2.大地の恵みの国 グレイス王国
グレイス王国
豊かな大地と、美しい四季があるとして有名な国。
広大な農地では野菜や果物といった沢山の作物が
育てられ、国内の食料自給率も非常に高い。
そのため、周辺諸国からは
「大地の恵みの国」そう呼ばれている。
国の城下町は活気に満ちていた。
大通りには農作物や、海で釣られた新鮮な魚などの
食品を扱う屋台などがあり、
昼間問わずに人が集まっていた。
そして、この国では
ギルド本部というものがある。
討伐や採取、護衛依頼など
様々な仕事が集まる冒険者達のための拠点がある。
そしてグレイス王国には
ギルドでも有名な場所がある。
それは、ダンジョン。
内部には貴重な鉱石や薬草、魔物の素材などが眠っており
一攫千金を夢見る冒険者たちが日々挑んでいた。
しかし、ダンジョンへ進めば進むほど
魔物も強くなっていき
中でもグラードンという大地の魔獣は
ダンジョンの中にいる魔物達よりも遥かに
強い力を持つ最上級クラスの魔獣。
冒険者たちが結託して挑んだとしても
難しいとされているグラードン。
そんなことグラードンが。
ギルド本部近くの、酒場にてある噂がたっていた。
城下町の酒場にて、
数人の屈強な冒険者たちが酒を片手に
テーブルを囲んでいた。
「なぁ、あの話聞いたか?」
「なんだ?」
「最近ダンジョンでとんでもない奴が現れたらしいぜ。」
「とんでもない奴?」
「あの大地の魔獣ーーグラードンを倒したらしい。」
「…は?」
酒場の一角がざわつく。
「グラードンってあのグラードンか?」
「他に何がいるんだよ。」
「いやいや、俺たちが何人集まっても
倒すのに苦労したあの魔獣を倒しただと?」
「ああ。」
「そいつ、使役獣らしきやつと
一緒にダンジョンへ入ったらしい。」
「使役獣?」
「その使役獣と一緒に、ダンジョンへ入って
あのグラードンを倒したらしい。」
「まじかよ…」
「で、そのグラードンを倒したことで
莫大な報酬をゲットしたらしい。」
「そいつ、どこにいるんだよ。
是非ともうちに欲しいんだが。」
「あー、それがな…。」
話していた男は意味ありげに声を落とした。
「近くで、グラードンを倒したのを見た奴らが
本部に戻ってきてすぐにスカウトしようとしていたんだが」
「どうやら、そいつ報酬を
受け取るなり姿を消したらしい。」
「はぁ?」
「ギルド本部へと出ていってすぐにどこかへと去っていったんだと。」
「誰だよそれ。」
「さぁ?」
男は肩を竦めた。
「噂では、ずっとローブを深く被っていたらしいぜ。」
「ローブ?」
「ああ。顔も完全に見えていないくらいに。」
「だから、男か女かも分からなかったって。」
酒場の一角に沈黙が落ちた。
「なんだそりゃ」
「正体不明すぎるだろ。」
「そもそも、グラードンを一人で倒したっていうのも
普通の人間じゃねぇよ。」
「使役獣もかなり強かったらしいぞ。」
「じゃあ、その一人と一匹ということか…?」
「知らねぇよ。」
酒場に笑い声が響き渡る。
一人の男はカウンターにいる女性を呼んで注文をし始める。
誰も知らない。
その冒険者が何者なのか。
一体どこから来た者なのか。
ただ分かっていることは
ダンジョンでは一人で倒すことなど不可能な
グラードンを倒していることだけであった。
◻︎────────◻︎
騒がしい酒場の隣にある飲食店にて。
ある席には、深くローブを被り、姿を隠している少女。
そして小さな魔物一匹がいた。
偶然窓が空いており隣の酒場から
聞こえてきた会話を耳にする。
「噂になるなんてね…。」静かに口にした。
「倒すのが困難とされるグラードンを倒したからだろう。」
ファルは呆れたように言う。
「だって、絶対に気をつけろと言われていざ遭遇して戦ってみればあんなにも弱いとは思わなかったじゃない。」
シェリルが言っていることは本当であり
ファル自身も大したことがなかったと思っているためなんとも言えなかった。
ーー数日前。
王城を飛び出した私はファルの背中に乗って
グレイス王国へと辿り着いていた。
それには理由があった。
「ねぇ、ファル大丈夫?
長時間本来の姿になっているけれど。」
「大丈夫とは言えない。そろそろ限界だ。」
幻竜であるファルは
巨大なドラゴンになることができるがドラゴンの姿を維持できる時間が限られていた。
そのため、長時間の移動の際は一度降りて
小さな姿に戻り休養しなければならないのである。
そうして、降り立った場所が今いるこの国
グレイス王国ということだった。
幸い、旅で必要となる品は買う事はできた。
しかし。
「…まずいわ。ファル」
「どうした。」
「お金が底つきそう。」
王城から持ち出した金貨は、旅に必要な品を買っているうちにお金はどんどんと減っていってしまった。
このままでは、旅を続けることはできない。
働くことは難しい。
王族であることがバレてしまえば、すぐに
あの国へと戻される可能性が高い。
「どうしようか…。」
そこで見つけたのが
ーーギルド本部であった。
「ダンジョン攻略ですか?」
「ああ。魔物を討伐したり素材を採取たりすることができる。」
ギルド職員から説明を受ける。
「魔物を倒せば倒すほど、報酬は倍ですか?」
「もちろん、魔物の強さによって報酬は多くなりますよ。」
お互いに目を合わせてから。
「やってみる?」
「そうするとしよう。」
意見が一致して、私とファルはダンジョンに
挑戦することになった。
ダンジョンへ入る前にギルド職員からあることを言われた。
「大地の魔獣であるグラードンには気をつけるように。」
「グラードン?」
「ダンジョンの中でも非常に危険な魔物だ。
複数の冒険者が挑戦したとしても倒すのに苦労するほどの強さを持っています。」
「なるほどね。」
私はは頷いた。
そして、ダンジョンへと入り
魔法を使いながらも剣を振るい
ファルには炎を吹いて貰いながら数々の魔物を倒して
進んでいた時だった。
目の前に巨大な魔物が現れた。
岩で身体中を覆われている魔物を見て二人は察する。
「あれが、グラードンね。」
「そのようだ。」
グラードンを私達を見るなり、
威嚇するかのように咆哮した。
咆哮で近くにいる冒険者たちは吹き飛ばされそうになっているが二人は平然としており。
「では、行くとするか。」
「ええ。」
二人は戦闘態勢に入った。
「ファル。」
「あぁ。」
ファルの口から炎が放たれる。
全体に炎に覆われ、もがき苦しんでいるグラードンに
追い打ちをかけるかのように私は魔法を発動させる。
「終わりよ。」
ドン!!と轟音がした後、グラードンを地面へと倒れる。
覆われていた岩は段々と
崩れ落ちていきグラードンは消滅した。
呆気なく消えていったグラードンを見つめる。
「つまらないわね。」
危険だと言われていたが、強い敵だろうと思っていたが
こんなにも容易く倒せた。
大したことなかった。つまらない。
なんてつまらないのだろう。
「我と、シェリルだからだろう。」
「それはそうか。」
私達にとってグラードンはその程度の存在だったのだった。
それからギルド本部に戻った後
「これが報酬です。」
「へ?」
提示された金額を見て思わず声が出てしまう。
「こんなにも貰えるの?」
「あのグラードンの討伐なのですから。」
「そうなんですね。」
王城を出てから初めて自分の力で経た金貨。
これだけの金額があれば生活ができる。
ーーダンジョン攻略は最高かもしれない。
そんな事を考えながら
今夜、飲食店で食事をしていた。
「お待たせしました。」
店員の女性が料理を運んでくる。
「ご注文のビーフシチューと、小麦パン、カシスオレンジジュースです。」
「ありがとう。」
シェリルは料理を見て目を輝かせる。
スプーンを手に取り最初にビーフシチューを口にした。
「…美味しい。」
思わず頬が緩む。
隣でファルはガツガツとパンを食べる。
「王城を出てからこんな食事をするとはな。」
「私も思わなかった。」
笑ってから、カシスオレンジを
飲んでいると聞こえてくるのは
グラードンを倒した自分の噂。
「やっぱり、噂になってるのね。」
「だから、言っただろう。」
ファルに突っ込まれ苦笑する。
けれど不思議と悪くはなかった。
王城にいた頃とは違った。
自分の力で何かを成し遂げて、対価を得ること。
そして、対価を自分の好きなように使えること。
それがーーとても嬉しかった。
読んでいただきありがとうございます。




