第八話 終結
「……っ!? 貴様っ!? まさか! 魔王か!?」
「嗚呼、我はシベリウス。魔王国の国王である」
魔王の登場に狼狽するビュレット公爵。一国の王に対して大変失礼な態度をとるビュレット公爵だが、魔王は気にした素振りはない。ビュレット公爵のような者は眼中にないようだ。魔王はジュリアの隣に立つと、ビュレット公爵に対峙する。
同僚から聞いていた通り、全身を漆黒の色で固めた魔王は威圧感を放つ。
「魔王が何の用だ!? 不法入国だぞ!? それも魔王自身が行ったとなれば、侵略行為と見なして魔王国に宣戦布告するぞ!?」
「お前がそれを言うのか……」
ビュレット公爵は、魔王の登場を理由に開戦を告げる。それに対して魔王は溜息を吐いた。
「な、なんだ!? 私はこの国の為に……」
「ブルーリナ王国の国王と王妃を昏睡させ、王太子を傀儡人形にしようとしていたお前がそれを語るのか?」
下手な言い訳を口にするが、魔王は鋭い目線を送る。
「……っ!?」
「お前が唆した連中は捕縛済みだ。そして我が国の裏切り者たちも捕えてある。言い逃れはできないぞ」
王としての風格と共に、威圧的な魔力がビュレット公爵へと放たれる。如何やら既にジェームズたちや、ビュレット公爵と繋がりのある魔族たちは捕えられているようだ。流石はジュリアを幸せにできる魔王である。仕事が早い。
「……言い逃れ? 誰がその様なことをするものか!!」
「っ!?」
ビュレット公爵が怒鳴り声を上げると同時に、俺の首に冷たい物が当てられた。ナイフである。
「アレン様!?」
「王太子を人質にする気か……愚かな」
ジュリアが悲鳴にも似た声を上げた。魔王は冷静だが、ビュレット公爵の行い憤りを感じているようだ。何せ臣下が自国の王太子を人質に取っているのだ。そしてそれにより、ジュリアと魔王を如何にかしようと考えているのだろう。浅はかである。魔王が怒りを感じてもおかしくはない。
「五月蠅い! 黙れ!! お前たちは、アレン王太子殿下を害そうとした罪人として処分する!! お前たちさえ居なくなれば、計画の修復はできる! 私は王になるのだ!!」
「ぐっ……」
魔王の言葉に逆上したビュレット公爵はナイフに力を込める。それにより、俺の首が圧迫される。息苦しさから、くぐもった声が漏れた。
「アレン様っ!? ビュレット宰相! アレン様を開放なさい! 貴方の野望は頓挫したのです!」
「黙れっ!! 私の計画は終わってなどいない!!」
俺の状態にジュリアが焦り、ビュレット公爵に開放を促すが聞く耳を持たない。これ以上は、ジュリアと魔王に迷惑がかかる。長引かせるのは良くない。
「……っ、ジュリア。君は何も動かないで、大人しく静かにしていてくれ。頼むから……」
「っ!? ……アレン様」
この状況を打開する為に、俺はジュリアへ言葉をかける。彼女は俺の言葉聞くと俯いた。
「ははははっ!! 聞いたか!? アレン王太子殿下も、お前を不要だと言うのだ! 大人しく、私の指示に従って……ぐぶっ!!?」
ビュレット公爵が勝利を確信し、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。高揚した為に、俺の首からナイフが離れた。すると鋭い拳が、ビュレット公爵の顔面に打ち込まれる。その勢いは凄まじく、ビュレット公爵は後ろの壁に叩き付けられた。
「アレン様に危害を与えるのは、私が許しません!」
華麗に着地を決めたジュリアが、ビュレット公爵へ拳を向ける。ジュリアは聖女だが戦闘力が高い為、昔から俺の警護も兼ねていた。先程の言葉は昔から、俺とジュリアで決めていた合言葉である。
俺が発言した『君は何も動かないで、大人しく静かにしていてくれ。頼むから……』というのは、敵を油断させる為の噓だ。本心は『君は自由に動いてくれ、俺のことは気にせずに大暴れしてくれ。頼んだよ……』という意味である。それを理解したジュリアが、一撃でビュレット公爵を殴り沈めた。
本当に昔から頼りになる人である。
「……っ、アレン様! お怪我はありませんか!?」
ジュリアが俺の下に駆け寄ると、心配そうに尋ねた。これからジュリアは、魔王と共に人生を歩むのだ。俺はそのことを祝福しなくてはいけない。
「嗚呼、大丈夫だ。助けてくれてありがとう」
胸に痛みが走ったが、俺は笑顔で返事をした。




