5-6.
第五章の最終話です。
ある日突然、王子から出かけようと誘われた。
みんなはデートだと言うけれど、軽々と誘うものだから、そういう意味は含んでいないことがわかる。
王子はクレンに、わたしはシソに乗って移動する。
わたしは行き先がわからないから、彼の後ろをついていく。
見慣れた街を通って、もっと見慣れた街の方へ向かっていく。
あれ?あれ?やっぱり?
たどり着いた先は、わたしの実家だった。
わたしの家は街中ではなく少し自然の中にあって。
あたりが芝生で覆われている。
そこに一本の木が立っていて、そのそばに私の実家があるのだ。
「なんでわたしの家に来たの?」
「改めて、君のご両親にお礼を言いたくて。」
「お礼?」
「僕は君に助けられたから。ご両親にも感謝を伝えたいんだ。」
そう言ってドアをノックすると、わたしのお父さんとお母さんが出てきた。
二人ともすごくびっくりしていて、お父さんはなぜか慌てふためいている。
ちょっと、二人とも落ち着いてよと心の中で思う。
ソランティア王子は家の中に招かれ、ダイニングテーブルへと通された。
わたしが王族の一室で一ヶ月間寝ていたので、わたしの両親は国王、王妃、そして皇太子たちにも会っていた。
しかし、やはり王族と会うことは慣れていない。
何度か会話をしていたが、王族は王族であり、距離はわきまえていた。
「今日はお礼を伝えにきました。」
お茶が出され、両親が席に着いた時に王子が言った最初の一言だった。
「わたしはマミーナ嬢に命を助けていただきました。あの事故にあった時、意識の中で……死を覚悟した自分がいました。」
その言葉を聞いて、父と母は苦しそうな表情を見せた。
「でも、そんな時に小さな、けれども強い光を体内に感じたんです。その光を掴みたくて必死に何度も手を伸ばし、その光を握りしめた瞬間、僕は目を覚ましました。」
一つ一つ言葉を選びながら、ゆっくりと伝える王子に、両親は真剣に耳を傾けていた。
「呪いも傷も酷かったのにほとんど回復していました。マリアーナ嬢がわたしの呪いと治癒を同時に行ってくれたからです。」
この言葉を聞いて父は王子に言った。
「事故のことは聞いていましたが…ソランティア王子はそのような生死の境を彷徨っていたんですね。わたしの娘の力もありますが、そこで諦めなかったソランティア王子だからこそ回復することができたのではないでしょうか」
父の声は強く、そして王子に優しい目を向けていた。
続けて母も王子に伝えた。
「ソランティア王子が回復されて、本当に良かったです」
「はい、ありがとうございます。マミーナ嬢自身へも感謝の気持ちでいっぱいですが、ご両親にもどうしても感謝を直接お伝えしたかったんです。今日はお時間を作っていただき、ありがとうございました。」
王子は頭を下げた。
横で見ていたわたしは、お辞儀の姿すらも美しいなとふと思ってしまった。
「今日、わざわざ伝えにきてくれてありがとうね」
とソランティア王子と両親の会話を静かに横で聞いていたわたしからも感謝を伝えた。
家を出る間際にお母さんから『てっきり結婚のお申し込みかと思ってびっくりしちゃったわよ』と耳元で言い、ニヤニヤしながらペシっとたたかれた。
いやいや、何でそうなるの?
王族は上位貴族と結婚できる決まりだから、王子と一般市民の結婚はあり得ないでしょうに…
みんな勘違いしすぎでしょ。
そのあとは実家を後にし、2人で外に出た。
あの事件から一ヶ月間寝ていたから、その間に陽春へと向かっていたのだと、肌に触れる風から時の流れを感じる。
寒さの中にも、少しずつ春の香りがする。
木陰で休もうか、といって腰を下ろす王子。
ぽんぽんと地面をたたかれ、横に座るよう促される。
わたしも王子のそばに腰を下ろした。
「はぁ、懐かしいな」
「何が懐かしいの?」
木に寄りかかって、少し上を向いて目を瞑っている王子。
風を感じている姿をみて、ふとかわいいなと思った。
かわいい?
なに、かわいいって?
と自分の中で生まれた感情に一人ツッコミを入れる。
「僕、実は昔、ここにきたことがあるんだ。」
「ここに?なんで?いつ?」
「たまたま通りかかってさ」
そう言って遠くの方を見つめている。
「そうなんだ。何でここに?って不思議だけど、ソランティア様にとっては落ち着く時間だったのかな」
王子はどこか違うところに意識がある気がした。
何を考えてるんだろう。
思わず、彼の視線に入るように体を少し傾けた。
すると、王子は静かにわたしの目を見つめる。
風に揺れて木漏れ日が動く。
わたしの茶色い目が光に照らされる。
じっとわたしを見つめる彼の口から出た言葉に、わたしの心は掻き乱された。
「初めて会った時から思ってたけど、君の瞳の色はとても綺麗だね」
王子の赤い目に熱が帯びている気がした。
目は口ほどに物を言うって、こういうことなのかな。
わたしの瞳の色はとても珍しい。
同じような瞳の人に出会ったことがない。
みんなは鮮やかな色なのに、どうしてわたしは茶色い目かなといつも思っていた。
珍しいとはよく言われるが、わたしの瞳の色を綺麗だと言われたのは初めてだった。
恥ずかしくて、なんだか嬉しくて両手で顔を覆う。
すると、
「ダメ。見せて」
と優しくわたしの手をつかんで、両手を顔から引き離す。
そして、またあの眼差しでわたしの瞳を見つめてくる。
恥ずかしくなって顔を右下にそらすと
「出会った時からずーっと変わってないね」
と、くすっと笑って両手を離してくれた。
絶対、わたしの顔は照れて顔が赤くなってる。
恥ずかしい。
王子はすっと立ち上がり、わたしの照れた顔を見てこなかったから、わたしはちょっと安心した。
こんなふうに、サラッと心を揺さぶることを言えちゃうなんて、ずるいよ。
明日から第六章です。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。




