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これのどこが病弱なの?!

作者: ぐり缶
掲載日:2026/05/05

暇つぶしにどうぞ


「リリア、すまない」


婚約者であるフリード・マーケロン伯爵令息が頭を下げた。

眉を下げながら恐々とコチラを見上げる様子は、彼のふわふわしたクリーム色の髪と相まって大型犬のようですらある。


「もしや、また貴女の幼馴染ですの?」

「ああ、キャリーが体調を崩してしまって」

「はぁ……」


所謂、病弱な幼馴染というやつである。

私ことリリア・フィアライト子爵令嬢は目の前の婚約者に、同様の理由で予定をすっぽかされまくっているのだ。

彼の幼馴染というのはキャリー・ベネディクト男爵令嬢で、幼少期から体が弱く今でもほとんど床に伏せっているらしい。


「毎度のことですけれど、どうして貴方が呼ばれるのですか?」

「僕がいると、その…症状が楽にらしくて」

「……本当に?」


思わず胡乱な目を向けてしまう。

フリードはそんな私を見てまた申し訳なさそうに身を竦めるが、ソワソワと早く幼馴染のところに駆けつけてやりたいといつ雰囲気を感じる。


浮気なのかと言われると、私自身よくわからない。

フリードは素直で嘘を吐くのがとてつもなく下手だ。

私との約束を反故にするのもいつも直接出向いて頭を下げるし、埋め合わせとして後日貢物をたくさん持ってきては叱られ待ちの犬のように小さくなっている。

家の都合で組まれた婚約ではあるが、それなりに交流は重ねてきた。

だからこそ、分からないのだ。


(彼自身の浮気か、幼馴染さんの懸想か…どちらにせよ…)


私はひとつため息を吐いて、頷いた。


「わかりましたわ。本日の予定はキャンセルで」

「リリア…」

「私も共に行くわ。我が家の医師にも同行してもらいましょう」

「リリア…!ありがとう…!」


フリードは渋るかとも思ったがそんなことはなかった。

医師は現地集合ということで、早速馬車に乗って幼馴染さんの家へと向かう。

ベネディクト家の屋敷に到着し、使用人達に驚かれつつも幼馴染さんの部屋に通される。

扉の向こうから一際大きな咳き込みが聞こえた。


「キャリー!」


フリードが部屋に飛び込んでいく。

中ではベッドにうずくまりながら水っぽいゼェゼェとした呼吸をする少女がいた。

銀の髪に透き通るような水色の瞳。顔色は病的に白く、口の周りと手が赤く汚れている。


「フリー…ド…げほっ」

「キャリー、ほら、ゆっくり息をして」

「うっ、フリード…きてくれた、の…」


そして彼女の瞳が私を捉える。

途端に彼女は目を見開き大きく身を震わせた。


「あ、あ…あの、フリード、彼女は…」

「僕の婚約者のリリアだ。君を心配してお見舞いにきてくれた」

「り、リリア様…!」


彼女はフラフラと身を起こしてそのまま身体を折り曲げて頭を下げた。


「申し訳、ございません…!貴女のフリード、を、私何度も呼び出し…げほっ!」


咳き込みながら私を見上げるその顔は悲壮感に満ちているが、何かしらの覚悟を持ったような視線だった。

自分がしていることを理解していて、いつかこんな日が来るとわかっていた人間だ、彼女は。

フリードがキャリーの背を摩ると、キャリーはいくらか呼吸が楽になったかのように息を吐く。


「これが…病弱…?」

「リリア…?」


怒りがふつふつと湧き出してくる。

血を吐いてのたうち回るような症状が、病弱?

それにフリードが彼女の手や背に触れている間、確かに彼女は多少落ち着いているように見えた。


「フリード、なんでもっと早く教えてくれなかったの…」

「リリア…?」

「この家の人間は何をしていたの…?」

「リリア、さま…」


こんなもの、病弱で済まされて良い筈がない。

立派な病だし、それ相応の治療をしなくてはいけない。

この子の両親は何故彼女を放置しているの?

フリードは何故誰にも言わなかったの?

彼女のことを思うと怒りで涙が出そうになる。

服の袖からのぞく手首は折れそうに細い。


「リリア様、医師が到着いたしました」

「早く彼女をみてあげて」


私の指示で医師がキャリーへ駆け寄って行く。

アキラという名前のこの医師は、普通とは少し違う特別な医師だ。

医療と魔法の両方に精通しており、普通の医師ではできないこと(理念や思想のせいでできないこと)もやってのける。

我が家で雇うにあたり、研究費用のための莫大なお金を条件としている。

アキラはキャリーの身体に手を翳しくまなく見ていく。

そして声を震わせて顔を上げた。


「これは…魔力過多症の末期です…」

「魔力過多症…?!」


魔力過多症は主に幼少期に罹患する病である。

身体に合わない膨大な魔力によって体調不良となるという、いたってありふれた病だ。

通常は幼少期に魔力操作を学び排出したり、魔石を握らせて魔力を吸い出すといった簡単な対処法でどうにかなる。

身体が成長すれば魔力量に器が追いつき問題にはならず、基本的に重篤化はしないはずだ。


「キャリー嬢はおそらくその治療も行っていない上に、未だ体が魔力に追いついていない…。大きすぎる魔力が体内で結晶化し、内臓を侵食しています」

「そんな…!!」


細かいガラスのような結晶が内蔵に食い込んでいる状態だと言う。

むしろこの年齢まで生きて来れたのが奇跡だというくらいに。


「ど、どうすればいいのでしょうか…?」

「そうですね…その前に、フリード君」

「はい…」

「君のことも少し調べさせてください」

「へ?」


医師は鞄から取り出した大きな魔石をキャリーの手に握らせてから、フリードの腕を掴んで一目散に部屋を出ていく。

残されたのは、私とキャリーだけだ。

キャリーが深く頭を下げる。

魔石を両手でぎゅうと握り、祈りを捧げているようにも見える。


「リリア様…改めて申し訳ありません…」

「…いいのよ、貴女も辛かったわよね」

「……聞いて、頂けますでしょうか」


キャリーはぽつぽつと語りだす。その内容は酷いものだった。

キャリーの両親は既に他界しており、現在当主として家を回しているのは伯父とその妻だそうだ。

伯父夫婦は彼女にお金をかけることを嫌い、病弱ということで家に閉じ込めてまともな治療を受けさせなった。

彼女の味方は使用人とフリードのみで、彼女は極力フリードを呼ばないようにと言ってはいたものの彼女の容体があまりに悪いと使用人が独断でフリードに知らせていたという。

歳を重ねるごとに症状は悪化し頻度も増え、それが私達の約束の日とたまたま被り続けてしまったのだ。

フリードもあちこちに働きかけようと言ってはくれたがキャリー自身が止めていたらしい。


「…死にたいと、思っていました。死んだらどんなに楽だろうと…」


婚約者ができたあともフリードがキャリーの所へ何度も通っているとなればフリードや婚約者に迷惑がかかる、とそれっぽいことを言い連ねて口止めをしたらしい。何度も言われてフリードは渋々納得してくれた。

それでも嘘がつけないフリードは私にだけは馬鹿正直に伝えていたのだ。


「フリードや、使用人たちや…リリア様に迷惑をかける自分が、嫌です……。死にたいと思っているのに、フリードが手を差し出してくれると、やっぱり死ぬのが怖くて縋ってしまう自分が、嫌……」


涙をこぼすキャリーの背をそっと撫でる。


「……大丈夫よ、我が家の医師は優秀だわ」

「リリア様…」

「貴女が元気になったら一緒にお出かけもしましょうね。その前に、この家の悪いものを全部取り去って…ふふ、やることが沢山あるわね」

「…ふふ……ありがとうござ…げほっ」

「ほら、横になって。私がそばにいるわ。安心しなさい」

「…はい…」


未だ不安そうな顔でベッドに横たわるキャリーを見ながら、私はこれからやらなくてはいけないことを頭の中で並べ始めた。



結論から言うと、全てがうまくいった。

驚くべきこともいくつか発覚した。


まず一つ目、フリードは聖女だった。

男性なので聖女というのもおかしいが、聖なる魔力をもつ者は一律聖女と呼ばれているためフリードは聖女だ。

聖女は世界にも数人しかいない神に祝福された希少な存在である。

アキラが引っ張っていったのは魔力の測定ができる専門機関で、そこで聖魔力が判明。キャリーが重篤ながらも死ななかっなのは定期的にフリードに会っていたからだそうだ。とは言え、自身が知覚していないちょろとっと垂れ流されていた魔力だけでは治癒には至らなかったという。

フリードはそのままの足で教会に連れて行かれ、聖女の魔法を必死に覚えた。その後アキラの研究室に連行されてアキラの医療知識と魔法も叩き込まれた。

付け焼き刃ではあるが、世界で1番医術に詳しい聖女の完成である。

キャリーはなんとか持ち堪え、フリードの力で無事に治癒へと至った。


二つ目、キャリーは超魔力の持ち主だった。

身体が動かせるようになったキャリーはアキラに連れられて魔力測定を行った。

結果として、キャリーは現時点で王国魔術師団長に匹敵する魔力を持っており、しかも魔力量は現在も増加中らしい。

順調に進めばいずれは魔王にも匹敵するのではと言われている。

ずっと寝たきりだったキャリーは現在必死にリハビリを進めている。


キャリーの家の諸々もなんとか解決した。

伯父夫婦は処断。爵位は一度国に返して我が家の養子となった。

つまり私の義妹である。

お姉様、と呼んでくれるのが可愛くて仕方ない。


フリードはまだ私の婚約者ではあるが聖女として国から依頼を受ける立場になったため、自宅、私の家、王城、神殿と行き来していて大変そうだ。

婚約者としてゆっくり時間は取れないが、時々半泣きになりながら私の元へ転がり込んでくる。


アキラ医師は今回の功績(主に聖女の発見)が讃えられ国から専用の研究施設を褒美としてもらったが、未だに私が雇い主という形だ。

王国の魔法と医療研究の第一人者として名前を馳せる形となった。


私と言えば…


「まあ、私は何をしたわけでもないし何も変わらないわね」

「本当にそうでしょうか?」


新しい紅茶をカップに注ぎながら侍女が微笑む。


「聖女の婚約者、高魔力保持者の姉、国1番の魔法と医療研究者の雇い主…彼らに囲まれて愛されているお嬢様も今では有名人ですよ」

「ふふ、まさか」


冗談に笑いながらカップに口をつける。

そよそよと穏やかな風が気持ちいい。


「人生何が起こるかわからないものね…」


書きたいところだけ書きました

超ご都合主義

破綻している部分は脳内で補正してください

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― 新着の感想 ―
貴女の幼馴染〜は、聖女フラグでしたか。
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