第一席・黒髪の美人と邂逅し、力を知る
久しぶりの投稿です。どうか楽しんで読んでください。
俺がこっちに来たのは約三年前ほどの頃だった。何がきっかけで来たかは正直言ってまるで覚えていない。目が覚めて次に見た光景は大きな窯が置いてある小さな一軒家の中で寝ていたことだった。寝てちゃ分からない事が多かったからとりあえず布団から出て立ち上がって顔を洗おうとした時に水面に自分の顔が映ったその時だった。
自分の顔が別の顔になっていた。
俺の本来の顔は少し無精髭を生やした三十路の顔のはずが今、水面に映っているのは
青い瞳
背中まで伸ばした黒髪を結っていて
鍛え抜かれた肉体
それが今の俺の姿だ。
昔は
黒眼の黒髪
無精髭
平均的な男性の肉体
だったのだが、何故?
分からないことだらけだ。おまけに服装は赤の着物に黒の野袴、黒い靴を身につけていた。本当に分からん。なんたってこの姿でいるんだ俺は?
「いったいどうなっ......声も変わってる、若い頃の俺の声だ。」
まさか肉体年齢に応じて声も若返ってるとは、本当に訳が分からん。頭が追いつかない。
「とりあえず部屋の中を確認するか。」
俺はせっかくなので顔を洗ってスッキリした後に部屋の中を調べた。外にあった窯はもちろん調べ済みだ。勘だが陶器を焼くための窯だと分かった。次に部屋の中だが先程まで使っていた敷布団に囲炉裏、様々な形の美しい壺や食器に花瓶が置いてあった。他にあったとすれば……
「これって日本刀だよな?少し長いけど打刀だ。」
部屋の奥の台座に置かれた一振りの日本刀を手に取って抜いてみた。鍔や無駄な装飾がない質素な作りでなんて言ったっけ?えっと、そうだ白木拵えだ。赤みがかってるけど大して問題はないな。
少し銘が気になって目釘を抜いて確認すると
「えっと……『龍閃』、か。龍閃!?」
俺はその刀の名前に聞き覚えがあった。それは『るろうに剣心』という作品に登場する主人公の師匠『比古清十郎』という作中最強キャラクターの愛刀の名前である。
「けど、龍閃ということは完全版の方か?名前的には俺好みだからいいけど桔梗仙冬月も気に入っている名前だからな……」
って、なに喜んでんだ俺は。龍閃を納刀して台座に戻し考える。
何故、自身の体が若返って龍閃もあり、さらにはこのような窯がある一軒家もある。これにいったいなんの意味があるのかまったく持って理解ができない。それにこの姿になる前の本来の姿だった記憶が一欠片も思い出せない。自身の名も思い出せないしどんな事をしていたかも分からない。
「あぁ〜、もう!!」
何も分からなすぎて苛立ちが募る。ハァ〜……
分からない事をいつまでも考えたって仕方がないと割り切って俺は気晴らしという現実逃避で経験が一切無い陶芸をやり始めた。
●○●
それをやり続けて約三年後、俺は陶芸だけでなく水墨画や絵画なんかも描いてそれなりの稼ぎを得た。とりあえず偽名として比古清十郎が使っていた新津覚之進として流浪の芸術家をしている。
それにただ芸術家として活動するだけじゃなくこの世界での情報収集も兼ねて動いていた。地形や土地、服装、動物、植物さらには街と住む人々を見てある程度の予測を立てた。
恐らくここは中国、それも三国時代の少し前の時代らしい。つまりはまだ中国の再統一がなされていない。さらに得られた情報によると魏の曹操、呉の孫策と二つの国がかなり話題に上がることが多い。どちらも名の知れた武将で片や『武王』、片や『小覇王』なんて呼ばれてるんだ、話題が上がるだけでなく尽きることもないだろう。それはさておき……
「……これでヨシっと。」
俺は作り上げた作品を仕上げて色んな角度から確かめていい出来だと納得する。作ったのは酒壺でそれなりにデカく作り周りにはほんの少し桃の木を描いた作品だ。
「さてと、こいつをいつもの店に渡してくるか。」
俺は作った酒壺を持って家を出て街に向かう。三年前に近くに街があったことに気づいて思い切ってそこの街で美術品や家具なんかを取り扱う店と交渉して商談の話をした際に俺の作った物を売ってもらった。かなり贔屓してもらっている。見た目は堅物そうなのに意外と融通が効くオッチャンなんだよな。
「おう、オッチャン。持ってきたぞ。」
「ん?お、覚ちゃんか。今日も名器を作ってきたのか?」
「まだ名器と決まった訳じゃなねえよ。それといい加減にちゃん付けやめれ。」
「はっははは!!何言ってんだ、知らねえのか?今じゃ色んなところで有名なんだぜ。覚ちゃんの作品はどれも目を惹く物ばかりで名の知れた大名や将軍も高く買い取るくらいだ。」
マジか?確かに生活費なんかが必要だったがそこまで買い取ってもらう者が多くいるとは。しかも大名や将軍なんかも買うとは、この体のおかげか?
「ほら、酒壺だ。絵柄に桃を描いてある。」
「おぉ〜!!こりゃあ、また凄え出来じゃねえか。流石は覚ちゃんだ。」
「だからちゃん付けやめろっての!!そう言えばオッチャン最近で気になる話を聞いたんだが?」
「気になる話?」
「ああ、確か三ヶ月前だったか?なんでも『天より降りし輝く光』を探してるって話。」
「ああ。その話か。」
話を聞いたのは今言った三ヶ月前でなんでも『天の御使い』が舞い降りたなんて言う話題が結構ある。
「全く意味が分からないがどういうことだ?天の御使いって……」
「その話ならずっと前から広まってるぞ。」
「なに?本当か。」
「ああ。覚ちゃんは山の奥にいるからそう言った話を耳にするのは稀だろうがこっちじゃ三年前から日が経つごとに広がってるんだよ。」
三年前に?俺がこっちでこの体になった時と重なる。まさか俺が?いやいやそんなはずある訳ない。
「他になんか知らないか?」
「えっと、確かその天の御使いには強大にして勇猛果敢、一騎当千の力を持った龍と虎を宿しているとか。」
「なんじゃそりゃ?それバケモンの類じゃねえよな?」
「まさか、仮にも天の御使いって呼ばれてる奴だぜ?もし本当に魑魅魍魎の類なら今頃どこかの街の一つや二つが滅んでるだろ。」
「アッハハハ、言えてる!!」
互いに他愛のない話を交わして店を出る。
しかし天の御使いね、それに龍と虎を宿してって人間じゃねえな。まぁ、会うこともないだろうし俺には関係ないな。俺は家に向かい歩いていると家の前で誰かが立っていた。誰だ?
「どちらさんだ?」
「ん?あ、突然の訪問すみません。こちらは新津覚之進殿のご自宅で間違いないでしょうか?」
「合っているし俺がその新津覚之進だ。」
「っ!?貴方がそうでしたか!!」
うおっ!?急に訪問者、綺麗な黒髪をサイドテールに結い琥珀の瞳、どこか学生服を思わせる服装、青龍偃月刀を携えた美少女が俺の偽名を聞くと急に顔色を変えた。
「あ、ああ。そうだがところで君は?」
「申し遅れました。私は関羽、字は雲長と申します。」
は?今なんて?
「すまん、なんて?」
「え?関羽です、関羽雲長と申します。」
ウッソだろ!?え?関羽雲長って確か美髯公と呼ばれた武人の名前だよな?それがこんな女の子、だと!?
「そ、そうか。関羽か、何のもてなしもできないがとにかく上がってくれ。茶くらいは出そう。」
「では、ご厚意に甘えます。」
出来る限り動揺を顔に出さず関羽を家に上がらせる。
「見事な陶芸品がありますね。」
「そう言ってもらえるのは有り難いがどれも片手間で作れる作品だ。」
「この見事な物がですか!?」
「ああ。」
家にあるのはお猪口にお銚子、さらに皿と椀に徳利なんかの小さい陶芸品を置いている。あまり出来が良くない物やイマイチな物を自分の生活用品にしている。
俺は関羽に緑茶を出して腰掛ける。
「それで関羽、いったい俺に何のようだ?」
「はい。まず質問したいことがあります。」
「なんだ?」
真剣な表情で俺を見る関羽、いったいなんだってんだ?茶を一口啜っていると……
「新津殿、貴方は天の御使いでしょうか?」
「ブハァ!?」
「えっ!?」
思わず啜っていた茶を吹いてしまって顔に被った。
「ゴホッ、ゴホッ……!!」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。それで質問の答えだが俺は違う、なによりその話は最近になって聞いたしそれに天の御使いってのは龍と虎を宿した者だって聞いてるぞ?俺にそんなのは宿ってねえよ。」
「そんな……!?」
これは本当のことだ。俺はそんな存在でもないし、龍と虎を宿してもいない。
「ですが……私は、私達は見たのです!!」
「見たって?」
「空から舞い降りる雄々しい龍と猛々しい虎の姿を!!その二頭がこの山に降りたという情報もあるのです」
「なに?」
そんな情報は聞いたことがない。
「それはいつのことだ?」
「丁度、三年前です。」
オッチャンの言っていたことと同じだな。
「それはいったい誰から聞いたんだ?」
「実はある占い師から聞いたことなのです。
【この世に天を統べる“龍”と地を統べる“虎”を宿せし御使いが舞い降り、この世の災厄を退け、乱世に調和を齎すであろう】
と聞いたのです。」
関羽の話を聞いて俺は頭を抱えた。ヤバい、超恥ずかしい予言な上に笑いが止まらん。なんだし天を統べるとか、地を統べるとか?阿呆な予言すぎて笑いが込み上げる。
「なるほど、それで?関羽はその予言を聞いて俺の元にやって来てどうしろと?」
茶を啜りながら問う。この子の答えはある程度は予想できる。その答えは……
「はい。新津殿のお力を我らに貸してはもらえないでしょうか?」
予想通りの答えが返って来た。武器を持ってそれなりの腕はあるとは思ったが何処ぞの国に使える将の座を持っているのだろう。
「その理由は?」
「……乱世に苦しむ民草を救いたい。とうk、我が義姉君の掲げる理想に惹かれ同志を集い共にこの乱世を終わらせたいと思い義勇軍を立ち上げたのです。その義勇軍に天の御使いである貴方のお力が必要なのです。」
そこで関羽は両手を床につけて頭を下げる。土下座の姿勢で頼んで来た。
理想を掲げてこの乱世を終わらせたい、か。なるほど、関羽ほどの者が賛同するとなるなら恐らく相手は劉備玄徳、関羽と張飛翼徳の義兄である。そんな大物が相手となると無理には断れないな。だが……
「悪いが俺にそんな役立つほどの力は何もない。どのような想像をしているかは知らないが俺には卓越した技術や力もない。」
ただの人間である俺がいったい何が出来る?何も分からない世間知らずの俺に?考えるだけ阿呆らしい。
「今日はもう日が暮れる。夜になると獣の動きが活発だ、寝床は出してやる。泊まっていけ。」
流石に関羽と言えど女は女だ。暗い夜道を歩かせるのも忍びない。そこで俺は一日を終えた。
●○●
夢の中、そこに俺は立っていた。何を目的として立っているかも、何を思って立っているのかも分からない。分からないが目の前にいる輪郭だけがハッキリしている二人の人物に教えを受けている。
一人には一対多数の斬り合いを得意とする『剣術』を。
一人には四大系統の技法を持つ『拳術』を。
二つの武術の技を全て教わった。二人から言葉は聞こえないが何を伝えようとしているのかは理解できた。『剣術』は“神速”を主体とした剣技であり、『拳術』は“状況に応じて”技を切り替え繰り出す拳技である。今のところ分かったことはこれだけだった。どうしてこのような夢を見るのかも俺にはさっぱり分からない。この夢が何を伝えようとしているのかも。そして俺が学んだその二つの流派……
時代の苦難から人々を守る剣術
【飛天御剣流】
現代に必要な術を取り入れた拳術
【二虎流】
これだけは俺の中で頭に残っていた……
●○●
関羽は目が覚めて起き上がる。
「そうだ、私は新津殿を訪ねてそれで……」
関羽は昨日のことを思い出して彼の返答に落ち込んでいた。だが、改めて考えた。急に押しかけてきた挙句に力を貸してほしいだのと訳のわからないことを言われれば誰でも断るだろう。仕方のないことだ。大人しく出て行くとしよう。関羽がそう思って立ちあがろうとした時に扉が開かれた。
「か、覚ちゃん……いるかい?」
訪れたのは彼の作品を取り扱ってくれる店主のおじさんだった。
「ん?朝からいったい……オッチャン!!」
ここで改めて店主のおじさんの容体を確認する。片腕を失っていて頭部からも出血していて大小様々な傷を負っていて息も絶え絶えだった。
「どうした、何があった!?関羽、そこの棚の上に治療箱がある、取ってくれ!!」
「は、はい!!」
急なことだったが関羽も動いて治療箱を取り持ってくる。
「待ってろオッチャン、直ぐに直して……」
おじさんを横にさせて手当てを行おうとした時に弱々しく手で止める。
「いや、もう、いい……」
「なに言ってんだ!?」
「自分の、死期…くらい…分かる…」
言葉が段々と小さくなっていき瞳が虚になっていく。
「頼、む…よ、覚ちゃ……ん、今、村に…賊……が……」
「もういい、もういいから!!オッチャン……今はゆっくり休んでくれ、時間になったら起こしてやるから。」
「新津殿……」
関羽は後ろ姿の彼の心境を感じ取って無闇に声をかけることができなかった。そして彼はゆっくりとおじさんの瞼を優しく閉じさせる。そして白外套を羽織、奥に置かれている刀を手に取り外に出る。
「どちらに行かれるのです!?」
「決まってるだろ……賊退治だ。」
後ろ姿なのに何故か彼からは途轍もない圧を関羽は感じ取った。息をすることも忘れるほどに濃密にして凄まじいまでの『静かな憤怒』を。
●○●
関羽と共にオッチャンの住む村にやって来て俺はその目にした光景に……
「ギャハハ!!金目の物は全て持ってけ、他は全員、殺せ!!めぼしい女がいた場合は連れてけ!!」
「しけた村だな、大したモンが無えぞ。」
「だが、女はいいのが意外にいるぜ。」
怒りが振り切った感じがした。
「奴ら、なんてことを……!!」
隣の関羽が何か言っているが今の俺には何も聞こえない。
「おい、あっちにも二人いるぞ。」
「お、片方は男だが女の方は上物だぜ?捕らえて楽しもうぜ!!」
「くっ、誰が貴様らなどに!!」
ああ、ダメだ。こればかりは本当にどうしようもない。コイツらは今ここで……
「新津殿、私が先行しますので貴方は……」
「関羽、悪いが手を出すな。アイツらは俺が……」
【殺す】
「え?」
俺は『龍閃』を抜刀してゆっくりと歩む。
「なんだよ、あの男やる気だぜ?」
「ギャハハ、馬鹿だな。お前ら!!やっちまえ!!」
賊共がそれぞれ武器を持って襲いかかって来た。
凡そ5人ほどが同時に来たが今の俺にとっては意味を成さない。
「「「ぎゃああ!?」」」
「は?」
俺は5人の賊を瞬時に斬り払った。頭目らしき賊も、その取り巻き共も何が起きたのかも理解できていなかった。俺がやったのは正面に来た5人を一番最適な位置から斬っただけだ。何にも難しくない。例え同時に来たとしても必ず隙間は存在する、そこを通って行けば簡単に対応できる。
「それで?次はどいつから死にたい?」
付着した血を振って払い構える。
「お、お前ら!!なにボーッとしてんだ!!やれ!!」
今度は三方向から同時に攻撃が来たが俺は右は刀で、左は鞘で、正面は回し蹴りで逆時計回りで繰り出す。
「「「ガハッ!?」」」
「で?次はなんだ?」
「な、なんなんだ……コイツは……?」
頭目含めて賊共は恐怖をした表情で俺を見ていた。俺はゆっくりと歩む。ここにいる賊共は全て斬り捨てる。
そこから賊共は一心不乱に武器を振るって襲いかかる。俺はその全てを悉く排除した。刀で斬り払い、受け流して、躱し、突いて、斬り上げて、振り下ろすなどと『剣術』を賊共に繰り出す。そして残ったのは賊共の頭目だけだった。
「それで?最後に残ったのはお前だけだが、どうする?と言っても逃すという選択肢は俺にはない。ここでお前を排除する。」
「ひ、ヒィィ!?」
「情けない声を上げるな、見苦しい。今更、怯えたところで俺に慈悲を期待するな。お前らは殺し過ぎたんだ。自身の欲を満たしたいがためだけにこの村の住民を皆殺しにした。そんなお前らを俺は……赦しはしない。」
眼光を鋭くして見据える。
「く、くそぉぉぉ!!」
頭目は武器を構えて斬りかかる。恐怖に怯えて萎縮した力で武器を振るう姿は無様以外の何者でもなかった。最早、何も感じない。
俺は躱わすと同時に跳躍して『龍閃』を構える。使わせていただきます、貴方の技を。
【飛天御剣流】龍槌閃
跳躍して落下を利用し自身の体重も加えて刀を振り下ろす剣技。頭目は斬られたことすら認識できず、体が縦二つに割れて絶命する。
俺は懐から紙を取り出し『龍閃』に付着した血を拭い納刀する。これをもって賊退治は終わり俺の初陣となり、自身の力がどの様なものかを理解した瞬間だった。
●○●
関羽は目にした、天の御使いと見られる男の戦う姿を。
怒りを湧き上がらせながらも冷静に賊の攻撃を捌き、的確に倒していく。そして最後に見せた『剣技』に関羽は目を見開いた。近くにいた頭目は視認できなかったが距離があった関羽は視認できた。男の跳躍は残像を残すほどに早く動いた起こりを認識できたからこそ追うことができたがそれだけ男の動きが早かったのだ。
「これが、新津殿の力……」
関羽は目にした。これが後に『龍虎の御使い』と呼ばれる男の姿を。




