初めてのサークル練習
咲たちがいつもサークルの練習で使っている体育館に着いた晃晴は、他のサークルメンバーに挨拶に回ったあと、いつもより念入りにストレッチをこなしていた。
普段からシュート練習をしたり、筋トレやランニングはこなして、身体は運動に慣れているが、今日は試合形式の練習で気合も入っているし、初めて会う人間だらけなので、多少の緊張もある。
気合の入り過ぎで空回りしたり、緊張の硬さで怪我をしてしまったら元も子もない。
身体が温まってきて、じんわりと汗をかいてきたところで、最後にぐっぐっと肩とふくらはぎを伸ばして、息を深く吐き出した。
「緊張してるか?」
晃晴がストレッチに集中しているのが分かっていたのか、咲がちょうど終わるタイミングを見計らって声をかけてきた。
「……割としてる」
「ま、初日だから仕方ねえけどな。けどあんま硬くなり過ぎんなよ、リラックスリラックス」
「そんな簡単に出来たら苦労はないだろ」
新しいコミュニティに入ってくのは、やはりどうにも苦手だ。
こういう時、咲や心鳴の性格が羨ましく思える。
とは言え、ないものねだりをしたところで今すぐに緊張を飼い慣らす術が手に入るわけではないので、今は諦めてこの緊張に身を委ねるしかないだろう。
「へいへい、旦那。そんなんで本番の時どうすんの」
話を聞きつけてきた心鳴がからかいの笑みを引っ提げながら近寄ってきて、晃晴の目の前でしゃがみ込んでくる。
バスケで使うハーフパンツは基本的に大きめなので、しゃがみ込んだ際にでろんと裾が垂れ下がり、心鳴の健康的に引き締まった太ももの裏が見えてしまいそうになり、それとなく視線を外す。
「うるさい。というか今してる緊張は試合の時の緊張じゃなくて知らない人間に囲まれてるっていう不安からくる緊張だから別種だ」
「より情けなく聞こえる言い訳を堂々とするんじゃないよ。頑張らないとダサいところ見られることになるよ? ゆうゆに動画送る約束してんだから」
「勝手なことを……」
「ゆうゆ顔には出さないようしてたけど、結構楽しみにしてたっぽいよ。そういうのちょっと分かるようになってきた」
「ぐっ……!」
侑が嬉しそうにしながらそれを表に出さないようにしている顔が簡単に想像出来てしまい、頬を引き攣らせてしまう。
「……はあ。シュート打ってくる」
恐らく侑なら晃晴がどんなプレーをしたとしても、賞賛してくれるだろうが、見られるなら少しでもいいところの方がいいに決まっている。
身体を動かしていれば緊張もその内ほぐれるだろうと、ボールケースの中からボールを1つ拝借。
シュートを打つ前に喉を潤しておこうと、鞄から飲み物を取り出せば、鞄に入れていたスマホがちょうど点灯した。
(ん、侑からだ)
飲み物を取り出す手を止め、スマホに手を伸ばす。
『美味しい料理を作って待ってますので、頑張ってくださいね』
そのメッセージのあとに、デフォルメされた白猫が「ふぁいと、おー」と片手を突き上げているスタンプが送られてくる。
思わず頬を緩めながら、スタンプだけを返し、顔を上げると、誰からのメッセージかも内容も見えていないはずなのに、にやにやとした咲と心鳴と目が合ってしまう。
しまった、と思ったが、表情には出さないようにして、晃晴は逃げるようにシュートの練習へと駆り出した。
何度か試合を終えた頃、晃晴は合間の休憩中にも関わらず、シュートを打ち続けていた。
さすがにもう硬さはない。
それを証明するように、たった今放ったシュートも綺麗にリングを潜り抜ける。
「お見事」
パチパチという音に振り向けば、いつの間にか咲が近くに来ていた。
「お前何気にシュート決めるよな。聞いたことなかったけど、シューターだったのか?」
「まあな。身長も高い方じゃなかったし、ドリブルもパスも武器になるほど出来なかったしな」
「あれ? どっちもそこそこ出来てたろ」
「そりゃ練習したからな。けど、元々得意でもなかったし、それが得意な本職の奴らがいるわけだし、1番まともにプレー出来るポジションに自然と収まっただけだ」
「なるほど、なっ」
咲が相槌を打ちながらシュートを放つが、リングに弾かれる。
「んー、やっぱオレに外のシュートは無理だなー。ちょっと教えてくれよ」
「お前にはドリブルスキルがあるんだし、本番までそんな時間もないし、出来ないことよりも出来ることを練習した方がよくないか」
「そうかもしんないけど、シュートは出来るに越したことないし。選択肢が増えるのはいいことだろ?」
「……まあ、教えるだけならタダだしな。いいぞ」
「サンキュー」
それから咲に自分なりのシュートの仕方を教えたり、数試合ほど行い、今日のサークル練習は終了となった。
「お腹空いたー。咲ー、どっかでご飯食べてく?」
「や、悪い。これから晃晴と颯太と飯の約束あっから」
「え、なにそれズルい。あたしも行きたい」
「今日は本番の作戦会議だし、男同士の話ってやつなんだよ」
「ふうん、そっか。んじゃ、1人で寂しく帰りますよ」
「悪いな。今度の飯は奢るから許してくれ」
「許した。じゃ、また明日ー」
さすがに心鳴の扱いには慣れているらしく、一瞬で機嫌をよくした心鳴は手をブンブン振りながら去っていく。
「んじゃ、オレたちも行くか」
「場所は決まってるのか?」
「近くのファストフード。颯太にはもう連絡してっから」
咲が歩き出すのに続いて、晃晴も歩き始めた。
ほどなくして、目的のファストフード店に着いたらしく、店内に入る。
「颯太はもう来てるってさ。オレ、注文してくけど、晃晴はいらないだろ?」
「そうだけど、なんで分かるんだよ」
「そりゃ、飯食いながら話すって言ったのさっきだし、浅宮さんはもう飯作ってるだろ」
「……とりあえずドリンクだけ頼む」
「オレがついでに頼んどいてやっから。というか、奢る。なにがいい?」
「炭酸ならなんでも」
「オッケー」
レジへ向かう咲と別れ、2階のイートインスペースへ行き、先に入っているという颯太を探す。
すると、片手を挙げた颯太が目に入ったのでそっちに向かっていく。
「咲は?」
「下で注文してる」
「そっか。腹減ってたし、おれは先に食べさせてもらってるよ」
「別にいい。先に着いてたんだし」
向かいの席に腰を下ろし、ふう、と一息吐いた。
「練習はどうだった?」
「フリーでは中々打たせてもらえなかった。やっぱりディフェンスがいる時といない時じゃ決定率が全然違う」
ただでさえ、2年程度のブランクがあるので、自分で思ってた以上に錆びついていた。
これからどれだけ実戦の堪を取り戻せるかが鍵になってくるだろう。
颯太に自分が試合中に感じたことを聞き、アドバイスをもらうことを繰り返していると、ようやくトレーを持った咲が2階に上がってきた。
「よっ、悪いな呼び出して」
「いいよ。それだけ大事な話だったんだろうし。で、その大事な話って?」
「ああ、それなんだけどさ……」
晃晴の隣に腰を下ろした咲はドリンクに口をつけてから、口を開いた。
「――オレ、大会が終わったらココに告るわ」




