荷解きの手伝い
「本当に近くだったな」
引っ越しの荷解きを手伝うと約束した次の日。
晃晴と侑はひまりと一緒にひまりが引っ越してきたというマンションの前にいた。
ひまりが住むというマンションは、晃晴たちのマンションから徒歩数分程度の位置に建っており、これなら行き来は容易だろう。
「そうですね。これなら一緒に登校も出来そうです」
一緒の学校に通うだけでなく、登校まで一緒に出来そうということもあり、侑は嬉しそうだ。
(というか、前から薄々思ってたんだけど、侑の家ってかなり裕福だよな)
本人の育ちの良さや、決して安くもないマンションでの家賃を含む生活費や学費を払えていることから、そうなのだろうなとは思っていた。
そこにひまりの留学費も払っていたはずなので、相当な富裕層なことがうかがえる。
「うん。……朝起きられたらね」
「もう、そういうところは昔から変わりませんね。私がちゃんと起こしに行きますから問題はありませんよ」
「……自分だって朝苦手な癖に」
「なにか言いましたか?」
「……なんでもない」
にこりと笑い圧をかける侑に、ひまりはふいっと視線を逸らし、マンションの中に入っていく。
(朝が苦手なところまでそっくりなのかよ)
色々な部分が似ているとは思っていたが、そんなところまで似ているとは思わなかった。
血は繋がっているとはいえ、この2人が従姉妹で双子の姉妹ではないと言われてもにわかには信じられないだろう。
そのくらい、侑とひまりは色々な部分が似通っていた。
そんなことを考えながら、ひまりと一緒にエレベーターに乗り込み、上の階層に移動すると、ひまりが1つの扉の前で立ち止まった。
「ここがわたしの部屋」
開けられた部屋の中に入ると、家具の類いは置かれていないが、所々で段ボールが置かれていて、家具のサイズの段ボールもその中にあった。
いくつか段ボールが開けられていることを見ると、自分でも荷解きをしていたようだ。
「では、早速始めましょうか。私はお部屋を掃除していきますので、ひまりちゃんは衣服などの整理を、晃晴くんは家具類などの組み立てや、重たい荷物をお願いします」
「ん。了解」
「ごめん、2人とも。本当に助かる」
侑のテキパキとした指示と行動に倣い、晃晴たちもそれぞれの持ち場につく。
組み立てが必要な家具はベッドとテーブルで、どっちから組み立てるかを考え、まずはベッドの方から行うことに決め、寝室らしい部屋に向かうと、壁に立てかけられた長方形の大きい段ボールがあった。
「ひまり、ベッドの位置はどうする?」
「ん、それなら……ここかな」
寝室となる部屋にちょうど衣服類の入った段ボールを持ち込んできたひまりに尋ねると、ひまりが部屋を見回し、ある1点を指差す。
「分かった。……っ」
指示を受け、段ボールを開封する為に、立てかけられた状態からゆっくりと倒していき、床に横倒しにする。
すると、横でそれを見ていたひまりが「わ」と驚いた声を上げた。
「凄いね、こんなの1人で動かせるんだ」
「持ち上げて長時間運んだりするわけじゃないからな」
感心している様子のひまりに肩を竦めて返し、段ボールに貼られたテープを剥がしていき、中身を取り出していく。
説明書を見て部品の確認をしていると隣から「おー、こんな感じなんだ」と興味深そうな声が聞こえてきた。
視線をそちらに向けると、ひまりが横から手に持っている説明書を覗き込んでいて、その無邪気で無防備な横顔の近さに思わず息を呑んで固まってしまう。
そのまま固まったまま動けずにいると、ひまりがふとこっちに顔を向けてきて、眠たそうな蒼い瞳と至近距離で目が合った。
「ぁ……ご、ごめん。近過ぎた」
「い、いや……別に……」
表情の変化に乏しいひまりが、分かりやすくわずかに頬を染め、そっと離れる。
2人して気まずい空気になってしまい。晃晴が内心の動揺を押し殺していると、
「――ひまりちゃん、ちょっといいですかー」
リビングの方からやや間延びした侑の声が聞こえてきて、ひまりが肩を跳ねさせた。
「う、うん……! わっ……!」
呼ばれて助かったと言わんばかりにリビングの方に行こうとしたひまりが慌て過ぎたのか、自分の足に躓いて転びそうになってしまったので、咄嗟にそれを支える。
「大丈夫か?」
「う、うん……あ、ありがと……っ!」
支える為にさっきと同じように距離が近くなってしまい、ひまりが赤くなった顔を背けるようにする。
それから、そそくさと逃げるようにして慌てて寝室から出て行ってしまう。
(ったく……心臓に悪いところまで似なくてもいいだろ)
ひまりが出て行った扉の方を眺めつつ、晃晴は心の中でぼやいたのだった。
「……これで一通り終わったか?」
しばらくして、段ボールが殆ど姿を消し、代わりにソファやテーブルなどの家具や、小物の類いが現れた部屋を見渡し、呟く。
「うん。あとは1人でも片付けられるものばかりだから。2人とも、ありがと」
「ん、気にするな」
「どういたしまして。……さて、少し遅くなりましたけど、お昼にしましょうか」
「なら、なにか買ってくるか」
現在の時刻は14時前くらいなので、今から作っていたらそこそこの時間になってしまう。
なので、出来合いのもので済ませようとそう提案したのだが、
「……えっと、お姉ちゃん」
「なんですか?」
「疲れてたら別にいいんだけどさ……料理、教えてくれない?」
その言葉を受けた侑は一瞬きょとんとしたものの、すぐに柔らかく微笑んだ。
「もちろんいいですよ。では、一緒に買い出しに行きましょうか」
「う、うん……!」
返事を受けたひまりは、わずかに表情を明るくし、頷いた。




