表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい! 【番外編】   作者: 風間レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/36

可愛いって難しい  5

 にこにこしながら近寄った私が不気味だったのか、精霊獣に押さえつけられているというのにテレンスは距離を取ろうと後退ろうとしている。

 そんなことをしても膝が痛くなるだけなのに。


「でも間違っているわよ。あの時私は、ヘルトに好きな子がいて、その子もヘルトとなら結婚してもいいと思っていて、リントネン侯爵夫妻も認める相手だったら紹介してくださいねって話していたの。その方はいずれ西島の代表の奥さんになるわけだから、精霊王と帝国の皇帝の婚約者に紹介しようと思ったの」

「いやしかし、結婚相手は候補の中から西島の者が決めると……」


 遠慮がちにミルズ伯爵が口を開いた。

 この状況でまだ、自分の娘を結婚させようと思うのか。


「それ、おかしいですよね。西島の代表であるリントネン侯爵家の次期当主の結婚相手を、伯爵家が話し合いで決めるってなんなんですか? 古くから西島にいれば偉いんですか? 身分制度を否定するんですか?」

「いやいや、そんな話ではないですよ」

「そんな話です。あなた方は代表者の役割を忘れていませんか? 精霊王とやり取りをする人なんですよ? 各島の代表者が集まることも頻繁にあるんですよ。西島の現状をどうにかするためのリーダーになる人なんですよ」

「どうも西島の人間は、自分達の置かれている状況がわかっていないようだな」


 カミルが私の隣に並び、テーブルに寄りかかった。

 この場で一番身分が高いから誰も怒らないけど、とっても偉そう。


「この何年か農作物の輸出が増えていたせいで西島も潤っていたが、ベジャイアはおそらく来年から、シュタルクも再来年から輸入量が激減するだろう。二国ともかなりの速度で復興しているぞ」


 シュタルクはもっと復興に時間がかかると予想していただろうけど、地方は精霊を育てていたおかげで意外とダメージが少なかったところに、ベジャイアと辺境伯の軍隊が王都に進む途中で、精霊王が村々に祝福を配りまくったから、食料に関しては復興が早いのよ。

 それより王都に人が住めなくなったので、住人がいっせいに引っ越さなくてはいけなくなって、それが大変らしい。


「きみ達は他の産業を考えているのか? 西島はこれが名産だと自信を持って言える生産物はあるのか? 他所から新しく西島に来た貴族達は、陛下に功績を認められた優秀な人達だぞ。協力して西島を盛り立てていくようにという計らいを無碍にして、圧力をかけて脅していただと? それは陛下のやり方に不満があるということか?」


 カミルももう十七歳だから、すっかり大人びて威圧感マシマシね。

 ただでさえ目付き悪い上に、意識して怖い雰囲気を作っているな。

 まあ、新生ディアドラには負けるけどね!


「カミル、西島のことに私達が口を挟むのはやめましょうよ。今回の件もとてもシンプルな事件だわ。あちらに被害者と御家族がいらっしゃるので、ガイゼル伯爵家とミルズ伯爵家は速やかに謝罪と賠償をお願いしますわ。そして犯人達にはきっちりと罰を受けてもらう。それで解決でしょう?」


 ニコデムスがどうとか国の存亡がどうとかいう問題と違って、馬鹿な男が暴行未遂事件を起こしたっていうだけのシンプルな事件だ。

 怪我をした被害者もいるし、無事だったとしても心のケアは必要だろうから、それは今すぐ何よりも優先するべきことだけど、それは私やカミルじゃなくて西島の人達がやらなくちゃ。

 私とカミルが気にする必要があるのは、もう片方の問題でしょ。


「それで? なぜ彼はすぐにばれるような嘘を広めたの? ヘルトの結婚相手を指名することで私に何の利益があると思ったの?」

「もっとあほな理由だよ」

「ん?」

「ディアと親しくなって、秘密を打ち明けられたと自慢したかっただけだ」


 マジで頭の中がお花畑なのかい!

 

「それと俺が昨日話していたことが正解だった」

「なんだっけ?」

「俺が一方的に口説いて婚約に漕ぎつけただけで、妖精姫はそれほどこの結婚には乗り気じゃない。だから妖精姫と知り合いになれば自分にもチャンスはある」

「は? まったくこれっぽっちもないわ。女性に暴力を振るうような男は最低……どうしたの?」


 寝転がっていたイフリーがむっくりと起き上がり、ジンがガイアの背に乗ったまま毛を逆なでてシャーっとテレンスを威嚇し始めた。

 テレンスを押さえ込んでいた精霊獣が慌てて避難するとすぐ、鋭い氷の杭がテレンスや仲間の周りにいくつも突き刺さったのはリヴァがやったのよね。


「何が起こった?」


 カミルの精霊獣達もテレンスの頭上でぐるぐる回っている。

 

「な、なんだ?」


 これには犯人三人組も怖くて泣きそうになっているし、女性達から悲鳴が上がった。


「お、お婆様! 助けてください! 殺される!」

『こいつら、ディアを侮辱したんだって。ここにいる精霊獣達が教えてくれたんだよー』


 すぐ目の前にシロが迫ってきたので思わず仰け反ってしまった。


「シロ、なんの話だ? ディアの精霊獣がここまで怒るってよっぽどだろう?」

『昨日の夜会で三人がディアを侮辱していたのを聞いていた精霊獣がいて、何を話していたのか教えてくれたんだよー』

「俺にも教えてくれ」

『あのねーディアは髪の色も目の色も自分達と違うから、裸も違うかもしれないってー』

「はい?!」


 おいおいおい。

 こんなに人がいる前で何を言い出してくれてるのさ。


「精霊獣ってそんな情報のやり取りをしているの?」

『普段はしない』


 とイフリー。

 イライラしているのか前足で何度も地面を蹴っている。


『今回はディアにひどいことをする計画を立てていたから教えてくれた』


 ジンは私に飛びついてきた。

 頬や額を擦り付けているから不安なのかもしれない。


『もっとひどいことも言ってたんだ』

『リヴァ、ディアに知らせなくてもいい』

『どうせ派手に遊んでいる我儘女だろうから、遊び相手になって確かめてやるってー』


 イフリーがリヴァを止めたのに、空気を読まないシロが大きな声で教えてくれちゃった。


「……ほお」


 低い声で呟き、シロをそっと横に押し退けてテレンスに歩み寄ったカミルは、流れるような動きで彼の顔を蹴り上げた。   

 氷の杭は先端だけでなく、全部が刃物のように鋭利になっている。

 そこに蹴られた勢いで仲間を巻き込みながら倒れ込んだものだから、三人とも全身傷だらけで血だらけだ。

 蹴ったカミルの方は精霊獣が咄嗟に守ったようで無傷だった。


「い、痛い。痛い痛い」

「ひーーーーー」

「血が……たすけ……」

「何人も女性に怪我をさせたんだよな。だったら、そのくらいの怪我で喚くな」


 いやいや、ざっくり切れてるから。

 瀕死になっているやつもいるからね?


「で? ディアがなんだって?」


 テレンスの前髪を鷲掴みにして顔をあげさせたカミルの様子は、どっちが悪人かわからなくなるくらいに狂暴だった。


「こいつ……家族全員まとめて海に沈めてやろうか」

『手伝うぞ』


 来たか。

 この流れなら来ると思ってたわ。


「でたな、精霊王……あれ? マカニだけ?」

『来てはいる。呼ばれるまで出ないように言ってある』


 相変わらず前髪のせいで目が隠れてしまっているマカニは、精霊王の中では小柄で見た目の年齢も若い。

いつものように動きやすそうな体にぴったりとした黒い服に、モスグリーンの布を巻いていた。

 精霊王には暑さも寒さもどうとでもなるのはわかっているけど、見ているこっちが暑いわ。

 他のルフタネンの精霊王は、もっと薄着だよ?


「この場に来ているのはルフタネンの精霊王だけ?」

『まさか。瑠璃達が来ないわけないだろ』


 ですよねー。


『みんな怒っている。彼らが出てきたら西島がなくなる』

「それは困るわ。この三人と、彼らを放置し事件を有耶無耶にした人達以外は巻き込んじゃ駄目よ。いい? 駄目よ?」


 大きな声で空を見上げながら念を押す私は、周りからは変な子に見えるんだろうな。


『それよりカミルを止めないと。殺しちゃうよ』

「あああ、そうだった。リヴァ、回復して。そっぽを向かない。じゃあジン。回復……」


 こいつら、私の指示を無視したわね。


『しょうがないな』


 マカニが回復魔法を使ったおかげでテレンスの怪我が治るのを見て、カミルが不満げに振り返った。

 返り血で手や服が赤く染まっている。


「邪魔するな」

『頭を冷やしなよ。きみが殺すとめんどうになるだろう? それに僕も人間には干渉出来ないせいで今まで我慢してきたんだ。でも、ディアを侮辱したなら話は別だ。この三人は我々が処分する。ルフタネンと帝国の精霊王が手ぐすね引いて待っているんだよ』

「帝国の精霊王も?」

『ものすごい怒りようだよ。連れて帰ると約束したから今は我慢してくれている』

「そうか。彼らが対処してくれるなら任せる」


 テレンスから手を放し、こちらに戻り始めたカミルを眩しい光が包んだ。

 光が消えた時には、血で汚れていた服も手もすっかり綺麗になっていた。


「た、助けてくれ。お婆様!」


 怒った精霊王が八人もお相手してくれるって、ものすごく怖いよね。

 たぶん彼らはもう、生きて人間界には戻って来られないだろう。


「ディア」

「私はあんな奴らの言葉なんて、まったく気にしていないわよ」


 頭が悪そうなセリフだし、ガキ臭い。

 でも、自分のやったことはしっかりと償ってもらわないとね。


「お婆様!」

「お黙りなさい! こんな時にまで騒ぎを起こすなんて! おまえはガイゼル伯爵家に泥を塗るつもりか!」

「長老、うちの息子が……」

「それはミルズ伯爵家の問題でしょ? 私には無関係よ」

「そうはいきませんよ」


 リントネン侯爵が怒りの表情で長老に近付いても、誰も止める者はいなかった。

 これだけ騒ぎが大きくなって精霊王まで来ちゃったら、長老の味方はもう誰もいない。


「ガイゼル伯爵、どうやら長老はお年のせいか貴族社会のルールをお忘れになってしまっているようだ。この状態で公の場に出席なさるのは、ガイゼル伯爵家にとってはいかがなものでしょう?」

「失礼な!」

「申し訳ありません。ここまで常識を理解出来なくなっているとは気付いておりませんでした」


 長老はかっとして声を荒げたが、彼女の反応を無視してガイゼル伯爵が頭を下げた。


「な、何を言って」

「お母様を屋敷まで連れて帰って。事故があってはいけないから部屋から出さないでね」


 実の娘であるガイゼル伯爵夫人も、母親を守る気はないようだ。

 いや、守れないよね。

 ここで行動を間違えたら、ガイゼル伯爵家がなくなってしまう。


「事件についてはこの後すぐに対処します」

「お願いしますよ、ガイゼル伯爵。我々は伯爵夫妻が西島のために、ずっと行動してこられたのを知っています。外からいらした方達とも友好関係を積極的に築いて来られた」


 周りの貴族や、被害者だと話していた人達もリントネン侯爵の話に頷いていた。


「だからこそお年を召して状況が理解出来なくなっている方には、隠居していただくのが一番です」

「はい。そうさせていただきます」

『話はついた? その老人は置いていっていいのかい? なんなら僕達が引き取るよ』

「い、いえ、大丈夫です」

『そう? じゃあ彼らだけもらっていくよ』


 マカニがぱちんと指を鳴らすと、三人の姿は掻き消えるように見えなくなった。

 呆気ないし、マカニの口調が軽いから余計に怖い。

 そして二度と彼らの姿を見た者はいませんでした……って、やばいやばい。

 このままだとマカニに恐怖を感じる人が出るんじゃない?


「あ、あの……息子は」

『彼らはいなかったものと考えるんだな』

「……そ、そんな、妖精姫、お願いです」

「ふざけるなよ」


 私に縋りつこうとした夫人をカミルが遮った。


「他所の御令嬢の時には放置しておいて、自分の息子の時には騒ぎ立てるつもりか。あいつらが妖精姫を侮辱した言葉を、ベリサリオに伝えたらどうなると思っているんだ? これで済んでありがたいと思え」

「落ち着いてよカミル。そりゃあものすごく怒るでしょうけど、私は何もされていないのよ? たぶん帝国への入国を禁止されるくらいよ。もちろん学園への留学も出来なくなるわね。でもそんなものよ。大丈夫、さすがにこのくらいで戦争にはならないから」

「貿易の量も減る」

「あああ、それが大問題だったわね」


 今のところ、特に西島から買いたい物がないからなあ。

 馬鹿な三人組と老人達のせいで、西島復興のために頑張って来た人達までつらい思いをするのは気の毒だ。

 すっかりみんなの顔が暗くなってしまって、マカニやカミルの周りに誰も近付かないから広い空間が出来てしまっている。

 せっかくの楽しいお茶会のはずが、空気が重くなってしまった。


「あれよ、ほら……」


 何か、いい落としどころはない?


「あの三人の関係者であるガイゼル伯爵家とミルズ伯爵家は、当然ヘルトの結婚相手候補から除外されるでしょ? 精霊王達が代表として認めるわけないもんね。そうなると、イレイン様かライラ様のどちらかってことになりますよね?」

「私、棄権します」


 イレインがすかさず手を挙げた。


「そしてライラを推薦します」

「イレイン、何を言ってるの?」

「さっきグレースに切れていたじゃない? ライラは怒ると怖いもん。敵になりたくないわ。テレンス達に襲われた時だってボコボコにし返したんですよ」

「あら素敵」

「もう! イレイン!」


 真っ赤になってしまっているライラはやっぱり可愛かった。

 きりっとした顔や、きつい話し方をする時があるのもギャップってやつよ。

 可愛いだけじゃ貴族の令嬢はやっていけない。


「あれは……自分達の親戚が何をしているか知ろうともしないで、気楽なことを言っているから頭にきて……」

「それは私にじゃなくて、ヘルトと話そうか。ねえヘルト」

「え?!」


 ヘルトも赤くなっているってことは、両想いってことだよね。

 尻に敷かれるのは確実だな。


「それでですね、私としては新しい素材が欲しいんですよ。ベリサリオがもう西島との貿易はやめると言い出しても、これだけは欲しいから貿易はやめちゃ駄目だって言えるような何かはありませんか?」

「何かと言われても……」


 互いに顔を見合わせて、諦めたようにため息をつくのはやめようか。


「じゃあ改めて西島に来て、私が探してみます。なかったら諦めてくださいね」

『そんな笑顔で諦めろって』

「あ、そういえばマカニはまだいたのね」

『ひどいな』

「ちょうどよかった。西島一周する時に付き合ってくれる?」

『いいの? じゃあ一緒に出掛けよう』

「おい。なんで俺を誘わないんだ」


 うるさいわよカミル。

 あなたがブチ切れたせいで殺伐とした雰囲気になっちゃったんだからね。

 西島一周する時には被害にあったお嬢さん達も誘って、美味しいお菓子も用意しよう。

 

「ここにいる若い女性達を最新の精霊車での西島一周ツアーにご招待します。フェアリー商会のお菓子や新作のマスコットのぬいぐるみもプレゼントしますので、ふるってご参加ください」


 グレースやファニーがすっかり意気消沈してしまっているし、今後、被害者やイレイン、ライラと話しにくくなっちゃったと思うんだよね。

 だから親のいないところで女の子だけで話せる機会は重要だ。

 それに、マカニはこわくないってわかってもらえるといいな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ