シューズ選び
「侑って普段こういう所に来たりするのか?」
放課後になり、スポーツショップに来た晃晴は、隣を歩く侑に問いかける。
「いえ、滅多には。ランニング用のシューズだったり、スポーツウェアがボロボロになったりしたら新しいものを買いに来るくらいですよ」
「まあ、そういうもんか」
話しつつ、今日の目的である室内用バスケットシューズが置いてあるコーナーに足を運ぶ。
「今まで見てこなかったのですが、こうして見るとかなりの種類があるのですね。バスケット用だけではなく他のスポーツ用のものも」
「お陰でカッコいいのが増えて、俺は見てるだけで結構楽しかったりする」
「ふふっ、私も服を選んでいる時はそんな感じです」
棚に陳列された色もデザインも様々なシューズを眺めながら、なんとなく気に入った青と白のシンプルなデザインのものを手に取った。
「晃晴くんってどんな色が好きなのですか?」
「暗めの緑とか、青系が好きだな。そっちは?」
「空みたいな水色だとか、あとは薄めの黄色なんて好きですよ。……白も好きなのですが、私が身につけると白くなり過ぎてしまうので、扱いが難しくて」
「あー……なるほどな」
晃晴は一般的な黒髪なので、服を選ぶ際には髪の色まで考慮して選んでいるわけではなく、精々服同士の色のバランスを見たり、それで合わせる小物を決めたりするくらいのものだ。
侑は髪が白いので、普通の人間よりもそのあたりのバランスを考えて合わせないといけないのだろう。
(そう考えると、侑ってかなり考えて服選んでるんだな)
晃晴も最近は咲に教わりつつ、ファッションのことを勉強している駆け出しの身だが、素人目から見ても、侑の服装は違和感なくお洒落に見える。
今まで気がつかなかっただけで、裏では相当悩んでいるのかもしれない。
「あ、ダメだこれ。俺のサイズがない」
ひとまず試着してみようと自分のサイズの箱を探したのだが、どうやら運悪く売り切れみたいだった。
「店員さんに在庫があるか確認してみたらどうですか?」
「いや、とりあえず他のも見てみる。探してもいいのがなくて、どうしてもこれが良かったら聞いてみる」
なんとなく気になっただけで、絶対これがいいと思ったわけではない。
手に持っていたものを棚に戻し、晃晴はシューズ選びを再開する。
「お、これいいかも」
次いで、晃晴が手に取ったのは暗めの緑と白の落ち着いたデザインのもの。
自分のサイズのものも在庫があり、早速試着をしようと近くにあった椅子に腰を下ろし、手早く片足だけ履き替えて、立ち上がって歩いてみる。
(うん。履き心地も悪くない)
サイズも小さ過ぎず、大き過ぎず、良い感じのフィット感だ。
「どうだ? 色の感じとか」
一応似合っているかどうかも侑に尋ねて確認してもらう。
「……はい。似合っていると思いますよ。カッコいいです」
「そりゃよかった」
侑は嘘を言ったりお世辞を言ったりはしないのは分かっているので、言葉通りに受け取ってもいい。
お墨付きも出たことで、晃晴はこのシューズを購入することに決めた。
履き替える為にもう1度椅子に座り、靴を脱いでいると、
「晃晴くんって足、大きいですよね」
頭上から、侑の感嘆混じりの声が聞こえてきて、わずかに顔を上げる。
視線の先では侑が興味津々と言わんばかりにこっちを見下ろしていた。
「そうか? 平均くらいだけど」
大体27センチくらいなので、特に大きいと言えるものでもないはずだ。
「私から見たら十分大きいと言いますか、なんと言うか……男の子だなあって」
「……だったら、侑も女の子だな」
脳裏には、先日見た侑の小さな足が浮かび、晃晴は改めて今はローファーに包まれている侑の足を見る。
靴からでも視認出来る通り、侑の足は自分のものと見比べてみても当然小さい。
晃晴の返しに、侑は一瞬きょとんとしてから、くすぐったそうにはにかんだ。
(って、なにを恥ずかしいこと言ってんだ俺は)
侑の微笑みを受けた晃晴は、なんだか無性に面映ゆくなってしまい、誤魔化すように靴を履き替える作業に戻ると、わざとらしくぶっきらぼうに口を開いた。
「……で、そっちはなにかいいのあったか」
「えっと、そうですね……」
侑が棚から2つほどシューズを見繕って、こっちに戻ってくる。
「この2つで悩んでいるのですが、どちらがいいと思いますか?」
侑が持ってきたシューズは、メーカーと色がそれぞれ別のものだ。
1つは、上半分が淡い水色で下半分が白色のグラデーションっぽくなっているもの。
2つ目は、白を基調としていて、ロゴやラインが薄い黄色のもの。
「どっちも似合うと思うけど、実際に履いてみてもらわないとなんとも言えないな」
「それなら、試着してみますね」
晃晴と入れ替わるように椅子に座った侑が、左右でそれぞれ選んだシューズに履き替えていく。
(なんか、やっぱ足、小さく見えるな)
ローファーを脱いだせいなのか、余計にそう見えた。
恐らく女性の平均的なサイズなのだろうが、話題に上がったことで意識して見てみると、自分との違いに驚かされる。
こういったサイズ感の違いや、ふとした瞬間に異性を感じるのは、晃晴も侑も同じだった。
「どうですか?」
「……やっぱどっちも似合ってるけど、俺はこっちが侑らしいって思う」
立ち上がった侑の足下に視線を落としつつ、晃晴は水色の方を指差す。
すると、侑は頷き、微笑んだ。
「それなら、こっちにします」
「いいのか? 自分が履いてみて気に入った方でいいんだぞ?」
「いえ、これがいいのです」
そうきっぱりと言い切られてしまえば、もう晃晴に言えることはない。
こうして、2人はシューズを買い終えて、今日の夕食の相談をしながら帰路に着いたのだった。




