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転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい! 【番外編】   作者: 風間レイ


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妖精姫はキューピッド  5

今回は長いです。

続きもすぐに投稿しますがので、気が向いた時にでもゆっくり読んでくださいな。

次回完結です。

「お待ちしていました。こちらは全て用意が整っております」


 揃いの制服を着ている三人がうちのスタッフで、その他はオープンまでの間、搬入作業のために雇った人たちだ。

 これだけ大きな店舗だと荷物の運搬の仕事も多いから、まじめに仕事をしてくれる人たちなら、開店後もお付き合いはするんじゃないかな。 

 

「そちらが作業場に運ぶ荷物ですか?」


 ガタイのいいお兄さんに聞かれて、エルイーズは返事をする代わりに何度も頷いた。

 御令嬢はマッチョな男性との接点が今までなかったのかな。

 従業員たちも、体格のいい男性たちが軽々と荷物を運び出していく様子を固まって見つめている。


「あなたたちはドレスを移動させて。エルイーズ、スタッフに指示をだしてちょうだい」

「は、はい。こちらは倉庫に入れておく分なので私たちで運びます。こちらは作業場に運ぶ分です」


 私に声をかけられてはっとして、エルイーズと従業員たちも動き出した。

 大事なドレスは自分たちで運びたいよね。

 最初にたのんだドレス二着と追加の分の三着がハンガーラックに並んで吊るされている他に、トルソーに着せた状態のドレスが二着用意されていた。


「こちらは?」

「ディアドラ様が生地を注文してくださった商会の方が、こちらも試しに使ってみてくださいと置いていってくださった生地があったので、空いた時間に作ったんです」

「へえ」


 ドレス二着分の生地を無料で渡すってことは、その商人もエルイーズの才能を高く買っているってことね。

 

「深みのある色合いで素敵ですね。ここにレースがつくんですか?」


 お、ケイトも気に入ったのかな?


「はい。こんな感じに仕上げる予定です」

「まあ素敵」


 収入が安定しても仕事用の服を何着か買っただけで、いまだに新しいドレスを持っていないというケイトも、華やかなドレスが嫌いなわけじゃないのよね。

 女の子としては、綺麗なドレスを着て素敵な男性にエスコートされて、舞踏会や夜会に出席するというのは一度は憧れる世界だ。


 私は一度でお腹いっぱいになったけどね。

 ただ普段はなかなか会えない友人に、そういう場所でならばったり会えるという良さはあるわ。


「そこのふたり、話すなら向こうに移動してからね。いちおうずっと空間を繋げたままで魔力を使っているのよ」

「あ、すみません。行きましょう」

「はい。忘れ物はないわよね。自分の荷物も忘れないでね」


 エルイーズは急いで従業員に声をかけていたけど、たぶんあなたが最後よ。

 全員が移動したのを確認して荷物をチェックして空間を閉じた。

 この店舗の賃貸契約は今日までなので、もうここに来ることはないのだそうだ。


「ちょっと寂しいんじゃない?」

「そんなことありません。確かに初めての自分の店で思い出もありますけど、手狭で、みんなに窮屈な思いをさせてしまっていて気になっていたんです。新しい作業場で仕事が出来るのが楽しみなんですよ」

「これからは仕事場がすぐ近くだから、一緒にお昼を食べに行けるわね」

「そうですね」


 ケイトとエルイーズは、いつのまにか仲良しになっていたのね。

 さっきちらりと見えたデザイン画は確かに素敵で、ケイトに似合いそうなデザインだった。

 あの作りかけのドレスがそうなのよね?

 ドレスと揃いの色で髪飾りも作って、アクセサリーを揃えたら夜会に使えるんじゃない?


「ディア」


 私たちが移動したのは、バックヤードの入口にある広場になっているスペースだ。

 ここは四つに区切られた転移用のスペースになっていて、開店が近いためかどこのスペースも荷物が山積みになっている。

 何度も転移するより、精霊車で一度に運んじゃえばいいのにね。


 まだ転移魔法が使えるというのがステータスになっているけど、たぶんそのうち優雅に豪華な精霊車に乗って、ゆったりと移動するのが流行るような気がするわ。

 この施設も精霊車が乗り付ける入り口はかなり豪華に作って、スタッフの出迎えを受けられるようにしてあるの。


 そのバックヤードの転移スペースでカミルの声が聞こえたってことは、レックスの話を聞いてすぐに飛んできたってことよね。


「ケイト、兄が余計なことを言ったんだって?」


 キースも一緒に来たのか。

 なぜかかなり焦った様子ね。


「どうしたの? レックスが驚かせたの?」

「失礼な。お嬢に言われたことしか話していませんよ」


 後ろで腕を組んでふんぞり返るのはやめなさいよ。

 執事がなんでこんなに偉そうなの。


「こじれる前に告白しろってディアが言ったんだろ? アーサーに会ったという話と一緒にそんな言葉を聞いたら、そりゃあ飛んでくるさ」


 え? そんな焦らせるような台詞じゃないでしょう?


「それにコンロン男爵から、娘に結婚の申し入れが来たと聞いたんだよ」

「そんなの何人からも申し込まれているそうよ。私のほうにも紹介してくれって話がきているし」


 私の話を聞いて口を開けたまま固まったキースは、慌てた様子でケイトに向き直った。


「誰かの申し出を受けたのか?」

「受けていませんよ。ホテルがもうすぐオープンするんですよ? それが一段落つくまでそんなことは考えられません」

「か、考えられない……あ、兄の言うことは気にしないでくれ。ひとりで先走っているだけなんだ」 

「誤解だとわかっているので大丈夫ですよ」

「いや誤解じゃないんだ。誤解じゃなくてだな……」


 あの男はこんなところで何をやっているんだ。

 慌てすぎていっていることが支離滅裂になっているじゃない。


「キース、話をするなら少しは場所を移動しなさい。これからこの荷物を転移で作業場に運ばなくちゃいけないんだから。あなたたち、ケイトがいなくても大丈夫でしょ? 作業を続けて」


 キースは私に頭を下げてから、ケイトを促して壁際に歩いていった。

 どうせなら外に行けばいいのにね。

 ここにはたくさん人がいるんだから、そんなところで話していたらふたりが揉めていたって噂になるのに。


「エルイーズ、さっきのデザイン画をちょっと貸してくれない? このドレス、ケイトに似合うと思うのよ」

「私もそう思っていたんです」

「彼女の社交界デビューの夜会用に作ってくれる?」

「私のドレスを着てくださるんですか!?」

「いい宣伝になるわよ」


 ここまで出来上がっていれば、夜会に間に合わないってこともないでしょ。 

 デザイン画をキースに見せて、エスコートする時の服を用意させよう。


「ディア、向こう」


 カミルに肩を叩かれて振り返る。広場の反対側に女性の団体がいることは気付いていた。 

彼女たちもドレスの搬入に来たようで、何度も転移魔法を繰り返して、ドレスのかけられたハンガーラックやトルソーをいくつも運び込んでいた。


 中堅どころのデザイナーが三人と、それぞれの店の従業員かな。

 私やカミルと一緒にエルイーズがいるのが気になるのか、さっきからこちらをチラチラ見ている。


 彼女たちにしてみれば、平民の服を作っていたデザイナーが妖精姫に気に入られて、援助までされて出店すると聞いたら、気にならないはずがない。

 エルイーズだけじゃなくて何人も、棚一段だけ貸してバッグや靴を販売する新人がいるのよ。もちろんドレスを作るデザイナーも他にもいるの。

 それはつまり商売敵が増えるってことだもんね。


 彼女たちの中にエルイーズに嫌がらせをした犯人がいるとは思わないけど、このままにしておくわけにはいかない。

 今までは職人や取引相手とのやり取りは、お兄様たちや商会の人がやってくれていたので、私は人間関係をまったく気にしなかったけど、これからはそれじゃ駄目だ。

 公爵夫人になったら、私がイースディル公爵家の顔となって社交界に出ていかなくちゃいけないんだ。


 嫉妬や妬みは誰もが持つ感情で、それが原因で社交界でも些細なことから大きな事件まで、絶えずいろんなことが起きている。

 側近や侍従、侍女の間でも揉め事になることがあるし、友人関係でもそれで関係がこじれることもあるのよね。

 私は妖精姫で公爵夫人という立場になるわけだから、気に入られたいと思う人はたくさんいるはずだ。


 才能があるからって、特定の人ばかりを気にかけては駄目なのよね。

 クリスお兄様なんて全く愛想がないのに、どうして人間関係がうまくいっているのかな。

 ベリサリオの謎だわ。


「もう搬入は終わったから、私は行くわね。作業場のほうは彼女が案内してくれるから」

「ありがとうございました」


 スタッフを紹介し、デザイン画を預かってケイトと別れ、私は三人のデザイナーのほうに歩き出した。


「俺も行く」


 そりゃそうでしょう。他に行くところがないんだから。

 でもカミルが一緒にいてくれるのは大きい。

 私がイースディル公爵と一緒に近付いてくるのに気付いた女性たちは、はっとして急いで髪や服を整え、緊張した面持ちで頭を下げた。


「みなさんも、搬入だったのね」


 こういう時こそ、社交性を存分に発揮しなくては。

 私だってやれば出来る子よ。


「こちらが開店の時に店に置くドレスね。素晴らしいわ。素敵なドレスばかりね。きっと施設がオープンしたらすぐに売れてしまうわよ。……本気ですぐに売れてしまいそう。他にも商品はあるのよね?」

「用意はしていますけど、妖精姫の結婚式のためのドレスの注文もはいっていますので、当分は休みなしで働く予定です」

「でも、そんなに売れるのでしょうか」


 売れるわよ、それは。

 新しい商業施設の開店記念よ。お祭り気分で財布の紐が緩むわよ。


「最初のうちは店に行ったという話で自慢できるし、そこで買ったドレスなのって話せるのは大きいわよ。それにこれだけずらりと最新のドレスが並ぶと、うきうきしてほしくなっちゃうじゃない」

「私も他の店を見て回れるのは勉強になるので楽しみですわ」

「買い物してしまうかも」

「スイーツのお店のチェックもしているんですよ」


 同じ仕事をしているからって、みんなが敵対するわけじゃないのよね。

 むしろ情報交換したり、共通の悩みを相談しあえる友人になる場合も多い。

 エルイーズもそういう友人が早く出来ればいいわね。


「あ、そうそう。ちゃんとドレスにタグをつけるのよ。あとからまたこういうドレスがほしいってなった時に、どの店のドレスかすぐにわかるようにしてね」

「はい。いいアイデアですね」


 特に自分の店のない新人たちは、いろんなデザイナーと一緒に棚に商品を並べるから、タグは重要よ。


「ディア、あのドレス、いいんじゃないか?」


 さっきから念入りにドレスをチェックしているなあと思ったら、カミルは私のドレスを選んでいたみたい。


「これは店に並べるドレスよ」

「ケイトの社交界デビューの夜会用のドレスがいるだろう」


 あ、そうだった。

 ケイトのドレスばかり心配していたわ。


「そうだわ。私のドレスもいるわ」

「ほらこれ。刺繍が綺麗だぞ」

「でもこういう鮮やかな色は、日焼けした肌のほうが似合わない?」

「いや、きみに似合う」


 センスに関しては、カミルの意見のほうが毎回正しいからなあ。

 それに確かに素敵なのよね。


「これはどこの店のドレスだ?」

「私です」


 少々きつい顔つきの彼女は、鮮やかな色遣いが得意なデザイナーだ。

 はっきりと意見を言う人だから、私はけっこう気に入っているの。

 そういえば私は一度も彼女のドレスを着たことがなかったわ。


「これは?」

「私です」


 次にカミルが手に取ったのは繊細なレースのショールだった。

 

「これを組み合わせよう」


 お見事。

 品のいいレースを組み合わせることで、華やかで上品な雰囲気になったわ。


「もらって行ってもかまわないか? 開店に間に合わせなくてはいけないのに買ってしまう分、上乗せして支払おう。夜会の招待状を送るので、うまく宣伝に使うといい」


 文句なんて出るわけがないよね。

 イースディル公爵が自ら妖精姫のために選んだドレスですって、かなりの宣伝効果があるわよ。


「あの……てっきりあちらの女性の服を選ばれるのかと思っておりましたわ」


 エルイーズのほうはほとんどの荷物を移動し終わり、ハンガーラックを押しながら倉庫に移動するところだった。

 会釈しながら移動していく彼女たちにひらひらと手を振り、にっこり笑顔で振り返る。


「素敵なドレスを作るデザイナーでしょう? 将来が楽しみだわ。彼女にはケイトのドレスを作ってもらうのよ。私の側近の男爵令嬢なの」

「はあ」

「ドレスってデザインだけでは選べないと思わない? 新しい事業をきっかけに躍進するコンロン男爵家の御令嬢には、若いデザイナーの斬新なデザインが似合うと思うの。でも私に似合うのは、そういうドレスではないでしょう?」


 エルイーズの作るドレスは、貴族令嬢にとってはお手頃価格なのよ。

 公爵夫人になる私は、普段使いならいいけど夜会や舞踏会に着ていくドレスにも格が求められてしまう。

 値段もそうだし、使われている素材も吟味しなくちゃいけない。もちろん誰が作ったかも重要よ。

 信頼と実績のある店で買わないと、真似をしてその店で買い物をする御令嬢が殺到して問題になることもあるしね。


「そうは思わない?」

「素晴らしいお考えですわ」

「私のドレスを選んでくださってありがとうございます!」

「この商業施設に出店してもらう人は、私やカミルが選んだのよ。あなたたちの才能も高く評価しているのを忘れないで」


 感激で泣きそうになっているデザイナーの肩を軽く叩きながら、その場にいる全員の顔を見回した。

 だから変な問題を起こさないでね。

 自分の実力で勝負できる人たちなんだから。


「この服のデザイン、チーフクラスの制服に……」


 三人のうち、ふたりの作品を選んでしまったから、もうひとりはどうしようって思っていたところよ。

 カミルはそのへんもチェックしていたのかな。

 世界中を飛び回って取引をしてきた彼が、その辺を考えないわけないわよね。


「カミル、搬入の邪魔をしちゃ駄目よ。私たち、搬入の邪魔になっているわよ」

「ああ、そうだったな。支払いと受け取りを」


 カミルが侍従に説明をしている間、私は制服にお勧めされた服をチェックした。


「このままでは駄目ね。夜会用のドレスだから当然だけど。でもこのデザインは活かせるわ。今度、屋敷のほうに来てもらえる? 店が開店するまでは忙しいでしょうから、その後で相談させてちょうだい」

「はい。ご連絡をお待ちしています」


 うんうん。いい買い物が出来た。

 目的が変わってしまった気もするけど、彼女たちも嬉しそうだったし、これでよかったということにしよう。

レックスとネリーが待つ場所まで戻ったけど、まだキースとケイトがいない。


「ふたりはどうしたの?」


 私の質問にレックスとネリーが同時に壁際を指さした。


「うへ。まだ揉めているの?」


 こんな場所で何をやっているのよ。

 他所でやれと文句を言おうと近付いたら、キースの声が聞こえてきた。


「俺のことを好きだと言ってくれたじゃないか。両想いなんだ。問題ないだろう」

「だからって、こんな急に婚約なんて」


 キースはいったい何をやっているの?

 そこから全速力で……ドレスを着たままできる全速力で駆け寄り、ジャンプからのチョップを肩甲骨の間にお見舞いした。




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[一言] 最後がとてもディアドラらしいです
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