ではなく、それは概念の吸収。

変えたのではなく新たなに取り込み格を上げた。

一に位置する存在が三に位置する存在を取込むことによる格上げ。

そんな聞けば思わず失笑しそうになるほどの無茶苦茶ともいえる理屈。

そして人でありながらも人を超えるという矛盾。

そんな無茶な理屈も矛盾も――。

されども――この世界の人類ならば――という、今まで蓋をしてきた疑念に、ここにそれは火は着き――そして確信へと至る。


そもそもこの世界の人類は、それを内包できるだけの余分を初めから持ち合わせていたという――確信。


それはまさに俺という存在にも繋がる道であり、ここに俺という存在が生まれた意味でもあるからこそ――。



――――面白い。



思わずに俺は口角を上げる。俺は自分でも分かるほどに深い笑みを浮かべながらに心の中で呟く。



俺は誰よりもこの身を縛られることを嫌うが故に。

だからこそ、誰かが敷いたように感じる路線に乗るつもりなどなかった。

世界の根源に触れようとすれば、必ずそれにも触れることになるだろうからこそ。

だからこそ世界の果てで引き篭もり、何もせず何も変えずにこの世界の終焉まで見届けようと思っていたのだけれど。


だがしかし、始まりは気紛れに。

始めての人類との邂逅。しかしそこからは気紛れという想いに紛れた別の思惑も混じりながらも。

しかし他者に乞われるがままに行ってきた一時の暇つぶしのようなそれも――ここで終わる。


一度触れた以上は再び何も見ず聞かずに引き籠る気など、起きぬほどにそれは面白いと思うからこそ。


ここからは自主的に。傍観者であることを終える。

俺が手に触れ、俺が変える。

その先に待ち受けるものが、俺であろうとも分からぬからこそ。

思わず感じる嘗て誰かが敷いたかのような路線も、それすらも凌駕して明確の意図を持ち根源へと手を伸ばすかのように。

いや、この場合は根源に触れる手伝いか。あるいは根源をこちらの世界に引きずり出すことか――。


まぁ……何だって良い――。


とりあえず、ここからは――。


「さて、フレシア。お前に訓練をつけてやるからと呼んだはずだが――準備は整ったか?」


「……はい。ロゼ様」



――――世界で遊ぶとしようか。

















世界の謎っぽいお話。

しかし、こういう話を書いていくと矛盾点やらそもそもの考察不足やらあれやこれやがボロボロと出てこないと良いなぁ……でも出るんだろうなぁって感じではありますけれども、また読んで頂けると幸いです。

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