第七話 帰還
「……し! 失礼いたします!!」
スプーンを口に含む寸前のところで、扉が乱暴に開く。そして弓使いのパルスが駆け込んできた。
「……っ!」
俺は思わずスープを飲む手を止める。
「な、何事だ!? 王太子殿下の食事中だぞ!?」
ビュレット公爵は突然入ってきたパルスに怒鳴り声を上げる。パルスの乱入により、俺がスープを飲むことを止めた。それにより、俺を傀儡人形にするタイミングが中断したのだ。ビュレット公爵が怒りを露にするのは仕方がないことである。
「そ、それが……侵入者が……ぐえっ!?」
パルスが弁解を口にしょうとすると、彼の背後にある扉が吹き飛んだ。そしてパルスはその扉の下敷きになる。
「こういう理由ですよ。お久しぶりですね、ビュレット宰相?」
凛とした声が響くと、廊下からジュリアが姿を現した。
「……なっ!? 聖女ジュリア!?」
ジュリアが突然登場したことに、ビュレット公爵は驚愕の声を上げた。それはそうだろう。ビュレット公爵が出した命令により、ジェームズたちが処分したと思い込んでいたのだ。ジュリアの生存は、ビュレット公爵にとって大変都合が悪いのである。
「……ジュリア?」
「はい! アレン様! 只今、聖女ジュリア戻りました」
ゲームの展開よりも帰還が異様に早い。俺は不思議に思いながら、ジュリアの名前を呼んだ。するとジュリアは、花が咲くような笑みを俺に向けた。彼女が無事であるのは大変嬉しいが、少々ゲームの進行とは異なるようだ。
「くっ! 何故、無事なのだ!? 何故此処に居る!?」
「私は貴方の恐ろしい計画を阻止する為に戻ってきました」
俺がジュリアの無事に安堵していると、ビュレット公爵が叫ぶ。ジュリアが無事であり、王城にいることが信じられないようだ。それに対してジュリアは、冷静に帰還の理由を告げた。
「なっ……なにを根拠に!? その様なことを……」
ビュレット公爵は、落ち着いたジュリアの言葉に苦しそうな表情を浮かべる。
「私を魔王国との国境で、激流へと落とす際にジェームズたちが得意げに語っていましたよ。アレン様を操り、ブルーリナ王国を乗っ取る計画だと。そして一部の魔族と取引をして、私腹を肥やす算段だということも知っています」
ジュリアは毅然とした態度で、ビュレット公爵の計画を告げた。如何やら計画が露見したのは、ジェームズたちが原因のようだ。優位な立場になると、得意げに語りたくなるのは良くない癖である。だからジェームズは騎士団長の器ではなく、今までなれなかったのだ。
「っ!? アレン王太子殿下、あの者の言葉など信じてはなりません! 聖女ジュリアではありません! 聖女を語る逆賊です!」
「……ビュレット宰相」
形勢が不利だと判断したビュレット公爵は、俺を誤魔化そうとする。ジュリアとビュレット公爵のどちらの言葉を信じるかなど、初めから決まっている。俺は憐れむようにビュレット公爵を見た。
「……っ!? 殿下! 私は!」
「無駄です! アレン様はビュレット公爵の計画を見抜いておられます。このお守りを渡して、私を守って下さったのです!」
ビュレット公爵は表情を強張らせると、尚も言い募ろうとする。しかしそれはジュリアの追撃により阻まれた。
「ちっ! ジェームズ! リンジー! 何処だ!? この侵入者たちを排除しろ!!」
話し合いでは埒が明かないと判断したビュレット公爵が、廊下に向かって声を張り上げた。ジュリアは強いが、二人を呼ばれたら多勢に無勢である。
「無駄だ。奴らはルーク騎士団長が倒した」
俺がジュリアの心配をしていると、廊下から新たに一人の男が姿を現した。漆黒の髪に頭部に生えた黒い角。
魔王であるシベリウスが立っていた。




