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勝って気持ちを伝えてえ

 咲の発言に、晃晴と颯太は口を噤み、思わず顔を見合わせる。


「……本気、それ?」

「冗談でこんなこと言わねえって」

「なんでそんな急に……この間は地道にアピールを続けてくって言ってただろ」


 それはつい2日ほど前の出来事。


 地道にアピールをしていくと言っていた咲が心を決めるには、この日数は短すぎるはずだ。


「あー……ほら、あれだよ。ココがさ、テスト終わったらオレに気持ちを聞いてくるんじゃないかって話」

「え、なにそれ」


 颯太はその場にいなかったのだから、話を知らないのが当然だ。


 咲が「実はな」と前置きし、簡潔に説明し終えると、颯太が納得したように頷いた。


「そんなことになってたんだ」

「まあな。んで、その話についてちょっと思うところがあってさ」

「思うところ?」

「……気持ちを聞かれるのってさ、逆に告る最大のチャンスだと思わねえか?」

「……確かにそうかもしれないけど、焦って行動することもないだろ」


 どう見たって脈がないわけではないだろうが、心鳴が自分のことを異性として意識してないと分かっている中、告白するのはリスクがつきまとうだろう。


(それでもし、関係がこじれでもしたら)


 心配が顔に出ていたのか、咲がこっちの思考を見透かしたようにふっと自嘲気味に笑みを浮かべる。


「確かに失敗したら元の関係とはいかなくなるだろうな。けど、それを考えて、逃げ続けて、問題を先送りにし続けた結果が今の現状なんだよ」


 咲がぽつりと呟いた。


「今動けねえと、オレはまた絶対にビビッて逃げる。だから、気持ちを聞かれるっていうのは、ビビッて動けなかったオレの背中を蹴飛ばす、振って湧いた最大の幸福なんだよ。例え、振られたとしてもな」

「……話は分かったよ」

「そんで、ここからが本題」


 真剣な面持ちになった咲が、テーブルに手をついて、頭を下げてきた。


「――頼む。協力してほしい」


 突然の行動に面食らっていると、咲の真剣な声音が耳朶を打つ。


「……とりあえず頭上げて詳しい話を聞かせてくれ」

「そうだよ。まずは内容を聞かないと、協力出来るものも出来ないじゃん」

「……告る為に、ちょっと無理をしてもらいてえんだ」

「無理?」


 尋ね返すと、咲がキッと目に力を込めて、こっちを見据える。


「——榎本たちのチームに勝ちてえ」

「……なるほど。負けて告白するなんて格好つかないからね」

「それで協力か」

「ああ。……悪い。オレの個人的な問題に巻き込むようなこと言って」


 咲が再び頭を下げた。


「けど、オレはあいつらに勝って、ココに気持ちを伝えてえんだ。頼む」


 咲の頭を見ながら、晃晴は颯太と顔を見合わせて、肩を竦め合う。


「お前が頭を下げてまで好きな奴にいいところを見せようとしてるのに、断れるわけないだろ。頼れって俺が言ったんだしな」

「そうそう。それに、おれは元々勝つ気だったんだし、そこに咲の協力が乗っかるだけ。やることはなにも変わらないよ」

「……助かる。晃晴、颯太。ありがとな」


 緊張が解けたように小さく笑い、お礼の言葉を述べてくる咲に対し、「別にお前だけの為ってわけじゃない」と返すと、咲がきょとんとした。


「これは俺の……いや、侑もそうだろうから、俺たちのわがままでもあるんだよ」

「わがまま? や、どう考えてもこれはオレのわがままだろ」

「違う。俺も侑も、お前と心鳴が別々の奴と付き合ってるところなんて見たくないんだよ。だから上手くいってもらわないと困る」

 

 告げると、咲が何度か瞬きをして、ふはっと吹き出す。


「んだよ、それ」

「いいだろ別に」


 ぶっきらぼうに呟く。


 わざわざ恩着せがましく口に出しはしないが、要するに晃晴たちは咲のわがままを背負い、咲は晃晴たちのわがままを背負うことで、どちらか一方にだけなにかを背負わせる罪悪感を減らしたかったのだ。


 しかし、そんなこっちの思惑を見透かしたように、咲がししっと笑った。


「やっぱお前いい奴だよなー」

「……なんのことだ?」

「うん。おれもそう思う。やっぱ日向っていい奴だよ」

「……だからなんのことだよ」


 どうやら、コミュ力強者の2人には晃晴の考えはバレバレだったらしい。


 ひたすらいい奴だと言われ、面映ゆいが、そっぽを向いてしまえば照れているということや咲と颯太の考えが当たっているということを認めてしまうことになるので、とぼけながら、ひたすら表情を変えないように耐え続ける。


「……けど、協力するって言っても簡単なことじゃないぞ」


 気を取り直してそう口にすると、咲と颯太も雰囲気を真面目なものに戻し、頷く。


「……だね。どうせなら優勝とか、やる前から弱気になるなとは言いたいところだけど。さすがに厳しいのは分かってる」

「出てくるのは1年だけだけど、強豪校だけあって、層は厚いだろうしな」

「対して俺たちは5人、か。……そう言えばあの2人の実力ってどんな感じなんだ? 少しは見たことあるけど」

「大樹はプレーにムラがあるけど、爆発力のあるタイプだね。大樹が乗ってる時はチーム全体が勢いづく感じ」

「なるほど。じゃあ、三橋は?」

「とにかくサポートが上手いね。身長があるからセンターやってるけど、ガードにも適性あるタイプ」

 

 聞いた感じ、どちらもチームに1人は欲しいタイプの選手だ。


 そこに、得点力のある咲と高水準でオールラウンダーな颯太、そして一応シュートを生業するポジション経験のある晃晴。


 一見して、チームとしてはまとまっているように思える。


「……あの2人を呼んでないってことはあの2人に話すわけにはいかないんだよね?」

「ああ。話すのが筋だとは思ったけど、さすがにこんなことポンポン人に話すもんでもねえしな。余計なもん背負わせたくねえし」

「……それはそれでいいだろ」


 静かに口を開くと、咲と颯太の視線がこっちに集中した。


「別にその理由があろうとなかろうと、あの2人だって端から勝つつもりでプレーするだろ。だったら、伝えなくてもなにも変わらない」

「……ま、そりゃそうだけどな。けどやっぱ、勝手に巻き込んでるようで悪いなー……」

「大丈夫だよ。今日向が言った通りだし、もし咲が話したとしても、あの2人……特に大樹はなんだかんだ言いつつ、絶対力貸してくれるから。男を見せるって展開大好きだし」


 温厚だと言われていた宗介はともかく、大樹の方も割と見たままの性格をしているらしい。


「……んー、けど、やっぱ伝えるのはお前らだけでいいわ。話すなら偽カップルのことから話さねえといけねえし、あの2人は言い触らすタイプじゃなさそうだけど、知ってる奴が増えると周りにバレるリスクもあるしな」


 そもそも咲と心鳴が付き合っている振りを継続しているのは、恋愛ごとのごたごたに巻き込まれない為だ。


 もしバレてしまえば、今付き合っている振りをしているのがなにも意味を成さなくなり、咲も心鳴もモテるので、少なからず恋愛絡みの人間関係の不和は起こるだろう。


「……オッケー。まあ、任せてといてよ」

「……ああ。お陰で俄然やる気出たしな」

「……ほんと、ありがとな」


 3人の拳がテーブルの上でぶつかり合った。

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