過去とわたし
岩下鈴:社会人1年目のOL。面倒見がよく思いやりがあり、真面目な性格。田舎を飛び出して都会に上京してきた。過去の輝かしい栄光に苦しめられている。
月岡昴:中途採用されてきた新入社員。イケメンで高身長だが、不器用で仕事ができない。寡黙でシャイだが、誠実で優しい性格。とある過去の記憶を抱えている。
山田真衣:鈴の勤め先にいるとても美人な先輩。勤務歴は10年目。基本的には優しいが、ライバルには絶対に勝ちたいという競争心を隠している。上司のお気に入りになることが得意。
川口晴美:鈴の親友。子供の頃からの夢だった教師になり、新任として奮闘している。気配りができて人に寄り添う優しい性格。仕事で悩みを抱えている。
岩下登紀子:鈴の母親。真面目で家族想い。保育士として働いている。
岩下茂雄:鈴の父親。お茶目で楽観的な性格。消防士として働いている。
月岡くんが来て1か月程が経ち、ついに佐藤係長が来る日となった。新入社員がどんな働きぶりなのか、おじさんが偵察にやってくるのだ。それでも、月岡くんはいつも通り落ち着いた表情をして出勤している。
いつもの彼の様子を係長に見られたら…。なぜか私の方が緊張してきてしまう。
「今日は昼休みの後に佐藤係長が来てくださるので、しっかり仕事しましょう。特に…月岡くんは気を引き締めてね。」
今日の朝礼担当の山田先輩が月岡くんに釘を刺す。彼は「はい。」といつも通り返事をした。彼の横顔は高い鼻立ちときゅっと結ばれた唇でいつもと変わらず綺麗だった。
朝礼が終わると、山田先輩がいきなり私の腕を引っ張ってオフィスの外に出た。
「え!?ちょっと!あの…何でしょうか?」
「鈴ちゃん。今日は勝負どころなの。だからお願いしたいことがあって。」
私が眉を八の字にすると、先輩は私の耳元でコソコソと囁いた。私はそれを聞いて、大きくかぶりを振った。
「断ります!」
「待って待って、鈴ちゃん。お願い!一生のお願いだから!」
「でも…。」
私が渋っても、山田先輩の意思が変わることはなかった。私は仕方なくそのお願いを聞き入れることにした。
あっという間に大塚課長と佐藤係長が来る時間になってしまった。私は山田先輩に言われたことを思い出して、慌てて月岡くんの元に向かった。彼はホチキスで何枚かの資料を留める作業をしていた。
「月岡くん、お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
彼が澄んだ瞳で私を見つめてくるので、私はだんだん胸が苦しくなってきた。
「あのさ…課長と係長が来たらなんだけどさ。私が代わりに月岡くんの仕事やるから、月岡くんも隣で仕事をしているかのように振る舞ってもらっていい…かな?」
「うん?それって…俺担当の仕事を奪いたいってことですか?」
案の定、月岡くんの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。私は「違う違う!全然違います!」慌てて否定する。
「正直言うと、これは山田先輩からの命令で…。月岡くんには仕事ができるフリをしてほしいってことなの。」
「なるほど…。でも、それはダメなことでは?」
月岡くんが困った表情でこちらを見るので、私は一気に胸が締め付けられるような気持ちになった。
「そうなんだよ。良くないことなんだけど、でも、今日を乗り切るためにはやった方が良いと思うんだよね。」
私がそう話した時、オフィスの扉が大きな音を立てて開いた。私と月岡くんがそちらに目をやると、そこにはなぜか上機嫌っぽい佐藤係長が立っていた。
「佐藤係長!お忙しいところ、ありがとうございます。今日も相変わらず暑いですね。」
山田先輩が声のトーンを上げて係長に話しかける。係長はニコニコしながら彼女の話に頷いた。
「暑かったよ~本当に溶けちゃうかと思ったくらいだ。山田くん、今日は黄色のワンピースか!向日葵カラーで素敵じゃないか!俺がよく行くスナックの名前もヒマワリなんだぜ。」
私が苦笑いしながら係長の話に耳を傾けていると、意外にも月岡くんが声を発した。
「あの…そこってスナックじゃなくて、ガールズバーではないですか?」
「つ…月岡くん!」
山田先輩が顔を青ざめると、係長が眉間にしわを寄せながら彼の方に歩いてきた。私は反射的に月岡くんの前に立った。係長は怖い顔をして彼を睨んでいる。
「そうだよ、ガールズバーだよ。なぜそれを知っている?」
「なぜかと言うとですね…。」
月岡くんが淡々と答えようとすると、係長は急に笑顔になって大きな声を出した。
「まさかこんな好青年がヒマワリに行ってるとはな〜!すごいじゃないか、月岡くん。あそこを選ぶなんて、なかなか良いセンスしてるぞ!?」
「え!?いや、そういうことでは…。」
彼は慌てて訂正しようとするが、係長は聞く耳を持たずに話を続ける。
「あとでゆっくり情報共有しような。ちゃんと話せる人がいなくて淋しかったんだぜ。」
「うん?何の情報を…?」
「あ、あの!係長!今日は仕事の様子を見に来たんですよね!?」
私が軌道修正するために話し出すと、係長は我に返ったように何度も頷いた。
「そうだ、そうなんだよ。さあさあ、みんな突っ立ってないで仕事してくれ!仕事、仕事!」
「はい!」
社員全員で返事をして、私たちはすぐに業務に当たる。私だけは月岡くんに付き添って仕事を行っていた。係長はしばらく山田先輩から事情聴取をして、それから私たちの様子を観察し始めた。
「月岡くん。仕事には慣れたかい?」
後ろから声を掛けられて、私と月岡くんは同時に振り向いた。係長は私を不思議そうに見つめる。
「なぜ隣にいるのだ?彼はもう1人で、仕事できるんだろう?」
「はい!もちろんです!ただ、今日は新しいことを教えてるので…。」
私が何とか誤魔化すと、係長は納得したように頷いて月岡くんに目をやった。
「月岡くんはイケメンだから困るなぁ…どれくらいの頻度で行ってるんだ?」
「い…行ってる?」
彼がキョトンとすると、係長はニヤニヤしながら彼の肩を叩いた。
「ヒマワリに行くってことだよ!なんでそこで突っかかるんだよ!」
「ヒマワリですか…今年は行ってないですね。」
月岡くんの答えに私は驚いて目を丸くする。係長はまだ質問を続ける。
「今年は行ってないのか?じゃあ、最後に行ったのはいつなんだ?」
「うーん、たぶん一昨年くらいですかね。」
「2年前から行ってるのか!俺はまだこの夏からだと言うのに。」
「毎年行く人は行くんでしょうけど、去年は忙しくて行けなかったんです。」
係長と月岡くんの会話が止まらなそうなので、私は慌てて「あの!」と声を出した。2人は会話を止めて、一斉にこちらを向く。
「仕事しないといけないので…大変申し訳ないのですが、会話は控え目にしたいと思いまして。」
「そうだよ、岩下くんの言う通りだ。じゃあまた後でな、月岡くん。」
係長はあっさり承諾して私たちの机から去っていった。私が横目で彼を眺めていると、彼がちらっとこちらを向いた。
「何か…顔についてます?」
「あの、月岡くん…本当にガールズバー行ってるんですか?」
「ガールズバー?何の話ですか?」
私は目を細めて月岡くんに近づいた。
「とぼけないで下さい。さっき係長が話してたヒマワリですよ、ガールズバーヒマワリ!」
「え…?あ、さっきの話まだ続いてたんですか?」
私が唖然としていると、彼は話を続ける。
「ヒマワリって花のことじゃなかったんだ…。俺、ひまわり畑の話をしてると思って話してたんですけど。」
「ええ!?」
私は思わず大きな声を出してしまう。
「何!?どうしたの、鈴ちゃん。」
山田先輩が心配そうに私たちの方に来る。幸いにも、係長は別の社員と話していて気付いていない。
「ちょっとちょっと、月岡くんもおかしいじゃない。ガールズバーのこと、なんであの場で言うのよ。」
ヒソヒソ話す先輩に、月岡くんは苦笑いして何か思い出したような表情をした。
「あの、すみません。さっきの人って…課長でしたっけ?」
「はあ!?」
先輩が口パクで言ったので、私はすぐに「係長だよ、佐藤係長。」と小声で伝える。
「山田くん、月岡くん、それと…岩下くん。そろそろ私はおいとまするよ。色々な話ができて面白かったぜ。」
係長がオフィスの扉の前で手を振っている。私たちは慌てて立ち上がり、山田先輩は係長の前に向かった。
「佐藤係長、もう行っちゃうんですか!?またぜひ来てくださいね。」
「もちろんだとも。月岡くんのことは、知り合いの重鎮にも話しておくよ。きっと気に入られるだろうな。」
それを聞くやいなや、私は勢いよく佐藤課長の方に走った。
「待ってください!その、月岡くんが言ってたヒマワリは…違うんです。」
「違う…?」
係長が怪訝そうに月岡くんに目線を送る。彼は一歩前に出て丁寧にお辞儀をした。
「俺が話してたのは、ひまわり畑のことです。お花のひまわりのことを…言ってたんです。」
「何だって!?」
佐藤係長が腰を抜かすと、月岡くんは話を続ける。
「ガールズバーのヒマワリを知ってたのは…たしか最近…偶然広告を見たからだと思います。」
周りの社員たちがざわつき始める。佐藤係長はまた彼のことを鋭い目で睨んだが、すぐに大笑いし始めた。
「何だよ、そうだったのか!だよな、あそこは君のような若造にはまだ早いと思ってたよ。最初から最後まで面白い奴だな、月岡くんは。」
係長は笑いながら「じゃあ、また。」と後ろ向きで手を振ってオフィスを去っていった。月岡くん以外、社員みんなはしばらく突っ立ったままだった。
「今日はみんな、本当によく頑張ったわ!さあさあ今日は私の驕りなんだから、いっぱい食べていっぱい飲んでちょうだい!」
退勤後、私たちは山田先輩にほぼ強制的に飲み屋に連れていかれた。先輩が「今日は打ち上げだ!」と突然言い出し、私たちはしぶしぶ付いてくるしかなかったのだ。もちろん、月岡くんも来る羽目になった。山田先輩はちゃっかり月岡くんの隣に座り、ビールを片手に盛り上がっている。
「すごかったわよ、今日の月岡くん。すごくかっこよかったわ。顔だけじゃなくて性格までかっこいいのね。」
「いえいえ、ありがとうございます。」
淡々と答える月岡くんはお酒は飲まず、ウーロン茶をゆっくり飲んでいる。彼はだし巻き卵を箸で掴んで口に運ぶと、少し顔を明るくした。たぶん美味しかったのだろう。私もだし巻き卵に手を伸ばすと、月岡くんが「あの…。」と話しかけてきた。
「岩下さん。さっきはありがとうございました。課長…じゃなくて、係長に伝え直してくださってすごく助かりました。」
「あ…いやいや、何か私が勝手に言ってしまって。でも、あのままだと本当に月岡くんがそういうお店に行ってることになっちゃうと思ったから、絶対に訂正しないとと思って…ただただ無我夢中で…。」
私はそこまで話してビールを一口飲んだ。すると山田先輩が「生、もう一杯!」と叫んでから、私をじーっと見つめた。
「鈴ちゃんさ、月岡くんのお姉ちゃんなの?めっちゃ面倒見いいわよね。2人は年も近いし、兄弟みたいなもんね。」
「いや、近いと言うか、同い年です。同級生ですよね、俺たち。」
月岡くんがすぐに訂正したので、私は目を丸くしたまま小さく頷いた。
「岩下さんって…どういう大学に行ってたんですか?」
彼が私に質問してくる。私は驚きを隠せないまま、何とか口を開いた。
「私は教育系の大学に行ってたんだ。」
「なるほど…それじゃあ、教師を目指してた…とか?」
「まあ…そうだね。うん。」
私はもう一口ビールを飲んだ。今度は少し多めに飲んだ。
「私はね!私は東京の有名私立大学を卒業してるの。ミスキャンパスにも選ばれたことあるんだから!」
山田先輩が話に割って入ってくるが、月岡くんは軽く流して私にまた質問をし始めた。
「高校時代はどういう部活やってたんですか?」
「…演劇部だった。」
私は高校時代に心を持っていかれそうになる。大きなホールで大拍手を体いっぱいに受け止めていたあの頃の自分が、トロフィーを片手に仲間と抱き合った自分が…目の前にいるみたいだった。
「鈴ちゃん、演劇部!?意外ね、美術部とかで静かに活動しているのかと思ってたわ。私はね、チアリーダーだったの。キャプテンにもなったこともあったのよ。」
山田先輩は新しく届いた生ビールもごくごく飲む。まるでおっさんみたいだ。
「月岡くんは?何してたの?大学とか、高校とか。」
私が月岡くんに逆質問すると、彼はポテトを食べながら話した。
「大学では植物について学んでました。高校は…うーんと、バレー部でした。ずっと補欠でしたけど。」
「植物にバレー…か。植物の方が好きなんじゃない?」
私の言葉に彼は大きく頷いた。
「はい!特に好きなのは桜です。ジュウガツザクラがすごく好きで、それを見るために兵庫県の大学に行ったんです。」
「へえ…すごい!そんなにその桜が好きなんだね。」
そこまで言って私はハッとした。そういえば、あの時に拾ったお守りにも桜の刺繍が施されていた…!
「2人だけで話さないでちょうだい。私だって、混ぜてよ~!ねえねえ、月岡くんってば。」
山田先輩はかなり酔ってしまっている。彼女は自分の身体を月岡くんに押し付けるようにもたれかかった。彼女のブラウスのボタンが取れて、私は慌てて彼女を支えた。月岡くんは「大丈夫ですか?」と心配そうに先輩を見つめる。山田先輩は月岡くんの頬を両手に包み、上目遣いで彼に呟いた。
「ねえ、私、月岡くんが好きなの。付き合って。私、あなたの彼女になりたいの。」
「ちょっと…!山田先輩…しっかりしてください!」
私は彼女のブラウスのボタンを閉めようとするが、彼女が私の腕を振りほどいてしまう。月岡くんは目線を上に反らしながら反応に困っている。
「月岡くん…私と一緒にいてよ。一目惚れしたんだから。」
「ひとめぼれ?コシヒカリとか、ササニシキとか…だて正夢も美味しいですよ。」
月岡くんは少し山田先輩から距離を置いた。私が「なんで今そんなボケできんの!?」と彼に言うと、彼は「ボケ?」と首を傾げる。私は頭を抱えたが、すぐに山田先輩のブラウスのボタンを閉めた。
「あの…みなさん!今日はもうお開きで!解散しましょう!」
私が立ち上がって叫ぶと、社員のみんなは次々とお店を出て行った。みんなあんまり乗り気じゃなかったから、速やかに帰っていった。私と月岡くん、そして酔っ払い女の3人だけがお店に残されてしまった。
「仕方ない…今日は私が払うしかないか…。」
私が伝票をもってレジに向かおうとすると、月岡くんが「待ってください。」と腕を掴んだ。私はこんな時なのに自分の胸の鼓動が速くなっていくのを感じる。
「岩下さんは山田先輩を見ていてほしいです。ここは俺が払うので、大丈夫です。」
「いや、でも…。」
「大丈夫です。任せてください。」
月岡くんの真っ直ぐで綺麗な瞳に私は頷くしかできなかった。彼はスマホを手にレジに向かった。
山田先輩はテーブルに突っ伏して熟睡してしまった。私は何度も声をかけたが、全く起きる気配がない。私は先輩の身体をなんとか動かし、椅子から立ち上がらせた。月岡くんは会計を済ませて、私と一緒に先輩を支えてくれた。私はスマホでタクシーを呼び、彼女を車に乗せた。
「あれ…?私、なんでここに…?」
車の椅子に座ると、先輩はようやく目を覚ました。私はタクシー運転手に「○○駅までお願いします。」と伝え、先輩にお金を持たせた。
「鈴ちゃん、いいよお金は。」
「いや、ダメです。車の中で気持ち悪くなってお金払えなくなったらどうするんですか。お金、財布から出せなくなるだろうし、念のため持っておいてください。1人で帰れます?」
「はい…すみません…。」
先輩が眉毛を八の字にして頭を下げる。私がタクシーから離れると、扉が自動で閉まった。それからタクシーはすぐ出発した。
私が肩を撫でおろすと、一歩後ろにいた月岡くんが隣に立った。
「山田先輩は、いつもあんなに酔うんですか?」
「うーん、お酒に強い人だから珍しいと思う。今日は飲むペースが速かったからかな。」
「そうなんですか。それに、先輩のお家も分かってたんですね。」
「まあね。あの人、おしゃべりだから前に聞いたことあったんだよね。今思い出して良かったな。」
私と月岡くんは2人でゆっくり歩き出した。もう時刻は22時を過ぎていた。私は酔っ払いの介抱にすっかり疲れてしまって、言葉数が減ってしまう。無言の時間が長くなり、少し気まずい。
「岩下さん。」
月岡くんがはっきりと私の名前を呼んだので、私は「はい!」と大きな返事をしてしまった。
「岩下さん、演劇部で…新聞記事に載ってましたよね?」
彼の言葉に私の疲れが一気に吹き飛んだ。私は足を止めて彼のことをただただ見つめる。
「部活の運営方法を見直して…ゼロから立て直しをした伝説の女子高校生…。」
周りの雑音が何も聞こえなくなった。まるで私と月岡くんの2人だけがこの世界にいるかのような、不思議な感覚に陥った。黙ったままの私に、彼は話を続ける。
「僕の高校でも有名になってたんです。高校生ながらに自分の所属集団の運営をより良くしようと動いた、同い年の女子高校生がいるって…校長先生も担任の先生も話してました。それが岩下…鈴さんだって。」
私は俯くしかできない。そんな私を見て、月岡くんは「やっぱり…そうなんですね。」と頷いた。
「すごいですよね。高校生の頃からそうやって行動できるなんて。それに…。」
「もうやめて!!!」
自分でも驚くくらいの声で私は叫んでしまった。私は怖くて彼の顔を見ることができない。
「あれはもう…私じゃないの。」
私は涙を堪えながら小さく呟いた。
「私じゃ…ない?」
「ごめん、もう行かなきゃ。じゃあね。」
まともに彼の顔を見ず、私は走り出した。とにかくここからいなくなりたい、そう思って仕方がなかった。
ようやく家に着くと、私はベッドに倒れ込んだ。ただただ嗚咽を漏らすことしかできなかった。
ー「演劇部は人気のない部活だったんですよね?たしか、活動内容がハードすぎたんですよね?」
新聞記者の男性が興味津々に私に質問してくる。私は「そうですね。」と答え慣れた質問に丁寧に答え始めた。
「週6の練習をしてる部活だったんです。しかも、1回の部活の時間は5〜6時間。あまりにもブラックすぎると噂になり、部員数が一気に激減しました。そこで私は、練習の時間を節約して効率の良い練習ができるように部活の運営方法を考え直したんです。」
「具体的にどんな風に変えたんですか?」
「まず、週に4回の部活動に時間を減らしました。1回の部活動も4時間だけに設定しました。それでも、練習の質を向上させることで、部員が無理なく部活ができるように運営方法を変えました。私1人だけでというよりは、先生やメンバーと相談しながら行いましたけど。」
すると新聞記者の男性は、私に対して拍手を送ってくれた。
「素晴らしいですね…!感心しすぎて言葉が出なくなりましたよ。」
私は思わず頭を掻いて「ありがとうございます。」と微笑んだ。男性はさらに質問を続けた。ー
あの頃の自分が懐かしかった。可能性に満ち溢れた輝かしい光を身にまとったあの頃の自分が。
あの光は、6年前に置いてきてしまった。今ここにいる私は、あの子とは別人に過ぎない。
今の私には全く関係のない人間なんだ。
きっと6年前の岩下鈴なら…今頃自分の夢を叶えて晴美と一緒に働いているだろう。
ベッドからゆっくり体を起こしたが、またすぐに枕に顔をうずめた。私はそのまま夜の暗闇の中へ、深い眠りに就いてしまった。
つづく
ご一読いただきありがとうございました!次回もどうぞお楽しみに♪




