002:始まりの村
翌日、俺たちは戦闘拠点を出て村を目指して歩き出した。
「今日はどうすんだ?」
「村に着くまでにインプの拠点がいくつかあるから、そこで訓練を積んでレベルをあげる。レベルがあがれば強くなれるぞ。強ければモテる・・・ハズ」
「何だよ。ハズって!」
岩と草の茂る小高い丘の上に石造りの場所があった。どう見ても生贄を捧げる祭壇だと思うのだが、そこにインプが群れていた。剣と盾を持ち鎧を着けたインプまでいる。俺より強そうに見えるのだが・・・俺、死んじゃうんじゃね?
俺は骨の武器を振るう。インプの剣が迫る。あぶねぇなオイ!骨の武器を何とか合わせて剣を防いだ。昨日より動きが良くなっている気がするが、これもレベルの恩恵なのだろうか。
倒しても再生するのでキリが無い。適当にレベルが上がったところで祭壇を後にした。戦利品もボチボチだろう。戦利品を売れば今日もメシが食える。今日は村らしいから酒場で美味い飯を食いたい。
「お主、ポーションはどうした?怪我をしておるぞ」
「ポーション?」
俺は鞄を漁り、赤い小さなビンを見つけた。
「これか?」
「それじゃ。赤いのは怪我や体力を直し、青いのは気力を直す。怪我をしたら赤いのを飲むのじゃ。切り傷なんか一発で直る」
異世界ラノベでポーションの知識はあるが現物は始めて見た。俺は赤い小ビンを飲み干した。『う・・・不味い』という事もなく、多少、草の臭いもするが、それ程気にならない。
ポーションを飲むとインプに斬られた傷は、見る見る塞がり、跡形も見えなくなった。ポーションってすげぇ。
今の戦闘でレベル13になった。結構上がるもんだな。
クロスケの案内で草の生えた街道を進む。何だか磯の香がしてきた。
俺は、岩の上に立ち海辺の村を見下ろした。小さな漁村という雰囲気にオレンジの屋根がオシャレだ。木造家屋の日本と違い、石造りが主流らしい。魔物が居るけど西洋の村なのだろうと思う。
クロスケの説明では『ベリカ村』と言うらしい。村に入るのに門番に冒険者証を見せる。村の中は閑散としていた。小さな村だし、この時間は漁にでも行っているのだろうと勝手に想像する。
村の掲示板を見ている人が居たので、俺も覗いてみた。村の外に盗賊が出るらしい。行商や旅人は気を付けるようにと書いてあった。
「なぁ、クロスケ。この世界の文字を俺は読めるのだが転生特典なのか?」
「お主は今頃か?言葉と容姿は特典に入っておる。言葉が分からなければ生活できんじゃろ」
「いや・・・そうなんだけど・・・」
何だか納得がいかないけど、インプの戦利品を売って美味い飯を食って今日は宿に泊まれるだろうか。もう少し稼がないとジリ貧な気がする。
宿はガマンしてもメシは食いたい。宿と言ってもこの村の感じだと寝るだけだろうし、風呂は・・・たぶん、無い。元々、俺は『カラスの行水』だったし風呂にそこまで拘りはない。あれば使う程度だ。
俺は村を散策して、ちょっと気になる女の子の居る雑貨商でインプの戦利品を売った。見た目はド・ストライクなのだが、話を聞くと村に入って最初に会った錬金術師の爺さんの娘らしい。別の通りで姉も雑貨商をしているようだ。俺の主観だが、あの爺さんの娘にしてはカワイイが、手を出すと爺さんに毒を盛られそうな気がするから止めておく。
おの爺さんは村長の次に偉いようだ。村で何かあったら余所者の俺は真っ先に疑われるだろうなと思う。
飯屋は村の中心に1軒だけで、異世界定番の1階が酒場で上階が宿屋らしい。取りあえずメシだけにするか。寝るのは港の倉庫でもいいや。まだメシには早い時間だと思うのだが混んでやがる。お前ら酒飲んでねぇで仕事しろよ。
この飯屋兼宿屋は村長の奥さんが経営しているらしい。入り口前の広場で村長が店を推してたが、村長の仕事はどうしたと思う。
俺は空いている席に座りメニューを確認する。まぁ金が足りるか心配なんだがな。肉とシチュー、それにエールを頼んでも金は大丈夫そうなので注文した。
エールとつまみが運ばれてきた。異世界の初酒だ。美味い。キンキンに冷えているわけではないが、これはこれで味わいがあっていいかもしれない。つまみは何かの木の実。何の実だか分からないが塩味が効いていてエールに合う味だ。
肉はサイコロステーキ。これも何の肉かは分からない。噛みしめると肉汁と旨味が溢れ、料理人の腕の良さが際立つ。流石は酒場だ。濃い目の味付けは最高だ。シチューは肉と比べるとアッサリだが、しっかりと野菜の旨味が出ていて、これも美味い。
昨日のメシは拠点だから仕方ないのだろうとは思うが、とても残念な味だった。
メシを堪能した俺は、まだ早い時間だが港の倉庫に身を寄せて寝ることにした。