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成長を感じる場面なのにドラマもなにもない

 ファミレスでの食事を終えた晃晴たちは、結局近場のゲームセンターへと足を運んでいた。

 店内に足を踏み入れると、賑やかな音が一気に降り注いできて、身体中を包み込む。


 そのあまりの賑やかさに、ゲームセンターに行くのが初めてだと言っていた侑が店内に入るや否や、ビックリした様子でぱちりと瞬きをする。


「こんなに賑やかなものなのですね」


 固まったのはほんの一瞬のことで、侑はすぐに物珍しそうにしつつ、好奇心に満ちた蒼い瞳で店内を見回し始める。


「まあ、最初は驚くよな」

「話には聞いていたのですが、想像以上ですね」

「大丈夫、すぐに慣れるよ。ゆうゆ、なにか気になるやつある?」

「え、えっと、そうですね……」


 きょろきょろと周囲を見回していた侑の視線が、とある筐体で止まった。


「あれは?」

「UFOキャッチャーだな」

「あれが……」

「んじゃ、とりあえずあれやってみっか」


 ひとまず、ぬいぐるみが入った筐体のゾーンへと向かう。


 その中の1つ、犬のぬいぐるみが入った筐体の前に通りかかると、


「あ、これ可愛いですね」

「やるなら教えるけど、やってみるか?」

「はいっ」


 侑がやる気満々に筐体の前に立ったので、晃晴もその横に並び、やり方を簡単に説明していく。


「とりあえず、まずは1回やってみてどんな感じなのか確かめるといい」

「そうですね。……では」


 侑が妙に鹿爪らしい顔をして、財布から取り出した硬貨を筐体の中に入れた。


 そのまま慎重に操作をしていき、アームはぬいぐるみの上で止まり、ぬいぐるみを持ち上げたが、持ち上がり切ったところで呆気なくアームから落下してしまう。


「あ……」

「とまあ、こんな感じで取れるまで続けるんだ」

「……も、もう1回」


 侑がわずかにむっとしたように、止める間もなく、再度硬貨を筐体に入れる。


「お、おい」

「……もしかして、浅宮さんって大人しそうな見た目して結構負けず嫌い?」

「……結構じゃない。ものすごく、だ」


 咲の意外そうな呟きを聞き、侑の負けず嫌いっぷりをよく知っている晃晴は額に手を置いた。


 こうなってしまった侑は、本人が納得するまで止まらない可能性が高い。


(まあ、侑のことだし……さすがに散財レベルでつぎ込んだりしないだろ)


 目の前でまたぬいぐるみがアームから逃れるのを見て、侑が無言のまま硬貨を取り出すのを見て、晃晴は苦笑しつつ、早々に説得を諦め、少し下がって見守ることにした。


(それに、素の部分を見せられるくらい咲と心鳴のことを信用し始めてるってことだしな)


 少し寂しくもあったが、いい傾向であることは間違いない。


 まあ、それはそれとして、そういった進歩を感じられるのが何度もUFOキャッチャーにリトライする姿を見てというのは、なんとも言えないものがあるが。


 目の前で行われるチャレンジが5回目を超えたところで、


「……取れません」


 さすがに無理だと思ったのか、侑がしゅんとしつつ、どこかむくれたように晃晴の元へ戻ってきた。


「簡単に取れるものじゃないし、誰がやっても似たようなもんだから。特別お前が下手ってわけじゃないんだし、そんなにいじけるなよ」

「いじけてませんっ」


 侑がぷいっとそっぽを向く。


「おし、出番だな。晃晴」

「いやおしじゃねえよ」

「ゆうゆの仇を討ったげなよ、男でしょ?」

「……はあ。やるだけやってみるけどさ」


 幼馴染みたちに左右から同時に言い募られ、晃晴は仕方なく筐体の前に立ち、硬貨を入れようとする。


「いえ、いいですよ。無駄にお金を使わせてしまうことになりますし」

「まあまあ。ここは晃晴に任せて」

「そーそー。ゆうゆの為ならいくらお金かけても痛くないってさ」


 好き勝手なことを言う心鳴に「言ってねえよ」とツッコミつつ、晃晴はアームを操作して、ぬいぐるみの上に持って行った。


「と言うか、こんなもん簡単に取れたら苦労は……って、あ」


 晃晴が操作したアームは、いとも簡単にぬいぐるみを持ち上げ、そして、穴の上まで運び、開かれたアームがぬいぐるみを取り出し口へと落とす。


 壮大なファンファーレが鳴り響き、ぬいぐるみを回収することすら忘れて、ぽかんと固まってしまう。


 やや間があってから、呆気に取られていた晃晴は硬直から回復し取り出し口からぬいぐるみを取り出し、侑に「……とりあえず、ほら」と差し出した。


「……あ、ありがとうございます」


 侑がなんだか微妙な表情をして、ぬいぐるみを受け取る。


「あーえっと……よ、よかったね、ゆうゆ」

「……嬉しいのですけど、なんだかとても釈然としません」


 そう呟き、侑は両腕でぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて、憮然とした表情を隠すように口元を埋める。


「こ、こういうのは運もあるから仕方ないって! さ、気を取り直して遊ぼうぜ! オレレースゲームやりてえ!」

「あ、あたしも! 勝負だ勝負!」


 いたたまれない空気が漂う中、幼馴染みコンビが侑を気遣うように近くにあったレースゲームの筐体の傍に寄っていく。


「な、なんか悪い」

「……いえ。取れてよかったです。……晃晴くん」

「なんだ?」


 聞き返すと、侑は犬のぬいぐるみをぎゅっと抱き締め直し、控えめに微笑んだ。


「この子も大切にしますから」


 不意打ち気味にその笑みを受けた晃晴は、わずかに目を見開き、


「……そうしてやってくれ」


 照れたことを誤魔化すように、そっぽを向きながらぶっきらぼうに呟く。


 それは、ゲームセンター内の騒音にかき消されることなく、侑の耳へと届いたらしく、侑のくすくすと笑う声がそれを教えてくれた。

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