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サプライズ

 バスケの練習も終わり、晃晴は咲と別れてから1人で帰路についていた。


 本番は2日後、今週の日曜日なので、明日は調整の為に練習は休みで、実質最後の練習だった。


 大会に向けての練習は集中した甲斐もあって、出来ることはちゃんとやった気もするが、やはりどこか不安も残っている。


(今更ジタバタしたってなにも変わらないし、あとはもう自分のやってきたことを信じて本番で力を出し切るだけだよな)


 とは思うものの、たった数週間どんなに必死に練習に打ち込んだところで2年間のブランクを取り戻せるわけはない。


 そのことが、不安を拭い切れない最大の要因だ。


 枷を抱えたまま強豪と試合をして、自分が足を引っ張ってしまうのではないか、そのせいで咲が心鳴に想いを伝えられなくなってしまうのではないか。


 そんなことを考えたところでマイナス要素にしかならないのは分かっているのに、考えることをやめられず、考えるほど怖くなっていく。


(……そもそも、助っ人は本当に俺でよかったのか。他にもっと相応しい奴がいたんじゃないのか)


 今となっては無駄な自問自答をしたところで、晃晴は頭を振った。


(……違うだろ。あいつらが俺がいいって選んで頼ってくれたんだ。だったら、こんなことを考えるのは俺を信頼してくれたあいつらへの裏切りでしかない)


 緊張と不安で、最近は少なくなっていた自虐癖が出てしまったことに、うっすらと「……やっぱまだまだだな」と自嘲気味な笑みを浮かべ、弱気を身体の中から全て追い出すように息を深く吐き出す。


 これ以上なにも考えないようにする為と、リラックスする為に、鞄から取り出したイヤホンを耳につけ、お気に入りの曲を流し、家への道を歩いていった。






 マンションの近くに着く頃には、曲を聞き続けていた効果なのか、上手く気持ちを切り替えることが出来ていた。


 明日の休日はなにをしようと考えながら、曲がり角を曲がったところで、晃晴は思わず足を止めてしまう。


 そこには、いつかと同じようにベンチに腰を下ろし、どこか退屈そうな蒼い瞳で空を見上げつつ、足をぶらぶらとさせている白髪の少女の姿があった。


 目を見開いた晃晴は、数秒ほど足を止めたまま、ベンチに座っている少女――ひまりを見つめ続けてしまう。


 ようやくハッとして、硬直の取れた身体でイヤホンを外しながら近づいていけば、ひまりは足音でこっちの存在に気づき、空に向けられていた蒼いどこか眠た気な瞳がこっちに向けられた。


 ひまりは少しだけ微笑み、片手を遠慮がちに胸元で小さく振ってくる。


「久しぶり」

「……帰って来てたんだな」

「うん。さっき着いたところだよ」

「そうか。……じゃあ、侑にはまだ?」

「言ってないよ。ビックリさせようと思ってさ。驚いた?」

「ああ、やられた。とりあえず、半分は作成成功ってことだな」

「やったね」


 軽く肩を竦めると、ひまりが控えめにガッツポーズを取りながら、イタズラっぽく見上げてきた。


「けど、なんでここに座ってたんだ? サプライズなら侑を呼び出せばよかったのに」

「……実はスマホの充電するの忘れてて、マンションの前に来てそれに気がついて途方に暮れてたところだった」

「……それもし俺が外から帰って来なかったらただの間抜けだったってことか」


 イタズラっぽい顔から一転、ものすごくいたたまれそうな雰囲気になったひまりに、呆れながら呟く。


 うう、と顔を伏せながらしばらく羞恥に耐えていたひまりがようやく顔を上げる。


「そ、それで、晃晴はなんでこんな時間に帰ってきたの?」

「練習してたからな」

「あ、そっか。本番もうすぐなんだっけ」

「ああ。今週の日曜日。……って、なんで日にち知ってるんだ?」

「お姉ちゃんから聞いたからね」


 そう言われ、合点がいったので「なるほどな」と相槌を打つ。


「あ、悪い。いつまでも立ち話しとくわけにはいかないよな。侑もいるし、部屋に来てくれ」

「う、うん。……なら、お邪魔させてもらうね」


 少々緊張した様子で頷いたひまりを連れて、晃晴は部屋の前へ移動し、鍵を開けてひまりを部屋の中へと招き入れる。


 きょろきょろと忙しなくあちこちを見回すひまりを後ろに連れたまま、リビングに入ると、侑はソファに座り、スマホを触っているところだった。


「ただいま」


 声をかけると侑はスマホの操作を止め、こっちを見て目を見張り、固まる。


「……ただいま。お姉ちゃん」


 侑を硬直させた原因であるひまりが声を出したことで、ようやく硬直が解けたのか「ひ、ひまり……ちゃん……?」と戸惑いながら立ち上がった。


「うん。ひまりだよ」

「い、いつこっちに?」

「ついさっき。驚かせようと思って連絡しなかったんだ」


 目論み通り、侑を驚かせることが出来て満足したのか、してやったりという顔をするひまりを侑がそっと抱き締める。


「……お帰りなさい」


 そんな侑を、ひまりもそっと抱き締め返し、


「……うん。ただいま」


 再び、帰宅の挨拶を口にした。


 それから、しばらく抱擁を続けていた2人だったが、「積もる話もあるだろうけど、とりあえずあとは飯を食いながら話さないか」と持ちかけたことで、ようやく抱擁は解かれ、晃晴と侑はひまりと一緒に夕食を共にすることになったのだった。

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