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第十話 「式典Ⅰ」

今回もアリア視点

慌ただしく式典の準備が行われていく。

武官だけでは足りぬ為に文官も全てが協同しあって最速で会場の準備を整える。

現在は復興途上であるために余分な人材など何処を探しても存在しえないが、それでも足りない分を余所から借り出してでもこれは行われなければならない。


”復興式典”


あの魔族の進行から生き残れたことによる式典。

それはあの惨劇から生き残れたことへの喜びを表し、死んでいった者たちへの鎮魂を捧げるもの。

そしてこれから国の復興を行われければない民への士気向上を狙い行われる国事。


……それが本来行われる式典というもの。


だがその程度のものであれば、防衛や生活に直結する部分を蔑ろにしてま行うものではない。

民の慰撫というものであれば、民に負担をかけずに行えば良いのだから。


だが今回のそれは違う。

本当の目的はたった一つしか存在しえない。


――ロゼ様の御姿を民へと見せること。

民からすればあの惨劇を一瞬の業火によって消し去った存在を人目見る為のもの。


民からすれば……いえ、この国に住む全ての者たちが彼女という存在に今は心を支配されている。


或る者はその御姿に崇拝し、万謝し、彼女に傅きたがっている。

或る者はその御姿に恐怖し、忌み嫌い、彼女から逃げたがっている。


心に思うことこそ千差万別ではあるが、その圧倒的なまでの力に、その次元を超えた先に存在しえるような在り方に、皇女である私を含めてこの国の全てがの人間が彼女という存在から心を離せないでいる。


だがしかし、それも当たり前の話だ。

彼女という存在からすれば、あの魔物ですらそこらの塵芥と同列な存在へと成り下がるのだから。

どうして私達人間が、あれほどの存在と出会て、あれほどの力を目の当りして、心が支配されずに居られるだろうか。

それが恐怖か崇拝か畏怖か……その想いに違いこそあれ、結局のところ私達は彼女という存在に魅了されているのだ。


「アリア様。式典の準備が整ったとの報告が参りました」


――そして、民達をロゼ様の前に拝謁させるという……ただその為だけに行わる式典の準備が出来たとの報告を持ってじいやが……宰相がやってきた。


「そう……。ならロゼ様は私がお連れするから、じいやは先に会場へと向かいなさい」


「……はっ」


じいやは一瞬だけ迷いを見せた後に、了承の意を示しこの場を後にした。

それは、土壇場になってロゼ様が会場へ来るのを嫌がるのを心配したからか……。

確かにじいやのその心配は理解できるが、私はその心配はないだろうと……何故か確信があった。

きっとロゼ様は、どれほど嫌がろうとも一度口にされたことは反故にはしないだろうと……まぁ、それは私から一方的な信頼に過ぎないのだけれど。

そして、そんなことを考えながら私はロゼ様が御座す場所――今はおそらく皇宮の中庭だろう――へと向かって歩いていく。


そして私が中庭に辿り着くと、確かに彼女は――ロゼ様はそこに――中庭にある先々代の皇が造られたという人工の湖の畔にいらっしゃって――。


「…………っ!」


その光景を目にして思わずに息を飲む。

初めて見る光景ではないが……それでもその光景に魅了されずにはいられない。


湖の畔にある長椅子に彼女は腰をかけ、顔を空へ向け、身動きをすることもなくそこにいらっしゃる。


ただそれだけ……たったそれだけの光景なれども、ただ彼女が居るというだけでこの見慣れた中庭が――天界へと格上げされる。

それは一枚の絵画であり、されども如何なる宮廷画家であろうとも書き上げることすら出来ぬほどに完成された光景となる。


草木を揺らす緩やかなな風が、ロゼ様の長い純白の髪を揺らし。

湖に反射する太陽の光が、彼女の白きその御身を光輝かせている。


その風景の、その御姿の何と美しいことだろうか。

それは、人を超えた美しさ。ゆえに人である私にその美しさを表現する言葉など存在しえないとすら思える程の美しさである。


されど…………あぁ……本当に……私が本当に魅了されているのはそんなレベルの話ですらないのだ。


光輝く世界に居るロゼ様はこの世界にあるあらゆる存在よりも美しいとすら思えるが。

だがしかし……ロゼ様はそれすらも超える。


――光輝く世界に居るロゼ様が美しいのではなく、ロゼ様が居るからこそ世界が光輝いているとすら思えるほどに……。


ロゼ様は世界すらも凌駕する。その存在は、その在り方は、世界をも超える。

彼女を図ることは世界でも不可能であり、彼女は世界すらも掌握している。


そんな想いすら湧いて出てくるほどに、ロゼ様という存在は――その存在に私は――。


「おいアリア。先ほどからそこで佇んで何をしている?」


思わずロゼ様の姿に魅了され、自身の思考の奥へと沈んでへと私の意識はそんなロゼ様の声で戻される。

そしていつの間にか彼女は私の方へと体を向け、その緋色の瞳を私へと向けていた。


「……申し訳ございません。ロゼ様の御姿に見惚れておりました」


私は、声が震えそうになる動揺を押し込めて彼女前にて跪いて答える。


「……ふん。私自身はあまりこの姿が好きではないのだがな……」


ロゼ様はやや不機嫌そうに答える。

彼女ほどの美しさをもってして、なお好きではないと言うのはどういうことなのだろうかと……そう考えそうになるがその前に私は考えるのを止めた。

そもただの人間である私がロゼ様のような御方の思考を読み解こうとしても詮のないことだと思い、ただ何も答えずに跪き続けた。


「まぁ今さらそんなことを言っても意味のないことか……。それで? 私に何か用か?」


「はい。式典の用意が出来ましたので、ロゼ様に御出席頂ければと思いお呼びに参りました」


「…………ふぅ。式典…………ね。まぁ良い。一度出ると約束したのだ、その約束ぐらいは果たしてやろう」


ロゼ様は、一瞬嫌そうな声を出しながらも了承の声をかけてくださった。

彼女ならばそうしてくださるだろうと思っていはいたが、それでも実際にそう言って貰い私の心には安堵の気持ちが広がった。

そして、そろそろ民達も待ち侘びている頃だろうと思い彼女をお連れするために声をかける。かけるが――。


「ありがとうございます。それでは、ご案内しますので私の後に――」



――その私の言葉を遮るようにロゼ様は声をだした。



「……なぁアリア。お前が望むのであればこの国の人間に私が何か言葉をかけてやっても良いぞ?」


唐突な問いに思わず言葉を詰まらせてしまう。

予定では、皇宮の前に集められてた民の前にロゼ様がその御姿だけをみせてくれるだけというもの。

それすらも何度もお願いをしたうえで何とか受けて貰ったのだから。

まさかロゼ様からそのような問いが言われるとは思わなかったが……。


「…………もしもロゼ様の御言葉を頂けるであれば、それに勝るものなど存在しえませんが……」


姿をお見せしていただけるだけでも、彼女のあり方を考えれば望外の喜びだと言うのに。

その上で彼女は民達に、私達に、言葉をかけてくれるという。

彼女が如何なる存在なのかを民に見せるという今回の式典なれば、確かにそれ以上のものはないかもしれない……。


だがしかし……。

あれほど嫌がっていや式典においてなぜそこまでのことをして貰えるのだろうか……。

そこまで考えて、思わずに顔を上げてロゼ様の御顔を目にした時に――そしてそこにあったのは――彼女の笑みであった。


それは――死神の如くの残酷なまでの冷笑のようであり――聖母の如くの慈愛に満ちた微笑みのようであった。


「本当に構わないのか? 私が語る言葉は決して希望に満ちた言葉ではないぞ。むしろ、耳を覆いたくなるような絶望の言葉やも知れぬぞ?」


あぁ……そうだ。

彼女は決して私達の救世主たる女神ではないのだ。

そして、彼女が語る言葉にはただ彼女が発したというだけで絶大な力がある。


だからもしも……彼女から語られる言葉が絶望に満ちた言葉だったとして。

僅かな希望すら残されない一切の光が無い常夜に満ちた言葉であったとして。

それを聞いた民達は、どう思うだろうか……。


ロゼ様という圧倒的な存在の言葉を聞いて。

そしてそこから発せられる言葉が絶望に満ちていた場合……民達はそれに耐えられるだろうか。


ならばいっそ彼女には何も語って貰わない方が……。

折角の希望に溢れた式典なのだから、此処で士気を下げるようなことがないようロゼ様にはその御姿だけ民たちに御見せして頂ければ……。

そう確かに思ったけれども、それでも私は……。


「それでもロゼ様が語って下さると言うのであれば、私達はそれをお聞きしたいと思います。もしもそれがどれほどの絶望に満ちた言葉であったとしても…………そもそも、この国自体が既に絶望に覆われているのです。奈落の底に繋がる絶壁の淵にある我が国は、今回はロゼ様のお蔭で突き落とされなかったものの、それでもこのままゆけばいずれ遠くない将来において我が国は……私達人類は……その奈落の底に落ちてしまいしょう」


そう既にロゼ様に語られずとも世界は絶望に覆われているだ。

明日をも知れぬ私達は文字通りに瀕死の状態なのだから。


「ですがなればこそ、ロゼ様の言葉を聞く意味があるのです。このまま何もせずゆけばどうせ奈落の底に飲まれてしまうのですから。ですから例えそれがどれほど絶望に満ちた言葉であろうとも、それでもロゼ様の……この国に巣食っていた魔族を一瞬の後に葬り去ったロゼ様の言葉を聞く意味があり、そしてその言葉の先にこそ私達の未来は存在しうると思うのです」


ロゼ様は決して善なる存在ではない。

人が夢想する慈愛にのみ満ちた神のような存在は決してない。

だがそれはある意味において当然の話である。

善も悪も人間が勝手に造りだした概念なのだから。

だからこそ人間を超越しているロゼ様にそのような概念を押し付けること自体が烏滸がましいという話である。


だがしかし、だからこそロゼ様の話を聞く意味があるのだ。

人では決して辿り着くことのできない世界を知る存在だからこそ、その言葉には確かな価値があるのだから。

例えその話を聞くことでこの身を裂かれるような絶望に飲まれそうになろうとも、それでもなおここでロゼ様の言葉を聞かなければ、その先に待っているのはただただ人に悪意にのみ溢れた絶望が待っているだけなのだから。


そしてそんな私の言葉にロゼ様はさらに笑みを深められた。


「……ふふ。アリアは本当に強いな。だがしかし、その強さはこの世界においてお前のみが持ちうるやもしれんぞ? それともお前はお前の強さを民達にまで強要するつもりか?」


それは、あの神殿の間においてなされた問いと同じ。

あの時浮かべられた時と同じ笑みを浮かべながらに問うてくる。

私という存在を確かめるように。私達人間を確かめるような問い。

だからこそ私がやるべきことは、ただ自身の想いを言葉にのせて述べるのみである。


「確かにロゼ様のお言葉は、民達にまで聞かせないほうが良いのかもしれません……。ですがそれでは意味がないと思うのです。例え民達にロゼ様の御姿だけ見せて私のまやかしの言葉で希望を抱かせたとしても、それでは決して本当の希望ある未来には辿り着けはしません……。だからこそ、例えどれほど絶望に満ちた言葉であろうともロゼ様が……ロゼ様という存在が民達に……私だけでなくこの国の民全てに語った言葉の先にこそ……私達が希望する未来へと辿り着く道が見えてくると……そう私は思うんです。ですがもしも……もしもその言葉の結果、この国が……この国の民が絶望に覆われたというのなら……その時は……」


そこで言葉を区切る。その先を語る為に息を吸い、決意を固める為に全身に力を込める。

そしてそんな私を、変わらぬ笑みを浮かべているロゼ様の姿で見つめる瞳を私も見つめる。


例え烏滸がましくとも、ロゼ様がここにいらっしゃるのはあの日神殿にて語った言葉が嘘ではいとも思って頂けたから。

私という存在に興味を持って貰えたからだと思う。

だからこそ私がロゼ様に語る言葉には一遍の嘘もあってはならい。

もしもその言葉に僅かでも嘘となればきっとロゼ様は二度と私達には見向きもしてもらいないだろう。


そう理解をしてなお、私は――私の全てを――アリア・ウィンダムとしての全てをかけて言葉を紡ぐ。




「その時は――――――私こそが全ての民の希望となってみせましょう」




一遍の欺瞞も無く私はそうロゼ様に語る。

私は私の民の全てを背負う覚悟をする。例え全ての民が絶望に覆われようとも私のみは明日を希望する。

私が生きている限り、どれほどの絶望がこの国を襲おうとも、幾万の屍を築き上げようとも、それでもなお私は、私の民が未来を生き抜く希望を失いはしない。

その希望の頂点にこそ私は立ち、全ての民を導いてみせる。

そんな決意のもとに私は、ロゼ様の瞳を見つめながらに語った。


そしてロゼ様は、驚いたような顔を……本当に初めてみるような驚いた顔をした後に、今ままで見せていたようなある種において超越した者のような笑みではなく、可笑しそうに、本当の少女のように笑われた。



「ふ……ふふ。ふふふふ」



そのお姿に思わず見惚れながらも、ロゼ様という存在を前に余りに傲慢な言葉だったと思い慌てて謝罪をしようとするが、その前にロゼ様の言葉が続く。



「ふふ……本当に……面白いなお前は」


そしてそのまま笑みを浮かべ、その白い絹のローブをはためかせ、ロゼ様は私の傍へと寄ってきた。

思わずに私は再び頭を垂れようとしたところで、そっとその細い手で私の髪を撫でられ……。


撫でられ……?


え……?


私は今ロゼ様に撫でられてる? あのロゼ様に……?


普段のロゼ様からは想像もつかないその行為に、私の頭は一気に混乱の極地へと至る。

恐らく私の顔は真っ赤に染まっているだろう。

そしてそんな私の態度にさらにロゼ様は笑みを深め――そして私の頭にある手を離すと再び彼女は歩きしだした。


「では行くとするか。付いてこいアリア」


「……はい。ロゼ様」


私はロゼ様の後ろを三歩離れて付いていく。

皇女である私が従者のように連れ添うその姿に。

だがこれこそが正しい姿であると思えるロゼ様の背中を見つめながら私は進む。

皇女としての私はその全てが国の為にあるが……アリアとしての私は今こうしてロゼ様の後ろを付き添って歩けているという事実にどうしようもないほどの幸せを感じながら私はロゼ様と共に歩いていったのだった。








約一年半ぶりの更新となりました。

これからもゆっくりとではありますが更新していきたい思います。

拙い作品ではありますが気に入って頂けたのならまた読んでもらえればと思います。

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