ある生物、バカンスに行く
あけましておめでとうございます。
恒例の年の初めの挨拶代りとして、冬ホラーの投稿です。
1
「さて、久しぶりにバカンスに行くか! 最後に行ったのは、確か寝る前の100年ほど前だったな!」
そう、独り言ちる男は、はるか北の氷雪の地に住んでいる。
ちょうど100年ぶりに男は目覚めた。
そして、この男は南の温暖な地域でのんびり過ごすのを定期的にしていた。
「うむ。やはり日本の北海道が暖かく、ゆったりできる!」
そう言って、男は空を飛び、『南南東微南』方面へと進路をとり、日本は北海道へと進む。
着ている服は白地の浴衣に近い。
時に、2026年の1月の初め。
男は自身の住む氷雪の地より、北海道に到着した。
冬。
住む地域の人によっては、寒さを避けるために、南国や季節が逆な南半球にバカンスに行く。
この男もその一種で、日本は北海道へと、大体百年単位だが、冬場にバカンスに訪れていたのだ。
数少ない同類たちからは、「おかしなヤツだ」と、この男はどこの世界にでもいる、一種の変わり者なのである。
だが、今回北海道に100年ぶりに行ってみると、その暑さに驚く。
「き、気温の最高が7度だと!? なんちゅう暑さだ!」
「最低でも零下4度だと? これはふつー最高気温だろ!」
到着した北海道は函館市の五稜郭近く。
この日の最高気温と最低気温は、そう気温の電子表示板で表わされていた。
この男にとってマイナス10度からマイナス5度が、大体我々にとっての感覚で30度から35度。
7度とは、この男にとって体感的には47度である。
「あっ、あっつ……!」
あまりの暑さに仰天するこの男に周囲の視線が集中する。
男の姿は薄い白色の浴衣のような衣装で裸足。
北海道といえども、この気温では当地の人々は、それなりに防寒着を着ている。
「何なの、あの人? 寒くないの?」
「何かの罰ゲームかな?」
男を見る人々はこう口々に言うが、当の本人は現状に戸惑っている。
「雪もあまり降ってないみたいだな? この100年でいったい何が起こったんだ?」
そして、男は自身が住まう氷雪の地での異変を思い出した。
2
この男の生物上の特徴は、見た目はほぼ人間と同じだが、このように寒冷の地に適した形状で、寿命は数千年。
食事はほとんど必要とせず、ときたま海底で貝類や昆布を食べるくらい。
なので、個体数はこの男を含めて男女20体ほど。
そして、一旦眠りにつくと50年から100年間は睡眠状態。
ちなみにこの男の見た目は、30代半ばのどこにでもいるような感じ。
しいて特徴をあげれば、着ている白衣と同様の真っ白な髪と肌。
男が100年ぶりに目覚めた時、周囲の氷が溶けて減少していたのを確認していた。
つまり、男の住まう地でも異変が起こっていたのだ。
「これはかなわんぞ。もっと北の方へ行くか」
だが、あまりの暑さが、男から空を飛ぶ能力を奪っていた。
この生物はとにかく暑さに弱い。
やむを得ず、男は徒歩で涼しい方向を目指す。
「う、うぅ……、あつい。このままじゃマジで死ぬぞ俺」
山のほうを目指したが、山地も大して(この男にとっては)涼しくない。
暑さの中、一種の登山をしたので、ますます暑さに苦しむ。
男の呼吸は荒くなり、頭がクラクラし、いったいどうすべきか混乱する。
「そうだ、海だ! 海水につかりこの暑さをしのごう!」
男は山地ではなく海を目指す。
汐首岬に達し、そこから海に飛び込む。
だが、これは悪手だった。
「う、うわぁっちぃ! 熱湯風呂かっ!」
まったく体が冷えない。
そしてこの熱湯の海水が決め手となり、海中から陸地へ戻る力がもう男から出てこず、ただ海に流されるだけ。
まるで温泉のような海水の中で、やがて男の意識はぼんやりしてくる。
呼吸はひゅーひゅーと弱くなり、思考は停止し、この窮地を脱する術を考える気力もを失う。
「あぁ……、もうダメだ……」
こうして男の意識は無くなる。
3
とある大間のマグロ漁船が、海に浮かぶ男の水死体を発見した。
この1月に白地の浴衣姿。
当然、自殺と思われたが、病院での検査結果で、この男の意外な死因が明らかとなる。
「この男の死因は、驚くべきことに『熱中症』であることが判明しました」
「それより驚くべきことは、見た目は我々人間と変わりませんが、上皮細胞をはじめ各器官が極めて特異です」
ニュースでは「1月に津軽海峡で水死体発見」とだけ報道されたが、この男の死体はとある研究所に運ばれる。
男の全身は細切れに解剖され、脳を初め、皮膚、筋肉、骨、内臓、神経、各器官等は精密な調査対象とされた。
これを知るのは、ごく一部のこの研究所の関係者のみ。
そのある関係者いわく。
「こいつはまるで雪男か雪女ともいうべき、妖怪みたいな生物だぞ」
どうやら、妖怪雪男や雪女を退治しなければならないとしたら、彼らを暖冬の地に送るのがもっとも効率的なようである。
ただし、彼らの住まう地である北極の氷も、徐々に溶けだしているので、彼らはそのうち絶滅してしまうのかもしれないが……。
ある生物、バカンスへ行く 了
マイナス20~30度の屋外プレハブ冷凍庫でも見つけたら、その中に入って妖力が復活して故郷に帰れたんですけどね。
でも、彼の故郷も年々厳しくなっているようです。
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