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カラオケ部屋での雑談

 咲のカミングアウトからしばらく経って、そこそこに盛り上がったカラオケも一通り区切りがついた。


 落ち着いてきたことで、もはやカラオケというよりも後半はほぼドリンクバーの飲み物を片手の談笑会と化していた。


「え、日向って1人暮らしなんだ」

「ああ。実家はかなり遠いからな」

「家事とか大変じゃない? おれ部活でへとへとになって帰ってきて、飯用意されてなかったら泣く自信あるよ」

「確かにまあ、大変なことも多いけど、その分生活に自由は効くし、慣れたらどうってことないぞ」

「へーなんかそう聞くと羨ましく感じるなー。じゃあ自炊とかしてるんだ?」


 何気ない会話のつもりだったのだろうが、その質問が出た瞬間、ちらりと咲の方をうかがえば、同じくこっちを見ていた咲と目が合う。


 一瞬だけのアイコンタクトだったのだが、颯太は意味深な2人の反応を見逃してはくれなかった。


「え、なになに? なんかあるの?」


(……まあ、桜井なら大丈夫か)


 周りが侑のことを好き勝手に言っていた時、結局頼らなかったが、なにかあったら言ってほしいと助力の態度を取ってくれた。


 あの時はぞんざいな態度を取ったものの、実際その申し出はありがたかった上に、そこから更に颯太と関わることも増え、人となりをもっと知ることとなった。


 だからこそ、話しても問題ない、信用に値する人物だと素直に思える。


 再度、咲とアイコンタクトを交わし合い、晃晴は頷く。


「……別に話してもいいけど、ちょっと待て。確認を取るから」

「確認?」


 不思議そうにしている颯太を横目に、スマホを取り出して侑に隣に住んでいることを話してもいいかという旨のメッセージを送る。


(俺はよくても侑はダメかもしれないし、勝手に話すわけにはいかないからな)


 メッセージは時間を置かずにすぐに既読となり、侑の方から了承の意の返信が返ってきたのを視認し、晃晴は顔を上げた。


「オッケーが出た。これから話すことは他言無用で頼む」

「うん。言わないよ」

「……実は、俺と浅宮……侑は住んでる所が隣同士なんだ」


 颯太が驚きで目を見開く。


 それから、なにかに納得したような顔になった。


「……なるほどね。仲がいいわけだ」

「毎晩料理を作りに来てくれる相手を仲がいいの一言で済ませていいのかは分かんねーけどな」

「……そりゃ、ますます他の男子がつけ入る隙がないね」

「分かってると思うけど、俺と侑はそんな関係じゃないからな。勝手な邪推は侑に迷惑がかかるから、やめてくれ」


 苦言を呈すると、咲と颯太が顔を見合わせる。


「ねえ、咲。おれの見立てだと、浅宮さんってさ……」

「お前の見立て通りだよ」

「こりゃ、浅宮さんも苦労するね、きっと」

「違いない」


 目の前で密談をする2人に、晃晴はわずかに眉を顰めた。


「なんだ、2人してこそこそと」

「なんでもねーよ」

「うん、なんでもないよ」

「なんでもないってことはないだろ」


 目を細めて軽く睨むが、咲と颯太はどこ吹く風という態度だ。


 これ以上言及しても口を割ることはないだろうと、晃晴は諦めのため息をついた。


「ところで、おれも今度日向の部屋に遊びに行ってもいい?」

「……別にいいけど、特別なものはなにもないぞ」

「いやいや、1人暮らしの友達の家ってだけでテンション上がるもんだから」

「勝手にテンション上げられても困る」

「へっ、オレなんてもう何度も泊まってるんだぜ? 羨ましいだろ」

「お前はお前でなんで友人歴マウント取ってるんだよ」


 なぜか得意気な咲に対して、呆れつつツッコミを入れておく。


「じゃあ、今度改めて部活が休みの日連絡するよ」

「ああ」

「あ、そうだ。部活で思い出したんだけど、日向の都合がいい時にチームメイトを紹介したいんだけど」


 言われてから、そう言えばと気がついた。


 一時的にとはいえ、さすがにチームメイトのことが分からないのはまずいだろう。


 球技大会の練習の時に何度も対戦しているのだが、顔はともかく名前がまったく分からないのだ。


 本当は一緒に練習をして連携を取れるようにするべきなのだろうが、向こうは部活をしている関係上、中々それも難しい。


 テスト週間の今なら部活もないだろうし、チャンスではあるのだが、相手の勉強の時間を奪うのは憚られる。


 なので、颯太のこの申し出は晃晴としても非常にありがたいものだった。


「悪い、頼めるか? 俺の方はいつでも大丈夫だから」

「オッケー。話はしておくよ。気のいい奴らだから安心してくれていいよ」


 と、話もまとまったところで部屋の中にピコンと通知音が鳴り響く。


「あ、ごめん。おれだ」


 こっちに断りを入れつつ、颯太がスマホを取り出す。


「あ。試合の対戦相手決まったみたい。ほら」


 颯太が見せてきたスマホの画面を覗き込むと対戦表の画像が表示されていた。


「……ここの学校って……!?」


 同じく、スマホを覗き込んでいた咲が驚愕を露わにする。


「知ってるとこなのか?」

「知ってるもなにも……ここが、榎本たちのいる学校なんだよ」

「……マジか。確か強豪なんだよな?」

「強いよ。割と頻繁に全国行ってるようなとこだからね」


 颯太の補足に、晃晴はもう1度「……マジか」と呟いた。


(くじ運が悪過ぎるだろ……)


 そもそも、晃晴たちは5人ちょうどで人数的な不安を抱えているわけで、疲れても交代が出来ない時点で相当なハンデを抱えている。


 その状態で、試合を何度も戦い抜けるほど甘くはないだろう。


 目指すは優勝なんて都合のいいことを言うつもりは端からなかったが、それでも出来るだけ勝ち進みたいとは思っていた矢先に、初戦から相手は全国常連校ときた。


「……勝つのは難しいだろうけど、榎本のとこに負けるのはなんか癪だな」

「同感。ま、やれるだけやってみようよ。最初から負けるつもりでやってたら、勝てるものも勝てないし」

「……その様子だと、桜井もその榎本のことを嫌ってそうなのが、なんか意外だな」


 いつも柔和に微笑んでいるし、例え相手が嫌いでも表立って表情に出したり、誰かに愚痴を言ったりするのは想像がつかない。


「おれだってさすがに誰彼構わず嫌ったりしないよ。ただ、相手がこっちに友好的じゃないのに、こっちがそうする理由はないからね」

「……ごもっともだな」


 肩を竦めた颯太に、晃晴も頷き返す。


「さて、この話はまた今度でもいいでしょ。こうして話してるのもいいけど、せっかくこういう所に来たんだし、そろそろ部屋出て色々と回ろうよ」

「それもそうだなー。ボウリング中断させちまったし」


 颯太と咲が荷物を持って立ち上がるのを見て、晃晴もそれに倣い、立ち上がる。


 そうして、3人は部屋を出て次の場所へと移動を始めたのだった。

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