表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

眠り姫伝説

「ねぇ、知ってる?眠り姫を見ると恋が叶うんだって」

 俺がそんな台詞を耳にしたのは高校二年の新学年が始まって二週間程経った頃だった。



~眠り姫伝説~



「聞いてるの?」

「ああ?」

 何となくぶっきらぼうに返してしまった。その位興味のない、そして、最近流行っている噂話。

「赤也君、噂話とか好きじゃないもんね~」

 良く周りからは女の子にもてると言われる。気にした事がなかった。何でそう言われるのか意識した事も無かった。

「別に嫌いじゃないけどな。で、その女の子は実際に居るの?」

 苦笑いしながら授業の合間に話しかけてきた仲良し女の子三人組に返した。彼女たちはまたきゃいきゃいと話し出す。

「う~ん、この話が広がったのってここ一週間の話なんだよね。電車の中で見かけるって話らしいけど」

「電車?」

 何となく聞き返す。

「通学とか下校の時に電車使ってる人が見たって話だよ」

「ふ~ん……」

 その時点で更に興味が薄くなった。赤也は電車で通学していたが、それらしい人物を目の当たりにした事などない。そう思い、一つ違和感に気付く。

「ところでさ、その眠り姫ってのはどんな奴なの?姫って付く位だから女の子なんだろうけど」

 その質問に女の子たちは目を見合わせる。そして、不思議そうに呟いた。

「そう言えば、どんな女の子か聞いてないよね」

「うん」

「誰かが、凄く綺麗って言ってたと思うけど」

 赤也はため息を吐いた。流石は噂話、都市伝説の類の話だ。どういう人物か分からないのでは出逢いようもないのではないだろうか。

「はいはい、そろそろ先生が来るから席に戻った戻った」

 そう言われて女の子たちは赤也に手を振りながら自分達の席へとそれぞれ戻っていく。

「相変わらずモテんだな。そろそろ彼女の一人でも作れば?」

 後ろの席の友人から冷やかしが飛んでくる。気にもしない。いつもの事だ。

「うるせー」

 中学生の時には何人かの女の子と付き合ったりもしたが、大して面白くも無かったように思う。それなりに遊びに行ったりしたが、いつも暇つぶしにそうしていただけのような気もする。

「全くこっちは喉から手が出る位に女が欲しいってのに……」

 後ろでぶつぶつと恨み言を言うのもいつもの事。何時の間にか先生が教室に入ってきていて、始業の号令が聞こえた。

 着席しつつ、何となく外に目をやる。

 舞う桜が遠く、開け放した窓からくすぐったいような風が頬を撫でた。そこに、冬に感じた冷たさはもう無かった。




 春の日差しが暖かく、ホームルームが終わった後でも窓際の席で、やはり何となく外を眺めていた。

 グラウンドからは、生徒たちの部活動の声。新入生が既に入部した部活も有れば、未だに勧誘している部活もあるのだろう。だから、と言うと失礼に当たるのかもしれないが、いつもよりも活気づいて見えるのは気のせいではないと思う。

 今日は本当に、温かい。

 遂一週間前までは四月になったとは言え、まだコートが手離せない位寒かったのだ。そう言えば、ここ数日で春一番が吹いたってTVからお天気お姉さんが言っていたような気もする。

 机に突っ伏しながら外を見ていた赤也は、瞼が少しずつ重くなってくるのを自覚していた。無気力と言う訳でもない。勉強はそこそこ。運動もそこそこ。でも、部活には気が向かないから入ってない。

 何となく、学生生活を送ってるだけで、多くのその他学生諸君と同じだと思う。

 部活に入ってるからって偉い訳でも何でもない。何となくそんな詰まらないと自覚している言い訳を心中呟きながら、意識は夢の世界へ転げ落ちていった。




 ガタガタと音が響く。

 赤也は電車に揺られながら、帰宅の路に就いていた。時間は分からない。腕時計を今日は、忘れていた。

 何となく、体が重い。

 ポケットから携帯を取り出して、時間を確認するのも億劫だ。

 人もまばらな車内、赤也の座る正面。少し、斜め、前。

 小柄な男の子が座って、うつらうつらとしている。背後の窓から暮れ始めてほんの少しオレンジ色を伴った日差しが彼を明るく照らし出している。

 ああ、もうすぐ夕方なのか。

 時間は分からない。

 その男の子は大きな麦わら帽子を被っていた。夏にはまだ早いだろう、そう、ちょっとだけ思った。電車は変わらずガタガタと揺れ続けている。

 がくん、と。少し大きく揺れた。

 彼の頭から麦わら帽子がずり落ちる。ほら見ろ、そんな大きなのを被ってるからだ。

 呟いたと思った。声は出ていない。何故、声が出ないんだろうか、とは不思議と思わなかった。

 刹那、息を飲む。落ちていく麦わら帽子。

 そして、一緒に落ちていく長い、金色の髪。

 麦わら帽子は音も立てずに床に落ちた。やけにスローモーションに見えた気がする。そして、金色の長い髪は、彼の、否、彼女の腰の辺りで落ちる事を止めた。

 長い金髪を頭の後ろで結っていて、それは所謂ポニーテールと言う奴なのだろうとぼんやり考え続けながら、逆光に照らされる彼女の顔を窺うと、また息を飲んだ。

 幼さと美しさが、先程よりも濃くなった夕方色の茜に浮かぶように、映えていた。




「あっ……」

 赤也は僅かな冷たさに、目を覚ます。

 茜色に照らされる教室。時間は、もう2時間も経っている。グラウンドからは、変わらず声が聞こえていたが数は明らかに少なくなっていた。

 開け放たれた窓から、昼間よりも冷気を含んだ空気が鼻孔をくすぐる。温かい匂いは薄れていた。

「夢か」

 呟いて、頭を掻く。内容は、覚えているような覚えていないような。

 ふと、腕を見るとそこには腕時計。彼はたまに、腕時計を教室に忘れて帰る癖があった。僅か逡巡して、そのまま荷物を纏めた鞄を掴んで立ち上がった。

 夢の中で見た夕日よりも既に太陽は沈んでいる。やはり、ぼんやりと考えたのはそんな事だった。


                                                                                          Fin


割かし誰得なオリジナルを一本。


分かる方は分かるかもしれませんが、女の子のモデルはポケットモンスターSPECIALのイエローですね。本来は黄色の髪なんですが、金髪のポニーテールとさせてもらいましたが。

何となく、こういう雰囲気の作品を描きたかったので、書いてみました。

テーマは『春と出逢い』、サブテーマに『赤い少年と、麦わら帽子の少女』かな。

まんまポケスペレイエ臭が強くて、自分趣味な一本になりました(笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ