第十三話 「式典Ⅳ」
名も無き少女視点。
世界は醜い……。
世界にはいつだって血と臓物で溢れていた。
魔族という名の理不尽なまでの暴力に。
それに相対する人の余りの脆弱さの為に。
父と呼べる存在を私は知らない。
私が生まれて来る前に魔族との戦いにおいて命を落としたらしい。
母と呼べる存在を私は知っているけれど、でももうその人もこの世に居はしない。
私と母がその日を生きていくため為に、私を街に残し街の外にある薬草を取りに行った所で魔族に襲われたらしい。
後に残ったのは、共に行った人が持ち帰ってきた血と臓物で穢れた母の衣服のみであった。
世界は醜い……。
それから先は、ただ死んでいないから生きてきたに過ぎないのだと……思う。
私と同じような境遇の子供たちで寄り添いながら、何とかその日生きていくだけの食料を集め、食べて、寝て、そしてまたその日生きていくだけの食料を集めていく。
世界に希望も無ければ、生きていくだけの理由もないが、強いて死ぬだけの理由もないが為に気が付けばそのまま生き続けてしまっただけなのだけれど。
世界は醜い……。
「いつかきっと、神様が助けてくれますよ」
そんなことを言っていのは……誰であったろうか。
たまに私達に食料を配っていた皇宮に住む人だったか。
いや、教会に住まう神父と呼ばれる人だったか。
あるいは私と同じような境遇の子の誰かだったか。
それともそれら全員であったか。
まぁ、結局それを誰が言ったのかなど関係ないのだけれど。
私はその言葉が反吐がでそうになるほどに嫌いであった。
神。この世界を造った呼ばれる創造神。
そこに住まう者たちを教え導いてきたと呼ばれる絶対神。
そんな神に対する祈り。願い。
だけれど、そんなことを口にしながらも、それを本気で思って居る人は一体どれだけいるのだろうか。
神と呼ばれるような存在が嘗て存在していたとしてしても、もはやそんな存在は御伽噺の中でしか会うことのできないなんてことは、一切の学のない国の端でただ生きながらえているような私ですら知っていることなのに。
私なんかより遥かに頭の良い人たちは本当に神様が私達を助けてくれると信じているのだろうかという……想い。
世界は醜い……。
そもそも世界はこんなにも汚いのに。
血と臓物に溢れた世界に、それを造りだすだけの存在に溢れた世界。
そんな世界を造りあげた存在が……神が、私達を助けてくたりするのだろうか。
むしろ……むしろ、この世界こそが――こんな世界こそが神の望んだ世界なのではないだろうかという……諦念。
だけど、そんなことよりも。
そんな諦めような想いなんかよりもずっと私が神に縋る言葉が嫌いなのは、そんな世界においてなお神に縋る言葉を吐かなければ生きていけないことか。
汚水のような水を飲むのに。
黒く腐ったようなパンを食べるのにも。
それでも、そんなものでも手に入れるには神への感謝を吐きながら神へ仕えるという人間から受け取らなければならないという現実。
私が神を嫌うのはそんな自らの脆弱さ故か。
こんな世界でも……こんな世界だからそ、こんな世界を造った神に縋らなければ生きていけない人間の弱さ故か。
世界は醜い……。
あぁ……だけど……。
そんな世界も終わりが近づく。
「ああぁあぁぁ! あ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛!!」
世界に悲鳴と絶叫が響く。
魔族による皇都への大侵攻。
嘗てないほどの魔族による侵略が始まったらしい。
神への祈りを口にしながら悲壮な顔をしながらも戦いに出た大人たちは……防壁の外より聞こえる、虐殺音からこの世界に広がる血と臓物の一部へと成り果てていったいるのが分かる。
未だ防壁を破られてはいないが、それも時間の問題でしかない。
そして此処は外壁に一番近い場所。浮浪街。
魔族に最も最初に襲われる場所で、きっと誰も助けにも来てくれない場所。
他に此処に居た子たちは皆どこかへ逃げてしまったようで。
気が付けば、そこは私一人になっていた場所。
別に特別に死にたいなどという感情ももう残されていないけれど。
ここ数日はまともに食事もしていないが為にもうまともに動く体力もない上に、最後はどこに逃げようとも、どうせ私も血と臓物を撒き散らしながらこの醜い世界の一部になるのだから、何処に居ようとも同じだろうという思いから、私はその場で座り続けていた。
世界は醜い……。
そして遂に――。
そんな私の目の前に――。
「■■■■■■■■■■■■■■――っ!!!」
一匹の魔族が現れる。
牙虎であったか。
大きな牙を持ち、その牙をもって獲物を切り裂く魔族。
その牙には既に幾人もの血を吸ってきたかのように紅く染め、臓物を口の端に付けながらに次の獲物である私に目を向けてくる。
そこには一切の理性も知性も存在はせず、ただ世界に汚物を撒き散らすだけの穢れの象徴としての存在がこちらに口を歪めながらに迫ってくる。
「あは……」
そんな存在を前にして、思わずに笑い声がでてくる。
その余りの醜さに。その醜悪なまでのあり方に。
そして、間もなく私もそんな存在の一部になり果てると事実の前に。
醜い世界に生まれ、穢れた存在によってこの身が穢されるということを前にして。
あるのはそんな事態に対する恐怖ではなく……そんな世界に対する憎悪でもなく……あるのはただただ自分自身に対する諦めにも似た感情か……。
私の目の前にいる魔獣は実に醜いけれども……そんな存在と私と一体何が違うというのだかという想い。
所詮こんな世界で生きる同じ存在でしかないというのに……。そんな存在を醜いと見下せるほど私は綺麗だとでも思っているのだろうか……。
そんなはずがあるのだろうか……。
だって所詮は同じ世界に生まれ出た存在に過ぎないのだから……という想いがただただ湧いてきて。
気が付けば笑い声が世界に響く。
「あは……あはは……」
それはあるいは同族嫌悪か。
魔獣が醜いと思うのは所詮私もまた醜いからか。
世界がこんなに汚らしく見えるのは私もまたどうしようもないほどに穢れているからか……。
「■■■■■■■■■■■■■■――っ!!!」
そしてそんな想いに囚われる私の目の前に魔獣が迫り――。
その牙をこの枯れ果てた体へと突き立てようとしている。
まさに一瞬後には私もまたまさに血と臓物を垂れ流すだけの存在へとなるだろう――。
あぁ――世界は何て醜く暗いんだろう――――。
そう思い世界から終焉を告げられたはずだったけれど。
しかし、私に終わり告げる魔獣は遂にその牙をこの身に突き立てる前に――。
その醜い世界に――暗く澱んだ世界に――。
圧倒的なまでの――光が広がった――。
「この地に蠢く魔族諸君」
それはこの世界においてただ一人光り輝く存在。
「故に魔族諸君には大変申し訳ないが」
それはたった一人この醜い世界に囚われることのない存在。
「それではさようなら。安らかに眠りたまえ」
そしてそれはこの世界すらもだた一人をもって――。
「再構成」
光り輝かせることのできる存在との邂逅であった。
世界は醜い……。
それからのことは余り覚えていない。
ただあの方が表れてから、この地に蠢いていた全ての魔族が消滅したらしく。
そしてそれに伴い逃げ出していった人たちも帰ってきて。
街の復興やら何やらでこの国中の人間が大忙しそうにしている。
その顔にはそれまであった悲壮感も絶望感も持ち合わせておわず。
ただ皆して同じことを口にしている。
「白き女神様が私達を御助けになった」
白き女神様。
それがあの方を表す言葉であり、あの方は神がこの地を救う為に遣わせた存在なのだと言い皆して神に感謝の言葉を述べている。
私はそのことが――――どうしようもないほどに嫌であった。
皆はあの方が自分たちを助けてくれたことに感謝している。
助けてくれたからこそ敬愛している。
だから感謝し敬愛し畏怖し、そして――――あの方を神だと思い込んでいる。
違う。違う違う違う。
違う違う違う違う。
それは絶対に違う。
それは人の想いの押し付け。神という概念への妄執。
神は人を助け。導いてくれるという想い。
だからこそ人が神に感謝し敬愛する。
そして神はそんな人を見守ってくれるという、余りに意味のない想い。
だって、あの方は絶対に神などという存在であるはずがないのだから。
だってあの方は――そんな存在とは全く別の存在。
それがどんな意味なのか私にははっきりと分からないけれど。
それでも一つだけ分かることがある。
私達はあの方に助けらたということに感謝をするのではない。
あの方という存在に出会えたという――ただその一点のみに感謝しなければならないということ。
こんな暗闇しかない世界においてなお光輝くあの方を見ることができたというそのことにのみ感謝をしなれければならないと。
世界は醜い……。
そして遂に式典の日がやってきた。
あの方が姿を現すという式典の日が。
その日は、まさに老若男女関係なく全ての人間が異様なほどに興奮していた。
遂に白き女神様の御姿が見れる良い、皆して感謝の言葉を口にしながら少しでも近くで見ようと広場や街道に犇めき合っていた。
浮浪街に住む他の子たちもそうやって広場の方に行ってしまったけれど。
私はやっぱりいつの場所から動きはしなかった。
だってあの方――その程度の距離の違いなどどうでも良いと思えるほどに光輝いているのだから。
世界は醜い……。
そして遂にあの方が姿を現すという時になって。
その寸前に、まさに世界から光が消失した。
僅かな光も存在しえぬ暗闇の世界へと変貌したことに。
広場に集まった人たちは大慌てに騒ぎあっているようだけれど。
だけど――分かる。
私には分かる。
これはあの方の行いなのだと。あの方が行った奇跡の発露なのだと。
だからこそ私は待つ。ただ静かにあの方が現れるのを。
そして――。
それからすぐに――。
遂にあの方その姿を世界に現せた。
その世界に悠然と光輝く姿は――。
あぁ――まさに見間違うことのないその姿に。
鼓動が跳ねる。
この世界に生まれ落ちてから一度たりも動いていなかったのではないかと思えるほどに、心臓が跳ね動く。
あの方が居るというたったそれだけで世界は――。
そしてあの方がその口を開いて世界に響いた言葉は――。
「この世界は遥か昔に、神に見捨てられた世界だ」
ソレだった。
その瞬間に、この国の人間が感じたものであった何であろうか。
怒り。悲しみ。絶望。
一切光の無い暗闇の世界であろうとも、それを聞いた人たちの感情が世界にうねる。
突然な拒絶の言葉。
自らの縋るものを否定するような言葉に感じるものは一体何であろうか。
白き女神と。神の遣いだと。まさに神だと信じた方から告げられた予想にもしていなかっただろう言葉に。
しかし、決して否定することが出来ないほどの重圧をもって世界に広がったその言葉に自らの感情を発露させる余裕もないほどに呆然とした人たちの雰囲気が感じ取れる。
自らの縋っていたものの喪失に。
自らを支える地面が突如消え去ったかのような感覚に襲われているのだろう……と思う。
世界は醜い……。
あぁ……だけど。
そんなこと……。
この世界が神に見捨てられたなどと……そんなことなかどうでも良い……。
こんな世界しか造れなかった存在に見捨てらから……それが何だと言うのだろう……。
あぁ……。そんなこと。そんなことよりも……っ!!
貴方に……。貴方に見て欲しい。
貴方という存在に私を見て欲しい。
縋りたいわけじゃない。頼りたいわけじゃない。
ただ貴方に見て欲しい。私を見て欲しい。
どうか。どうか……っ!
あぁ……違う。願うのではない。
そのように願っている時点であの方に縋るほかの人たちを何一つ変わらない存在でしかなくなるのだから。
だから考えろ。思考しろ。
ただ世界を呪うだけの存在がどうしてあの方に目を向けて貰える。
ならば思考し続きけろ。
そしてそんな風に私が考えている間に、あの方の言葉はなお続く。
魔族の生まれる原因。
魔族が人の数を圧倒しているということ。
東部連合の壊滅に数多の人の死。
そして――。
「さて……絶望に暮れる人類諸君に私から改めて言わせて貰うぞ。私を……この私を魔族の手から逃れるために縋るなよ。人類諸君から生み出される魔族どもの片付けをやらせるような……掃除屋の如き役割を私に期待するなよ。私にこの世界のあり方を変えるほどの力は無いのだからな。ゆえにあの日この国を救ったのはただの一度の気紛れりに過ぎん。これ以降いかなら惨劇がこの国を襲おうとも、それは私の知ったことではないということを。そのことを……ゆめゆめ忘れるな」
あぁ……。きっと貴方からすれば魔族も人も同じような存在なのでしょう。
汚く醜く、ただ世界を穢すだけの存在に過ぎないのでしょう……。
……っ!
そんなことは既に分かっていたことだ。
あの方からすれで兎角興味の無い存在に過ぎないのだと。
……っ! いやっ!
いや……いやっ!
嫌っ!!
そんなことはいやだ!
神に見捨てらえるのは良い……。
だけど――あの方に目を向けて貰えないのは、あの方を二度と見ることができなるのは嫌だ。
これまで世界はどうしうもないほどに醜く暗かった。
そして私もまたそんな世界の一部で醜く穢れた存在であり、そんな世界の中で死んでいくのだと思っていたし、それでも別に良かった。
生まれ落ちた瞬間から闇と穢れしか見てこなかった人間にとっては、世界なんてものはそんなものでしかなかったし、何かに憧れることもなかった。
そんな世界の中で死ぬのが当たり前なのだと思ってきた。
だけど……。私は出会ったのだ。
こんな世界においてなお光り輝く存在に。
泥沼の奥底までも光り輝かせるような存在に。
そんな存在を一度でも目にしてしまえばどうしてもはや、泥沼の底で死に絶えるようなことができるだろうか。
あの方に見向きもされることなく、穢れに満ちたままにただ死にゆくことがどうしてできるだろうか。
だから、考えろ。
あの方に見て貰えるように。
あの方は決して暗闇の底に堕ちている存在になど目を向けはしないのだから。
ならば考えろ。
自身が輝く方法を。この身にある穢れを削ぎ落とす方法を。
あの方は決して下に降りて来はしないのだから。
だから私があの方の元まで昇る道を造りだせ。
「ふふ……。私が語ったことは僅かな瑕疵もなく、余すことなく真実ではあるのだが、だからこそそれを知った諸君は目の前にあった僅かな希望も、蜘蛛の糸とも呼べる救いの道を余すところなく引き裂いてしまったのは私だからな。ゆえにそんな人類諸君にたった一つだけ救いの道を用意してやろうではないか」
いいえ……。
いいえ……っ!
救いはいりません。そんなものはいりません。
救いというもの穢れに満ちたままにただ死にゆくことだとしたのなら、そんなものはいりません。
私が望む道はたった一つなのですから。
例え煉獄地獄の中にあろうとも貴方に見て欲しい。
貴方が私に興味がないというのなら、興味を魅かれる存在へとなってみせる。
この身が穢れているというのに、貴方に見て貰えるまでに光り輝いてみせる。
貴方ですら魅せられるような世界を造る。
それが私の願いであり、私が望む道なのですから。
そして――。
「再構築」
世界に剣が溢れ、私の前にも一本の剣がそびえ立つ。
そしてそれを見た瞬間に理解する。
これはあの方の片鱗なのだと。
それは剣の形をしているけれど、本来は形のない力の奔流が剣として具現化したものだと。
なぜなら、たった一本。それが目の前に突き刺さっただけで、私の世界は切り開かれたのだから。
世界に溜まる泥水をたった一本の剣が薙ぎ払う。
そして理解する。
これこそが、待ち望んだ道を造りだすのだと。
その先にこそ私の望んだ世界はあるのだと。
ならば覚悟を決めろ。
この先に進むというかは、どのような煉獄地獄よりもなお厳しい世界が待っているということを。
だけどそれでも私は望むのだから――。
だから私は――。
「さぁ諸君らが救いの道を求めるというのなら、その剣を抜き自らの心臓に突き立てると良い。さすられば僅かな痛みも一滴の血も流すこともなく、諸君らの体はこの世界から消滅し……そしてこの世界にあるありとあらゆる苦痛も、絶望からも解き放たれることとなることを私が保証してやろう。さぁ……ふふ……どうする……?」
――剣を抜く。
一遍の躊躇いもなく剣を抜き、天へと掲げる。
私自身が切り裂くように。この世界を、天までも切り開くように剣を天へと掲げたのだった。
そして――。
「…………ほぅ」
――遂にあの方が私を見てくれた。
あぁ……。あぁぁぁぁ。
もっと。もっともっともっと。
私を見て下さい。私のことを見てください。
そう思い、あの方を見続けようとした次の瞬間に――。
「……死にゆくでもなく、貴様は何を望みにその剣を抜いた?」
気が付いた次の瞬間には、その方が私のすぐ目の前に居たのだった。
光り輝くその方が。白い髪を風に揺らし、全身に日の光を受けながらに立つ美しい存在が。
あぁ……だけど。その方が美しいのは人が見れる造形などといった話ではなく。
その存在そのものがこの世界を超越していることに。
泥沼の世界の遥か上空にて世界を見下ろす存在だということに。
だからこそその方はこんなにも光り輝いているのだと理解する。
そしてそんな余りに突然の邂逅に脳が沸騰しそうになるが、それでも自身の頭に撃鉄を下す。
ここで決して取り乱すな。取り乱すぐらいならば自ら死を選ぶ。
そんな覚悟の元に私は私の言葉をその方へと述べる。
「……私を見てください」
出てきた言葉は、余りに拙いものであった。
理由も理屈も何もかもを置き去りにして、ただそれだけを口にしたのだった。
「……ほぅ。それで? 見てどうする? それは私に縋るなという先ほどの言葉を聞いた上での言葉か? あるいはそれでも私に見守って欲しいという意味ならば――」
――見守るついでに、貴様を八つ裂きしてやろうか?
そんな言葉と共に魔族など比べものにならないほどの重圧が私を襲う。
だけど今は、そんな圧力などよりもその方の言葉を否定することのほうが何よりも大切であった。
「いいえっ! いいえいいえ! 違う。違います……! あぁ……いいえ! 貴方にならば八つに裂きされても構わないと思いますけれども、それでも貴方に路傍の石を蹴散らすように殺されのは嫌……です。貴がはきっと、この世界の何もかもに興味がないように見え……ます。それはこの世界が貴方にとって遍く興味がない世界だから……だと思います。そんな世界に住む私など欠片ほどの興味も無いのかもしれません。でも、それでも、私は貴方に見て貰いたい。縋りたいわけではありません。私はただ……ただ私は貴方に憧れました。だから……私も、私もまた――貴方から魅せられる存在になりたいという想い。だから、私は剣を抜きました。これはその覚悟。これから先いかなる煉獄地獄であろうも貴方に見て貰えるのなら歩んでみせるという覚悟……です」
そしてそう紡いだ私の言葉を聞いたその方は――僅かに驚いた顔をすると。
次の瞬間には笑みを浮かべて――。
「ふふ……。私を魅せる……ね。面白い。ならばその覚悟を見せて貰おうか」
そう呟かれると私が掲げたままであった剣を手に取ると、僅かな躊躇いも無く私の胸に――その剣を突き刺したのだった。
その瞬間に私を襲った感情は――歓喜。
その方が、まさに自らの手をもって私の胸に剣を突き刺したのだから。
その方の力の一部であるそれがこの身を貫いたのだから。
まさに、その方と一つになれたかのような感覚がこの身を襲い、溢れんばかりの歓喜に身を委ねる。
そして次の瞬間に――私の魂がこの体から離れるような感覚に襲われて。
そして私は一つの光景を目にすることとなる。
それは――まさに世界の始まり。
日が天に昇り。大地が緑を生やし。水が世界に溢れ。風が木々を揺らす。
それは天地開闢の一幕。世界創造の光景。
そして世界は――見たことが無いほどに光り輝く。
それはまさに見たこともないほどに美しい光景であり。
そしてそれこそが私の望む世界なのだと理解する。
あぁ、ここに私は私が挑むべき光景を目にした。
ならば後はそこに至る道を造りあげて行けば良い。
覚悟は此処に決まる。
さぁ、私の世界を造りあげよう。
そう思った瞬間に、私の体はその世界を離れ元の場所へと戻ってくる。
そして、再びその方へと目を向けると――先ほどまでより遥かに深い笑みを浮かべながらに私のほうを見ていたのだった。
「くく……ふはは。人の身でそこに至るか……。これは……私の誤算……か。ふふ……気紛れは存外に起こしてみるものだな……。面白い。本当に……面白い。ふふ……良いだろう少女よ。まずは貴様の名を名乗ると良い」
それはまるで私のことを認めてもらえるかのような言葉。
だからこそこの身には隠しようもないほどの喜びが襲うけれども。
だからこそ私は。私は自らがした覚悟と共に自分の想いを告げる。
「…もしも叶うのならば、貴方に私の名を付けて貰えないでしょうか? 私は、私という存在は、今日この時より生まれ出ました。ここから私は私の望む世界を造りあげます。貴方に見て貰えるな世界を。貴方に魅てもらえるような世界を。その為に私は如何なる煉獄であろうとも歩き続けるという覚悟と共に。その覚悟を表す名を。その覚悟を貴方に見て貰ったという名を。もしも叶うのなら付けて貰えないでしょうか」
そんな私の傲慢とも呼べる言葉に。されどもその方は笑みを浮かべたままに答える。
「ふふ……。良いだろう。今の私は気分が良い。貴様に名を付けてやろうではないか。ふむ……そうだな。ならば……フレシアと名乗ると良い。それでも一応我が系譜に連なる者の名よ。そしてこれ以降、私のことはロゼと呼ぶが良い」
フレシア……。フレシア。
私はその名をこの身刻む。自身の魂に刻み込む。
決して無くなることのない自身の名として。
決して穢すことのない自身の誇りとして。
ここに私の望みが始まったのだ。その覚悟を。
これより挑むのはこの世界そのものなのだから。
私が見たあの世界を造りあげるのだから。
故にこの世界を穢すものは私が排除しよう。
この世界を汚すものは私が切り裂こう。
その為の力は此処に。フレシアの名と共にあるのだから。
「はい。ロゼ様」
世界は醜い――。
ならば――私が世界を光輝かせよう。
ロゼワインは女性名っぽいのが多くて助かった……というメタ話。
ウィスキーの方が好きなんですけどね。




