指切り
それから、時間の許す限りゲームセンター内を周り、4人で様々なゲームをした。
レースゲームから、ダンスゲーム、リズムゲーム、変わり種でパンチングマシンをしたり、最初に戻って別のUFOキャッチャーをしたり。
そうして、咲たちと別れた晃晴と侑は帰路についていた。
「楽しかったか?」
隣を歩く侑に問いかけると、微笑みが返ってくる。
「はい、とても」
「そりゃよかった」
「……それにしても、ふふふ。この晃晴くんの顔、何度見ても笑ってしまいます」
侑が懐から1枚のプリクラを取り出し、肩を揺らす。
無理矢理付き合わされる形で4人で撮り、晃晴が無駄に魔改造された1枚だ。
くつくつと笑う侑に、晃晴は苦虫を噛み潰したような顔をして、侑が手に持つプリクラを睨みつける。
「記憶と写真を消去してやりたい……」
「そんなこと言わないでください。これだって大切な思い出なのですから」
「そうは言うけどな……」
「分かりました。今日の晩ご飯は晃晴くんの好きなものにしましょう。だから元気出してください」
「よし、忘れた。俺すごい元気」
「自分で言っておいてなんですけど、いくらなんでも現金過ぎませんか?」
途端に真顔になって背筋をピンと伸ばすと、侑が呆れつつもまたくすくすと笑う。
そして、買い出しをしてから部屋に戻ってきた。
侑は先に運動で使ったスポーツウェアを洗濯に出し、着替えてくるとのことで、晃晴も同じように洗濯機に放り込み、部屋着に着替えたのだが、それでもなお少しの空き時間が出来てしまう。
ひとまず、米でも炊いておこうとキッチンに入ろうとすると、そのタイミングでスマホから着信音が鳴り響く。
ローテーブルの上に放ったスマホを回収し、画面を見ると、
(……桜井?)
予想外の人物からの着信に、晃晴は怪訝な表情をしつつ、通話ボタンを押した。
『あ、もしもし。日向?』
「あ、ああ。どうした、突然」
『……もし、用はないけど話したかったって言ったらどうする?』
「切る」
食い気味に返答すると、スマホの向こうから笑い声が聞こえてくる。
『嘘うそ、冗談だって』
「気持ち悪い冗談言ってんじゃねえよ……で?」
『明日なんだけどさ、予定空いてないかな?』
「明日?」
『うん。親睦を深める為に遊びに行きたいなって。咲も誘ってさ』
電話をかけてきた相手が予想外なら、内容も予想外だった。
颯太のことは特に嫌いではないし、むしろいい奴だと思っていて、咲に次いで今後もいい関係を築いていければいいと思っている相手だ。
それに、一時的にとはいえチームメイトとなるのだから、親睦を深めておいて損はないだろう。
「けど、テスト週間だぞ。あまり遊び回るのはどうなんだ?」
『だからこそだよ。おれ、普段は部活で皆と遊んだりする時間取れないし。逆にこういう時じゃないとね』
「それはそうだな」
『でしょ? それに、ちょっと遊んだくらいで極端に成績が下がるわけでもないよ』
確かに颯太の成績は5位以内に入れるほど高い。
だからこそ、運動神経抜群、頭脳明晰の文武両道として名前が挙げられているわけだ。
「……分かった。明日だな」
『お、マジで? やったね』
「咲への連絡は?」
『おれがやっとくよ。明日の詳しい待ち合わせとかも決めて、あとでまた連絡する』
「頼んだ。それじゃ」
晃晴の方から通話を切ると、ちょうど玄関が開く音がして、「お邪魔します」という声が聞こえてくる。
ととと、軽い足音が近づいてきて、リビングの扉がかちゃりと開いた。
「悪い、米炊いとこうと思ったんだけど、電話かかってきて無理だった」
「電話ですか?」
「ああ。実は、明日桜井と遊ぶことになったから」
「……桜井くんとですか?」
侑にとっても意外な名前だったらしく、ことりと小首を傾げる。
「なんか親睦を深めたいらしい」
「そうなのですか。……ふうん」
納得はしたらしいが、どこか面白くなさそうだった。
「えっと、どうかしたか?」
「いえ、別に」
「別にってことはないだろ」
「……本当にただ醜い理由なのですが、少しもやっとしてしまって」
「もやっと?」
今の話のどこに侑がもやっとする部分があったのだろうかと、晃晴は首を捻る。
「……私はしばらく晃晴くんと過ごす時間は減るのかもしれないのに、桜井くんは晃晴くんと遊べるなんて、ずるいって思ってしまったのです」
「侑……」
「本当に気にしないでください。自分でもただの嫉妬だと分かっているので」
そうは言うが、聞き出してしまった以上、ちゃんと向き合わないといけないだろう。
過ごす時間が減ると言っても、普段通りこの部屋で過ごす時間はあるわけで、ないのは遊びに出かける時間だ。
晃晴は逡巡し、口を開いた。
「なあ、侑。テストが終わったらさ。どこか遊びに出かけるか?」
「え……?」
「その時は、誰も誘わずに侑とだけ遊ぶよ。侑の為だけに時間を使う」
「で、でも、テストが終わっても、まだ試合があるのに……」
「1日中バスケのこと考えて練習してなきゃいけないわけじゃないんだから」
そんなの息が詰まって、却って逆効果でしかない。
「ダメだったか?」
「だ、ダメじゃないですっ! それがいいですっ!」
「ん。なら、約束する。なんなら指切りでもするか?」
口角をわずかに上げ、小指を顔の前に立てる。
「しますっ」
すると、侑がむんっと意気込みながら、自身の小指を絡めてきた。
晃晴は「冗談のつもりだったのに」と苦笑を漏らしつつ、指切りをして、約束を結ぶ。
「楽しみにしていますね」
「ああ」
「あ、でも遊んでばかりではダメですよ? テスト勉強なので、きちんと勉強はしてくださいね?」
「分かってるよ」
侑の横に立つ為に、以前よりもちゃんと予習復習もこなしているのだから、なんなら中間考査の時よりも自信があるくらいだ。
頷いた晃晴は、侑と一緒に夕食を作り始めるのだった。




