第一話 「プロローグ」
振り返れば平凡な人生であったと思う。
人口千人ばかりの離島に生まれ、高校を出たら本土の貿易会社へと就職した。
今年で、三十を迎える俺は、年に五回ある出張の一つで中東に来ていた。
新たな市場開拓だなんだと言われているが、下っ端社員の俺からすれば体のいい言い分で辺境地に追いやられたとしか思えない。
それでも、何だかんだ言って平凡な人生を歩んできたと思う。楽しいと思えることも多くあった。
だと言うのに。
何故こんなにも人間の血肉で溢れている場所で、絶命しかけていなければいけないのか。
確かに今回の中東には不穏な空気が漂っていた。
某宗教原理主義者達が何かしら動きを見せ始めているとは言われていた。
だが、まさか海外企業が集中している企業街で自爆テロをするとは思わなかったとしか言いようがない。
確かにそれは俺の油断と言うか、神を信じる人間への認識の甘さだったのだろう。
俺がその男に気がついた時には既にどうしようもなかった。
何やら神への祈りを叫んだかと思うと腹に巻きつけた爆弾を起爆しやがった。
その瞬間、俺の前に居た上司の男性が、隣に居た同僚の女性が文字通り弾け飛んだ。
周りの人間が血や肉や内蔵や脳漿をぶちまけながら死んでいく中、俺自身も半身を吹き飛ばされた。
それは、もはや誰が見ようとも致命傷だ。
内臓がはみ出て、湯水のように血が流れていく。
もう数秒もすれば、その辺に転がる醜い屍の仲間入りをするだろう。
本当に巫山戯だ話だ。
人間が神を信じるのは勝手だ。何を信じようと好きにすれば良い。
だが、その結果がこの地獄のような世界だとするならば
「神なんて……死んで……しまえば良い」
せめてもの呪詛を残し俺は動かぬ屍の一つとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――――魂の移転を確認
――――身体の再構成を確認
――――世界への接続を確認
ようこそ神の見捨てた世界へ。
世界***此処は*****が****神に*****創られ****は*****滅び*****運命******呪い*****貴方******神****捨て****に******検索*****確認******これは************根源へ************接続************を************確認。
「オゲェ! ガ、ゲェェェ!」
ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。
今すぐこのノイズを止めてくれ。
人間が決して辿り着いてはいけない知識が激流となって襲ってくる。
脳がどれほど拒否を起こそうと激痛とともに知識がノイズとなり頭の中を暴れまわっている。
痛みで狂おうとするも、その痛みがまた狂うことすら許さない。
胃の中のものを全て吐き出してもなお知識の氾濫も激痛も止まらない。
「アガアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa」
最後に絶叫を起こし俺の意識はまた闇の中へと落ちて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――――根源からの知識量を再調整
――――魂の耐久性を再強化
――――身体の能力を再強化
――――全調整完了
――――魂の再起動を開始
さあ、今度こそ目覚めの時ですよ。異世界からの来訪者よ。
目が覚めた時、そこは薄暗い森の中であった。
周りを見渡して見ても全てが木、木、木である。
今が昼か夜かも分からないほどに木が多い茂っている深淵の森に俺は居た。
何が……どうなっている?
思いだせ。思いだせ。俺は何故こんなところにいる。
俺は中東に出張に来ていて、そこで自爆テロに巻き込まれたはずだ。
大勢の人間が爆風に巻き込まれたそこで、俺も致命傷とも言える傷を負った。
ならば何故俺は生きている?
どうみても元居た場所とはかけ離れている。病院に運び込まれた訳でもない。
此処が何処か俺は知らない。知らない。知らない。しら……
『今度こそ聞こえていますね。異世界からの来訪者よ』
っ!?
何だこれは。直接頭の中に声が響いててきた。
一体何が起きている?
『一度目は魂の強度がこちらの位階に耐えれなかった為、魂に損傷を与えてしまいましたが、今回は大丈夫なはずです』
一度目? 今回? 何の話をしている?
『損傷した部分はすでに消去していますので、自己による認識は不可能と思われます』
デリート……デリートねぇ……全くもって何の話をしているのかは知らんが
せめて、それについての説明ぐらいはして貰えるんですかね? 謎の存在さん。
『肯定します。既に貴方との接続は完了していますので、
貴方の疑問には答えすることが可能です』
ならば最初の質問だ。お前は誰だ?
『私は根源にて生まれたもの。この世界の原初の存在です』
根源……原初……相変わらずさっぱり分からんが、神のような存在ってことで良いのか?
『否定します。私は神と呼ばれる存在ではなく、この世界を内包する者です』
この世界の管理者みたいなものか?
『否定します。私はこの世界を管理するものではありません。ただこの世界として存在するものです』
あー……ようはこの世界そのものってことか? この世界の人格を持った者がお前ってことで良いのか?
『その認識で問題ありません』
ハッハッ俺、世界さんと会話してますよ。
ならそんな世界さんと会話出来る俺は何なんですかね?
『異世界から魂が移転して来た存在。根源との接続を完了し、新たな存在として再構築されたものです』
異世界? 魂の移転? 再構築? 何でそんな話になってんの?
死ぬ前に神様呪ったりしたりしたから天国行きを拒否された?
『検索不可。私の認識を超越している為その質問には答えられません』
ならば全くの偶然とでも? 本当に巫山戯た話だよね。
てか新たな存在として再構築って言った?
『肯定します』
そう言われて初めて俺は自分の肉体を見下ろしてみた。
「ハハハ……もうね、笑いもでないな」
自分の声のはずなのに、その声は今までに聞いたこともないほどに綺麗な声が自分の喉から出てきやがった。
とりあえず、あれだ。今すぐ俺の前に鏡を用意してくれ。
いや鏡でなくても良いから俺の全身が見れる物を用意してくれ。
『私では不可能です。ですが貴方ならばそれも可能です。目の前に手をかざし、創り上げたいもの想像しながら再構築と言ってください』
とりあえず言われた通りにやってみる。
目の前に手をかざし、俺の全身を写せるほどの鏡を想像する。
「再構築」
……本当に出来たよ。目の前に光が集まったかと思えばそれが収縮し、鏡が現れた。
本当に俺はもう人間では無いんだなぁと感慨に耽りたいところだが、
そんなことどうでも良いくらいの存在が俺の目の前に存在していた。
「…………誰だよ」
目の前の鏡に映っていたのは、年齢が十三、四程度と思われる――少女であった。
いや……正確に言うならば美少女か。純白の髪は腰まで伸び、見える肌もまた透き通るほどに白かった。
「……だから、誰だよこれは」
『目の前の鏡に映っているのは貴方です』
そんなことは分かっているんだよ。だが俺は男で決してこんな少女な姿をして居なかった。
なんで俺がこんな姿をしているんだよ。
『その肉体は私が再構築しました。
既に魂のみとなって居た貴方に最も適合率の高かった肉体がそれになります』
……男だった時の肉体よりもこっちのロリっ娘な肉体のほうが魂に合っていると。そういうこですか。
あー……もう一度死にたくなってきた。
『貴方の魂と肉体との適合率は奇跡的とも言える数値です。
それほど合致した肉体ならば既に不老不死すらも可能な領域です』
……お前……少し黙ろうか。
書き溜めもあるのでサクサク更新する予定。
気に入って貰えそうなら感想を頂けると幸いです。