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テストは終わり、そして

 それからしばらく咲と颯太の食事の時間になったので、晃晴は話をしつつ、2人が食べ終わるのを待っていた。


「あれ? そう言えば、心鳴が話を聞いてくるのがテスト終わったあとなら、試合のあとに告るって成り立たないんじゃないか?」


 ふとそう思い、口に出してみる。


「あーいや、その辺はテストが終わったタイミングで大会が終わったらオレの方から話があるからココの方の話は待ってほしいって伝えるつもりだ」

「そういうことか」

「ああ。今話があるなんて言ってテストに集中出来なくなっても困るし」

「……早い段階から侑を頼ってるみたいだし、さすがに前よりは大丈夫だろ」

「有沢さんは頭の回転は速いんだけどね。スポーツIQは高いと思うし」

「あいつ昔から典型的な興味のないことは能力を発揮出来ねえタイプだからなぁ……」


 幼馴染の咲は言うまでもなく、晃晴は眉を顰め、颯太までもが苦笑をしているあたり、3人の心鳴への勉学面の信頼はかなり低いようだ。


(確かに今余計なこと言って集中出来なくなったら目も当てられないな)


 もし、心鳴が赤点を取ってしまえば、そもそも告白どころじゃなくなってしまう。


 心鳴自身も勉強に集中したいから、咲への話もテストのあとと自分で言ったわけなので、咲の判断は間違っていないだろう。


「晃晴の方も浅宮さんに言いたかったら言っても大丈夫だぞ」

「……どうだろうな」

「そりゃまたなんで」


 晃晴が悩んだ素振りを見せたのが意外だったのか、咲がわずかに目を見張る。


「侑もお前らの力になりたがってるし、この話を伝えたら力になろうとしてくれるだろうけど、結局今回のことで侑に出来ることはないだろうし、あいつ力になれなかったことを悔やみそうだから」

「……あー」


 晃晴ほどじゃないにしろ、咲も侑の性格を分かってきているので、晃晴の言い分に納得した声を上げた。


「確かに浅宮さんってそういうタイプっぽいね」

「……けど、浅宮さんだってココとのこと心配してくれてるわけだし、これこそ話すのが筋ってもんじゃね?」

「……まあ、お前がそう言うなら話しておく」


 恐らく、自分で力になれないことに気がついて、エールの言葉を自分で伝えるだろう。


 そうして話しもまとまり、咲と颯太が食べ終わるのを待ってから、3人は解散し、それぞれ帰路についた。






「……そうですか、告白を」


 帰宅をして、食事や入浴を済ませてから、勉強を始める前にさっき咲たちと話したことを侑に話し終えた。


 話を聞き終わった侑は、しばらく考える素振りを見せ、寂しそうに笑う。


「……この件に関して、応援以外に私が出来ることはないのでしょうね」

「お前がそう言うと思って、既に咲には言ってあるから。咲も応援してもらえるだけありがたいって言ってたし」

「……そうですか」

「ああ。その為に心鳴に勉強教えて絶対に赤点を取らせないようにしてやってくれ。それが咲の告白の舞台に心鳴を引き込む為に必要なことだから」

「はい、任されました」


 自分が力になれることを見つけた侑は、むんっという顔をして、瞳にやる気をみなぎらせる。


(なんか心鳴へ勉強教えるのが1段スパルタになったような気がしないでもないけど……まあいいか)


 そもそも赤点を取ったら困るのは自分なわけで、多少スパルタになろうが成績が上がることになんら問題はないのだから。


「……というわけで、俺も練習に打ち込みたいから、しばらく帰るの遅くなる」


 実は咲が父親の伝手で、近辺でバスケットゴールが設置されている室内練習場と夕方に空いている時間を調べてくれて、サークルの練習がない時も室内で練習が出来ることになったのだった。


 梅雨のせいで連日雨で、本番までの残り日数が少ないというこの状況の中、それは願ってもない話だ。


「はい。若槻くんたちの為にも勝たないとですからね」

「ああ。だから、いつも通り美味い飯作ってもらえると助かる」

「もちろんです。……それなら、テストが終わったら遊びに行くという話も延期にしてください」

「……悪いな。自分で言い出したことなのに、約束破る感じになって」

「破られたわけではないですよ。むしろ、若槻くんたちがこんな状況なのに、自分たちだけ楽しむなんて出来ませんし、晃晴くんが誘ってきたとしても、断るか怒ってましたよ?」


 わざとらしく怒ったような顔を作る侑に、ついつい苦笑してしまう。


「そりゃ勘弁だ。怒られる未来が回避出来てよかったよ」

「そうですよ。なので、今はそのことは一旦忘れて、若槻くんと心鳴ちゃんの為に頑張ってください」

「ああ。ありがとな」


 柔らかな微笑に、ふっとわずかに口角を上げて返し、晃晴たちは勉強を始めた。






 そして、あっという間に期末考査の最終日がやってきて、全てのテストが終了した。


 ホームルームが終わると、教室内が解放感に満ち溢れた声で満たされる。


 雰囲気に流されてあからさまに浮かれたりはしないが、咲もようやく肩の荷が1つ下ろせたような気分だった。


 とりあえず振り返り、晃晴の方を向き、声をかける。


「出来栄えはどうだ?」

「まあ、少なくとも悪くはない」

「そっか。オレも同じ感じ」

「……そもそも俺たちの中で元々ヤバいのは心鳴だけだしな」


 違いない、と肩を竦めて苦笑すると、話題に上がった本人が、明らかに浮かれきった様子で近づいてきた。


「あたし、自由……!」

「偉いぞーよく頑張ったな」

「でしょでしょ! もっと褒めて!」


 侑の力を借りて行った自己採点でも、赤点がないどころか心鳴史上最高得点らしく、そう考えると彼女のはしゃぎようも分かってしまう。


(なんでも、急にスパルタになったらしいしな)


 それは侑が晃晴から自分たちの話を聞いて、絶対に心鳴に赤点を取らせないように尽力した結果だということは晃晴から聞いて分かっているので、侑には感謝してもし切れない。

 

「ふふっ、お疲れ様です。心鳴ちゃん」

「ほんとありがとね、ゆうゆー!」


 鞄を持って近づいてきた侑に、心鳴が振り向きざまに抱き着いた。


「オレからも、お礼を言うよ。こいつに勉強教えてくれてありがとな。大変だったっしょ?」

「そんなことありませんよ。お陰で、私も楽しく勉強が出来ましたので」


 本当に侑には頭が上がらない思いだった。


(……と、まあ。ここまでお膳立てされて動けねえとかクソダセェこと出来ねえよな)


 これから心鳴に大会が終わったら話があることを伝えないといけない。


 そう思うと、今から告白をするわけでもないのに、鼓動が早まり始める。


 その緊張を表に出さないように、咲はこっそりと気づかれないように静かに息を吐き出した。


「……さ、帰ろうぜ」

「そーだね。打ち上げって言いたいとこだけど、咲と晃晴はこのあと練習があるんでしょ?」

「大会が近いからな。打ち上げは全部が終わってからでいいだろ」


 心鳴の問いに答えながら、晃晴が立ち上がった。


 そのまま侑も含んだ4人で会話をしつつ、校舎を出る。


「悪い。一旦帰ってからあとで合流する」

「おーまたあとでなー」


 まだ昼になったばかりなので、練習が始まるにはまだ時間がある。


 恐らくは昼食でも取りに帰るのだろうと予想しながら、侑と一緒に肩を並べて帰っていく晃晴と別れ、咲も歩き出す。


「そう言えば、大会って榎本たちのとこと当たるんだっけ?」

「おう。くじ運悪過ぎて笑えるだろ?」

「笑ってる場合かっての。絶対勝ってよ?」

「……おう。勝つよ」


 心鳴から肘で小突かれ、真剣に頷く。


 すると、心鳴がやけに真剣な咲の声音を怪訝に思ったのか、不思議そうな顔をして見上げてくる。


「……なあ、ココ」

「え、なに急に。そんな真剣な顔しちゃって」

「……お前、テストが終わったらオレに聞きたいことがあったんだろ?」


 問うと、心鳴が少しだけ目を見開いた。


「……そっか。ゆうゆたちから話聞いたんだ」

「ああ」

「なら、話は早いね。――咲はあたしのことをどう思ってるの?」


 単刀直入で逃げる暇さえ与えてくれない、心鳴らしいストレート勝負。


 言葉と同様に真っ直ぐな視線に見つめられ、鼓動が更に音を立てる。


 逸った鼓動は思考を奪い、足は今にも震えそうだ。


 これを言ったら、伝えてしまえば、口に出してしまったら、どの道この先が失敗だろうと成功だろうと、元の関係には戻れない。


 自覚してしまえば、覚悟とは裏腹に逃げ出したい気持ちで、固めた決意も塗り潰されていくような感覚に陥ってしまう。


(ハッ。ほんっと、情けねえったらねえな、オレは)


 そんな自分を、咲は鼻で笑い飛ばした。


「……咲?」

「悪いココ。その質問に答えんのは今じゃねえ」

「今じゃないって、じゃあいつならいいわけ?」

「……大会が終わったら、オレの方から話がある」

「話……?」

「ああ。その時、お前の質問への答え合わせをすっから。今はちょっと待ってくれねえか」


 心鳴から目を逸らさないように、見つめ返す。


「……ん、オッケー。ま、そんな焦って聞かないといけないことでもないしね」

「サンキュー」

「その代わり、今日のご飯は驕りってことで手を打ったげる」

「はいはい。仰せのままに」


 いつもと少しだけ違った2人の会話は、いつも通りの会話によって締められることとなった。

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