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私の星~異世界からきた女子高生は王女様に愛を誓います~  作者: 瀬川香夜子
本編

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十三話


 舞踏会は日が暮れて星が瞬き始めた夜に行われた。

 まず参加者が集まった会場に国王と王妃が連れたって入場し、そこから国王の呼び声でラスティスとリリシアがステラナ――ヒカリとともに入場するという段取りだ。

 初めはラスティスに手を取られたヒカリが二人で遅れて入場してくる予定だったのだが、緊張のあまりカチコチになったヒカリがリリシアと離れるとあまりに不安に瞳を揺らすのでこうなった。

 招待された貴族たちは盛大な拍手と興奮の笑みでヒカリを迎えた。


 壇上に上がるとラスティスがヒカリの名を告げて紹介し、ヒカリはみんなの期待の眼差しを受けながらぺこりと頭を下げた。それだけで会場から感動のどよめきが起きた。

 そのままラスティスがヒカリをエスコートして会場の中央へ。二人のファーストダンスを持って舞踏会の幕開けとなる。

 緊張した様子のヒカリを、リリシアも内心ハラハラしながら見守っていたが、あれだけ練習した成果もあってダンスは無事に終えることが出来た。

 最後に手を取り合った二人が再び招待客に向けて一礼。


「みなも今日の舞踏会を存分に楽しんで欲しい。ステラナであるヒカリはまだこの世界に不慣れなことも多い。救世主へのみなの興味も理解はできる。かくいう私も降臨を目の当たりにしたときはずいぶんと高揚したものだ。だが、挨拶はほどほどにして困らせすぎないようにしてくれ」


 高らかな開幕の宣言とともに、ヒカリに対して人が殺到しないようにと牽制。しかし、ラスティスが少しばかり遊び心もいれた言葉選びで招待客たちは好意的に受け止めて了承を示した。

 ラスティスと交代するようにヒカリの元へ向かう。

 並ぶと、ヒカリはあからさまにほっとした様子を見せた。ラスティス自身も挨拶を交わさねばならない人たちがいる。

 そのためヒカリの元へ来る貴族たちにはリリシアが窓口となることにしたのだ。

 伝説ともなる救世主だ。みな一言でも言葉を交わしたい気持ちがあるだろうに、ラスティスの牽制が効いているのか大人数に囲まれるようなことはなかった。まるで図ったように爵位の高いものから順に来てくれたのだ。


「ドラヴィス公爵、本日はお越しくださりありがとうございます」

「あのステラナのお披露目とあらば来ない者はおりません。リリシア様も変わらずお元気なご様子でなによりです」


 イリナは粗相をしていませんか。

 公爵はその聡明さの宿る瞳に微かな親心を覗かせて訊ねた。リリシアは不要な心配だと微笑んで首を振る。


「いいえ。イリナにはいつも助けられてばかりです」

「ならば良かった。あの子はリリシア様のこととなると少々暴走しがちな面がありますから」

「そんなことはありません。ヒカリのそばにいるときもイリナのサポートにはとても助けられていますから」


 言うと、公爵は安心したように頷いてヒカリに向き直る。


「救世主たるステラナ――テンジョウ・ヒカリ様にご挨拶いたします。クドラ・ドラヴィスと申し上げます。普段は娘のイリナがリリシア様やヒカリ様のおそばで世話になっていることかと」

「イリナさんのお父さんですか?」


 リリシアとの会話でうすうす察してたのだろう。ヒカリは少し意外そうに公爵を見返していた。

 公爵はグレーの髪に青い瞳の男性だ。イリナは彼の後妻である異国出身の母にそっくりなので、公爵とはあまり似ていない。意外にも思うのも無理はない。


「そうです。イリナは私の末の娘でして……なにかあればいつでも娘を頼って下さい」

「はい。いつもお世話になっていて……すごく頼もしいです」


 それは良かった、と少し辿々しいヒカリの言葉を微笑ましそうに受け止め、あまり長話をしては他の者に恨まれてしまうと冗談を言って去って行った。

 その後も主に家門の代表である当主たちが一言二言挨拶にやって来た。

 まずリリシアが相手の名前を告げながら参加の感謝を述べる。その間にヒカリは相手の顔をよく見てゴルスタンの授業で培った知識と照らし合わせていくのだ。

 時々後継者たる子息を連れてくる者もいて、子息たちはみな去り際にリリシアの手元にキスを落として去って行く。初めて子息がリリシアの手を取ったときのヒカリの驚きようはすごかった。

 自分だってラスティスにされたことがあるだろうに、初めて見たとでもいうような目の剥きようだった。


 きっと貴族たちの間では、ラスティスとヒカリが結ばれるものと思われているだろう。ステラナと王女であればもちろんその価値はステラナのほうが何倍も大きい。だが、そのステラナには王太子がいる。となれば、彼らがアピールすべきは必然的にリリシアだというわけだ。

 それを裏付けるように、一通りの挨拶が終わったと思えば今度はリリシアへのダンスの申し込みが殺到した。

 平民の血が混ざっていようと王女という地位は変わらない。彼らはリリシアの機嫌でも取るように甘い誘い文句とともに手を差しだしてくる。

 全ての誘いを断わるのは失礼だ。王族のイメージダウンに繋がっても困る。だが、一人二人とだけ踊るのもそれはそれであらぬ噂を立てられてしまう。

 そうなると平等に時間の許す限り一度ずつ踊るのが無難なのである。

 ちょうどイリナが来てくれたこともあって、リリシアはイリナにヒカリを任せてまず一人目の手を取った。




 しばらくしてようやく踊り終えたかとひと息ついたリリシアはヒカリの姿を探す。

 しかし、そこにはイリナのみでヒカリの姿はなかった。


「イリナ。ヒカリはどこへ行ったの?」

「少し前にラスティス殿下とお話になっていてお二人でどこかへ行かれました」

「……そう」


 周囲を見渡してみるがラスティスもヒカリも見当たらない。

 招待客たちはみな舞踏会を各々楽しんでくれているが、さすがに王太子やステラナがいれば周囲の者の反応で分かる。見落とすはずがない。

 一度会場を出たのだろうか。


「少し探してくるわね」


 不安になったリリシアが飛び出そうとするのを、イリナが引き留めた。


「リリシア様はずっと踊っていらしたのですから、せめて少し休んでからのほうがよろしいのではないですか」

「わたくしは平気よ。大丈夫。二人を見つけたらすぐに戻ってくるから」


 手首を掴む手を、優しく外す。安心してと笑えば、イリナは少し言葉を探した様子だったがすぐに小さく頷いて送り出してくれた。

 会場内を少し探ってみたがやはり二人の気配がない。

 ラスティスと一緒ならなにも問題なんてないだろうに、どうしてか胸騒ぎがして仕方がなかった。


(これをやると負担がかかるのだけれど……)


 少し躊躇いつつ、自身のルプを耳許に集中させる。こうすると風の通りを利用して効率よく人々の声を集められるのだ。

 ある程度距離の離れた人物の声も拾えるが、大勢の者を一度に聞き入れてしまうので処理が追いつかず頭痛に繋がる恐れもある。なにより自身のルプを耳許から周囲に向けて薄く分布させるので体力の消耗も激しい。

 誰にも言ったことはない、リリシアの能力の一つだ。

 母が亡くなったばかりの幼いころは、一人になった部屋が淋しすぎて膝を抱えて使用人たちの声を拾い集めていた。

 そのときの声を聞いてリリシュテルと母の複雑な関係や背景を知ってしまったのだ。

 それ以来滅多に使うことはなかったのだが、まさかこうして使用する日が来るとは思わなかった。

 そろりと二人を探して会場を出る。普段ラスティスなどが住まうプライベートな住居スペースへ向かって歩いて行くと、微かに見知った声が聞き取れた。

 どうやら二人は一緒のようだ。

 心配は杞憂だったかとリリシアは安堵して少し足を速めた。

 ルプを使わずとも声が聞き取れるようになって、この角の向こうだと飛び出そうとしたとき。


「きみのためにあの子がどれだけ危ない橋を渡ろうとしているか……それを理解しているかい?」


 聞いたことのないラスティスの低音に思わず足が止まった。



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