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サプライズ②

「久しぶりにお姉ちゃんの料理食べたけど、やっぱり凄く美味しい」

「ふふっ、ありがとうございます」


 豚肉で大葉とチーズを巻いたものを囓り、ひまりが頬を緩めると、侑もまた頬を緩め、お礼を述べた。


「……それで、もう転入手続きは済ませているのですよね?」

「うん、さすがにね。今度時間がある時に挨拶をしに行くことになってる」

「そうですか。……ひまりちゃんと学校に通えるの、楽しみです」


 嬉しそうに微笑む侑に、ひまりも少し照れたように「……うん、わたしも」と答える。


 あれから何度か電話をして、関係性は順調に回復に向かっているようだが、やはり直接会う機会がなかったせいか、まだまだお互いのやりとりには少しだけぎこちなさが残っているように思えた。


(けど、この分なら心配はなさそうだな)


 侑もひまりもどう接していいのか分からないなりに、しっかりと考えて歩み寄る姿勢が見えているので、このぎこちなさもきっとすぐに時間が解決してくれるはずだ。


「……でさ、お姉ちゃん。ちょっと話は変わるんだけど、明日って暇?」


 言いながら、ちらりとこっちもうかがってくるのは、侑と大体一緒にいると思われているので、侑との予定が入っているなら悪いと思ったからだろう。


 まあ、予定がなくてもこの部屋に来ているので、大体いつも一緒にいるのは間違ってないことなのだが。


「明日は俺とはなにも約束してないぞ」

「はい。なので、明日は空いていますよ」

「よかった。……実は、ちょっと荷解きを手伝ってほしいんだよ」

「ああ、なるほど。もちろんいいですよ。ちょうど近い内に叔母さんに顔を見せに行こうと思っていたところなので」


 侑の抱えている問題が少しずつ改善されてきていたり、ひまりとの関係修復を得て、侑は以前に比べて頻繁に叔母であり、今の保護者である雪の元へ顔を見せに行っていたりする。

 

 ひまりがこっちに戻ってきたことで、侑が雪の元へ行く頻度はまた高くなるだろう。


 そう思っていたのだが、ひまりは「あ、そうじゃなくて」と声を発した。


「わたし、このマンションの近くにあるマンションで1人暮らしすることになったんだ」

「……え?」


 侑がぱちくりと瞬きをして、きょとんとする。


「で、でも……ひまりちゃん、家事出来るようになったのですか?」

「……出来ないけど。でも、家からお姉ちゃんたちと同じ高校に通うのはちょっと遠かったし」

「よく叔母さんが許可を出してくれましたね……」

「だから、お姉ちゃんたちの近くに住むこととこれを機に家事をしっかり覚えることが絶対条件。元々同じ高校に通うのは賛成してくれてたから」

「家事が出来ないって、向こうではどうしてたんだよ」

「……ホームステイだったし、ステイ先の人がやってくれてた」


 気まずそうに目を逸らすひまりに「なるほどな」と相槌を打つ。


「だ、だってわたし要領が悪くて不器用だし、そりゃ、さすがに全部やってもらうわけにもいかないから手伝ったりはしてたけど、その度に失敗して逆に仕事増やしちゃって申し訳なくなって、すっかり苦手意識が……」

「……まあ、色々と上手くいってなくて凹んでる時に苦手意識があるものを積極的にやろうとは思わないよな」


 ひまりが胸の前で自信無さ気に指を組み替えるのを見て、晃晴は呟いた。


 特にひまりは、自分と同じで最近まで色々と自信を失い消極的になってしまっていたので、なにをするにしても自分なんかと思ってしまい、中々動くことが出来なかったのだろう。


「……っ! そ、そうそう! それ!」


 まるで理解者を見つけたと言わんばかりに、ひまりが眠たそうな瞳を少しだけ見開いて、嬉しそうにコクコクと頷く。


 最近まで自信を失い、後ろ向きだった者同士、と言うよりはひまりとは元々根の部分と考え方がよく似ているのかもしれない。


 改めてこうして話してみて、前に感じたシンパシー的なものは間違っていなかったのだと、ちょっとした親近感を覚えてしまう。


「……けど、家事を覚えるって約束しちゃったし、やらないわけにもいかなくなったんだけどね」

「大丈夫ですよ。私がしっかり教えますから」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 にこりとした侑の表情に嫌な予感を覚えたのか、ひまりは少しだけ腰が引け気味になってしまっていた。


「ひとまずは明日の荷解きからですね。私がいる以上、掃除も適当には済ませませんよ。徹底的にやりますからね」

「お手柔らかにって言ったのに……!」


 ひまりが助けを求めるようにこっちを見てくるが、どうすることも出来ないので、「まあ、頑張れ」と返しておく。


 侑の性格をよく知っているのはひまりの方なので、こうなった以上、侑が言葉通り、徹底的にやるであろうことはもう分かっているだろう。


(……いや、待てよ)


 うう、と肩を落とすひまりを尻目に、晃晴は少し逡巡し、「……なあ」と切り出す。


「それ、邪魔じゃないならやっぱり俺も手伝っていいか?」

「え? そりゃ、重いものもあるわけだし、手伝ってもらえるのは助かるけど……いいの?」

「明日は試合前日ですし、身体を休めた方がいいのではないですか?」

「いや、試合前日だからこそだ。多分、なにかしてないと考え込んで不安になりそうだからな。なにかしてた方が気が紛れるんだよ」


 こっちの言い分に納得したのか、2人がそれぞれ得心がいったように声を上げた。


「それなら、お願いしてもいいかな」

「ああ。任せてくれ」


 こうして、帰ってきて、1人暮らしを始めるひまりの荷解きを手伝うことが決まったのだった。

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