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座席取りラブコメ戦線

作者: こよみん
掲載日:2026/06/07

第1話 入学式の朝、座席戦争は始まった


高校の入学式の日。


俺――ユウキは、駅のホームで静かに息を整えていた。


目の前に滑り込んでくる電車。

春休み明けの朝。

学生、会社員、眠そうな人、スマホを見つめる人。


そして――空席は、ほぼない。


だが、俺には見えていた。


三両目、右側、優先席から二つ離れた場所。

新聞を畳みかけているサラリーマン。

あの人は次の駅で降りる。


俺は入学式の日まで、ただぼんやり生きてきたわけじゃない。

中学三年間、通学電車で磨き上げた技術がある。


それは――


「いかに座って登下校するか」


である。


電車が止まり、ドアが開く。

俺は流れるように乗車し、狙った位置の斜め前に立った。


完璧だ。


そう思った瞬間。


隣に、同じく完璧な位置取りをした女子がいた。


肩までの黒髪。

新品の制服。

そして、妙に鋭い目つき。


彼女もまた、俺と同じ席を狙っていた。


次の駅。


予想通り、サラリーマンが立ち上がる。


俺と彼女が、同時に一歩動いた。


だが、奇跡が起きた。


空いたのは一席ではなく、隣の席の人も続けて立ち上がったのだ。


俺と彼女は、まさかの隣同士に座った。


「……」


「……」


気まずい。


そして数秒後、彼女がこちらをちらりと見た。


「あの……制服」


「え?」


「同じ高校、ですよね?」


俺は自分のブレザーを見下ろした。


「あ、本当だ」


「今日、入学式ですよね?」


「うん。たぶん同じ新入生」


彼女は少しだけ笑った。


「私、マミ」


「俺はユウキ」


それが、俺たちの出会いだった。


通学電車の座席争奪戦で、偶然隣同士になっただけ。


そのはずだった。


第2話 前の席の女子が、朝のライバルだった件


入学式が終わり、教室へ向かった。


俺のクラスは一年二組。


黒板に貼られた座席表を確認する。


俺の席は、窓側から二列目の後ろ寄り。


そして、その前の席には――


「……あ」


「……また会いましたね」


朝、電車で隣に座った女子。


マミがいた。


彼女は前の席に座り、くるりと振り返る。


「すごい偶然ですね」


「朝の電車だけでも偶然なのに、同じクラスで前後って」


「もしかして、座席運いいんですか?」


「座席運って何?」


「電車で座れる人って、席にも恵まれるんですよ」


真面目な顔で言うので、俺は思わず笑ってしまった。


「マミも相当だろ。今朝の動き、完全に経験者だった」


彼女は少しだけ目を細めた。


「見てたんですか?」


「見てたというか、同じ席を狙ってた」


「やっぱり」


マミは小さく笑った。


入学式の日、知らない女子と話すなんて緊張すると思っていた。

でも彼女とは、不思議と会話が続いた。


先生が教室に入ってくる。


「はい、席についてー」


マミは前を向いた。


けれど、数分後。


「ユウキくん」


小声で呼ばれた。


「何?」


「帰りの電車、何両目ですか?」


「授業中に聞くことか?」


「重要です」


彼女は真剣だった。


俺は思った。


この子、かなり面白い。


第3話 彼女の必殺技、吊り革フェイント


翌朝。


俺はいつもより少し早く駅に着いた。


ホームには、すでにマミがいた。


「おはようございます」


「おはよう。早いな」


「今日は検証したいことがあって」


「何を?」


「昨日の帰り、ユウキくんは四両目を選びましたよね」


「うん」


「でも、あれは罠です」


「罠?」


マミは人差し指を立てた。


「四両目は階段に近いから混みやすいです。でも三両目は一見混むように見えて、実は二駅後に降りる人が多い」


「……わかる」


「ですよね?」


俺たちは、なぜか朝から座席理論で盛り上がっていた。


電車が到着する。


マミは乗り込むと、ある女子大生の前に立った。

だが、真正面ではない。

少し横。

まるで別の席を狙っているように見える位置。


「吊り革フェイントです」


「何それ」


「座りたい気配を消す技です」


次の駅で女子大生が立った。


マミは自然な動きで席を確保した。


「すごいな」


「ユウキくんも座ります?」


「いや、一席しかないし」


「じゃあ、荷物だけ持ちます」


そう言って、彼女は俺の通学鞄を膝に置いた。


たったそれだけなのに。


朝の電車が、少し楽しくなった。


第4話 授業中の秘密会議


数学の授業中。


先生が黒板に式を書いている。


俺はノートを取っていた。


すると、前の席のマミが消しゴムを落とした。


俺は拾って渡す。


「ありがとう」


「どういたしまして」


それで終わると思った。


だが、消しゴムには小さな付箋が貼られていた。


『今日の帰り、勝負しませんか?』


俺は吹き出しそうになった。


勝負って何だ。


俺はノートの端に返事を書いて、こっそり渡した。


『座れた方が勝ち?』


数分後、付箋が返ってくる。


『隣同士に座れたら、両方勝ち』


俺は思わずマミの背中を見る。


彼女は前を向いたまま、少し肩を震わせていた。


笑っている。


授業中なのに。


先生の声が遠くなる。


高校生活は、もっと退屈なものだと思っていた。


でも、前の席にマミがいるだけで、毎時間なにかが起きる気がした。


第5話 帰り道の共同戦線


放課後。


俺とマミは駅まで一緒に歩いていた。


「なんで自然に一緒に帰ってるんだろうな」


「座席勝負があるからです」


「理由が特殊すぎる」


マミは楽しそうに笑った。


駅に着くと、帰宅ラッシュが始まりかけていた。


「今日は難易度高いですね」


「だな」


「作戦は?」


「二両目、ドア横。部活帰りの先輩が二駅目で降りる可能性が高い」


「私も同じ読みです」


電車が来る。


俺たちは乗り込んだ。


予想通り、二駅目で席が空いた。


けれど空いたのは一席。


俺とマミは顔を見合わせた。


「どうぞ」


俺が言うと、マミは首を振った。


「ユウキくんがどうぞ」


「いや、マミが」


「じゃあ……」


彼女は少し照れたように言った。


「半分ずつ、は無理ですね」


その一言で、二人とも笑ってしまった。


結局マミが座り、俺は前に立った。


電車が揺れる。


マミが俺の鞄を持ってくれた。


「明日は、隣同士ですね」


「ああ。必ず」


その約束が、妙に嬉しかった。


第6話 マミは意外と負けず嫌い


昼休み。


俺が購買でパンを買って教室に戻ると、マミが俺の席の近くにいた。


「ユウキくん、作戦会議です」


「昼飯より大事?」


「かなり大事です」


マミはノートを広げた。


そこには、電車の車両ごとの混雑傾向が書かれていた。


「本気すぎないか?」


「負けたくないので」


「誰に?」


「満員電車に」


その答えがあまりに真剣で、俺は笑った。


マミは少し頬を膨らませる。


「笑わないでください」


「いや、悪い。でもマミって面白いな」


「面白いって、褒めてます?」


「褒めてる」


「なら許します」


彼女はパンを一口食べた。


その横顔を見て、俺は少しだけ思った。


マミと話すのが、いつの間にか一日の楽しみになっている。


座席を取るための作戦会議。


それだけのはずなのに。


第7話 雨の日、相合い傘未満


その日は雨だった。


放課後、昇降口で俺は空を見上げる。


傘を忘れた。


「ユウキくん」


振り返ると、マミが傘を持って立っていた。


「忘れたんですか?」


「見ればわかるだろ」


「仕方ないですね」


マミは傘を開いた。


「駅まで入ります?」


「いいのか?」


「座席共同戦線の仲間なので」


俺はその傘に入った。


肩が近い。


いつも電車では近くにいるのに、傘の中だと妙に意識してしまう。


「ユウキくん、端に寄りすぎです」


「いや、濡れるだろ」


「私も濡れます」


マミは少し傘を俺の方に寄せた。


そのせいで、さらに距離が近くなる。


駅に着くまで、俺たちはいつもより少し静かだった。


電車では、奇跡的に隣同士に座れた。


窓に雨粒が流れている。


マミは小さな声で言った。


「雨の日も、悪くないですね」


俺は頷いた。


「そうだな」


第8話 席を譲った日


帰りの電車で、俺たちは珍しく早く席を取れた。


しかも隣同士。


完璧な勝利だった。


だが次の駅で、おばあさんが乗ってきた。


マミはすぐに立ち上がった。


「どうぞ」


おばあさんは嬉しそうに座った。


俺も続いて立つ。


「俺の席もどうぞ」


隣にいた小さな子連れのお母さんが座った。


電車が動き出す。


俺たちは吊り革につかまって並んで立った。


「今日は負けですね」


マミが言う。


「いや、勝ちだろ」


「座れてないですよ?」


「でも、譲れた」


マミは少し驚いた顔をして、それから優しく笑った。


「ユウキくん、そういうところありますよね」


「どういうところ?」


「ちゃんとしてるところ」


その言葉に、胸が少し熱くなった。


座ることばかり考えていた通学電車で、俺は初めて気づいた。


マミと一緒なら、座れなくても楽しい。


第9話 文化祭準備と近すぎる距離


高校生活にも慣れてきた頃、文化祭の準備が始まった。


一年二組は喫茶店をやることになった。


俺とマミは看板係。


放課後の教室で、二人並んで絵の具を塗る。


「ユウキくん、そこはもっと丁寧に」


「厳しいな」


「看板はお店の顔です」


「座席取り以外にも本気なんだな」


「私は何事にも本気です」


マミは胸を張った。


その瞬間、筆についた絵の具が俺の頬についた。


「ついてます」


マミがハンカチを出し、俺の頬を拭いた。


近い。


ものすごく近い。


「……取れました」


「あ、ありがとう」


お互い、少し黙った。


教室には夕日が差し込んでいた。


マミは小さく笑って言う。


「ユウキくん、顔赤いです」


「夕日のせいだ」


「そういうことにしておきます」


彼女の笑顔が、反則みたいに可愛かった。


第10話 告白は各駅停車で


文化祭が終わった帰り道。


俺とマミは、いつもの電車に乗った。


疲れていたのに、なぜか眠くはなかった。


隣同士の席。


車内は夕方の光で柔らかく染まっている。


「ユウキくん」


「何?」


「最初に会った日、覚えてますか?」


「入学式の日だろ」


「はい。あの日、ユウキくんが同じ席を狙ってきて、ちょっと悔しかったです」


「俺も。強敵だと思った」


マミは笑った。


そして、少しだけ真面目な顔になる。


「でも今は、隣に座れると嬉しいです」


心臓が跳ねた。


俺は窓の外を見た。


駅が一つ流れていく。


このまま黙っていたら、きっと後悔する。


「マミ」


「はい」


「俺、マミのことが好きだ」


言った。


言ってしまった。


電車の音がやけに大きく聞こえる。


マミは目を丸くして、それから俯いた。


「……私も」


小さな声だった。


でも、確かに聞こえた。


「私も、ユウキくんが好きです」


その日から、俺たちは恋人になった。


各駅停車の電車の中で。


第11話 初デートは座席指定なし


初デートの日。


俺たちは駅前で待ち合わせた。


マミは私服だった。


白いブラウスに、淡い色のスカート。


いつもの制服姿とは違って、少し大人っぽい。


「変ですか?」


「いや、可愛い」


言った瞬間、マミの顔が赤くなった。


「急にそういうこと言わないでください」


「彼氏だから言っていいかと」


「……それは、ずるいです」


映画を見て、カフェに行って、街を歩いた。


電車の座席作戦とは関係ない一日。


だけど、俺たちは何度も笑った。


帰りのホーム。


マミが言った。


「今日は座れるかどうか、気にしませんでしたね」


「そうだな」


「でも楽しかったです」


「俺も」


電車が来る。


混んでいた。


座れなかった。


それでも、俺たちは並んで立っていた。


マミの手が、そっと俺の手に触れる。


俺は少し迷ってから、その手を握った。


マミは何も言わなかった。


ただ、握り返してくれた。


第12話 初キスは終点前で


付き合い始めてからも、俺たちの日常は大きく変わらなかった。


朝は同じ電車。

教室では前後の席。

休み時間にはくだらない話。

帰りは一緒。


ただ、変わったこともある。


マミが前よりも自然に笑うようになった。


俺も、彼女の隣にいることが当たり前になった。


その日の帰り、電車は珍しく空いていた。


俺たちは隣同士に座った。


終点の一つ前。


乗客が少なくなる。


マミが小さく言った。


「ユウキくん」


「うん?」


「付き合ってるのに、まだですよね」


「何が?」


マミは赤くなりながら、視線を逸らした。


「……キス」


俺の心臓が跳ねた。


「しても、いい?」


俺が聞くと、マミは小さく頷いた。


電車の揺れに合わせて、少しだけ距離が近づく。


そして俺たちは、そっと唇を重ねた。


短くて、ぎこちない。


でも、忘れられない初キスだった。


マミは真っ赤な顔で言った。


「座席取りより、緊張しました」


「俺も」


二人で笑った。


終点前の静かな車内で。


第13話 隣の席は、これからも


季節は春から夏へ変わろうとしていた。


入学式の日、俺たちはただの他人だった。


同じ電車に乗って、同じ席を狙って、偶然隣同士になった。


それが今では。


「ユウキくん、今日は三両目です」


「理由は?」


「勘です」


「作戦じゃないのかよ」


「彼女の勘を信じてください」


「わかったよ」


俺たちは笑いながら電車に乗った。


車内は混んでいた。


でも、二駅後。


奇跡みたいに隣同士の席が空いた。


俺とマミは顔を見合わせる。


「勝ちですね」


「完全勝利だな」


並んで座る。


肩が触れる。


マミは窓の外を見ながら言った。


「最初は、座るためだけに電車に乗ってました」


「俺も」


「でも今は、ユウキくんと帰るために乗ってます」


俺は少し照れながら答えた。


「俺もだよ」


マミは嬉しそうに笑った。


電車は走る。


いつもの線路を、いつもの速度で。


だけど、隣にいる人が変わるだけで、世界はこんなにも違って見える。


俺たちはきっと、これからも座席を狙う。


朝も、帰りも。


たまには座れない日もあるだろう。


でも、大丈夫だ。


隣にマミがいるなら。


立っていても、座っていても。


そこが俺の、一番好きな場所だから。


――隣の席は、これからも君のもの。


座席取りラブコメ戦線 Season2

〜恋人になった俺たちと、新たな座席ライバル〜

第1話 恋人になって初めての夏


付き合い始めて一か月。


俺とマミの生活は、以前と大きく変わったようで、実はあまり変わっていなかった。


朝は同じ電車。


学校では前後の席。


帰りも一緒。


違うのは――


「おはよう、ユウキ」


そう言って自然に笑いかけてくれること。


そして。


「はい」


マミがペットボトルを差し出してきた。


「何これ?」


「熱中症対策です」


「彼女らしいな」


「彼氏が倒れたら困るので」


マミは少し照れながらそう言った。


恋人になった実感が、少しずつ増えていた。


第2話 新たな強敵


ある朝。


俺たちがいつもの車両へ向かうと、一人の男子生徒がいた。


背が高く、爽やかなイケメン。


そして何より。


立ち位置が完璧だった。


「ユウキくん」


「ああ」


「できる人です」


座席取りの世界にはわかる。


あいつはプロだ。


次の駅。


席が空く。


男子生徒は迷いなく着席した。


その動きは芸術だった。


「負けました」


マミが悔しそうに言う。


俺も認めるしかなかった。


新たなライバルが現れた。


第3話 座席王子


昼休み。


その男子生徒が俺たちの教室へ来た。


「一年三組のレンです」


どうやら同学年らしい。


しかも。


「君たち、有名だよ」


「え?」


「毎日一緒に座ってるカップル」


俺たちは同時に固まった。


「目立ってたのか」


「かなり」


レンは笑った。


「ちなみに俺も座席派です」


「やっぱり」


「仲良くしよう」


こうして奇妙な友情が始まった。


第4話 初めての夏祭り


七月。


地元の夏祭り。


マミは浴衣姿だった。


「どう?」


「可愛い」


即答だった。


マミの顔が真っ赤になる。


「最近、躊躇なく言いますよね」


「本当のことだから」


夜店を回る。


金魚すくい。


かき氷。


射的。


そして花火。


夜空に大輪の花が咲く。


その光の中で見たマミは、いつも以上に綺麗だった。


第5話 手を繋ぐ理由


花火大会の帰り。


人混みがすごかった。


マミが不安そうに周囲を見る。


俺は自然に手を握った。


「迷子防止」


「言い訳ですね」


「そうかも」


マミは笑った。


そして。


指を絡めてきた。


恋人繋ぎだった。


俺の心臓は限界だった。


第6話 初めての嫉妬


二学期。


クラス替えはない。


しかし問題が起きた。


マミが女子たちに囲まれていた。


「マミちゃん可愛い」


「彼氏いるの?」


そんな話が聞こえる。


当然だ。


マミは可愛い。


俺は急に不安になった。


放課後。


そのことを話すと。


マミは笑った。


「嫉妬ですか?」


「少し」


「安心してください」


彼女は言った。


「私が好きなのはユウキくんだけです」


俺はその一言で全部吹き飛んだ。


第7話 文化祭とミスコン騒動


文化祭シーズン。


事件が起きた。


マミが校内ミスコン候補に選ばれた。


教室中が大騒ぎ。


俺は複雑だった。


マミは困った顔をしていた。


「出たくないんですけど」


「断れば?」


「でも推薦されちゃいました」


結果。


出場することになった。


そして。


当然のように優勝した。


俺は少し誇らしかった。


第8話 ユウキの人気


しかし今度は俺だった。


文化祭で接客をしていたら。


女子たちが騒ぎ始めた。


「ユウキくん優しくない?」


「かっこいいかも」


その後。


マミの機嫌が悪かった。


「マミ?」


「別に」


完全に嫉妬だった。


可愛い。


第9話 初めてのケンカ


小さなすれ違いだった。


メッセージの返信が遅れた。


それだけ。


でも、お互い気になった。


翌日。


少しぎこちない。


電車も静かだった。


しかし。


終点近くでマミが言った。


「ごめんなさい」


俺も言った。


「俺もごめん」


たったそれだけで元通りになった。


第10話 クリスマスデート


冬。


街はイルミネーションに包まれていた。


マミは白いコート。


俺は少し緊張していた。


恋人になって初めてのクリスマス。


プレゼント交換もした。


俺はマフラー。


マミは腕時計。


「大事にします」


そう言って笑う彼女が愛しかった。


第11話 雪の日


珍しく雪が降った。


電車は遅延。


ホームは大混雑。


当然座れない。


でも。


マミは嬉しそうだった。


「雪ですね」


「寒いな」


「近づいていいですか?」


そう言って腕を組んできた。


寒さより心臓が危険だった。


第12話 将来の話


帰りの電車。


珍しく席が空いていた。


隣同士で座る。


「ユウキくん」


「ん?」


「将来、何になりたいですか?」


少し考える。


「まだ決まってない」


「私もです」


マミは窓の外を見る。


「でも」


「うん」


「できればずっと一緒がいいです」


俺は静かに頷いた。


「俺も」


第13話 約束


年末。


初めて迎える恋人同士の冬休み。


神社へ初詣に行った。


人混みの中。


二人でおみくじを引く。


俺は吉。


マミは大吉。


「勝ちました」


「何の勝負だよ」


「全部です」


そう言って笑う。


その笑顔を見て思った。


来年も一緒にいたい。


再来年も。


その先も。


第14話 そして二年生へ


春。


桜が咲いていた。


入学式から一年。


俺たちは再びあの日と同じ電車に乗っていた。


「覚えてますか?」


マミが聞く。


「何を?」


「初めて会った日です」


もちろん覚えている。


座席争奪戦。


偶然の隣同士。


ぎこちない会話。


すべてが始まった日。


「覚えてるよ」


そう言うと。


マミは俺の肩にもたれた。


「よかった」


電車は走る。


一年前と同じ線路を。


だけど。


俺たちの関係は大きく変わった。


ただのライバルだった二人は。


今では恋人になった。


そして――


「二年生になっても隣にいてくださいね」


「もちろん」


俺はそう答えた。


電車の窓に映る俺たちは、少しだけ大人になっていた。


座席取りラブコメ戦線 Season3

〜高校2年生編、隣の席は少しだけ遠くなる〜

第1話 二年生、まさかの席替え


二年生になった。


俺――ユウキとマミは、無事に同じクラスになった。


「やりましたね」


マミは嬉しそうに笑う。


俺も安心していた。


だが、安心は一瞬だった。


新しい担任が言った。


「席はくじ引きで決めます」


結果。


マミは窓側の前方。


俺は廊下側の後方。


「遠い……」


マミが小さくつぶやく。


俺も同じ気持ちだった。


前後の席だった一年生の頃が、急に懐かしくなる。


休み時間、マミが俺の席まで来た。


「遠距離恋愛ですね」


「教室内だけどな」


「でも、寂しいです」


そう言われて、胸がきゅっとなった。


二年生編は、少しだけ波乱の予感がした。


第2話 後輩、現る


朝の電車。


俺とマミはいつものように座席を狙っていた。


そのとき、一人の女子が俺たちの前に立った。


小柄で、少し人懐っこそうな一年生。


「先輩たち、いつも座るの上手いですよね?」


俺とマミは固まった。


「見られてたのか……」


「有名ですよ。座席取りカップルって」


マミの頬が赤くなる。


その子は笑って言った。


「私、ナナです。一年生です。弟子にしてください!」


「弟子?」


「座って通学したいんです!」


こうして、謎の後輩ナナが現れた。


第3話 マミ、ちょっと嫉妬する


ナナは毎朝、俺たちの近くに来るようになった。


「ユウキ先輩、今日はどの人が降りますか?」


「たぶん、あの鞄の人」


「すごい!」


ナナは素直に感動する。


その横で、マミは静かだった。


学校に着いてから、マミがぽつりと言う。


「ユウキくん、後輩に優しいですね」


「まあ、聞かれたから」


「ふーん」


これは、まずい。


「マミ」


「別に怒ってません」


怒っている。


俺は小さく言った。


「俺が一番一緒に座りたいのは、マミだよ」


マミは一瞬で真っ赤になった。


「……そういうことを急に言うの、反則です」


でも、機嫌は直った。


第4話 修学旅行の班決め


二年生最大のイベント。


修学旅行。


行き先は京都と奈良だった。


班決めの日、俺は当然マミと同じ班になりたかった。


だが、男女混合班はくじ引き。


結果。


同じ班になれた。


「やりました」


マミが小さくガッツポーズする。


「嬉しそうだな」


「嬉しいです」


その素直さに、俺の方が照れる。


ただ、問題があった。


ナナが廊下から覗いていた。


「先輩たち、修学旅行いいなあ」


マミが言う。


「ナナちゃんは来年ですね」


「その頃も先輩たち、付き合ってますよね?」


マミは迷わず答えた。


「もちろんです」


俺は、少し未来が見えた気がした。


第5話 京都行きの新幹線


修学旅行当日。


新幹線の座席は、まさかのマミと隣だった。


「電車運、強すぎませんか?」


「座席の神に愛されてるな」


マミは笑う。


車窓の外には、流れていく景色。


いつもの通学電車とは違う。


けれど隣にマミがいるだけで、心地よかった。


「ユウキくん」


「ん?」


「旅行って、少し特別ですね」


「そうだな」


マミは窓の外を見ながら言った。


「今日は、いつもよりたくさん思い出を作りたいです」


俺は頷いた。


「全部覚えておくよ」


第6話 清水寺と迷子の手


京都。


清水寺は観光客でいっぱいだった。


班行動中、少し人混みが激しくなる。


マミが俺の袖をつかんだ。


「はぐれそうです」


「手、つなぐ?」


「……はい」


俺たちは手をつないだ。


一年生の頃より自然に。


でも、やっぱり少し照れる。


マミは小さな声で言った。


「前より、慣れましたね」


「そうだな」


「でも、ドキドキはします」


その一言で、俺も同じだと思った。


慣れても、好きな人は特別だった。


第7話 旅館の夜、秘密の廊下


夜。


旅館。


男子部屋で騒いでいた俺は、飲み物を買いに廊下へ出た。


すると、マミがいた。


「偶然ですね」


「本当に?」


「半分くらい」


二人で自販機前に座る。


夜の旅館は静かだった。


「こういうの、少し悪いことしてるみたいですね」


「ただジュース買ってるだけだけどな」


マミは笑った。


そして、俺の肩にそっと頭を預けた。


「明日も一緒に回れますように」


俺は小さく答えた。


「回れるよ」


その夜の数分間は、修学旅行で一番静かで、一番特別だった。


第8話 奈良公園と鹿の嫉妬


翌日は奈良。


奈良公園で鹿せんべいを買ったマミは、鹿に囲まれた。


「ユウキくん、助けてください!」


「人気者だな」


「笑ってないで!」


俺が近づくと、鹿が俺の服を引っ張った。


マミが思わず笑う。


「鹿にも好かれてますね」


「嬉しくない」


その後、マミが鹿にせんべいをあげる姿を写真に撮った。


「消してください」


「無理。可愛いから」


「ずるいです」


マミは照れながらも、少し嬉しそうだった。


第9話 帰りの新幹線で


修学旅行の帰り。


疲れたクラスメイトたちは、ほとんど眠っていた。


マミも眠そうだった。


「寝ていいよ」


「でも、もったいないです」


「何が?」


「ユウキくんの隣にいる時間が」


俺は言葉に詰まった。


しばらくして、マミは俺の肩にもたれて眠った。


新幹線の静かな振動。


窓の外の夕焼け。


俺は思った。


いつか大人になっても、この時間を思い出すんだろうな、と。


第10話 進路希望調査


修学旅行が終わると、現実が戻ってきた。


進路希望調査。


二年生になって、将来の話が少し重くなる。


俺はまだ決められなかった。


マミも悩んでいた。


放課後の教室。


マミが言う。


「同じ大学に行けたらいいなって、思います」


「俺も思う」


「でも、それだけで決めちゃダメですよね」


「うん」


少し寂しかった。


好きだから一緒にいたい。


でも、好きだからこそ、それぞれの未来も大事にしたい。


俺たちは初めて、少し大人っぽい悩みを抱えた。


第11話 勉強デート


週末。


図書館で勉強デートをした。


デートと言っても、問題集を開いて黙々と勉強するだけ。


でも、向かいにマミがいると集中できない。


「ユウキくん、見すぎです」


「見てない」


「見てました」


「少しだけ」


マミは笑って、ノートを俺に見せた。


「ここ、教えてください」


俺は説明する。


マミは真剣に聞く。


その横顔を見て、俺は思った。


一緒に遊ぶ時間も好きだけど、一緒に頑張る時間も好きだ。


第12話 ナナの相談


ある日の放課後。


ナナが俺たちを呼び止めた。


「先輩たち、相談があります」


聞けば、ナナにも気になる男子がいるらしい。


「どうやって仲良くなればいいですか?」


マミは少し考えて言った。


「無理に特別なことをしなくてもいいと思います」


「そうなんですか?」


「毎日少し話すだけでも、ちゃんと距離は縮まります」


俺はマミを見た。


俺たちもそうだった。


電車で隣に座って、教室で話して、少しずつ近づいた。


ナナは笑った。


「先輩たちみたいになれるように頑張ります!」


その言葉に、マミは照れていた。


第13話 初めてのすれ違い


進路の話が増えるにつれ、俺とマミは少しだけすれ違った。


マミは勉強に集中する時間が増えた。


俺は邪魔したくなくて、話しかける回数を減らした。


するとマミは不安になった。


「最近、冷たくないですか?」


放課後、そう言われた。


「違う。マミの邪魔したくなくて」


「邪魔じゃないです」


マミの声が震えていた。


「ユウキくんと話す時間が、私には大事なんです」


俺は自分の勘違いに気づいた。


「ごめん」


「私も、ごめんなさい」


その日、帰りの電車では座れなかった。


でも、手をつないで帰った。


座席より大事なものを、また一つ知った。


第14話 冬の観覧車


冬休み。


俺たちは遊園地へ行った。


夕方、観覧車に乗る。


ゆっくり上がっていく景色。


マミは窓の外を見ていた。


「高いですね」


「怖い?」


「少し。でも、ユウキくんがいるので大丈夫です」


頂上に近づいたとき、マミがこちらを向いた。


「キス、してもいいですか?」


今度は、マミからだった。


俺は頷いた。


観覧車の一番高い場所で、俺たちはキスをした。


一年生の時より少し長く。


でも、同じくらい照れくさいキスだった。


第15話 隣の席の意味


二年生の終わりが近づいていた。


教室の席は離れたままだった。


でも、俺たちの距離は離れなかった。


朝の電車。


帰りの電車。


図書館。


修学旅行。


遊園地。


いろんな場所で、俺たちは隣にいた。


春休み前の最後の日。


帰りの電車で、奇跡的に隣同士の席が空いた。


マミは座ってから、俺を見た。


「ユウキくん」


「何?」


「隣の席って、不思議ですね」


「どういう意味?」


「ただ座る場所なのに、誰の隣かで全然違います」


俺は頷いた。


「俺にとっては、マミの隣が一番落ち着く」


マミは嬉しそうに笑った。


「私もです」


電車は夕焼けの中を走る。


一年生の頃より少し大人になった俺たちは、まだ未来を完全には知らない。


それでも。


どこへ向かうとしても。


隣に君がいるなら、きっと大丈夫だと思えた。


――俺たちの座席戦争は、まだ終わらない。


座席取りラブコメ戦線 Season4

〜高校3年生編、卒業までのカウントダウン〜

第1話 三年生になった朝


春。


ユウキとマミは高校三年生になった。


「ついに最後の一年ですね」


ホームで待ちながらマミが言う。


「早いな」


「入学式の日が昨日みたいです」


二人は同じ電車に乗る。


そして奇跡のように空いた二席。


自然に隣へ座る。


もう言葉はいらなかった。


座る場所も。


隣にいる相手も。


三年間で当たり前になっていた。


第2話 最後のクラス替え


最後のクラス発表。


結果は――


「同じクラス!」


マミが珍しく大声を出した。


しかも。


「席、隣ですね」


「マジか」


三年生最初の席は隣同士。


一年生で前後。


二年生で離れ離れ。


そして三年生で隣。


運命を感じずにはいられなかった。


第3話 受験モード


進路が本格化する。


ユウキは情報系の大学。


マミは教育学部志望。


志望校は違う。


しかし同じ地域だった。


「少し安心しました」


マミが言う。


「離れたら嫌か?」


「もちろんです」


即答だった。


嬉しかった。


でも同時に。


受験という現実も近づいていた。


第4話 最後の体育祭


高校最後の体育祭。


マミはリレー選手。


ユウキは応援団。


競技中。


マミが転びそうになる。


しかし最後まで走り切った。


ゴール後。


ユウキは真っ先に駆け寄る。


「大丈夫か?」


「少し痛いです」


膝に擦り傷。


ユウキは絆創膏を貼る。


周囲から歓声が上がった。


「見せつけてるな」


クラスメイトにからかわれた。


二人とも真っ赤になった。


第5話 初めての進路の不安


夏。


模試結果が返ってくる。


ユウキは順調だった。


しかしマミは少し落ち込んでいた。


志望校判定が悪かった。


放課後。


誰もいない教室。


「私、受かるかな」


弱音だった。


珍しかった。


ユウキは言う。


「受かる」


「根拠は?」


「マミだから」


マミは少し笑った。


「それ、根拠になってません」


「俺には十分だ」


第6話 最後の夏祭り


高校生活最後の夏祭り。


浴衣姿のマミ。


三年前よりずっと綺麗になっていた。


花火が打ち上がる。


マミが呟く。


「あと半年で卒業ですね」


「まだ半年ある」


「でもきっと一瞬です」


ユウキはそっと手を握る。


「一瞬でも、一緒ならいい」


マミは静かに頷いた。


第7話 文化祭の伝説


最後の文化祭。


三年生は模擬店。


しかし生徒会から依頼が来た。


「カップルコンテストに出てください」


当然断る。


しかし。


クラス全員が推薦した。


結果。


優勝した。


理由。


「自然すぎる」


「付き合ってる空気感が完成してる」


二人は恥ずかしくて仕方なかった。


第8話 受験勉強の日々


秋。


デートは減った。


代わりに図書館で会う。


同じ机。


問題集。


参考書。


会話は少ない。


でも。


同じ空間にいるだけで安心できた。


マミが言う。


「恋人というより戦友ですね」


「受験共同戦線だな」


二人は笑った。


第9話 推薦と一般


冬が近づく。


マミは推薦入試。


ユウキは一般入試。


試験日は違う。


先にマミの受験が来た。


前日。


帰りの電車。


マミは緊張していた。


ユウキは言う。


「大丈夫」


「根拠は?」


「マミだから」


以前と同じ言葉。


マミは笑った。


「その言葉、好きです」


第10話 合格発表


推薦結果の日。


ユウキは朝から落ち着かなかった。


昼休み。


スマホが震える。


メッセージ。


『受かりました』


その一行。


ユウキは思わず立ち上がった。


放課後。


駅で会う。


マミの目には涙。


「受かった」


「おめでとう」


抱きしめた。


人目なんて気にならなかった。


第11話 ユウキの番


そして二月。


今度はユウキの受験。


試験会場へ向かう朝。


ホームにマミがいた。


「見送りです」


「朝早いのに」


「恋人なので」


マミは小さな御守りを渡す。


「行ってらっしゃい」


ユウキは深呼吸した。


「行ってくる」


第12話 春を待つ日々


受験終了。


結果待ち。


人生で一番長い数週間だった。


マミは平気そうに見えた。


しかし。


実は毎日不安だった。


「もし落ちたら」


その言葉をユウキは遮る。


「落ちない」


「だから根拠」


「俺だから」


今度は逆だった。


マミは笑った。


第13話 合格


発表当日。


ユウキは震える指で結果を見る。


受験番号。


あった。


確かにあった。


合格だった。


気づけばマミへ電話していた。


「受かった」


電話の向こう。


マミが泣いていた。


「よかった……」


その声を聞いた瞬間。


ユウキも泣きそうになった。


第14話 卒業式


三月。


卒業式。


三年間の高校生活が終わる。


教室。


みんな写真を撮っている。


マミが近づく。


「卒業ですね」


「そうだな」


少し寂しい。


毎日会えていた日々が終わる。


でも。


終わりじゃない。


二人とも知っていた。


第15話 最後の通学電車


卒業式の帰り。


制服で乗る最後の電車。


入学式の日と同じ時間。


同じ車両。


同じ路線。


偶然のように二席が空いた。


二人は座る。


初めて会ったあの日と同じように。


マミが窓の外を見る。


「ここから始まりましたね」


「そうだな」


「隣に座っただけだったのに」


「人生変わった」


マミは笑う。


そして静かに言った。


「大学生になっても、隣にいてください」


ユウキは答える。


「ずっといる」


電車は走る。


高校時代の終わりを乗せて。


そして。


二人の新しい未来へ向かって。


Season4 完


→ Season5「大学生編」へ続く。


大学進学後の遠距離になりかける危機、新しい友人たち、初めてのお泊まり旅行、同棲への憧れ、そしてプロポーズへと繋がる物語が始まる。


座席取りラブコメ戦線 Season5

〜大学生編、通学電車の終点の先へ〜

第1話 大学生になった朝


四月。


桜が咲いていた。


高校を卒業して一か月。


ユウキとマミは大学生になった。


幸いなことに、二人の大学は同じ市内だった。


キャンパスは違う。


学部も違う。


それでも通学路の途中までは同じだった。


「大学生ですね」


ホームでマミが言う。


「まだ実感ないな」


「私もです」


二人は笑う。


高校生の制服はない。


代わりに私服。


でも。


隣にいる相手は変わらなかった。


第2話 新しい世界


大学生活は高校とは全く違った。


講義ごとに教室が変わる。


友達も増える。


サークル勧誘も多い。


その日の夕方。


待ち合わせ場所で再会した。


「疲れた」


「私も」


二人同時だった。


そして笑う。


朝から別々だっただけなのに。


再会すると安心した。


「会えるだけで元気になりますね」


マミが言う。


ユウキも同じ気持ちだった。


第3話 座席取りの血が騒ぐ


大学の講義。


大教室。


自由席。


その瞬間。


ユウキの本能が反応した。


「窓際二列目」


「視界良好」


「出入口も近い」


そして。


気づけばベストポジションを確保していた。


その夜。


マミに話す。


「病気ですね」


「否定できない」


「座席取りは一生治りませんね」


高校時代から続く習慣だった。


第4話 初めての大学祭


秋。


大学祭。


お互いの大学を案内し合うことになった。


マミは教育学部らしく子ども向け企画を担当。


ユウキはプログラミング展示。


「すごいですね」


マミが感心する。


「マミも楽しそうだった」


高校の文化祭とは違う。


少し大人になった空気。


それでも。


一緒に歩く時間は変わらず楽しかった。


第5話 初めてのお泊まり旅行


夏休み。


二人で温泉旅行へ行くことになった。


付き合って四年。


それでも少し緊張していた。


旅館へ到着。


部屋へ入る。


二人きり。


高校時代にはなかった状況だった。


「緊張してます?」


マミが聞く。


「してる」


「私もです」


二人とも正直だった。


だからこそ安心できた。


第6話 夜の本音


温泉旅行の夜。


部屋の窓から夜景が見える。


マミが静かに話し始めた。


「高校卒業した時、不安でした」


「そうなの?」


「離れるかもしれないって」


ユウキは少し驚いた。


自分も同じだった。


「俺も」


マミは笑った。


「よかった」


好きな人も同じ不安を抱えていた。


それだけで心が軽くなった。


第7話 初めての将来設計


大学二年生。


周囲は就職を意識し始める。


その帰り道。


マミが言った。


「将来どこに住みたいですか?」


「急だな」


「聞きたくなりました」


少し考える。


「通勤しやすい場所」


「現実的ですね」


「マミは?」


「ユウキくんがいる場所」


その答えに負けた。


第8話 同棲という言葉


大学二年の冬。


クリスマス。


イルミネーションを見ながら歩いていた。


マミが突然言う。


「同棲ってどう思います?」


ユウキは飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。


「急だな」


「聞いてみただけです」


しかし。


その日から二人とも意識し始めた。


未来の話を。


第9話 大学三年生


時間は早い。


大学三年になった。


就職活動。


インターン。


説明会。


忙しくなる。


デートの回数も減った。


しかし。


減ったのは回数だけだった。


会えた時の嬉しさはむしろ増えていた。


第10話 初めての大きなケンカ


就活中。


連絡不足が原因だった。


小さな誤解。


でも。


積み重なると大きくなる。


二人は初めて本格的にケンカした。


数日間。


連絡が減った。


しかし。


苦しかった。


どちらも。


第11話 仲直りのホーム


数日後。


待ち合わせ場所。


昔から変わらない駅のホーム。


マミがいた。


ユウキもいた。


しばらく沈黙。


そして。


同時に言う。


「ごめん」


二人とも笑った。


高校時代から変わらない。


結局。


話せば解決する。


第12話 就職内定


大学四年。


まずマミが内定を獲得した。


教育関係の仕事だった。


そして数週間後。


ユウキもIT企業から内定をもらう。


帰り道。


マミが泣いていた。


「安心しました」


「俺も」


学生生活の終わりが見えてきた。


第13話 プロポーズの準備


冬。


ユウキは決めていた。


大学卒業前に伝える。


人生で一番大事な言葉を。


リングを買う。


場所を考える。


タイミングを考える。


何度も練習する。


それでも緊張した。


第14話 始まりの電車


卒業直前。


ユウキはマミを呼び出した。


場所は。


二人が初めて出会った路線。


入学式の日に乗った電車だった。


車内は空いていた。


偶然。


隣同士の席が空いていた。


あの日と同じだった。


第15話 プロポーズ


夕日が差し込む車内。


ユウキは深呼吸した。


「マミ」


「うん」


「俺たち、ここで出会ったよな」


「うん」


「座席取りしか考えてなかった」


マミが笑う。


「本当にそうでしたね」


ユウキはポケットから小さな箱を取り出した。


マミの動きが止まる。


「これから先も」


声が震える。


「社会人になっても」


「十年後も」


「二十年後も」


「隣にいてほしい」


そして。


言った。


「結婚してください」


マミの目から涙が溢れた。


何度も何度も頷く。


「はい」


「もちろんです」


「喜んで」


車窓の外では夕日が流れていた。


四年前。


偶然隣に座った二人。


その偶然は。


人生で一番大切な出会いになった。


二人は抱き合う。


そして。


少し泣いて。


たくさん笑った。


エピローグ


数年後。


通勤電車。


朝。


一組の夫婦が並んで座っていた。


夫はユウキ。


妻はマミ。


「あ、空きました」


「行くか」


二人は自然に席へ向かう。


その動きは。


昔よりさらに洗練されていた。


「まだ座席取りやってるんだな」


ユウキが笑う。


マミも笑う。


「だって原点ですから」


そして。


肩を寄せる。


電車は走る。


あの日と同じ線路を。


でも。


二人の人生はずっと先まで続いている。


終点のない幸せな未来へ。


完結


『座席取りラブコメ戦線』

全5シーズン・全72話 完。

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