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晃晴と咲のワンオンワン

 翌日。


 晃晴と侑が体育館前に行くと、既に咲と心鳴が待っていた。


 近づいていくと、2人が気がつき、片手を挙げてきたので、晃晴も同じように片手を挙げ返す。


「うぃーっす、2人とも」

「おはよー。晃晴、ゆうゆ」

「おはようございます。お2人とも」

「お前ら先に来てたのか」

「2人なら時間より早めに来るだろうって思ったからな。予想通りだったわ」


 結果としてお互いが早く着いたせいで、予約の時間までそこそこ空くことになったが、遅れるよりはいいだろう。


「もしかしてお待たせしてしまったのでは……?」

「いやいや、あたしたちが勝手にやったことだし、時間には全然余裕あるから」

「そーそー」


 迷惑をかけたのではという気配を感じ取った侑が、眉を下げていると、幼馴染みコンビが素早くケアしてみせる。


 この2人も、晃晴ほどではないが侑の性格が分かってきているらしい。


「で、空いた時間はどうする?」

「とりあえず受付で手続き先に終わらせてから待っとけばいいんじゃね?」

「もしかしたら早めに使わせてくれるかもしれないしね」


 ひとまず中に入り、受付にいた人に話を通すと、少し早いがフロアを使用させてもらえることになった。


 ゴールのセッティングは勝手が分かっている晃晴と咲で行い、侑と心鳴は室内用の貸し出しボールをレンタルしてきて、手早く諸々の準備を終える。


「お。それかっけーじゃん」


 買ったばかりのシューズを鞄から出すと、咲が感想を述べてきた。


「まあな。いいのがあってよかったよ」

「浅宮さんと買いに行ったんだっけ?」

「ああ」

「……なんかお前ら、一緒に動くことに全然躊躇がなくなったよな」

「隣に住んでること以外は隠す必要もなくなったからな。その為にやったんだし」


 とは言え、やはり晃晴たちからしたら普通にしているだけなのに、ちょっとした会話でも注目を集めてしまうのは気疲れしてしまうのだが。


「あ、ゆうゆのシューズ可愛いね」

「はい。晃晴くんが選んでくれたのですよ」

「ふーん」


 嬉しそうに話す侑に返事をした心鳴からにやにやとしたからかいの笑みがこっちに向かって飛んでくる。


 晃晴が「なんだよ」と睨め付けると、心鳴は「いやー? べっつにー?」とからかいの笑みを維持したまま話をはぐらかした。


「んじゃ、各自アップしてから自由に始める感じでやってくか」

「おっけー。約束したし、あたしはゆうゆに教えるから」

「よろしくお願いします」


 異論はないので晃晴もシューズを履き、軽いストレッチを済ませる。


 それから、転がっていたボールの1つを手に取って、数度ドリブルをついて感覚の確認まで終え、シュート練習を始めようとしていると、


「晃晴、勝負しようぜ」


 咲が近づいてきて、話しかけてきた。


「勝負?」

「ああ。せっかくの機会だろ?」


 ボールを片手に持った咲が不敵な笑みを口元に湛えて、「それにさ」とやや声のトーンを落として続ける。


「お互い、いいところ見せたい相手がそこにいるだろ?」


 晃晴は主人公としてメインヒロインにいいところを見せたくて、咲は偽彼女で好きな相手にいいところを見せて効果は薄いかもしれないがアピールをしたい。


 理由は違えど、男としてカッコいいところを見せたいというのは共通していた。


「……いいけど。負けても文句は言うなよ」

「そりゃこっちのセリフだっての」


 晃晴と咲は好戦的な笑みを交換し合う。


「で、種目は?」

「もち、ワンオンワン。6点先取でどうだ?」

「オッケー」

「んじゃ、負けたらこのあと飯奢りな」

「上等」


 火花を散らしながら、2人でゴール正面のスリーポイントライン付近に移動したところで、


「え、なになに。勝負すんの?」


 勝負の匂いを嗅ぎつけてきた心鳴が、わくわくしたようにこっちを見てきた。


「ああ。見とけよ、ココ。晃晴をけちょんけちょんにしてやるから」

「じゃ、期待してよっかな。頑張れー咲ー」


 心鳴の声援を受けたことで、咲のモチベーションが1段跳ね上がる。


 その様子を横目で眺めていた晃晴は「あの、晃晴くん」と自身を呼ぶ声に、そっちに視線を向けた。


 視線を向けた先では、侑が静かに微笑んでいた。


「頑張ってくださいね」

「……ああ。ありがとな」


 侑のエールを受けた晃晴もまた、心の中に静かな熱が灯るのを感じる。


(って言っても、咲は一応現役でやってるし、どこまでやれるかだな)


 球技大会までの練習の様子と、本番の様子を見ているから分かるが、咲はかなりドリブルが上手い。


 そこにブランクのある自分がどこまで食らいつけるのかは正直未知数だった。


「先行は譲ってやる」

「じゃあ遠慮なく」


 咲がオフェンス、晃晴がディフェンスでそれぞれの位置につく。


 軽くパスされたボールを咲にパスし返し、勝負の火蓋が切って落とされる。


「……っ!?」


 晃晴が腰を落として構えた瞬間、咲が様子見なんてさせないというように、ドライブで一気に攻めてきた。

 

 反応はしたが、それでも不意を突かれたことで、右から左への切り返しについていくことが出来ず、あっさりと1本決められてしまう。


「まず1本」

「……こんにゃろ」


 レイアップを決めて余裕の笑みで振り返る咲に、晃晴は軽く顔を顰めた。


「いいぞー咲ー!」


 晃晴は見物している心鳴のエールににっと歯を見せて応える咲を正面から見据え、ふーっと息を吐き出す。


(俺に使える手は……)


 頭の中で攻め手を考えながら、咲にパスを渡し、戻ってきたボールをドリブルし始め、一気に加速した。


「ちょっ、マジか!?」


 さっき自分が使った手を使われ、咲が目を剥いた。


 反応の遅れた咲を緩急を使って抜き去り、お返しと言わんばかりにレイアップを決め返す。


「油断し過ぎじゃないのか?」

「お前球技大会の時はそんな強引な攻め方してなかっただろ!」

「出来ないとは言ってないぞ」

「んにゃろ……!」


 やはり中に切り込んだりするのは苦手だと思われていたらしい。


 煽ってはみたものの、実際自分があまり使わない手だったので、内心は奇襲が上手くいってホッとしていた。


 それをおくびにも出さず、ディフェンスの位置に戻る途中、侑と目が合う。


 声こそなかったが、顔を綻ばせている侑に軽めのガッツポーズで応えておく。


 再び回ってきたディフェンスのターン。


 咲は右に左にクロスオーバーやレッグスルー、バックビハインドなど小技を駆使して隙を作ろうとしてくるが、しっかりとついていく。


 だが、少しだけ動きが遅れてしまい、その隙を見逃さなかった咲が右側から切り込んできて、レイアップのモーションに入った。

 

(けど、これは、間に合う……!)

 

 諦めずに手を伸ばし、シュートブロックに飛ぶと、


「……っ!」


 咲はそれを予測していたかのようにダブルクラッチと呼ばれる技で晃晴の手を躱し、シュートを決めた。


「っしゃ!」

「……やられたな」


 顎から滴る汗を腕で拭い、やられたことを悔しがる暇もなく、晃晴は2度目のオフェンスに挑む。


 攻め手はさっきと同じくドライブで切り込む形だ。


 しかし、当然そんな手は通じずに、咲のディフェンスが阻んでくる。


「同じ手は食わねえよ!」

「だろう……なっ!」


 こっちがドライブで切り込むのを止めようと、咲が合わせて後ろに下がったのを見計らって、晃晴はステップバックで距離を空けてシュートを放つ。


「なっ!?」


 意表を突かれた咲は動けずに、綺麗な放物線を描いて飛んでいき、リングに吸い込まれるシュートを見守ることしか出来ない。


「初手のドリブル、相当意識したみたいだな」

「くっそ……!」


 これで4点ずつと、同点。


 3度目のディフェンスでようやく身体が温まってきて、咲の動きにも余裕を持ってついていけるようになってきた。


(……ここ!)


 咲が後ろに下がるのに合わせて、ボールに向かって手を伸ばす。


「くっ!?」


 だが、晃晴のスティールよりも咲がボールを引っ込める方が早く、晃晴は空振りしてしまう。


 その拍子に咲はボールを持ってしまったので、スリーポイントを打つしか選択肢がなくなった。


 咲が晃晴の体勢が整う前にシュートを放つと、


「……っ!」


 リングの上で1度跳ねたボールが、リングの中に不恰好に転がり落ちた。


「は、ははっ。ラッキー」

「……まだ勝負はついてない。俺、後攻だし」


 どちらにせよ、これで晃晴が決められなければ負けで、決めたら延長戦。片方が決めて片方が止められるまで続くことになる。


 追い詰められて精神的に余裕のなくなった晃晴の3度目のオフェンス。


 晃晴が選んだのは、1度目と2度目と同じくドリブルで切り込むことだった。


「おいおい、言っとくけど、ドライブもステップバックももう見たぜ。まさか通じると思ってねえよな」


 優勢な立場からか、咲が好戦的に笑いながら、晃晴の行く手を阻む。


「思ってるわけ、ない、だろっ!」


 晃晴はシュート体勢に入り、そのまま後ろに飛んだ。


「っ! フェイダウェイかよ!?」


 咲が遅れて気づき、慌てて詰めるようにブロックに飛んでくるが、晃晴がシュートを打つ方が早い。


 スナップを効かせ、放ったボールは飛んでいき、リングに弾かれた。


 弾かれたボールがフロアに跳ねる音が、晃晴が負けたという合図になってしまう。


「くそっ……俺の負けだ」

「いや、正直最後のスリーはまぐれだし、オレが負けててもおかしくなかったわ」

「うるさい。負けは負けだ」


 身体はついてきていたが、やはり技術のブランクはそう簡単には戻らない。


 もちろん、それをわざわざ口に出して言い訳することはしないが。


 互いに肩で息をしつつ、飲み物を飲む為に荷物の方へ歩くと、それぞれのパートナーが健闘を讃えながら、飲み物を手渡したのだった。

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