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転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい! 【番外編】   作者: 風間レイ


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6/36

可愛いって難しい  6

レモンが本編で出て来ていたのに、今回初めて遭遇した話になっていたのを修正しました。

話の流れは変更ありません。

 あの修羅場から五日後、女性だけで島を一周するツアーをするため、私はまた西島を訪れた。

 最新の精霊車を使うという話をしたけど、車体が軽くなったとか、風の抵抗がどうとかなんて話を聞いても女の子達は興味がないだろう。

 アランお兄様に説明を受けても、私も全く興味がなかった。

 魔力の少ない人には重要な問題らしいんだけど私の場合は無駄に有り余ってるから、溢れ出ている分の魔力で精霊車を動かすくらいは出来てしまうのよ。


 だから今日は、せっかくの機会なので婚約祝いにもらった精霊車を引っ張り出してきた。

 これね、アランお兄様が精霊王にも協力してもらって、家族全員と精霊王からの贈り物だってくれた物だから、いろいろとやばいのよ。

 外からの見た目は普通の精霊車。

 簡単に言うと馬車から車輪を外して、御者の乗るスペースを風の抵抗の少なくなるデザインにしたやつね。

 どの精霊車も見た目はそれほど変わりはない。問題は中身だ。

 私の精霊獣が動かす精霊車は、使える魔力の量が桁違いだからスケールが違う。


 二段ほどステップをあがって中に入ると、真正面の壁がかなり遠くにあることにまず驚かれる。

 そしてその壁が床から天井まで窓になっているのを見て、たいていの人は一度精霊車を降りて反対側に回り、外からどう見えるか確認する。

 もちろん外からは小さな窓のついた普通の精霊車にしか見えない。


 中は、テニスコートふたつくらいは楽に作れる広さで、一面窓になっている壁の前は円形に三段低くなっていて、弾力性のある新素材の床にそのまま座れて、段差にクッションを置いて寄りかかれるようになっている。

 女の子なら十人くらいは座れるんじゃないかな。

 今日は人数が多いのでソファーセットも置いてあるし、窓際にテーブル席も用意した。

 私だけが移動に使う時には、精霊王が作ってくれた収納に家具を全部仕舞っておけるので、中で運動も出来るわよ。


 そして上を向いてもらうと、ドーム型の天窓がついていることがわかる。

 これが開閉出来る優れものなの。

 オープンカーに出来る精霊車よ。

 

 それなのに部屋の隅に螺旋階段があるという不思議仕様。

 二階には私が個人的に使える私室が用意されている。

 天窓を開けられる精霊車のどこに二階があるんだよって、それは私も知らない。瑠璃にでも聞いて。

 ともかく階段を上ると二階の空間があるのよ。


 でね、何が一番恐ろしいかって、この精霊車もバングル型のマジックボックスにしまえるのだ。

 空間魔法を使った収納ボックスがある空間魔法で車内を広くした精霊車を、空間魔法を使ったバングルの中に収納出来るって……理論上はあっていいんだろうか。

 いや、考えるのはやめよう。

 理解出来るわけがない。


「え? 外から丸見えでは?」

「外からは壁に見えますわ」

「こんなに広い空間を作れるなんて」

「階段?!」


 西島の御令嬢達が楽しそうに精霊車の中を覗いてから、外に回ってどうなっているかを確認して、また中を覗いてを繰り返している姿が微笑ましい。

 フェアリー商会のチョコやケーキを見て目を輝かしている様子も、どこの国に行っても異世界でも変わらなくて、見ている私まで楽しい気分になってくる。


「好きなところに座ってね。マカニが途中で来るはずだから、仲良くしてあげてね」


 おかあさんみたいなことを言ったかな?

 でもまあいいや。

 精霊王は悪いことをして怒らせなければ怖くないよ。マカニは優しいよって知らせるのも今日の目的のひとつだ。

 

 精霊車が動き出してすぐ、一番気になっていた四大伯爵家の御令嬢達のいる席に向かった。

 一緒に座るように私が言ったわけではないのに、ヘルトの結婚相手候補だったお嬢さん達が一緒に座って談笑している。

 前回とは打って変わった明るい雰囲気なのは、この五日の間に彼女達が自ら話し合う機会を作ったってことなんだろうな。


「ファニーはミルズ伯爵に絶対にヘルト様と結婚しろ、出来なかったら家から追い出すと言われていたんです。顔を合わすたびに毎日ですよ。それで心配で、出来ればファニーが選ばれてほしくて、余計なことを言ってしまってすみませんでした」


 グレースが深々と頭を下げた。

 十歳くらいかなと思っていた彼女は十三歳だったよ。

 他の女の子達も、私と同じか年上だった。

 

「どうにかしなくちゃと焦って胃が痛くなってしまって、ほとんど部屋に籠っていたのでテレンスの事件も知らなくて、ライラまでこわい思いをしたと聞いて驚きました。家族の空気が最悪で選ばれれば以前の関係に戻れると思って、他の候補者の子にひどい態度を取ってしまったこともあって申し訳なかったです」

「ファニー、少し痩せたんじゃない? ミルズ伯爵家は今回のことで大変だと思うんだけど大丈夫?」

「今は東島に行っていた兄や従兄弟が戻って来てくれて、ずいぶんと落ち着いたんですよ。お父様もすっかりおとなしくなって何も言わなくなりました」


 一番権力欲があったのがファニーの父親のミルズ伯爵で、テレンスの問題の揉み消しにも協力していたんだよね。

 たぶん彼も何らかの罰は受けることになるんだろう。


「私の方こそ、もっと早く話せばよかった。ファニーが悩んでいたのを知らなくて、テレンスと親戚なのに平気な顔をして代表になろうとしているのを見て、つい苛立って冷たい態度を取ってしまったわ」

「ライラ、ごめんね。私はヘルトと話をしたこともなかったのに」

「親に命令されたら仕方ないわよ。政略結婚は貴族の令嬢には避けられない道ですもの」


 みんな、こうして話してみるといい子なんだよ。

 嫉妬するのも、家族の問題で悩むのも、友達を助けたいと思うのも、誰にだってあることだ。

 この子達が憎み合ったりしないで、お互いに反省して仲直り出来てよかった。


「あ、そういえば、ライラとヘルトは恋人なのよね?」

「え?! いえ、そうではなく……」

「聞いてくださいよ。あの男、告白していないんですよ」

「イレイン、違うの、あの……」

「まさかあの後、告白されたの?!」

「きゃー!」

「えええ、詳しく教えて!」


 うん。平和だ。よかった。

 女子高生の集団に紛れ込んでしまったおばさんって、こういう気分なんだな。

 いや、私はディアドラで十五歳なんだから、転生前の年齢はもうノーカンよ。

 一緒に騒いでいい年齢なのよ。

 ……無理。テンションについていけない。

 若さが眩しいぜ。みんな、きらきらしてるわ。


 被害者の女の子達はテレンスがもう西島に戻ってこないと聞いて、ようやく安心して過ごせるようになったそうだ。

 残りは精霊王が怖がられてしまっている問題よ。

 前回マカニがカミルと一緒に容赦ない態度を見せたので、改めて怖がられてしまっているようだ。

 でも女性達が被害にあわないようにテレンスの精霊獣を取り上げてくれたことは、イメージアップにはなっているみたい。

 

「前髪をあげると、可愛い顔をしているのよ」

「そうなんですか?」

「見たいです」

『…………』


 あれ、気配がしたような気がするけど、気のせいかな。

 遅いなあ。いつになったら合流するんだろう。

 

「お話は楽しいんですけど、作物の方はめぼしいものが見つかりませんね」


 ライラとイレインはさっきから窓に張り付いて、新しい作物が見えるたびに私に教えてくれていた。

 でもベリサリオと西島ってそんなに気候が変わらないから、育てている作物も同じようなものばかりだ。

 ベリサリオにはない作物も、すでに北島から輸入していて目新しさがない。

 でも、


「んん?!」

「どうしました?」


 これはもう新しい物はないんじゃないかと諦めかけていた時、濃い緑色の葉の間から黄色い実がなっている木が目に飛び込んできた。


「あ! あれは! 待って! 停めて!」

「あれはレモンですよ」

「レモン!!」


 まさかルフタネンにレモンがあったとは!

 この世界にレモンが在ったことは知っていた。フェアリー商会でも使ったことはあるの。

 でも南の小さな島々の漁師が、白身魚に少しかけると美味しいって理由で庭に植えているだけだったので圧倒的に数が足りなかったのよ。

 この世界のレモンはなぜか海の近くでしか育たないし、ベリサリオは産業がいろいろありすぎて、新しくレモンを育てる土地も人手もない。


 じゃあどこかで育ててもらおうと思っても、レモンって酸っぱいでしょ?

 精霊王のおかげで作物がよく育つようになって、甘味の値段も落ち着いてきたとはいえ、まだまだそれなりのお値段だから、作物も甘い物が正義っていう感覚が強くて、酸っぱい作物を進んで育てようという人はほとんどいなくてね。

 フェアリー商会ではハニーレモン味のジェラートやパイを作ったんだけど、好きになってくれた人がいても安定したレモンの供給がなくて諦めていたの。


「ライラ様、あれあれあれ」

「わ、わかりました。落ち着いてください」

「でもレモンって酸っぱいって聞きましたよ。あれは薬に使う素材です」


 そうか。ルフタネンでは薬として栽培していたのか。

 ビタミンCは体にいいからね!

 美容にもいいんだよ。


「昔は栽培が難しいと言われていたのに、精霊王様がお姿を現すようになってから、どこの家でも豊作なんですよ」

「精霊王さすが! 素晴らしい!」

「ディア? 待って!」

「お嬢! 暴走禁止ですよ!」


 精霊車から飛び出そうとしたら、ネリーとレックスに大声で呼び留められ、


「わかっているわよ。だい……うげ」


 いつの間にか目の前にマカニが立っていた。


「マカニ! 遅いじゃない」

『今日はベリサリオもカミルもいないから、ディアが暴走しそうになったら止めるようにカミルに頼まれてる』

「精霊王なんだから、そんな任務を受けて来なくていいのに」

『突然妖精姫が現れたら、平民達は腰を抜かすよ』


 ええーー、精霊王には言われたくないなあ。


「ここはリンジーの家の領地だったわよね。農家の方が驚かないようにレモンをいただいてきてくださる?」

「わかりました。話が聞けるように代表の人に来てもらいますね」


 リンジーって子もしっかり者だなあ。

 素早く侍女に指示を出しながら精霊車を降りていく。


「誰か彼女を手伝ってあげて。レックス、警護の人に声をかけてきて」


 これだけの数の貴族の御令嬢が集まっているのだから、周囲にはフライに乗った警護の男性がもちろんついて来ていた。

 それにリンジーも彼女の侍女も、精霊車を降りてすぐに精霊獣を顕現する辺り、さすが精霊との生活を百年以上続けてきたルフタネン人だわ。

 賢王の教えは、今でも人々がしっかりと受け継いでいるんだな。


「じゃあ、私もちょっとだけ降りて……」

『ディアは中で待つんだ。ルフタネン人の中で自分がどれだけ目立つか考えろよ』

「あの、ディアドラ様、精霊王様と妖精姫が突然姿を現したら、農民は作業を止めて地面に平伏すことになります。驚きで倒れてしまう者も出るかもしれません」


 イレインが遠慮がちに話す横で、御令嬢達が真剣なまなざしで何度も頷いている。

 ベリサリオの人達なら慣れているから、遠くから手を振ってくれるのになあ。

 妖精姫の名前だけがひとり歩きしてしまった弊害だよ。

 北島の人はもうだいぶ慣れているのになあ。


 我儘を言って困らせる気はないのでおとなしく精霊車の中で待つことにして、レモンの味を確かめるための準備をした。……ミミが。

 私は指示をして座って待っているだけ。

 御令嬢ってやってはいけないことが多すぎると思う。

 

「変装する魔法ってないの? ルフタネン人に見えるようなのがいい」

『威圧感で普通じゃないとバレる。魔力が溢れ出している人間なんて、ディア以外に見たことがない』


 普通の人間に魔力なんて目視出来ませんから!

 平民にあまり顔バレしていないから、皇都でなら普通に買物出来るし!

 誰も威圧感で怖がったりしないわよ。


『この島にも何度も来てくれれば、きみに慣れて平気になるよ』

「用事が出来るかどうか、レモンにかかっているのよ」

『薬を作るのか?』

「そういう方向の知識はまったくないから無理」


 私の得意分野は料理関係よ。

 美容はお母様にお任せするわ。

 ただチョコのように世界中で一気に人気が出るということはないだろう。

 好みの問題も大きいから、この世界の人がどこまで受け入れるかは未知数だけど、レモンっていろんな商品で使えるでしょ。

 そしてフェアリー商会でも一度好きになった人は、来店するたびにレモンのデザートはないのかって聞いてきたりするのよ。


「あれはフェアリー商会でやって、あっちは公爵家の方で……ふふふ」

『ディア、顔が不気味だよ』

「うわ、ひどい。女の子にそんなこと言うなんて傷つく」

『ごめんごめん』


 精霊王に近付く勇気はさすがにないみたいで、私とマカニのやり取りを遠巻きにして眺めていた御令嬢達は、最初は音をたてないように緊張してピリピリしていたのが、徐々にほんわかムードになってきているような気がする。


「こちらの農場の人を連れて来ました」

「入ってもらって」


 すっくと立ちあがって精霊車の入り口に向かう。

 ドアから外を見ると、日に焼けた若い夫婦とその両親らしき人達が、警護や侍女に囲まれて立っていた。 

 レモンの入った篭を持つ手が緊張しちゃって震えている。


「で、では私が……」

「四人ともどうぞ」

「ひっ」


 誰か今、悲鳴を飲み込まなかった?

 死刑台に上る時みたいな悲壮な顔つきになってるんですけど。


「マカニは奥にいてね」

『いや、ディアがこわいんだと思うぞ』

「おかしいな。顔だけはかわいいはずなんだけどな。さあどうぞ」


 警護の人が取り囲むからいけないんじゃないかな。

 武器を持っている人が近くにいるのはこわいよね。

 四人とも一属性ずつだけどしっかりと精霊獣を育てていて、今は精霊形の彼らは主人を守らなくてはと緊張して細かく震えていた。

 そこにリヴァが大丈夫だよというように近付いていく。

 人間達の方は精霊の微笑ましいやり取りに気付く余裕がないようで、まずは男性ふたりが中に入って来て、車内の広さとたくさんの御令嬢の存在に呆気に取られて動けなくなってしまって、レックスが小声で声をかけて案内していた。


 そうか。一般の平民は貴族の屋敷にはいったことなんてないもんな。

 こんな贅沢で煌びやかな生活は別世界だ。

 やっぱり外で会えばよかったんじゃない?

 すっかり圧倒されて、あとから恐る恐る車内に入った奥さん達も含めて四人で、その場にひれ伏して、額が床に当たりそうなほどに頭を下げちゃっているよ。


「突然、呼び出しちゃってごめんなさい」


 こういう時は目線を近付けるんだったよね。

 彼らの目の前にしゃがんで、膝に手を置いて笑顔で声をかけた。


「心配しないで。この場では礼儀作法も言葉遣いも問題にしないから。あなた達がなんらかの罰を受けるようなことはないと私が約束します」

「は、はあ」

「私はただ、レモンを齧りたいだけなの」

「…………」


 あれ?

 なんだろこの人みたいな顔で見られたんですけど、なんでかな?




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― 新着の感想 ―
[気になる点] レモンって帝国になかったんですか? 皇宮にジェラート持っていった時にレモンとベリーとバニラの三種類登場してませんでした???
[一言] 私はただ、レモンを齧りたいだけなのwww 番外編、とっても楽しかったです!ありがとうございました(*˘º˘*)
[一言] 『最初は四話の予定だったなんて......』 あれ?第二部が始まったのでは、無いのですか? ディア三百歳まで進まれる事を、陳情致します!
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