004:廃村
今日も港の朝は早い。昨日と同じく薄暗い中起きだして浜辺を散歩する。今日は曇りだ。日の出は拝めそうにない。
「なぁクロスケ。エリスのことどう思う?」
「どうとは?良いんじゃないのか。目的地は同じだし。錬金術師なら素材を用意すればポーションぐらいは作って貰えるじゃろ。ポーションを買うにも金は掛かるしな」
「まぁ、そうだな」
俺が聞きたかったのは女性との2人旅はどうなのか?という事なんだが、まぁ、良い。護衛で大男の俺が側に居ればエリスも安心だろう。
朝の散歩を終え、昨日と同じベンチでパンを齧りつつ今日の予定を聞く。
「今日の城村はどんな所なんだ?」
「昔、この辺を統治していた領主の館があった村なんだが、戦に負けカルオローラの属国となった。戦の時、村に火の手が上がり、村と領主の館の大半が燃え落ち廃村になった訳だが、そこに盗賊団が住み着いた。盗賊と言っても兵隊崩れが大半だから武装しておる。ゴブリンのようにはいかぬぞ」
「じゃ・・・ポーションを飲みながらの戦闘になるのか・・・」
「そうじゃな。ポーションは有った方がよいぞ」
俺たちは村の雑貨商でポーションを購入して街道を歩いて行く。今日は妹の方はお休みらしいので、姉の方からポーションを購入した。姉妹なのにあまり似ていないなと思う。
途中までは昨日のゴブリン集落と同じ方向だが、今日は山に入らずに街道を進んで城村を目指す。
街道から見えるところに廃墟となり崩れた家屋が目立ってきた。この辺が昔の村なのだろうと思う。そして少し遠くに館っぽい塀と廃墟が見える。薄曇りの空に黒っぽい館という不気味な雰囲気が漂っている。盗賊とは言え、人が住んでいるらしい所なので幽霊の類は出ないだろうとは思うのだが。
街道から廃村に入ると人の気配を感じた。俺は建物に隠れながら村の中を慎重に進んでいく。俺の体はデカいから少々の物陰では隠れられないのは不便だが、その分、俺にはパワーがある。
館前の広場を物陰から窺うと武器を持った数人の盗賊がいた。館の中は分からないが、これで全員という事はないだろうと思う。俺は武器を持ち、広場へと駆けて行く。俺に気付いた盗賊も武器を抜き構える。俺は武器を力任せに盗賊に振るった。
広場で盗賊を倒した俺は一息つくが、右足に激痛が走り、しゃがみ込んだ。見ると矢が刺さっている。矢を放ったのは屋根の上に居る盗賊。俺は倒した盗賊の剣を掴み、屋根の上へ投げつけた。投げた剣は外れたが、盗賊は避けた時にバランスを崩し屋根から落ちた。俺は痛みに耐えつつ矢を引き抜き、傷口にポーションを振り掛け、残りを飲み干した。そして廃屋の壁を背にするように隠れた。
「何だよ。飛び道具もあんのかよ」
俺は悪態をつく。ゴブリンも持っていた弓矢だが、当たるとは思っていなかったし、これ程痛いとも思っていなかった。当たり所次第では一発であの世行きだ。
俺は物陰から広場を覗く。もうすぐ再生するはず。
「ヨシ!」
俺は物陰を飛び出し、盗賊に向かい武器を振るう。今度は矢が飛んでくるのが分かっているので素早く移動して矢を躱した。俺だって学習はする。
館に入ると焼け落ちた天井から日が差している。壁伝いに慎重に進んでいくと角の部屋から声が聞こえる。微かに聞こえる内容はどこかを襲撃するというような事らしい。まぁ話だけで実際の襲撃はないだろうと思う。あいつらは同じ場所で再生するんだし。
俺は部屋を覗き、そして飛び込んだ。盗賊が4人いたが剣を抜かせずに俺は仕留めた。
部屋を1つずつチェックしながら奥の領主部屋と思われる部屋に到着した。ここも話し声が聞こえる。入り口から中を覗くと6人ぐらいが壊れたテーブルを囲み、打ち合わせをしているような雰囲気であった。
俺は部屋に飛び込み手前の3人を仕留める。奥の3人は剣を抜き斬りかかるが、力でねじ伏せる。
「ふーーー」
俺は一息着いた。窓辺に移動して外を窺うと屋根の上にチラホラと弓兵が見える。流石に建物の中には弓兵は居ないようだ。
「面倒くせぇな・・・」
俺は倒した盗賊が再生する前に館の入り口に向かう。途中の角部屋で再生した盗賊を倒すのも忘れない。館の入り口から外を窺うと左側の屋根上に弓兵がいた。村の中を動き回ると弓兵の餌食になりそうなので広場と館の中を往復するのが良さそうだと思う。あいつをどうやって倒すかを考える。
その前に。
「なぁ。クロスケ。ここの盗賊って村人じゃねぇの?何で再生するんだ?」
「ほう。良い所に気が付いたのう。こ奴らはゴブリンと同じで場所に縛られておるレベル上げ用の魔物じゃ。この場所からは移動せん。昨日、錬金術師のお嬢ちゃんが襲われたゴブリンは野良のゴブリンじゃ。あいつらは好きに移動する。見た目の違いは無いから出会ったら、即討伐じゃな」
「なんだこの世界は・・・良く分かんねぇ」
「レベル上げ用でも、野良でも、倒せばレベルが上がるんじゃ。気にせず倒せ」
俺は、弓兵は石を投げて牽制して無視することに決めた。1人づつ倒すのは面倒くせえし。『当たらなければどうと言う事はない』という理論だ。
俺は夕方までレベル上げを頑張った。
「何だか体がすげぇ重いんだが・・・」
「ん?鞄の重量を確認したか?」
「鞄・・・何じゃこりゃ?すげぇ入ってる」
「もう少し先に渡す予定じゃったが、これを使え」
クロスケはスクロールを出して来た。俺はスクロールを開いて魔力を込める。すると魔法陣からロバ?馬?が現われた。
「そいつは移動と荷物運びに使えるロバじゃ。ペットと同じで召喚して使う。こいつも餌は必要じゃぞ。名前を付けてお主の物にするんじゃ」
「名前・・・ロシナンテ」
ロバはブルブルを首を振り、俺に甘える仕草をしてきた。
「カワイイじゃねぇか」
「ロシナンテか・・・あれはダバだから馬のはずじゃが・・・」
「細けぇこと気にすんな。それより、ロバに俺が乗っても大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃ。取りあえず、鞄からロバに荷物を移してみろ」
俺は鞄から戦利品を取り出し、ロバに括りつけていく。俺の体が段々と軽くなっていく。
「ふーー。スッキリ」
「体が重くなると動けなくなるからな。重くなる前にロバに移すのじゃ」
俺はロバの手綱を握り夕方の街道を村へと帰っていく。