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証明

 翌日。


 晃晴が登校すると、既に謎のイケメンと歩いていたことや、晃晴と付き合ってるという噂は、侑が二股をしているという噂に塗り変わっていた。


 聞こえてくる侑を悪く言う声に、晃晴は眉間にしわを寄せ、奥歯を軽く噛み締めていると、


「そんな顔すんなって。せっかく整えてやったのが台無しだぞ?」


 隣を歩いていた咲が肩を組んでくる。


「……ああ。悪い」

「ま、気持ちは分かるけどな。……緊張してるか?」

「してないように見えるか?」


 さっきから手と足はわずかに震えているし、周りから見られていることもあって、内心はそわそわしっぱなしだ。


(……ったく、昨日の内に散々覚悟決めたってのに)


 我ながら情けなくて笑えてくる。


 晃晴は自分の教室の手前で立ち止まり、目を閉じて大きく深呼吸してから、教室内に足を踏み入れた。


 入り口付近にいたクラスメイトたちが、こっちに気づき、ぽかんも口を開けて会話を止める。


 晃晴が歩を進める度に、ざわめきが静まっていって、その波は徐々に侑の元へと近づいていく。


「ねえねえ、浅宮さんって二股かけてるんでしょ? じゃあさ、俺とも付き合ってよー」


 クラスメイトの1人が、周囲の様子に気がつかずに、侑にへらへらと笑いかけている。


「——おはよう。浅宮」


 それを無視するように侑へと近づくと、侑がこっちに顔を向け、蒼い瞳を見開いた。


「こう……ひ、日向、くん……?」


 ぱちり、と目を瞬かせた侑はやがて「お、おはようございます……?」と動揺したまま挨拶を返してくる。


 そんな侑に「ああ」とだけ短く返事をし、晃晴は教室内を見渡した。


「皆、驚かせて悪い。浅宮と歩いてたって男のことなんだけど……それ、俺なんだよ」


 静まり返って、注目を集めている教室の中、《《髪をセットして、制服を少しだけ着崩した姿になった》》晃晴の声が響く。


「浅宮と俺は友達なんだ。ノートのことだって、俺が浅宮に頼んだことだ」


 晃晴はもう1度、教室内をゆっくりと見渡して、


「だから、二股をかけてるなんて噂をするのはやめてくれ」


 頭を下げた。


 それから、徐々にざわめきを取り戻していく教室の中、自分の席まで戻る。


「お疲れ」

「……ああ」


 席に戻ると、待っていた咲が突き出してきた拳に、軽く拳を当て返した。


「ひ、日向! お、お前どういうことだよ!」


 クラスメイトの1人が泡を食ったように近くへと寄ってくる。


「どうって、見たままだろ」


 そんなクラスメイトに、鼻を鳴らしながら答える。


 すると、それを機にクラスメイトたちが一気にこっちに押し寄せてきた。


「なんで黙ってたんだよ!」

「こうなるって分かりきってたからな。好き勝手噂されるの、好きじゃないんだよ。俺も浅宮も」


 不機嫌なことを隠そうともしない晃晴に、クラスメイトたちがたじろいだ。


「ご、ごめん、日向君。面白がって、好き勝手言っちゃって……」

「お、俺もごめんな」


 1人が謝ったことを皮切りに、晃晴を囲んでいたクラスメイトたちが口々に謝罪の言葉を口にし始める。


 晃晴はそんなクラスメイトたちに、ため息をついてから、


「俺のことはいい。謝るなら、浅宮に謝ってくれ。……特に、さっき付き合ってくれって言ってた奴はな」


 言い終わると同時に目を細めて、そのクラスメイトを鋭く見据えた。


 睨まれた男子生徒がバツが悪そうな顔をして、侑に謝ったのを見て、晃晴はふう、と息を吐いた。


 そこに「おはよう、日向」と颯太が片手を挙げながら近寄ってくる。


「はよ、桜井。悪いな、朝から騒がせて」

「いいよ全然。日向が謝らないといけないことなんてないでしょ」

「そう言ってもらえると助かる」

「でもビックリしたよ。まさか自分から正体を明かすなんて」

「まあ、ちょっと色々あってな」


 晃晴が頬を指で掻くと、颯太は「ふうん」と近くの席の背もたれ部分に両腕を乗せる形で腰を落ち着けた。


「でもこれで、浅宮さんの悪い噂は落ち着くだろうね。やるね、まるでヒーローだ」

「……こうなる前にもっとスマートにやれてたらよかったんだけどな。お陰で少しでも浅宮に二股してる、なんて聞かせることになったし」

「おれも昨日の夜、友達から急にその話が回ってきてさー。……あ、もちろん、おれも、グループの奴らも浅宮さんのことを悪く言ったりしてないからね? 仮にグループの中にそんなこと言おうとする奴がいたらおれが止めてたし」


 微笑みながら当然でしょ、と言わんばかりに告げてくる颯太に晃晴は「そりゃどうも」と返す。


「にしてもマジで周りの奴らの見る目のねえこと。颯太もそう思うだろ?」

「うーん、さすがに賛成せざるを得ないかなー」

「お前ら、よく注目されてる中堂々とそんなこと言えるな」

「「え? だって事実だし」」


 周りを気にせずに声を揃えて言ってのけた咲と颯太に、晃晴は苦笑を漏らしながら、少し羨ましいと思ってしまうのだった。






 


「悪いな、急に連れ出して」


 次の休み時間。


 晃晴は侑を引き連れて、自動販売機前まで来ていた。


「い、いえ……」


 侑はなんの用事で連れ出されたのか、心当たりがあるのだろう。ここに来るまでもずっと俯きがちだった。


 晃晴は付近に誰もいないことを確認し、口を開く。


「さて、《《侑》》。はっきり言って、俺はちょっと怒ってます。なぜだか分かりますか」


 単刀直入に切り込むと、侑が肩をぴくんと振るわせた。


「……わ、私が自分勝手に距離を取ろうとしたからです」

「正解。侑は俺に迷惑をかけないように1人になろうとしたんだろ?」

「……はい」


 予想通りだったので、晃晴は思わずため息をついてしまう。


 そのため息をどう受け取ったのかは分からないが、侑が俯いたまま、また肩を跳ねさせた。


「前にも言ったと思うけど、俺は迷惑なことならちゃんと迷惑だって言う」

「……はい」

「急に離れる、なんて言われる方が俺にとってはよほど辛い」

「……はい」


 返事をしながら頷き続ける侑に、晃晴は優しく寄り添うようなトーンを意識しつつ、声をかけた。


「もうこんなことしないって約束してくれるか?」

「……はい。もう2度と、しません」


 顔を上げて、真っ直ぐにこっちを見つめてくる蒼い瞳と目を合わせ、晃晴は口角を上げる。


「ん、よし。なら許す。そんでもって、俺も2度とこんなことさせないように頑張るってことで、この話はここで終わり」


 柔らかな笑みと共に告げると、侑はなぜか「あ……」と惚けたような顔になり、徐々に頬を赤く染めていく。


「……? どうかしたのか? なんか凄い顔赤いけど」

「ど、どどどどうもしてにゃいです!」

「そ、そう、か?」


 もの凄い勢いの否定の上に噛んでいるのが気になったが、なんとなく指摘するともっと大変なことになりそうなので、晃晴は納得がいかないが頷いておくことにした。


「んじゃ、そろそろ戻るか」

「あ、あの……わ、私は飲み物を飲んで戻りますので、先に戻っていてもらえると……」

「ん。そうか? じゃあ、先に戻ってるな」


 特に疑問に思うことは無かった晃晴の姿が見えなくなってから、侑は「うぅー……!」と蹲ったのだった。

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