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チームメンバー

 本格的な梅雨入りを果たしたせいでじめっとして蒸し暑い空気のせいなのか、本日最後の授業が終わって疲れ切っているせいなのかは分からないが、教室内の雰囲気はやや暗い。


 ホームルームを終えた担任が教室を出て行った瞬間、いくばくかの活気が戻ってきたが、いつもに比べれば、やはり普段よりも少しどんよりとしているように思える。


 そのせいか、晃晴も身体が重たいような気がして、小さくため息未満の息を吐いた。


「お疲れか?」


 どうやらちょうど咲が振り返るタイミングと被ってしまったらしい。


「いや、なんか気分が重くてな」

「分かる。マジで憂鬱な気分になるよな、梅雨って。けどそんなこと言ってられねえぞ。これからサークル練なんだから」

「ああ、分かってる」


 今日は晃晴が初めて咲のサークル練習に参加する日。


 本番まで残り日数も少なくなってきた中で、貴重な試合形式での練習が出来る機会なので、気を引き締めないといけない。


(期待に応えたいって思えるようになったんだからな)


 自分になんか期待しないでほしいと思う臆病な自分だって、まだ自分の中にいることは否定しない。


 けど、少しでも周囲の期待に応えることで、強くありたいと思う自分がいるのも事実なのだ。


「おーいココー、練習行くぞー」

「あーい」


 既に荷物をまとめ終え、なにやら侑と談笑していた心鳴が気の抜けた返事と共にこっちに来る。


「あたしの指導はスパルタだから覚悟しときなよ?」

「いや、お前に教え請うわけじゃないだろ」


 ふふん、と得意気な心鳴を雑にあしらいつつ、荷物をまとめて立ち上がった。


「あ、そこの3人ちょっと待ってー」


 そこに声をかけながら、颯太が近づいてくる。


「んだよ、颯太。オレたち今から練習なんだけど」

「分かってるよ。けど、ちょっとだけ日向借りていい?」

「俺?」

「うん。ほら、前に言ってたチームメイトの紹介しとこうかなって思ってさ」

「……ああ、あれか」


 言われてから、そう言えばそんな話が出ていたなと思い出した。


「分かった。悪い、先に行っておいてくれ。すぐに追いつく」

「や、オレも一緒に行くよ。なんだかんだ、オレは顔見知りだけど、なんだかんだ顔合わせる機会少ないし。ココ、先に行っといてくれ」

「紹介だけならそんな時間もかからないだろうし、ここで待っとく」


 そう言い残し、心鳴はショートポニーを翻し、侑の元へ戻っていく。


 いや、侑は帰してやれよと思わなくもなかったが、その言葉は飲み込んで、咲と颯太に続いて教室を出る。


 と言っても目指しているのは隣の教室なので、移動はすぐに済んだ。


 颯太は慣れた様子で隣の教室を覗き込み、目的の人物を見つけたらしく、


「おーい、宗介ー! 大樹ー!」


 教室内のざわめきに負けないように声を張り上げた。


 さすがに運動部で声を出し慣れているのか、相手には届いたらしく、呼ばれた2人が同時にこっちを見る。


 2人と目が合った颯太は片手を軽く挙げて挨拶の動作をしつつ、それが終われば手招きをして、2人を呼び寄せた。


 教室の中にいる、がたいのいい男子生徒と背の高い男子生徒が怪訝そうにして顔を見合わせ、やがてこっちに近づいてくる。


「なんだよ、颯太。なんか用か?」


 がたいがいい方の男子生徒が、胡乱な目つきのまま颯太を睨むように見据える。


 刈り上げられた短い髪と体格、そして三白眼な目つきのせいで、圧が凄い。


「うん。ほら、前に言ってた助っ人の紹介」

「……お前、そういうのは前もって連絡しとけよ」


 呆れ気味に呟いたがたいのいい男子生徒が、鋭い目つきをこっちに向ける。


 少々気圧されそうになったが、晃晴は自己紹介の為に口を開いた。


「日向晃晴だ。一時的にとは言え、一応チームメイトにならせてもらう。よろしく」

「知ってるよ。体育の時何度も見てるし、最近の有名人だからな。――俺は朝日奈大樹あさひなだいき。イケメンは嫌いだ、よろしく」


 初っ端からまったくよろしくするつもりがない挨拶が返ってきてしまった。


 しかし、ふんと鼻を鳴らしながらも手を差し出して握手を求めてくるあたり、悪人ではないのだろう。


「気にしなくていいよ。こいつ自分が女子に怖がられてモテないからってすぐイケメンのこと僻む癖があるから」

「別にそんなんじゃねえし! ってかうるせえよイケメン代表が!」

「そう言えば大樹、今日は一段と筋肉にキレがあるね」

「おっ、そうか? やっぱ分かっちゃうか?」

「こういう感じで筋肉のこと褒めておけばすぐ機嫌よくするから扱いやすいよ。バカで単純で顔怖いけどいい奴だから」

「てめえ……!」


 ギリリ、と歯を食い縛り、迫力のある三白眼を吊り上げて睨む大樹を無視するように颯太が続ける。


「んで、こっちの背の高い方が三橋宗介みはしそうすけ。温厚な性格で彼女持ち」

「えっと、よろしく。三橋宗介です」

「ああ。よろしく」


 恐らく晃晴より10センチは高いだろう巨体が近づいてきて、手を差し出してくるのは大樹とは違った圧があった。


「……昨日は彼女が助けてもらったみたいで、ありがとう」

「……彼女?」

「なんか、傘を貸してもらったって聞いたよ」

「マジか。あの人か」


 奇妙な偶然もあったものである。


 しかし、そのお陰で第一印象はいいらしく、こっちを見下ろす宗介の瞳からは友好的な色が見えた。


(随分と個性的なメンツだけど、とりあえずは上手くやれそうだな)


 多少は改善してきたが、まだまだコミュニケーション能力に難があるのは自覚しているので、苦手なタイプだったらどうしようと思っていたのだ。


 一時的にとは言えチームメイトになるのだから、コミュニケーションが円滑にいく方がいいに決まっているので、大樹と宗介がいい奴そうで安心した。


「んじゃ、自己紹介も済んだことだし、今日は解散でいいよね?」

「せっかくだし親睦会みてえなのやらねえのかよ」

「大樹はテストのことでいっぱいいっぱいなんだからそんな暇ないでしょ。赤点なんか取ったら試合に参加出来ないんだからさ」

「うぐっ……!」

「そうだよ。これから僕の家で勉強だって言ったでしょ?」

「グググッ……! ゴメイワクヲオカケシマス……!」


 心底嫌そうな顔をして、冷や汗を流しているあたり、どうやら本当に赤点の危機らしい。


「じゃあ、とりあえず5人のグループ作っとくから」

「ああ。じゃあな」


 その言葉を皮切りに、それぞれが解散していく中、


「……晃晴、颯太も練習が終わったあと、ちょっと話があんだけど、いいか?」

 

 今まで言葉を発していなかった咲が、呼び止めてきた。


「ん? いいけど、ここじゃ話せないこと?」

「……ああ。ここじゃちょっとな」

「オッケー。分かったよ。練習終わったら連絡して」

「おう」


 今度こそ解散となり、晃晴は咲と一緒に心鳴が待つ教室に戻るのだった。

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