6-7.
「もしよかったら、これから庭を少し歩かないか?」
私たちは紅茶を飲みながら本を読んでゆっくりしていた。
王子が王城図書館から持ってきてくれた本は、どれも興味深いものだった。
わたしの読みたくなるような本ばかりだった。
王子の本選びのセンスが抜群だと認めざるを得なかった。
庭を案内すると言っていたから、ただ歩いて回るものだと思っていたけれど…
庭につくと、王子は右手の間に空間を作り、エスコートする気満々である。
「さあ、王城の庭をこれから案内するよ」
と、わたしに笑いかける。わたしが腕を組むのを待っているみたいだ。
案内ってこういうことだったのね…と悟った。
こんなの、ただの案内なんだから…変な意味じゃないよね?
ここで拒否するのも変だし、昨日から助けてもらっているし、ここは素直に彼の腕にわたしの手を添える。
これまでのわたしの人生でエスコートしてもらったのはゼロだけだ。
わたしの従兄弟だし、家族みたいなもの。
他の男性にエスコートしてもらったことはない。
ましてや、今の相手はこの国の第二王子。
そういえば、最近、こんなに近くに並んで歩いたことはないかも。
魔法学校での出会いは、食堂でぶつかってしまった時。
あの時はわたしと目線がほぼ一緒だったのに。
あの頃と比べると、王子の身長がかなり伸びていると気づいた。
思春期の男の子は身長の伸びが著しいなと思った。
庭園は美しい花だけでなく、珍しい花もたくさんあった。
今朝のお風呂に入っていたバラは、この庭園で採れたものらしい。
摘んですぐだから、あんなにいい香りだったんだなと納得した。
バラの庭園にはいろんな色のバラがあった。
花びらが多いもの、小さいもの、大輪のもの、マーブル柄のものと、たくさんの種類のバラが植えられている。
わたしがいろんなお花を眺めていると
「せっかくだからどうぞ」
そう言って目の前に差し出されたのは、一輪の青いバラだった。
「へぇ!青いバラ?初めて見た」
「珍しいでしょ。なかなか咲かないし、育てるのも難しいんだ。……だから、特別な意味を持つって言われてる」
王子はそう言ったあと、なぜかそこで言葉を切った。
その目はどこか遠くを見ているようで――けれどすぐに、柔らかく微笑んでみせた。
「まあ、意味は置いといて……綺麗だから、君に似合うと思っただけだよ」
「はぁ〜バラって本当にいい香り。癒される〜」
青いバラを受け取ったわたしは、香りにうっとりしながらも、彼の言葉の続きをふと思い出していた。
“特別な意味を持つ”――その一言が、なぜかほんの少しだけ、胸の奥に残った。
「さあ、そろそろ戻ろうか」
王城へ向かう帰り道で、庭園の中にとても素敵な場所を見つけた。
湖の中に浮かぶ島のような場所があった。
透き通った水の上にぽつんとたたずむ白い鳥籠のようなデザイン。
まるで夢の中に紛れ込んだような、不思議な場所だった。
光が差し込み、鳥籠の隙間からこぼれた影が水面に揺れている。
――こんなところで、もし誰かに想いを伝えられたら、きっと忘れられないだろうな。
「あの庭園の一角で、父は母にプロポーズしたらしい。父は母と結婚するために、相当苦労したそうだ。」
「そうなの?あそこはご両親の思い出深い場所なんだね。この庭園の中でも、特別な場所の感じがするもんね。お二人も乗り越えて結婚されたんだね」
親世代の恋物語は、わたしの知らない遠い世界のことのようで。
でも――もし自分も、そんな誰かと出会えたらって、ふと思った。
いい香りであふれる緑の中を歩き、いい気分転換になった。
王城の庭園を見せてもらう機会ももらえてラッキーだった。
エスコートしてもらい、王城へ戻った時、国王のシーザ様と王妃のティアーナ様がたまたま部屋から出てくるところに出会した。
私たちが庭園から帰ってくる姿を見て、国王と王妃は互いに一瞬ハッと目を見合わせた。
その瞬間、空気がふっと止まった気がした。
――けれど、何事もなかったように、王妃は優しく微笑んだ。
その視線の奥に、何か特別な思い出がよぎったような気がして、わたしはわずかに胸がざわついた。
「王城の庭園を案内していたんだね。楽しんでいただけたかな?」
国王がわたしに優しく尋ねてくれる。
「はい、とても美しい場所でした。素敵な機会をいただけて感謝しています。」
ティアーナ様は、わたしが右手に抱えている青いバラにふっと目をとめた。
そして次の瞬間、どこか懐かしむような表情で、ゆっくりと微笑んだ。
「……あなたたち2人を見ていると、私たちのプロポーズの思い出が蘇ってくるようね」
ふふ、と楽しそうに笑ったその笑顔には、ただの挨拶では済まされない“確信”の色があった。
どうしてだろう。わたしの手元の青いバラを見て、王妃様の瞳がほんの一瞬、揺れた気がした。
あの笑顔の奥に、わたしの知らない何かがある――そう思えてならなかった。
それにしても、年齢を感じさせない、とても美しい王妃様。
シーザ様との仲も良くて、2人の素敵な関係性が見える。
「もうそろそろお昼になるわね。お昼はバルコニーで2人で召し上がってね。」
2人は歩いていった。
ソランティア王子はなぜかこの会話中、ずっと黙っていた。
不思議に思って彼を見るが、王子は外の方を向きながら歩いているので、わたしの方からあまり顔が見えない。
そのまま客室のバルコニーへ行くと、昼食が用意されていた。
王城ではこんな優雅な1日を送っているのね、と感心していると、
「お昼が終わったら、魔力が戻っているか調べてみようね。さあ、まずは腹ごしらえだ。」
そう言って王子が嬉しそうにテーブルへ向かう姿を見つめるのであった。




