8-2.
体がふらつきながら、何とか着地した。
転移先は、よくわからない薄暗いビルの中の広間だった。
目の前には大きな魔物がいる。
生徒のみんなはおびえている。
「みんな、僕の仲間になってほしい」
急に低く大きな声が響いて、みんな度肝を抜く。
なぜなら、魔物は話したり、意思をもつことがないからだ。
どうゆうこと…頭の中で必死に今の状況を考える。
黒魔法の生徒だけが狙われ、
集団転移されて、
目の前には話したり意志を持つ魔物がいて
そして仲間になってほしいと言っている。
いや、話ができるということは、何を考えているのか目的を聞くことができるのか?
と、逆に考える。
「あなたの目的は何?」
私はまずは相手を知らないと、と思い聞いてみた。
「僕は仲間が欲しい。友達が欲しい。僕はさみしい。」
片言だけど、会話はできるみたいだ。
意思をもって話をできる魔物がいるなんて…
今はそんなことより、どうすればいいんだろう…
あ、そうだ、ソランティア王子にテレパシーを送ろう。
ぐっと集中力を高めて彼に思念を飛ばす。
何の手ごたえもない。
どうして…
「ここは外部と接触できないようにバリアが張ってある。魔法だけでなく、思念も遮断される」
その口調は、さっきの片言とはまるで違っていた。
まるで誰かが魔物に乗り移ったかのような──
いや、操っている?
どこかで聞いたことがあるような、冷静で整った言葉遣いが、余計に不気味だった。
「仲間になってくれないなら、無理やり仲間にする」
誰も何も言わずに、固まって様子を見ている。
「いやだ、いやだ、独りぼっちは嫌だ。誰も言うことを聞かないなら、無理やり仲間になってもらう」
駄々をこねた子どものような魔物?とますます違和感が強くなる。
その瞬間、とてつもない魔力がのしかかる。
これは人を操る魔法だ。
周りを見ると、私だけでなく、生徒のみんながその魔法に抵抗しようと必死になっている。
黒魔法の使い手は人を操るのが得意な魔法型だ。
しかし、黒魔法の使い手が黒魔法師を操ることは非常に難しい。
その魔法をかける側は、とてつもない魔力が必要だ。
そして、操られる魔力に対抗することにも、ものすごい魔力と集中力を必要とする。
生徒の中から人を操る魔力に屈した生徒が出てきたー
目が赤く光り、意思のない目になっている。
そろそろと魔物の横へ歩みを進める。
このままではまずい、私を含めてみんなが操られてしまう。
操られてしまったら意思がなくなるから、何が起きるのか、自分が何をしてしまうのかわからない。
魔物に操られることを想像するとぞっとする。
それだけはなんとしても防がないと。
でもどうやって…
操る魔法に抵抗することに集中しながらも、なんとか考えを巡らせる。
声が、震えた。でも聞かなくちゃ。
「……どうして、黒魔法師ばかりを狙うの?」
相手が何を考えているのか聞いてみることにした。
こうしているうちに、どんどんほかの生徒が魔物の方へ吸い寄せられていく…!
息が苦しい。
心臓が、ぐっと握られているみたい。
魔力が、侵入してくる。
わたしの心に、命令を植えつけようとしてくる。
やだ……わたしの体なのに、わたしがわたしじゃなくなる……!
こんな時こそ、焦るな…!
恐怖の感情に支配されそうになるけど、今はとにかく自分に集中だ。
「黒魔法の使い手は人を操ることができる。黒魔法師が仲間になれば、みんなを支配することができる。みんな僕の言うことを聞くんだ。みんなが僕の仲間になるんだ」
魔物の目に宿る光が、恐ろしかった。
このままじゃ、わたしたちは——
……そのとき。
どこか遠くから、クレンの鳴き声のような音が聞こえた気がした。
かすかな音。
だけど、確かに耳に届いた。
……クレン?
その声が、私の心を引き戻してくれた。
——外の誰かが、ここに気づいてくれたのかもしれない。




