ファミレスで
「——あいつ、ココのことが好きなんだよ。だから、幼馴染で仲の良いオレはとにかく目の敵にされてたってわけ」
移動した先のファミレスで注文を頼んだ晃晴たちは、待っている間に咲の話を聞き終えた。
「なるほどな。通りで、心鳴と咲しか眼中にないみたいな態度だったわけだ」
あの場には晃晴と侑もいたのに、榎本は晃晴たちには一瞥もくれなかった理由がよく分かった。
「中学の時からめちゃくちゃ口説かれててうんざりしてたんだけど、まさかまだ諦めてないとは思わなかった」
「……一途と言えば聞こえはいいのでしょうけどね」
「一途と執着は紙一重。彼氏いるって言ってるのに別れて自分と付き合えは完全にアウト」
心底めんどくさいと言わんばかりに心鳴がため息をつく。
「それにいくら顔がよかったとしても、あたしああいうチャラい感じとか俺様系とかナルシストタイプ好きじゃないから」
「……それ遠回しに彼氏にイメチェンしろって言ってないか」
「咲はいいんだよ。別にナルシストでも俺様でもないし、チャラいはチャラいけどカッコいいの許容範囲だし」
「お、おう。そ、そっか……」
「……なに照れてんだ? 言われ慣れてるだろ」
「な、慣れてても不意打ちは照れるもんなんだよ!」
実は言われ慣れていないので、カッコいいと言われて咲が本気で嬉しがっているなんて、本当に2人が付き合っていると思っている晃晴に気づけるわけがない。
「あの1度も勝ったことないってのは? 負け惜しみってわけじゃないのか?」
「……残念なことにそれはマジ。あいつああ見えて頭もいいし、運動もちゃんと出来る。だから態度デカくなってるんだろうけど」
見た目良し、勉強出来る、運動神経もいいとくれば、なんとなくあの天狗っぷりも分かるような気がした。
「その代わりにステータスから性格面をマイナス方面に振ってるけどね、あいつ」
「お前が大っぴらにここまで言うって相当だな……」
心鳴は確かにハッキリとものを言うタイプだが、竹を割ったような性格なので、人の愚痴をネチネチ言い続けるようなタイプではない。
だからこそ、心鳴はそのコミュ力も相まって学内で学年問わずに知り合いが多く、同学年には慕われ、上級生からは可愛がられているのだろう。
そんな心鳴がここまで言うのは、恐らくあの榎本くらいのものだ。
「……心鳴ちゃんが凄い顔をしていますし、ひとまずこのお話はここで終わりにしておきませんか?」
苦虫を噛み潰したような顔をした心鳴を見て、侑が苦笑を零す。
「そーそー。あんな奴の話してたらせっかくのご飯がまずくなるって」
「はいはい。んじゃ、オレなんか飲み物でも取ってくる」
「俺も行く。侑はなにがいい?」
「えっと、では、オレンジジュースをお願いします」
「ん。分かった」
晃晴と咲は並んでドリンクバーへと向かう。
「お前、当たり前のように心鳴の飲み物聞かないんだな」
「まあな。何回あいつと来てると思ってんだよ」
わずかに呆れを含んだ晃晴の声に、咲が肩を軽く竦める。
「……なあ、咲」
「どうした?」
「あいつ、まだバスケ続けてるってことだよな」
「榎本か? 噂じゃ、この辺の強豪でスタメン争いに参加してるとからしいけど……」
咲の返事を聞いた晃晴は、コップを取り出すこともせずに、神妙な面持ちになった。
「それ、例の1年生限定大会に出てくる可能性ないか」
そう言うと、咲も「あ……!」と目を見開く。
「考えてなかったけど、その可能性高えな……うわぁ、めんどくせえ……」
「あくまで可能性だからまだなんとも言えないけど。その心構えはしといた方がいいだろうな」
「マジかよ……試合当たらないこと祈っとこ」
咲がげんなりとしながら、コーラを2つ注ぐ。
晃晴も倣うように自分の分と侑のオレンジジュースを注ぎ、席に戻る。
「ほい、コーラお待ち」
「さんきゅー。やっぱこれだよねー」
ご機嫌にコーラを口に含む心鳴を尻目に、侑の前に入ったコップを置いた。
「ありがとうございます」
「ん。で、飯食ったあとどうするんだ?」
「っと、そうだった。2人はどうしたい?」
「もち、遊びに行くっしょ! ね、ゆうゆ」
話を振られた侑は困ったように笑う。
(真面目な侑のことだし、テスト週間に遊び過ぎるのはよくないって思ってるんだろうな)
しかし、盛り上がっているところを断るのも悪いとも思っているのだろう。
それを見て取った晃晴は少し考え、
「俺も遊びに行くのに1票だ」
「え?」
そんなことを言ったのが意外だったのか、侑がきょとんとして蒼い瞳をこっちに向けてくる。
「ど、どうしたの晃晴!? あんたならテスト週間なんだから勉強しろって言いそうなのに!」
「自分でよく分かってるじゃねえか」
せっかく味方をしたのに、ぎょっと目を剥いて信じられないものを見るような目をでこっちを見てくる心鳴を半眼で睨め付けた。
「俺、しばらくはテスト勉強やら、サークル練の参加やら、自主練やらでしばらく時間空きそうにないし」
「……言われてみれば、そうなるのですね」
「だろ? だから、遊べる時にはちゃんと遊んでおきたくてさ。……ダメか?」
問いかけると、侑は首を横に振り、微笑んだ。
「そういうことであれば」
「よっしゃ! そうと決まったらどこ行くか決めようぜ!」
「運動はもうしたし、ボウリングとかよりもあんま動かなくて済むカラオケとかゲーセン?」
侑が賛成したことで計画を止める必要もなくなったので、幼馴染コンビが嬉々としてプランを考え始める中、
(そうなったらあんま侑と一緒に過ごせなくなるしな)
侑が部屋に来て、自分と過ごす時間を楽しみにしてくれているのは知っている。
同時に寂しがり屋であることも。
ただでさえ自分から人を誘ったりするのが苦手なのに、テスト週間ともなれば、侑の性格上、自分から誰かを誘って遊びに行こうとする可能性は皆無だろう。
(……寂しいとか絶対言わないだろうしな)
だからこそ、時間がある時にはちゃんと遊んでおくべきだと思ったのだ。
楽しそうな侑の顔を見て、晃晴はこっそりと頬を緩めたのだった。




